柿木克之著「自転車競技のためのフィロソフィー」第一人者が書く、現代自転車トレーニングのための哲学書

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柿木克之著「自転車競技のためのフィロソフィー」柿木克之著「自転車競技のためのフィロソフィー」

 柿木さんのトレーニング教本である。

 知る人ぞ知る、のか実はよく知らないのだが、本書の著者の柿木克之さんは現在、日本における自転車競技でのパワートレーニング、その第一人者として活躍されている方だ。そういった認識で本書を手に取る人は、やはり具体的なパワートレーニングの内容を期待するのではないかと思うが、そんな意識で本を開くと、読者はたぶん面食らうことになるだろう。

 本書の内容は、ほぼ座学だ。まずロードレースは何をもって「強い」とされるのか、その探求のアプローチからパワーメーターが導入されていくストーリーや、自転車競技に関わる代謝の基礎知識が示される。その中でLT(Lactate Threshold:乳酸蓄積閾値)という指標とその測定方法が紹介され、トレーニングの「効果」つまり目指すべき方向性の定義などを経て、本の半分に届こうかというタイミングでやっと、パワーメーターを用いた具体的なトレーニングメニューに関する記述が始まる。

 しかしメニューと言っても、あくまでトレーニングの最小単位と、その組み合わせに関しての考え方が示されるのみだ。実際のトレーニングに関しては、読者が目標と環境に照らし合わせて、ある程度考えた上で実施する必要がある。

 本書のタイトルにある「フィロソフィー」とは「哲学」の意味だ。学問的定義にもとづくなら、哲学とは「よい思考をもたらす方法について考えるもの」であり、「よい思考そのもの」とは異なるもの、なのだそうだ。本書も「効果的なトレーニングを行うための考え方」を示したものであり、「読者にとって効果的なトレーニングメニュー」を直接示したものではない。それは読者自身が考えるものであり、まさにそれはタイトル通り「哲学」であると感じた。

 何だか難しい話になってしまったが、本自体は簡潔な文章と多くの図示によって、読み進めやすいものになっている。内容はなかなか刺激的だ。「乳酸=疲労物質」というかつての常識を崩してみたり、最新トレーニングの本であえて語られる根性論などは、痛快ですらある。また実際の現場で疑問に思われるような事や、注意点なども的確に押さえてあり、そこは豊富な実践例を持つコーチとしての経験が生かされている。

 とはいえ、やはり哲学書。いきなり読んで全てを読み解くのは難しいだろう。実践の中で何度も繰り返し読み直すことで、より深い理解と発見が得られる、そんな一冊だと感じた。自転車競技に関わるコーチであれば、ぜひ一度は目を通してほしい本だ。もちろん選手も読んでみて損はない。この内容で税込み1575円は安い。(米山一輝)

◇       ◇

自転車競技のためのフィロソフィー
著者 柿木克之
出版社 ベースボール・マガジン社
定価 本体1500円+税
ISBN978-4-583-10504-8
C2075

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