選手の仲間でボランティア団体も設立練習時に遭遇したネパール地震 自転車ヘルメットで救助活動をしたMTBライダーたち

by 池田清子 / Sayako IKEDA
  • 一覧

 2015年4月25日午前11時56分、ネパールでマグニチュード7.9の大規模な地震が発生したことは、まだ皆さんの記憶に新しいのではないでしょうか。今年11月、夫の池田祐樹が出場し、私・清子が同行したMTBレース「ヤックアタック2015」も、震災の影響で開催が危ぶまれましたが、「今こそ海外から多くの人に来て欲しい」というネパール側の思いから、安全を確認した上で決行された背景がありました。参加費やサポーターの帯同費の一部は、ネパールのライダーを中心に結成されたボランティア団体を通して、震災の復旧活動に充てられました。一つの村を救い、一時的な支援だけでなく、将来を見据えて多大な貢献をしている彼らの活動をレポートします。

サイクリングジャージ姿で簡易的な学校建設を手伝うネパールのライダーたち Photo: NCRRサイクリングジャージ姿で簡易的な学校建設を手伝うネパールのライダーたち Photo: NCRR

今も残る震災の爪痕

サイクリングヘルメットをかぶって人命救助に当たるNCRRのライダー。一般家庭ではヘルメットが常備されていないので、大いに役立った Photo: NCRRサイクリングヘルメットをかぶって人命救助に当たるNCRRのライダー。一般家庭ではヘルメットが常備されていないので、大いに役立った Photo: NCRR

 ネパールでは余震を含めて9000人近くの方が亡くなり、同時に1万7000人ものけが人が出ました。救助の部隊が圧倒的に足りない状況で、多くの一般市民も救助に携わりました。震災時、村をライドしていたネパールのMTB選手たちは、バイクヘルメットと体力を生かし、すぐさまヌワコット(Nuwakot)のShirkhabesiという村で、人命救助やけが人の救護にあたりました。

 ヌワコットは被害が大きく、政府から緊急支援優先地域にも指定された場所です。ヤックアタックレース初日のゴールがヌワコットだったので、翌日のスタート地点までの移動中、私は今も残る震災の爪あとを各所で目の当たりにしました。ネパールではレンガ造りの家屋が多いのですが、半年以上経った今でも瓦礫のままになっています。

約30トンの食料を運んだNCRR。メンバーの多くは、ヤックアタックにも出場した選手たちだ Photo: NCRR約30トンの食料を運んだNCRR。メンバーの多くは、ヤックアタックにも出場した選手たちだ Photo: NCRR
ヤックアタックで出会った仲間が写真の中ではいつもと違う表情で救援に取り組んでいた。NCRRは救助活動後のけがの手当にも携わった Photo: NCRRヤックアタックで出会った仲間が写真の中ではいつもと違う表情で救援に取り組んでいた。NCRRは救助活動後のけがの手当にも携わった Photo: NCRR

国際的な支援へと拡大

2015年4月25日。午前11時56分、ライダーたちがMTBで村を駆け抜けている時、地震が発生した Photo: NCRR2015年4月25日。午前11時56分、ライダーたちがMTBで村を駆け抜けている時、地震が発生した Photo: NCRR

 震災後まもなく、Shirkhabesiの住民に必要な支援を提供するため、ナショナルチャンピオンでヤックアタック優勝経験者でもあるアジェ・パンディット・チェトリ選手らが中心となって「Nepal Cyclist Ride to Rescue(NCRR)」(ネパール サイクリスト・ライドトゥーレスキュー)という団体を立ち上げ、様々なボランティア活動を展開しました。

 活動は、首都カトマンズから村まで食料品などの物資を届けること(これまでに約30トン分を運搬)にはじまり、さまざまな物資を集めて寄付してきました。その内容は、650のテントや8000の学校用品、1000ドル分の医療物資、300枚のブランケットなど多岐にわたります。さらにメディカルキャンプの設置、簡易的な学校の再建といった作業でも貢献しました。

 NCRRがリードする活動は、ネパール国内にとどまらず国際的なネットワークにまで広がり、村には高品質な物資や資材が入ってきて、専門知識と共にそれらを駆使しているといいます。

ネパール式に頭にのせたり紐を頭に引っ掛けて、重たい物資を運ぶ Photo: NCRRネパール式に頭にのせたり紐を頭に引っ掛けて、重たい物資を運ぶ Photo: NCRR
救援活動中のNCRRのライダー。マスクをして食料である米を村へ運ぶ Photo: NCRR救援活動中のNCRRのライダー。マスクをして食料である米を村へ運ぶ Photo: NCRR
私がヤックアタックレースの移動中に目にしたヌワコットの様子。被害が大きく、レンガが崩れたままになっている場所が多かった Photo: Sayako IKEDA私がヤックアタックレースの移動中に目にしたヌワコットの様子。被害が大きく、レンガが崩れたままになっている場所が多かった Photo: Sayako IKEDA

次は7つの学校を本格的に再建

NCRRでは次なるステップとして、永続的な基盤を作ること、すなわちしっかりとした建物の学校建設を目標に掲げました。2015年12月から2016年1月までの7週間、いままさに7つの学校(6つの小学校と1つの中学校)を作るプロジェクトにチャレンジするところです。

NCRRのライダーと子供たち。再び学校に通えるようになって「ありがとう!」と言っているのかな Photo: NCRRNCRRのライダーと子供たち。再び学校に通えるようになって「ありがとう!」と言っているのかな Photo: NCRR

 いくつかの学校は震災で崩れ、安心して学べる場所がなくなってしまっています。さらに「子供たちが教育を受けることは、国を創る基盤としてとても重要なこと。そして学校はコミュニティーの中心の場所としても機能する。今後も災害発生時には避難場所として使える」といった理由から、学校の本格的な再建に目を向けたのです。

 簡易的な学校はNCRRによってすでに建てられていて、写真からも子供たちが笑顔いっぱい、喜んでいる姿が伝わってきます。実際に、ヌワコットで10歳くらいの子供たちと触れ合う機会がありましたが、授業が終わっても校庭で遊んでいました。彼らは元気ハツラツで、上手な英語で自分の将来の夢について熱く語ってくれました。

本格的な再建の前に、ひとまず簡易的な小学校が完成。子供たちも大喜び Photo: NCRR本格的な再建の前に、ひとまず簡易的な小学校が完成。子供たちも大喜び Photo: NCRR
完成した簡易的な小学校にNCRRのシンボルマークでもあるバイクの絵が描かれた。サントス・ライ(写真中央)は首都カトマンズでバイクショップを営み、ライダー数名が働いている Photo: NCRR完成した簡易的な小学校にNCRRのシンボルマークでもあるバイクの絵が描かれた。サントス・ライ(写真中央)は首都カトマンズでバイクショップを営み、ライダー数名が働いている Photo: NCRR
ボランティア活動を行った村、ヌワコットのShirkhabesiで歓迎を受けるNCRRのライダー Photo: NCRRボランティア活動を行った村、ヌワコットのShirkhabesiで歓迎を受けるNCRRのライダー Photo: NCRR

 余談ですが、カトマンズでは公立の学校の授業を基本的には英語で行っているのだそうです。主要産業が観光業ということもあって、語学力は観光地にとって大事なツール。街で英語をしゃべる人の率はかなり高かったです。語学の面だけではありませんが、元をたどればやはり学校は大事な場所であることに変わりはありません。

60万円を寄付したMTB選手も

 学校再建などNCRRの活動に必要なお金は23万2645USドル(およそ2800万円)で、集まった寄付金は9万USドル(およそ1100万円)。ヤックアタックの開会式では、このプロジェクトについて詳細な説明と、まだ寄付金が足りず、引き続き募っているという話を聞きました。レース前には、NCRRのTシャツが販売され、売り上げがNRCCの活動資金に寄付されました。TシャツはNCRRのメンバーであり、ヤックアタックで3位に入賞したナラヤン・ゴパール・マハラジャ選手がデザインしたもの。もちろん夫婦で購入しましたよ。

NCRRのチャリティーTシャツを購入しました。日本からも応援しています Photo: Sayako IKEDANCRRのチャリティーTシャツを購入しました。日本からも応援しています Photo: Sayako IKEDA
池田祐樹、2位のピーター・バット選手は震災復興のために賞金をNCRRに寄附した Photo: Sayako IKEDA池田祐樹、2位のピーター・バット選手は震災復興のために賞金をNCRRに寄附した Photo: Sayako IKEDA

 レースが終わると、5位までの入賞者には賞金が出ました。2位のピーター・バット選手は賞金の半額にあたる1000USドル(およそ12万円)を、5位で夫の池田祐樹は全額の150USドル(1万8000円)を寄付しました。また、以前の記事で紹介した韓国のキム・キジュン選手は、5000USドル(およそ60万円)を寄付しました。レースに帯同していたネパール人のスタッフは「驚いたし、その気持ちが何より嬉しい」と喜んでいました。

NCRRにおよそ60万円を寄附した韓国のキム・キジュン選手 Photo: Sayako IKEDANCRRにおよそ60万円を寄附した韓国のキム・キジュン選手 Photo: Sayako IKEDA

 NCRRのメンバーは、20代前半から半ばのまだ若いライダーたちが中心。普段からライダー同士とても仲がよく、“男子”という感じでしょっちゅうふざけあっている印象でしたが、力を合わせて支援活動を行っている仲間の写真は、いつもよりずっと大人で、見たことのない表情でした。

 「地震が起こったときに、私たちが持っている自転車で何かできないかと考え、役に立つために乗った。私たちは今が人を、家を、家族であるネパールを再建するときだと信じている」

 彼らの活動は多く人たちにとって、物理的な面だけではなく心の支えにもなっているのではないかと思います。同時に、改めて自転車――とくにこういった場面ではどこへでも自力で行けるMTBは本当にすごい乗り物だなぁと感じました。

◇         ◇

 寄付は引き続き募っています。ご興味がある方はぜひ公式サイトをご覧ください。

NCRR公式サイト http://nepalcyclist.com

■寄付先情報
Account Name – Nepal Cyclist Ride to Rescue
Bank – Himalayan Bank Limited (Kathmandu Nepal)
Main Branch – Thamel
Address – Tridevi Marg, P.O.Box 20590,Kathmandu
Account No: 01905898150018
SWIFT: HIMANPKA

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

チャリティー/サポート

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載