はらぺこサイクルキッチン<51>低脂質の時代は終わった? 良質な油脂がシーズンオフのカラダを変える

忘年会にイベントなど、何かと忙しい年末。お酒を飲む機会も、外食も多くなるのではないでしょうか。我が家も例にもれず、スケジュール帳がいつにも増して黒くなっております。みんなとワイワイ楽しい一方で、気になるのは、体型管理・体調管理。夫の池田祐樹(トピーク・エルゴンレーシングチームUSA)はシーズンオフに入った上に、ヤックアタックでの負傷がまだ尾を引き自転車に乗れない日々を過ごしていますが、冬のミッションは「食事を通してもっといいカラダへ」。カラダを動かす“ガソリン”となるだけでなく、健康なカラダ作り、パフォーマンス向上、そしてけがの回復を早める良質な油脂の摂り方をお伝えします。
来シーズンの好スタートへ「食べて」調整
例年はシーズンオフに入ると体重がバーンと3~4kgは優に増えていて、それを「シーズンオフだから仕方ない」くらいに考えていました。けれど大幅な体重の増減は体への負担にも繋がるので、最小限に抑えたいところ。体型と体調を整えておくことで、シーズンが始まった時のスタートラインが変わってきます。



「シーズンオフになったら、オンとオフの切り替えの意味でも体重はあえて気にしない」というプロ選手のお声も聞きましたが、池田の場合はいわゆる「太りやすい」体質で、本来食べることが何よりの生きがい。楽しみである「食」を逆に利用して、食事を通してもっといいカラダへなろうじゃないか!…ということになりました。
我が家ではこれまで、「良質な油脂を摂ること」「動物性食品を摂る時はそれが安心・安全であること」を意識してきました。それ以前は、「あぶらを積極的に摂ることがパフォーマンスアップにつながるなんて、どうしても受け入れられない!」と言っていた、“ザ・低脂質&高タンパク主義”だった祐樹さんですが、今では変わりましたね。朝からココナッツオイルを食べています。
ダイエットや減量というと、鶏のささ身が推奨されるなど「低脂肪」がいままでの定説でした。コレステロールゼロ・脂肪ゼロなんて商品も出回る“ヘルシー指向”で、脂質は減量だけでなく健康にとっても大敵とみなされていたのですね。それが近年、油脂に注目が置かれて始めているのです。
「油」と「脂」
まず、「油」と「脂」の違いについて。この2つの漢字は大まかに次のように使い分けられています。
【油】液体の状態のあぶら
【脂】個体の状態のあぶら
同じ油脂でも状態が異なるのは、それぞれの分子構造の違いによるもの。植物油が健康的かというとそうではなく、やはりそれぞれの分子構造や製造工程によっても大きく変わってきます。また「植物油使用」と書かれ、人工的に作られたマーガリンは論外です。お菓子やパンの原材料欄で見かけたら、そっと棚に戻しましょう。カラダに負担のかかるあぶらを“摂らないこと”は、良質な油脂を“摂ること”以上に大事かもしれません!
良質な油脂は、カラダを作る上でとても重要な働きをします。なぜなら、カラダの中におよそ60兆個存在する細胞の膜、臓器、脳、そして様々な働きを司るホルモンは、脂質で形成されているからです。

油脂は実際にカラダを動かす際にも、エネルギー源として働きます。糖質もエネルギー源ですが、糖質に比べて血糖値の上がり下がりもなく、長時間に渡ってエネルギーを供給するのが、脂質――そう、生きていくには欠かせないのが、脂質です。ただし、繰り返しますが何でもいいというわけではなく、その“質”が鍵! 良質な油脂をバランス良く摂取すれば体脂肪にもなりにくいのです。その上で臓器がしっかり働けば、代謝が上がり、減量(健康)にも繋がります。ダイエットの時こそ良質な油脂を摂ることを、怖がらないでくださいね。
美味しいグラスフェッドの肉
「安心・安全」な動物性食品を選ぶことも大切です。トレーニングやレース参戦のためアメリカに滞在していた間は、自然食品店で肉を買う際「どのような餌を食べて、どのような環境で育ったか」などの表示があり、消費者としてある程度知ることができました。

残念なことに一般で流通している肉のほとんどは、遺伝子組み換えコーンや安価な穀物を食べ、短時間に大きく育つように成長ホルモン剤を、さらに放牧せずに狭い飼育小屋で多くの数を育てるため抗生物質といった病気予防の薬品を注射されています。我が家では、「生きるために食べるものが、健康を害しては意味がない」「動物の命をいただくことにも敬意を払いたい」という理由から、完全な菜食食生活を止めた後も、動物性食品を食べる機会は少なかったのです。
良質な動物性の脂を食べるためオススメしたいのが、牧草を食べて育った(グラスフェッド)動物。さらにはその牧草が無農薬であれば一層よいでしょう。グラスフェッドの動物の脂にはビタミン、ミネラル、必須脂肪酸(オメガ3、6のバランスが良い)、抗酸化物質、タンンパク質が含まれ、穀物を食べて育った動物とは栄養素が大きく異なります。オメガ3は、血液拡張・血栓抑制・炎症抑制・アレルギー抑制といった作用や脂肪燃焼効果があると言われています。
グラスフェッドの動物の肉は一般の流通では手に入れることが難しいため、我が家では通販で取り寄せています。外食と比べても決して経済的な価格ではありませんが、混じりっけのない肉そのものの美味しさを味わえることに大満足です。肉は、赤身でつやつやと輝き、味はとても濃い。もちろん脂もそのままいただきます。
油は使い切れる量を購入
良質な油脂を選び基準のひとつにしているのが、そのまま生で食べても美味しいこと。サラダのドレッシングに使うとその豊かな風味と味に驚きます。また栄養素的な観点で選ぶなら、オメガ3が含まれていること。オメガ6とのバランスが大事と言われています。今自宅で使っている油を、以下に紹介します。
●玉締め低圧搾法ごま油
●有機エキストラバージンココナッツオイル
●国産えごま油(必ず生で使用する)
●バター(非遺伝子組換えの配合飼料、野草の混ざった無農薬牧草を餌とした牛のもの)


オメガ3、6は、ヘンプシードやアボカドなどの食品にもバランス良く含まれています。酸化した油脂は同じようにカラダを酸化させますので、あまり多くの種類と大きいサイズは買わずに、1カ月~2カ月で使いきれる量を買います。また、プラスティック製の容器ではなく、色のついた瓶に入って売られているものをお勧めします。

植物油の搾油法は様々で、中には手間とコストの面から薬品が使われていることがあります。低温圧搾などの表示があるものを選ぶ、なるべく国産原料を選ぶといった点がポイントです。値段は「高ければいい」というわけではありませんが、やはり手間と時間がかけられている、大量生産できない(大量生産するためには製品を安定させるために薬に頼らざる得ないことが多い)という観点から、概ね品質と比例していると考え購入しています。
良質なものを購入することは、生産者さんを助けることでもあります。手塩にかけて育て、作り、販売してくれることに感謝をしつつ「いただきます」。
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シーズンオフに入ってもうすぐ1カ月が経ちます。この間、けがにより1度もバイクに乗っていませんが、体重の変動はほとんどありません(63.5kg前後)。良質な油脂を意識して摂取した結果はどうなるか。春のシーズンスタート時の仕上がりが楽しみです。
食費は多少高くはなりますが、後で病気になって時間とお金を払うよりはずっといい。私も来年のマラソンレースに向けて、油脂を味方につけて走っています!

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。