産経WEST【関西の議論】より「自転車にヘルメット」条例 愛媛の着用率67%に対し“自転車のまち”堺はほぼ皆無のなぜ?

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 自転車乗車時のヘルメット着用を努力義務とする条例を制定する自治体が増えている。安全性を高めるためで、自転車のまちとして知られる堺市は、条例施行から1年を超えた。堺市の調査では、ヘルメット着用率は施行前の1.46%から4%に増えたが、着用は速度が出るスポーツ車に多く、「ママチャリ」と呼ばれる一般車では依然として極めて少ない。一方、全国で初めて努力義務条例を設けた愛媛県は官民一体の運動が行われ、通勤時間帯などはヘルメットをかぶった人たちがまちを埋め尽くしている。県の調査で着用率は67.6%。違いはなぜ起きたのか。(産経新聞大阪社会部 張英壽)

南海電鉄堺東駅前の交差点。ヘルメットをかぶって自転車に乗る人はいない =堺市堺区(2015年11月撮影)南海電鉄堺東駅前の交差点。ヘルメットをかぶって自転車に乗る人はいない =堺市堺区(2015年11月撮影)

堺、1人も探せない

 堺市の中心部、南海・堺東駅前。ある日の夕刻、自転車にヘルメットをかぶって乗る人が何人いるか確認しようと試みた。約1時間目視で調べたが、1人も探せなかった。自転車に乗った人たちに聞いてみた。

 「自転車に乗るときはヘルメットをかぶらないといけない?。初めて聞きました」

 堺市北区の男性会社員(33)に声をかけると、こんな答えが返ってきた。男性は「ヘルメットは面倒。夏は暑いですし。中学時代に自転車通学時に学校の規則でかぶっていましたが、それ以来着用していない」と話す。

 同市堺区のパート勤務の女性(47)は、着用の努力義務について「どこかで聞いたことがあるけど、詳しくはわからない。格好悪いのでかぶらない」。

 堺区の高校1年の男子生徒は「ヘルメットをかぶった友達はいない」と打ち明けた。ほかに「ヘルメットを持っていないからかぶらない」という声もあった。

一般車ではわずか0.14%

自転車乗車時のヘルメット着用やひったくり防止カバー装着を努力義務とする「自転車のまちづくり推進条例」の施行を受け、ヘルメットを着用して自転車で登庁した竹山修身市長 =2014年10月、堺市役所自転車乗車時のヘルメット着用やひったくり防止カバー装着を努力義務とする「自転車のまちづくり推進条例」の施行を受け、ヘルメットを着用して自転車で登庁した竹山修身市長 =2014年10月、堺市役所

 自転車と部品の製造品出荷額が全国のほぼ半分を占める堺市は昨年10月1日に「堺市自転車のまちづくり推進条例」を施行。条例の中で、「自転車利用者の順守事項」として、「乗車用ヘルメットを着用することに努めなければならない」と明記。全国的にも珍しい条例で、注目を集めた。ただ、罰則規定はなく、努力義務になっている。

 道路交通法では、「13歳未満の子供を自転車に乗車させるときは、保護者がヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない」と努力義務を定めているが、ほかの年齢層について規定はない。

 条例制定の背景には、自転車に乗車中の死亡事故の負傷部位のうち、頭部負傷の割合が極めて高いことがある。市が参考とした大阪府警の統計では、平成25年中に自転車乗車中の事故で死亡した人のうち、負傷部位が頭部だったケースは約66%を占めている。

 施行前と施行後、ヘルメット着用率は変化したのだろうか。

 市は条例施行直前と1年後に、南海堺東駅前の交差点で走行する自転車の着用率などを目視調査した。

 施行前は昨年9月26と29日の両日実施。計3898台を調べ、うち着用していたのは57人(1.46%)。このうち「ママチャリ」などと呼ばれる一般車で着用していたのは5人だけで、残りの52人は速度が出るスポーツ車だった。

 スポーツ車はサイクリングブームもあり、人気を集め、ヘルメットはごく普通に着用されており、着用率は高い。

堺市の自転車博物館が定期開催するサイクリングイベント「自転車散歩」の様子。スポーツ自転車ではヘルメット着用が広まりつつある =2013年2月10日 Photo: Yukako OKADA堺市の自転車博物館が定期開催するサイクリングイベント「自転車散歩」の様子。スポーツ自転車ではヘルメット着用が広まりつつある =2013年2月10日 Photo: Yukako OKADA

 調査した自転車のうちスポーツ車は全部で372台で、着用率は14%になる。これに対し、一般車だけでみると、3536台のうち着用率はわずか0.14%となる。

 1年後の調査は今年10月5、6の両日実施した。計3478台を調査し、このうち着用していたのは139人(4%)と、施行前に比べて伸びた。ただ、139人のうち一般車やスポーツ車の比率は集計中であるものの、「感覚的にはスポーツ車がほとんど」(市自転車企画推進課)という。統計はまだ出ていないとはいえ、一般車の普及にはほど遠い。

 一方、市内在住者や在勤者、在学者を対象とした市政モニターアンケートで自転車利用者のうち、ヘルメットを着用していると答えたのは、今年1月の調査で、401人中12人(3%)から、今年9月の調査で312人中15人(4.8%)とやや上向いているが、大きな変化はない。

愛媛は県立高校で義務化

 同じく自転車のヘルメット着用を努力義務とした条例がある愛媛県。堺市とは状況が大きく異なる。

ヘルメットをかぶって自転車に乗る人たちが行き交う愛媛県庁前 =松山市(愛媛県提供)ヘルメットをかぶって自転車に乗る人たちが行き交う愛媛県庁前 =松山市(愛媛県提供)

 愛媛県は、東京都とともに平成25年7月1日に全国に先駆けて条例を施行。担当の県消防防災安全課によると、26年までは大きな進展はなかったが、今年2月に県が「自転車乗用ヘルメット着用宣言」を採択。公務や出退勤時に自転車に乗る職員の着用を進め、5月には100%に達した。松山市も職員の着用宣言を行うなど、県内自治体に広がっているという。

 7月には県立高校の自転車通学でヘルメット着用を義務化。県が購入を補助し、保護者でつくる県教育振興会が無償で、約3万個を県立高校や県立特別支援学校を含む県立学校に配布した。

ヘルメット着用義務化に伴い無償配布されたヘルメットを着用する松山東高の生徒たち =2015年7月、松山市ヘルメット着用義務化に伴い無償配布されたヘルメットを着用する松山東高の生徒たち =2015年7月、松山市

 さらに9月からは、中村時広知事を本部長とする交通安全県民総ぐるみ運動愛媛県本部が、公募で選んだ県内36事業所を、ヘルメット着用を進める「自転車乗車用ヘルメット着用モデル事業所」に指定。仕事や出退勤で自転車を利用する場合の着用を促し、職場の規定なども整備するよう求めている。

自転車の安全利用を呼びかける伊予鉄道の社員ら。愛媛県では官民一体となって自転車の安全利用への取り組みが進んでいる =2015年9月、松山市(加藤浩二撮影)自転車の安全利用を呼びかける伊予鉄道の社員ら。愛媛県では官民一体となって自転車の安全利用への取り組みが進んでいる =2015年9月、松山市(加藤浩二撮影)

 こうした取り組みの結果、県が県内17カ所で月1回実施している調査では、自転車利用者のヘルメット着用率が、今年2月の11.2%から7月に56.6%に跳ね上がり、12月には67.6%に達した。

 県庁所在地の松山市では、通勤や通学時間帯の朝、スーツ姿の勤め人や高校生、中学生ら多くの人が当たり前のようにヘルメット着用で自転車に乗っているという。

 県消防防災安全課の担当者は「ヘルメット着用は最初こそ、恥ずかしいという声もあったが、広まるとともに抵抗感はなくなりつつある」と話す。

 一方、愛媛県と同時に自転車利用者のヘルメット着用を努力義務にした条例を施行した東京都では、着用率のデータはないが、都交通安全課では「体感的には着用は少ない。普及が課題」と打ち明ける。

「きょうよりも明日」

 普及に課題があるのは堺市も同じ。堺市はどんな取り組みをしてきたのか。

 市自転車企画推進課によると、これまで交通安全キャンペーンや自治会などに出向き、市職員がヘルメット着用をアピールしてきた。また今年7月からは、2000円を上限にヘルメットの購入補助も開始。市内の小学生と保護者、65歳以上の高齢者が対象で、大阪府交通安全協会の講師による1時間半の講習を終えると、購入時の割引券がもらえる仕組みだ。これまでに23回の講習を実施。約1100人が参加した。

 市職員に対しては昨年10月の条例施行前に、ヘルメット約600個を購入し、各部署に配布したが、公用自転車は約1200台ある。その後の対応は各部署に任せているという。また出退勤で自転車利用を呼びかけているものの、状況は把握していないという。

 堺市では地道な努力が続けられているが、愛媛県と比べると、今ひとつ決め手にかける。

 ヘルメットは現在は穴が開いたハンチングのような軽量形が普通。上から帽子を装着してファッション性に配慮したデザインもある。

 約30年前から自転車用のヘルメットを製造しているメーカー「オージーケーカブト」(本社・大阪府東大阪市)では「一般のユーザーが自転車用のヘルメットをかぶるようになったのはここ数年。サイクルブームが影響しているが、スポーツタイプが多く、『ママチャリ』のような一般車ではまだまだ」と指摘する。

 それでも堺市自転車企画推進課の竹内秀和課長は「交通安全の啓発は地道な活動。きょうよりもあした、あしたよりもあさってと、徐々に機運を盛り上げたい」と、長い目で取り組む必要性を強調する。

 自転車に乗る際、ヘルメット着用を努力義務とした条例は、今年10月1日に大阪府高槻市も施行。確実に広がっている。

 国内で唯一の自転車博物館である「自転車博物館サイクルセンター」(堺市堺区)の長谷部雅幸事務局長も「安全に対する認識の変化には時間がかかる。1人がヘルメットをかぶり、また1人がかぶるというように徐々に広め、自転車にはヘルメットが当たり前という『文化』をつくりあげられれば」と話している。

産経WESTより)

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