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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<138>カヴェンディッシュがアフリカ初のワールドチームへ ディメンションデータ 2016年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 このシーズンオフ、大きな話題を次々とファンに提供したチームの名を挙げるとするならば、MTN・クベカの存在は欠かすことができない。トップスプリンターのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の移籍加入、2016年からのUCIワールドチーム昇格といったニュースは、サイクルロードレース界の大きなトピックとなった。アフリカ大陸にベースを置くチームとして初めてとなる偉業を数々達成してきたチームは、夢でもあったトップカテゴリーでどのような戦いを見せるのか。スポンサー変更にともない、ディメンションデータに名が変わる同チームを今回は展望する。

UCIワールドチームに昇格するディメンションデータは、ダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(左)らアフリカ勢や、新加入のマーク・カヴェンディッシュら多くのスプリンターをそろえる Photo: Yuzuru SUNADAUCIワールドチームに昇格するディメンションデータは、ダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(左)らアフリカ勢や、新加入のマーク・カヴェンディッシュら多くのスプリンターをそろえる Photo: Yuzuru SUNADA

悲願のトップカテゴリー入り

 2007年にチーム設立、翌2008年からUCIコンチネンタルチームとしての活動を始めたMTN・クベカ。南アフリカや中東諸国を中心に携帯電話をメーンとする通信会社である「MTNグループ」と、貧しい家庭や子どもたちに自転車を贈ることで教育や環境の保全を目指すNPO(非営利組織)の「クベカ」が主要スポンサーを務めてきた。設立以降、チームMTN、MTNサイクリング、MTN・エネルゲードと名を変え、2011年から現在のチーム名となった。

 南アフリカ籍のチームだが、活躍の場はアフリカ大陸にとどまらず、世界へと広がっていった。2012年には、現在もチームの主力であるレイナールト・イャンスファンレンスブルフ(南アフリカ)を中心に年間25勝の快進撃。その勢いのまま、2013年にアフリカ大陸のチームとして初のUCIプロコンチネンタルチーム昇格を果たした。

2013年のミラノ~サンレモではゲラルト・ツィオレクが死闘を制した Photo: Yuzuru SUNADA2013年のミラノ~サンレモではゲラルト・ツィオレクが死闘を制した Photo: Yuzuru SUNADA

 プロコンチネンタルチーム昇格時の目標は、「3年でのツール・ド・フランス出場」。そうしたチームの言葉をよそに、選手たちは大活躍を見せる。同年のミラノ~サンレモではゲラルト・ツィオレク(ドイツ)が大雪の死闘を制し優勝。続く2014年にはツールよりも先にブエルタ・ア・エスパーニャに“飛び級”で出場。出走9人全員が完走を果たした。

 そして迎えた2015年シーズン。多数のビッグレースに招待され、念願のツール出場も果たす。第6ステージから4日間、ダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(エリトリア)が山岳賞のマイヨアポワを着用、第14ステージではスティーヴン・カミングス(イギリス)がステージ優勝。ブエルタにも2年連続で出場し、第10ステージでクリスティアン・スバラーリ(イタリア)がスプリント勝利を挙げるなど、ここ数年にわたって目覚ましい成果を挙げてきた。

2015年のツール・ド・フランスでマイヨアポワを4日間にわたって着用したダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン Photo: Yuzuru SUNADA2015年のツール・ド・フランスでマイヨアポワを4日間にわたって着用したダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン Photo: Yuzuru SUNADA

 そうした活躍が評価され、2016年からのトップカテゴリー入り。当初は第2カテゴリー(プロコンチネンタルチーム)への申請だったが、国際自転車連合(UCI)たっての希望もあり晴れての昇格となる。とはいえ、チームは名立たるレースでの戦いを念頭に、周到ともいえる準備をこのストーブリーグに進めていたのである。

スプリント王国構築へ

 新スポンサーに就くディメンションデータは、南アフリカ・ヨハネスブルグに拠点を構える同国大手のIT企業。日本のNTTグループの傘下企業でもあり、わが国とも関係が深い。ツールで走行中の選手位置データの配信や、ブエルタでの選手・関係者データ管理などを担い、サイクルスポーツにも積極的に関わっている。メーンスポンサーこそ代わるが、チームの体制には大きな変化はないと見られる。

 さらに、ビッグネームの獲得に成功し、より強固な組織へと成長を見せる勢いだ。その旗手となるのが、移籍加入するカヴェンディッシュだ。

多くのスプリンターが在籍するディメンションデータに加入するマーク・カヴェンディッシュ Photo: Yuzuru SUNADA多くのスプリンターが在籍するディメンションデータに加入するマーク・カヴェンディッシュ Photo: Yuzuru SUNADA

 カヴェンディッシュは2013年から3シーズン、エティックス・クイックステップ(加入当時はオメガファルマ・クイックステップ)に所属。エーススプリンターとして君臨した。その一方で、ゼネラルマネジャーのパトリック・ルフェヴェル氏との意見の相違がたびたび見られた。

2008年のトラック世界選手権のマディソンでは、ブラッドリー・ウィギンス(右)とのペアで金メダルを獲得したマーク・カヴェンディッシュ Photo: Yuzuru SUNADA2008年のトラック世界選手権のマディソンでは、ブラッドリー・ウィギンス(右)とのペアで金メダルを獲得したマーク・カヴェンディッシュ Photo: Yuzuru SUNADA

 発端は、カヴェンディッシュがかつての主戦場であったトラック競技への復帰を目指したこと。来夏に控えるリオ五輪はロードレースが難コースとなるため、スプリンターの彼にとっては厳しい。キャリアで唯一メダル獲得を果たしていない五輪に何としても参加するため、トラックへと活路を見出そうとしていたが、ルフェヴェル氏が猛反対。2014年秋にはカヴェンディッシュがUCIポイント獲得のため、ベルギーでのトラックレースに強行出場するとルフェヴェル氏が不快感を示すなど、2人の間に溝が生まれ始めた。

 カヴェンディッシュの思いを最大限汲み取り、理解を示したのがMTN・クベカのゼネラルマネジャーであるダグラス・ライダー氏だと言われている。ロードとトラックとの並行はもちろん、状況によってはトラック優先のスケジュール設定にも配慮する姿勢だ。結果的にUCIワールドチームとなるが、移籍が発表された当初はカヴェンディッシュ本人が「プロコンチネンタルチームでも問題ない」と発言したことからも、自らが戦いやすい環境を手に入れることを優先した格好だ。

 カヴェンディッシュの加入は、チーム強化はもとより、所属選手へもよい影響が生まれている。チーム強化の面では、エティックス・クイックステップからマーク・レンショー(オーストラリア)、チーム スカイからベルンハルト・アイゼル(オーストリア)をレース内外の“世話役”として獲得。かつて隆盛を極めたHTC・ハイロードのスプリントホットラインが再結成する。2007年から2年間チームメートで、互いをよく知るロジャー・ハモンド氏がスポーツディレクターに就任することも心強い。

カヴェンディッシュとともにエティックス・クイックステップから移籍するマーク・レンショー Photo: Yuzuru SUNADAカヴェンディッシュとともにエティックス・クイックステップから移籍するマーク・レンショー Photo: Yuzuru SUNADA
強力なスプリントトレインの一員として期待されるベルンハルト・アイゼル(2015ジャパンカップ サイクルロードレース) Photo: Yuzuru SUNADA強力なスプリントトレインの一員として期待されるベルンハルト・アイゼル(2015ジャパンカップ サイクルロードレース) Photo: Yuzuru SUNADA

 また、過去にスプリントで幾度となく好勝負を繰り広げたタイラー・ファラー(アメリカ)がスプリントトレインのキャプテンを志願。もう1枚のエーススプリンターとなるスバラーリも「カヴェンディッシュから多くを学びたい」と前向き。2008年から2年間チームメートでスプリント力の高いエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)、好調時のスピードは群を抜くテオ・ボス(オランダ)らも控え、プロトンきってのスプリント王国となる可能性は大いにあるだろう。

 カヴェンディッシュの2016年は、1月2日から開催されるトラックリーグ「レヴォリューションシリーズ」マンチェスター大会で始動する。同16~17日のトラックW杯第3戦・香港大会では、オムニアム(6種目の混成競技)に出場。3月2~6日のUCIトラック世界選手権、そして8月のリオ五輪でのイギリス代表入りを目指す。ロードは、1月31日のカデル・エヴァンス・グレートオーシャンロードレース(オーストラリア、UCI1.HC)で初戦を迎える。

アフリカ勢の強化も着々

 2016年ロースターを見る限り、カヴェンディッシュ頼りのチームとはならないだろう。あらゆるレースに対応する実力者がそろった。

 ステージレースでは、オリカ・グリーンエッジから移籍のキャメロン・メイヤー(オーストラリア)や、チーム スカイから移籍のカンスタンティン・シウツォウ(ベラルーシ)が総合成績を狙う。今年のブエルタ山岳賞のオマール・フライレ(スペイン、カハルラル・セグロスRGAから移籍)の獲得も大いに注目を集めた。

 クラシック路線は、北のクラシックではボアッソンハーゲンが、アルデンヌクラシックはカミングスや、チーム キャノンデール・ガーミンから移籍するネイサン・ハース(オーストラリア)が中心となりそうだ。

エリトリア人クライマーのナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ Photo: Yuzuru SUNADAエリトリア人クライマーのナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ Photo: Yuzuru SUNADA

 チームの目的の1つであるアフリカ勢の強化も順調に進行中。テクレハイマノットのほか、同国のクライマーであるナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ、メルハウィ・クドゥスゲブレメドヒンは、次なる勢力として有力なエリトリアの国民的英雄。スプリンターのユーセフ・レグイグイ(アルジェリア)、総合力の高いジャック・イャンスファンレンスブルフ(南アフリカ)も押さえておきたい選手だ。

 新たなシーズンが近づいているが、チームはあと数名の獲得を示唆。現状では26選手での編成が決まっているが、近日中に所属予定選手が増える可能性がある。

ディメンションデータ 2015-2016 選手動向

【残留】
ナトナエル・テウェルドメドヒン・ベルハネ(エリトリア)
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)
テオ・ボス(オランダ)
スティーヴン・カミングス(イギリス)
マシュー・ブラマイヤー(アイルランド)
ニコラス・ドゥーガル(南アフリカ)
タイラー・ファラー(アメリカ)
ジャック・イャンスファンレンスブルフ(南アフリカ)
レイナールト・イャンスファンレンスブルフ(南アフリカ)
ソンゲゾ・ジム(南アフリカ)
メルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)
エイドリアン・ニヨンシュチ(ルワンダ)
セルジュ・パウェルス(ベルギー)
ユーセフ・レグイグイ(アルジェリア)
クリスティアン・スバラーリ(イタリア)
ダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(エリトリア)
ジェイロバート・トムソン(南アフリカ)
ヨハン・ファンジル(南アフリカ)
ヤコブス・フェンター(南アフリカ)
 
【加入】
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス) ←エティックス・クイックステップ
ベルンハルト・アイゼル(オーストリア) ←チーム スカイ
オマール・フライレ(スペイン) ←カハルラル・セグロスRGA
ネイサン・ハース(オーストラリア) ←チーム キャノンデール・ガーミン
キャメロン・メイヤー(オーストラリア) ←オリカ・グリーンエッジ
マーク・レンショー(オーストラリア) ←エティックス・クイックステップ
カンスタンティン・シウツォウ(ベラルーシ) ←チーム スカイ
 
【退団】
ゲラルト・ツィオレク(ドイツ) →ストゥルティンググループ
マシュー・ゴス(オーストラリア) →ワンプロサイクリング
ルイ・メインティス(南アフリカ) →ランプレ・メリダ
アンドレアス・スタウフ(ドイツ) →未定

今週の爆走ライダー-レイナールト・イャンスファンレンスブルフ(南アフリカ、MTN・クベカ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 年間22勝(うちUCIレース14勝)を挙げ、関係者を驚かせたのが2012年。翌年には鳴り物入りでチーム アルゴス・シマノ(当時)に加入した。

 プロチーム入りした当初は、スプリントとTTに強い選手との触れ込みだった。それもあり、2年間のオランダチーム生活では主にスプリントトレインの牽引役や発射台を担当。勝利数こそ劇的に減ったが、与えられた役割は明確だった。

スプリントのアシストやクラシックレーサーとして貴重な戦力となるレイナールト・イャンスファンレンスブルフ(ツール・デ・フランドル2015) Photo: Yuzuru SUNADAスプリントのアシストやクラシックレーサーとして貴重な戦力となるレイナールト・イャンスファンレンスブルフ(ツール・デ・フランドル2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 2015年、3年ぶりに古巣へ復帰。集団内のポジション確保における嗅覚の鋭さから、初出場のツールではボアッソンハーゲンやファラーのスプリントをアシスト。好位置からの発射ぶりが光った。

 かつてのように勝負を任されることは減ったが、巧みなアシストに加え、ゼネラルマネジャーのライダー氏が「いずれクラシックで活躍する選手になる」と述べるなど期待度は高い。チームの重要戦力であることからしても、決して「地元チームへの出戻り」とは言えないだろう。

 ちなみに、同姓のジャックとは出身地も異なるまったくの別人。ともにオランダにルーツを持つが、イャンスファンレンスブルフ姓自体が南アフリカではよく見られるファミリーネームなのだとか。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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