サンケイスポーツ紙連載【特命記者】より公務員からケイリンへ 奥井迪、12月28日の「ガールズグランプリ」で女王に挑戦

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 夢の実現に向かって、公務員からガールズケイリンへ―。女子による競輪『ガールズケイリン』には、夢をあきらめきれずに社会人から転身した選手も多い。奥井迪(ふみ、34)もその1人で、前職は公立中学校の教師。安定した職業に別れを告げて未知の世界に飛び込み、最高峰レース「ガールズグランプリ2015」(12月28日、東京・京王閣競輪場)で頂点に挑むプロアスリートの大望と素顔に、特命記者が迫った。(取材・構成=仲野谷有紀)

アルペンスキーの選手から保健体育の教師に

 人生は一度しかない。後悔だけはしたくない。

夢をかなえるため、教師を辞めてガールズケイリンの世界に飛び込んだ奥井迪。12月28日のグランプリでは、先行という自分のスタイルで女王を目指す夢をかなえるため、教師を辞めてガールズケイリンの世界に飛び込んだ奥井迪。12月28日のグランプリでは、先行という自分のスタイルで女王を目指す

 奥井が、安定した生活に区切りをつけたのは、「プロスポーツの世界で活躍したい」との夢を諦めきれなかったからだ。

 札幌市出身で、小学校1年でアルペンスキーを始めた。札幌第一高校時代にはインターハイの回転で優勝。冬季五輪を意識するまでになった。しかし、早大時代に日本代表として出場したユニバーシアードで結果を出せず、世界との力の差を痛感。スキーは趣味で続けると決め、卒業後は札幌市内の公立中学校の保健体育の教師となった。

 「迪(ふみ)という名前は、両親が通っていた北海道大学の学生寮の名前から取ったみたいです。ちょうど建て替える年に私が生まれたからって。教え導くという意味があるので、名前の通りになったねって言われていたんです」

もう一度だけ、挑戦したい

 ところが、2012年春、転機が訪れた。高校のOB会で、スキー経験者で競輪選手になった先輩からガールズケイリンが始まったことを聞いた。

「もう一度だけ、何かに挑戦したい」。30歳を迎え、人生を左右する決断。父は高校教師だった。安定した生活と縁を切り、競輪の世界に飛び込もうとする娘に、両親は「せっかく公務員になったのに…」と思った。本人には言わず、一歳上の姉、潤さんに不満を伝えたが、奥井は意志を貫いた。同年8月、競輪選手を目指す人を対象に行われたガールズサマーキャンプに参加した。

 「教師を辞めてまで…と考えたら、慎重になりました。でも中学、高校時代に夏場のトレーニングでロードレーサーに乗っていたこともあって、手応えはありました。やるなら今しかないと思ったし、成功させるしかないと思いました」

 競輪選手になるには、競輪学校で1年間を過ごさなければならない。外部との連絡は一切取れず、“軍隊のよう”とも言われる厳しい規則の下で生活を送るが、「逆に自転車に集中できた」と苦にならなかった。

『意志あるところに道は開ける』

 無事に卒業し、昨年5月にプロデビューしたが、全く不安がなかったわけではない。

イエ~イ! 奥井(一番奥)の来年の夢は、一緒に練習する小林莉子(手前)、増茂るるこ(中央)と3人で地元の立川バンクで開催されるグランプリに出場することだイエ~イ! 奥井(一番奥)の来年の夢は、一緒に練習する小林莉子(手前)、増茂るるこ(中央)と3人で地元の立川バンクで開催されるグランプリに出場することだ

 「自分の中にも、本当にできるの?という気持ちはありました。でも映画『ビリギャル』の中に『意志あるところに道は開ける』という言葉が出てきて。やる本人に自信がないと、かなうはずがないと思って、自分を信じることにしました」

 レースに参加していない日も、自転車に乗る。選手登録のある東京・立川競輪場のバンク(1周400m)での練習が中心で、多い日には約50km、120周以上も走る。そんなストイックな生活に潤いを与えてくれるのが、都内に住む潤さんの息子と愛犬たち。

 「生後2カ月の甥っ子には癒やされます。実家ではラブラドール(レトリバー)を飼っているんですが、なかなか会えませんからね。姉が飼うブルドッグとフレンチブルドッグと散歩するのが息抜きです」

年間獲得賞金は1500万円を突破

 本人の努力と、今は一番応援してくれる両親や周囲のサポートもあり、2年目の今年は優勝18回。年間獲得賞金は1500万円を突破し、年末の「ガールズグランプリ」にも初出場する。

 「競輪学校に入る前に見たグランプリでの、村上義弘さん(2012年優勝)の走りを見て感動したんです。私もそういう走りをしたいと思って、学校時代から先行にこだわってきました」

ガールズグランプリの記者会見に盛装で登場した7人。車番順に右から小林優香、奥井迪、梶田舞、小林莉子、山原さくら、石井寛子、石井貴子ガールズグランプリの記者会見に盛装で登場した7人。車番順に右から小林優香、奥井迪、梶田舞、小林莉子、山原さくら、石井寛子、石井貴子

 競輪は脚力勝負であると同時に、風圧との戦いでもある。勝負どころで先頭に立ち、そのまま逃げ切りを図る“先行”という戦法は一番難しく、力がないとできない。過去3回の『ガールズグランプリ』を逃げ切りで制した選手はいない。だが、奥井は「自分のやるべきことは1つ」と、それを目標に掲げている。

 「練習は裏切らない」が信条で、クリスマスも正月も練習に打ち込むという愛称「ふーちゃん」は、自分を信じて、年末の最高の舞台で輝きを放つ。

理想のタイプは伊藤英明

 今月19日に34歳の誕生日を迎えた。「今すぐしたいくらい」と結婚への憧れはある。理想のタイプは“海猿”の伊藤英明とイケメン好きのようだが、「ご飯を作ってくれる人がいいな(笑)。心身ともに支えてくれる人が最高ですね。でも今は相手のことを考えられる余裕はないので」。しばらくは自転車が“恋人”のようだ。

今年の漢字は…「挑」

 今年の漢字1字は、『挑』。来年の目標は、ホームバンクの立川で開催されるガールズグランプリに参加すること。立川バンクで一緒に汗を流している小林莉子(22)、増茂るるこ(24)と3人でガールズグランプリに出場することが来年以降の夢だ。

Vなら年間獲得賞金2500万円超

 今年の年間獲得賞金は、1589万円(12月23日現在)。教師時代の年収は、「公務員は年齢で金額が決まるので、確か350万円くらいだったと思います」とのことで、すでに1000万円以上もオーバー。ガールズグランプリの優勝賞金は1000万円。その使い道を尋ねると、「獲ってから考えますけど…きっと貯金ですかね。堅実に」と笑みを浮かべた。

■女子競輪の歴史
女子による競輪が初めて行われたのは1948年11月。最盛期の52年には669人の選手が在籍していたが、選手間の実力差が大きく、堅いレースになりがちで配当が低くなり、ファン離れが進み、64年にいったん幕を閉じた。
その後、女子自転車競技界の底上げと2012年のロンドン五輪から女子ケイリンが正式種目に採用されたこともあり、2008年7月からエキシビションレース「ガールズケイリン」を開催。女子自転車競技者の育成、発展に力を注ぎ、その名称が引き継がれる形で、2012年7月に48年ぶりに女子競輪が「ガールズケイリン」として再開された。12月23日現在、1~4期の計83人が選手登録されている。

奥井 迪(おくい・ふみ)

1981(昭和56)年12月19日生まれ、34歳。北海道出身。早大卒業後、中学校教師を経てガールズ3期生として2014年5月にデビュー。通算成績は151戦116勝、2着15回、3着9回、優勝28回。A級2班。通算獲得賞金は2505万5000円。1m67、69kg。血液型O。愛称ふーちゃん。勝負飯は、立川競輪場近くにある中華料理店『太幸苑』の砂肝定食。「にんにくたっぷりでおいしいんです」とお気に入りだ。

SANSPO.COMより)

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