リオ五輪出場枠をかけてチャレンジ萩原麻由子が単身で先行してタイ合宿 1月のアジア選手権に向け急ピッチで調整

by 田中苑子 / Sonoko TANAKA
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 ロードレース全日本女王の萩原麻由子(ウィグル・ホンダ)が、タイでオフトレーニングに取り組んでいる。9月に鎖骨を骨折してシーズンを終了した悔しさを乗り越え、2016年のリオ五輪での活躍を目標に、毎日150〜180kmを乗り込む厳しい練習に打ち込んでいる。現地で萩原の姿を追った。

沿道の店で休憩をとりながら、トレーニングを行う萩原麻由子(ウィグル・ホンダ) Photo: Sonoko TANAKA沿道の店で休憩をとりながら、トレーニングを行う萩原麻由子(ウィグル・ホンダ) Photo: Sonoko TANAKA

世界選手権を前に落車・骨折

タイ北部のチェンライ近郊でのトレーニング Photo: Sonoko TANAKAタイ北部のチェンライ近郊でのトレーニング Photo: Sonoko TANAKA

 萩原は9月13日、ブエルタ・ア・エスパーニャの最終ステージに先立って開催された女子レース「ラ・マドリッド・チャレンジ by ラ・ブエルタ」で落車し、鎖骨を骨折する不運に見舞われた。9月下旬の世界選手権を大きな目標に練習を重ねていた最中のことだ。ジロ・ローザでのステージ優勝など、華々しい活躍をみせた2015シーズンは突然、不本意な形で終わってしまった。

 その後、帰国して手術を受け、少しずつリハビリを開始。タイに来る直前までは沖縄で乗り込んだ。「回復まで思ったよりも時間がかかってしまった」が、患部や痛みは快方に向かい、現在は落ちてしまった筋力や、左右のバランスを直しながら、1月に伊豆大島で開催されるアジア選手権を目標に、急ピッチでトレーニングを重ねている。

残り1カ月に賭ける

山岳から平坦までさまざまなバリエーションがあるトレーニングコース Photo: Sonoko TANAKA山岳から平坦までさまざまなバリエーションがあるトレーニングコース Photo: Sonoko TANAKA

 毎年開催されているアジア選手権だが、来年1月のアジア選手権女子ロードレースでは、優勝国にリオ五輪の出場枠が与えられる特別ルールがある。もし優勝できなかったとしても、あるいは日本の出場枠を2人、3人へと広げるためにも、そこで獲得する国別ポイントはとても重要になる。

 「アジア選手権まで約1カ月。それまでに落ちてしまったコンディションをトップまでもっていかないといけない」と切迫した面持ちで話す萩原。落車後、ゼロまで落ちたコンディションは、現在ピークの4割ほどの状態まで戻ってきたという。しかし残りの1カ月でトップまで持っていくのは「賭けのようなもの」だと話す。「普通のやり方ではダメだと思った」。そして考えられる最高の環境として、タイでのトレーニング合宿を選んだ。

小さな食料店で補給食や飲み物を買う。見慣れない食品が並ぶ Photo: Sonoko TANAKA小さな食料店で補給食や飲み物を買う。見慣れない食品が並ぶ Photo: Sonoko TANAKA
練習中に沿道の店で昼食をとる。中川さんが薦める店はいつも美味しい Photo: Sonoko TANAKA練習中に沿道の店で昼食をとる。中川さんが薦める店はいつも美味しい Photo: Sonoko TANAKA
練習後には決まって豆乳スタンドに立ち寄って、タンパク質を補給 Photo: Sonoko TANAKA練習後には決まって豆乳スタンドに立ち寄って、タンパク質を補給 Photo: Sonoko TANAKA

2度目のタイ合宿

 今回の合宿は温暖なタイ北部のチェンライ郊外にある中川茂さん・ノイさん夫妻が経営する宿泊施設、ナーソンリゾートを拠点としている。ここでの冬期合宿は、毎年、新城幸也(チームヨーロッパカー)や山本幸平(トレック ファクトリーレーシング)ら日本のトップ選手をはじめ、多くの選手がアジアや世界から集まり、通称「タイ合宿」と呼ばれて親しまれている。2001年に当時、ブリヂストンアンカーのトップ選手であった福島晋一さんが、古くからの友人であった中川さんに誘われて、タイにやってきたのが始まりだった。その練習環境の良さから、福島が仲間の選手を呼び込み、噂が広がるとともに、毎年20人以上の選手が集まるようになった。

ナーソンリゾートのオーナー、中川茂さんと萩原麻由子(ウィグル・ホンダ) Photo: Sonoko TANAKAナーソンリゾートのオーナー、中川茂さんと萩原麻由子(ウィグル・ホンダ) Photo: Sonoko TANAKA

 萩原にとって、タイでのオフトレーニングは、昨年の日本ナショナルチームの合宿に続いて2度目となる。「タイはどこまでいっても走りっぱなし。信号で止まることもなく、いくらでも長い距離を走れるのがいい。バイクペーサーができるし、日本にない勾配がある。一流選手も来るし、練習を見てくれる人もいる。気候も良く、物価も安く、移動時間が短いし、食べ物にも苦労しない。春先に向けてのトレーンングとして、こんなにいい環境はない」と、その魅力を説明する。

バイクペーサーで調子を上げる

 12月上旬に単身でタイへと渡った萩原。1月8日から日本で開催されるアジア選手権の代表選考合宿に参加するまで、約1カ月間の滞在となる。取材した1週目は、ときどきバイクペーサーを取り入れながら、1日150〜180kmを走り、翌週からやってくる新城幸也ら男子選手と一緒にトレーニングができようにと黙々と乗り込みを行っていた。

 タイでの生活は、朝起きて、近くの町で朝食を摂り、日が暮れるまで走って、夕食を食べて寝るという、とてもシンプルなもの。「余計なことをしなくていいのが本当にいい」と話す。

ナーソンリゾートに滞在。朝起きると練習が始まる Photo: Sonoko TANAKAナーソンリゾートに滞在。朝起きると練習が始まる Photo: Sonoko TANAKA
タイ人のレオが練習相手。少し肌寒い朝、ゆっくりと準備を進める Photo: Sonoko TANAKAタイ人のレオが練習相手。少し肌寒い朝、ゆっくりと準備を進める Photo: Sonoko TANAKA
ナーソンリゾートからトレーニングを開始 Photo: Sonoko TANAKAナーソンリゾートからトレーニングを開始 Photo: Sonoko TANAKA
朝ごはんは近所の町で食べる。まだ眠い Photo: Sonoko TANAKA朝ごはんは近所の町で食べる。まだ眠い Photo: Sonoko TANAKA

 そして練習にはいつも「父ちゃん」と呼ばれる中川さんがオートバイで帯同し、適宜アドバイスをする。この日は「やっぱり麻由子くらいの選手になると“押しがけ”がいいんだよ」と言いながら、時速60kmでバイクペーサーを開始。それまで思うように脚が回らないと悩んでいた萩原だったが、その“きっかけ”によってワンステップ、調子を取り戻した。「こっちに来て、まだ数日だけど、日に日に調子が上がっているね。これならアジア選手権も間に合うと思うよ」と、中川さんは温かく見守る。

長距離乗り込むトレーニング。タイの道は路面が軽いという Photo: Sonoko TANAKA長距離乗り込むトレーニング。タイの道は路面が軽いという Photo: Sonoko TANAKA

培った精神力を武器に

 萩原の実力は誰もが認めるが、まだケガからの回復過程にあり、1カ月後に迫った重要な大会に向けて、たくさんの心配事や焦りを抱えているかもしれない。しかし日本人女性として唯一、ヨーロッパのプロとして世界の大舞台で戦っている彼女は、厳しいレース生活から培った精神力も武器にして、トレーニングに打ち込んでいくはずだ。これからの年末年始に向けて、ナーソンリゾートは大勢の選手たちで賑わう。そこに、素晴らしい環境を最大限に生かして、人一倍真剣にペダルを踏む萩原の姿が輝くことだとう。

この日のランチは餃子屋さん。水餃子と焼き餃子をオーダー Photo: Sonoko TANAKAこの日のランチは餃子屋さん。水餃子と焼き餃子をオーダー Photo: Sonoko TANAKA
カフェブームだというタイ。なぜか犬のいる“猫カフェ”で、休憩をとる Photo: Sonoko TANAKAカフェブームだというタイ。なぜか犬のいる“猫カフェ”で、休憩をとる Photo: Sonoko TANAKA

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