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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<137>ニバリはジロと五輪、アールは初のツールへ アスタナ プロチーム 2016年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 今年のグランツールを大いに盛り上げたチームである、アスタナ プロチーム。“ファンタスティック4”の一角としてツール・ド・フランスに臨んだヴィンチェンツォ・ニバリと、ブエルタ・ア・エスパーニャで初のグランツール制覇を果たしたファビオ・アール(ともにイタリア)。この両翼が2016年もアスタナのリーダーとして存在感を強めることとなる。今回は、すでに来季の方向性を明らかにしている同チームを展望する。

2016年シーズンのアスタナ プロチームでエースを務めるファビオ・アール(左)とヴィンチェンツォ・ニバリ Photo: Yuzuru SUNADA2016年シーズンのアスタナ プロチームでエースを務めるファビオ・アール(左)とヴィンチェンツォ・ニバリ Photo: Yuzuru SUNADA

ニバリは3年ぶりのジロ制覇なるか

 2014年シーズンに相次いで発覚した、下部組織を含む所属選手のドーピング違反。今シーズンは、国際自転車競技連合(UCI)がアスタナのワールドツアーライセンス剥奪を求めるなど、慌ただしい1年を過ごした。結果的にライセンス剥奪にはならなかったものの、ローザンヌ大学スポーツ科学研究所(ISSUL)の厳しい監視下に置かれ、チームの倫理性や組織面を短期間で再構築する必要に迫られた。

 一方で、選手たちは走りでチーム力を証明。ジロ・デ・イタリアでは、アールとミケル・ランダ(スペイン)が総合2位、3位フィニッシュ。ツールではニバリがステージ1勝を含む総合4位、そしてブエルタでのアールの総合優勝。グランツール以外の大きなレースでも多くのインパクトを残した。

ツール第19ステージで勝利を挙げ、総合4位に入ったヴィンチェンツォ・ニバリ (ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADAツール第19ステージで勝利を挙げ、総合4位に入ったヴィンチェンツォ・ニバリ (ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 晴れて2016年のUCIワールドツアーライセンスを交付されたチームは、スペイン南東部の街・カルペでトレーニングキャンプを実施中。着々と次なるシーズンに向けた準備を進める。

 エースクラスのスケジュールも少しずつ固まってきているようだ。最も動向が注目されるニバリは来シーズン、ジロとリオ五輪をターゲットにすると宣言した。ジロは総合優勝を果たした2013年以来3年ぶりの出場となる。

イル・ロンバルディア初勝利を飾ったヴィンチェンツォ・ニバリ(右) Photo: Yuzuru SUNADAイル・ロンバルディア初勝利を飾ったヴィンチェンツォ・ニバリ(右) Photo: Yuzuru SUNADA

 2014年のツールを制覇し、総合2連覇を狙った昨年は総合4位。続くブエルタでは、第2ステージでチームカーにつかまり前の集団を追ったとして失格処分。グランツールでは不本意な結果に終わった。しかし、秋のレースで奮起し、イル・ロンバルディア初優勝を含む3勝。よい形でシーズンを終えており、来シーズンにもつなげたいところだ。

 ジロまでのレースプログラムもおおむね決定。シーズンインは、1月18~24日のツール・ド・サンルイス(アルゼンチン、UCI2.1)。その後、スペイン・テネリフェ島での高地トレーニングを経て、2月16~21日のツアー・オブ・オマーン(UCI2.HC)、3月5日のストラーデ・ビアンケ(UCI1.HC)、3月9~15日のティレーノ~アドリアティコ、3月19日のミラノ~サンレモ、4月19~22日のジロ・デル・トレンティーノ(いずれもイタリア)、4月24日のリエージュ~バストーニュ~リエージュ(ベルギー)と続く。そして、5月6日のジロ開幕を迎える。

 リオ五輪に向けては、7月に行われるツールを最終調整に充てたい構え。同時期にイタリア代表選手を集めたトレーニングキャンプの計画が進んでいるが、ニバリは「レーススピードの中で勘を養いたい」としている。ツール出場が叶えば、アールのアシストを務めながら、五輪を意識した走りに終始することになりそうだ。

 また、ニバリは2016年でアスタナとの契約が満了を迎える。すでに複数のチームが獲得に向けた動きを見せる一方で、アスタナのゼネラルマネージャーであるアレクサンドル・ヴィノクロフ氏が「間違いなくニバリは2017年以降もアスタナで走る」とコメントするなど、早くもチーム間の駆け引きが始まっている。ストーブリーグを念頭に置いた流れも押さえておきたい。

アールはアルデンヌクラシックにも挑戦

 今年のアスタナの戦いにおいては、ニバリ以上の活躍を見せたのが若き総合エースのアール。チーム生え抜きのリーダーの2016年は、さらなる飛躍を目指すシーズンとなる。

 グランツールでの総合成績が至上命題のチームにあって、アールにはツールでエースを務めることが約束された。今年のブエルタで総合優勝を決めた際に、ヴィノクロフ氏が「アールにとって次のターゲットはツールになるだろう」と述べた通り、首脳陣もアール本人も高いモチベーションで大きな目標に集中することとなる。

グランツール初制覇を成し遂げたファビオ・アール (ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADAグランツール初制覇を成し遂げたファビオ・アール (ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 初のツールにも気負いがない。「ヴィンチェンツォ(・ニバリ)には積極的にアドバイスを求めていきたい。また、友人でチームメートのパオロ・ティラロンゴ(イタリア)も経験が豊富だ」と話し、同国の仲間からのサポートに期待を寄せる。

 こちらは、2月3~7日のヴォルタ・ア・ラコムニタット・バレンシアーナ(スペイン、UCI2.1)でシーズンイン。続く2月17~21日のヴォルタ・アオ・アルガルヴェ(ポルトガル、UCI2.1)では、ティラロンゴ、ディエゴ・ローザ、ダリオ・カタルド(いずれもイタリア)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン)、タネル・カンゲルト(エストニア)、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)、バーフティヤール・コージャタイエフ(カザフスタン)のメンバーで出場することが発表されている。

ファビオ・アール (ジロ・デ・イタリア2015) Photo: Yuzuru SUNADAファビオ・アール (ジロ・デ・イタリア2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 これまで出場経験のないアルデンヌクラシックにも挑戦の意向。4月20日のラ・フレーシュ・ワロンヌ(ベルギー)とリエージュ~バストーニュ~リエージュへの出場を予定している。今年は体調不良でリエージュ出場をキャンセルした経緯があるだけに、その悔しさを晴らしたいとも。3月から4月にかけて、パリ~ニース(フランス)とブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ(スペイン)を走り、アルデンヌに臨む見通しだ。

 アルデンヌ後は高地キャンプを行い、6月5~12日のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(フランス)をツール前の調整レースに充てる見込みだ。

 なお、トレーニングキャンプでは集団走行中に落車し、アレッサンドロ・ヴァノッティ(イタリア)を巻き込むアクシデントこそあったが、自身は無傷で済み(ヴァノッティは脛骨骨折)、来たるシーズンへの影響はないとしている。

ローザ、ロペスは次世代のエース候補

 カザフスタン国家プロジェクトでもあるアスタナ プロチーム。同国政府や国とのつながりが深い民間企業がスポンサーに名を連ね、豊富な資金をバックにチーム力の向上を図る。どんなに実力があっても、首脳陣が求める走りができなければ1年でチームを去らねばならないケースもあるあたりは、常に高いレベルで戦い続けるというチーム姿勢の表れといえる。

自己最高位を更新したパリ~ルーベでの優勝を目指すラルス・ボーム(パリ~ルーベ2015) Photo: Yuzuru SUNADA自己最高位を更新したパリ~ルーベでの優勝を目指すラルス・ボーム(パリ~ルーベ2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 ニバリとアール以外にもタレントはそろう。北のクラシックでエースを務めるラルス・ボーム(オランダ)は、来シーズンへの準備として、かつての主戦場であるシクロクロスに参戦。年末年始に行われる5レースに出場する。今年のパリ~ルーベでは自己最高の4位。来年は初優勝を目指す。

グランツールでアシストとして活躍したディエゴ・ローザ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADAグランツールでアシストとして活躍したディエゴ・ローザ(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 総合系では、今シーズンのジロ、ブエルタでアールのアシストを務めた26歳のローザ、プロ1年目ながら急峻な山岳が舞台のツール・ド・スイスで総合7位に入った21歳のロペスが、次世代のエース候補として飛躍を誓う。ランダのチーム スカイ移籍もあり、彼らにはより結果が求められるポストが用意されるはずだ。ベテランのミケーレ・スカルポーニ(イタリア)、ヤコブ・フルサング(デンマーク)といったグランツール経験豊富な選手たちもエースのバックアップに回る。

 そのほか、堅実さが光るアンドリー・グリフコ(ウクライナ)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン)らアシスト陣、首脳陣がクラシックのエース候補として挙げるアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)、スプリンターのアンドレア・グアルディーニ(イタリア)も、2016年シーズンの重要戦力として計算できる存在だ。

アスタナ プロチーム 2015-2016 選手動向

【残留】
ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア)
ファビオ・アール(イタリア)
マクサット・アヤズバイエフ(カザフスタン)
ラルス・ボーム(オランダ)
ダリオ・カタルド(イタリア)
ローレンス・デフリーズ(ベルギー)
ダニエル・フォミニフ(カザフスタン)
ヤコブ・フルサング(デンマーク)
アンドリー・グリフコ(ウクライナ)
ドミトリー・グルズジェフ(カザフスタン)
アンドレーア・グアルディーニ(イタリア)
アーマン・カミシェフ(カザフスタン)
タネル・カンゲルト(エストニア)
バーフティヤール・コージャタイエフ(カザフスタン)
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)
ダヴィデ・マラカルネ(イタリア)
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
ディエゴ・ローザ(イタリア)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
ミケーレ・スカルポーニ(イタリア)
パオロ・ティラロンゴ(イタリア)
ルスラン・トルウバイエフ(カザフスタン)
アレッサンドロ・ヴァノッティ(イタリア)
リーウ・ウェストラ(オランダ)
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン)
 
【加入】
エロス・カペッキ(イタリア) ←モビスター チーム
マトヴェイ・ニキティン(カザフスタン) ←セブンリバーズ サイクリングチーム
ガティス・スムクリス(ラトビア) ←チーム カチューシャ
オレグ・ゼムリャコフ(カザフスタン) ←ヴィノ フォーエバー
 
【退団】
ボルト・ボジッチ(スロベニア) →コフィディス ソリュシオンクレディ
アレクサンドル・ディアチェンコ(カザフスタン) →引退
ミケル・ランダ(スペイン) →チーム スカイ
レイン・タラマエ(エストニア) →チーム カチューシャ

今週の爆走ライダー-ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ツールのステージ通算4勝に裏打ちされた勝負強さと駆け引きの巧みさ。TTでも勝利を狙えるほどのスピードとワンデーレースで見せる強さは、デビュー当時から高い評価を受ける。

グランツールでのアシストぶりが光ったルイスレオン・サンチェス(ジロ・デ・イタリア2015) Photo: Yuzuru SUNADAグランツールでのアシストぶりが光ったルイスレオン・サンチェス(ジロ・デ・イタリア2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 オスカル・ペレイロやアレハンドロ・バルベルデ(ともにスペイン)らのアシストを務めたケスデパーニュ時代(2007~2010年)を経て、自らのチャンスを増やすべく移籍したラボバンクで事態は暗転する。2006年にサイクルロードレース界を震撼させたドーピング問題「オペラシオン・プエルト」への関与が疑われ、満足にレース出場ができない日々を送ることになったのだ。ベルキン プロサイクリングにチーム名が変わった2013年には、チームからの出場停止を言い渡された時期もあった。

 疑いこそ晴れたものの、悪い印象は拭えず、2014年はプロコンチネンタルチームのカハルラル・セグロスRGAとシーズンイン直前に契約するので精一杯。それでも、レースの大小問わず勝利にこだわって走り通した。その結果、かつて自身がアシストしたヴィノクロフ氏率いる現チームからのオファーを勝ち取った。

 ビッグチーム返り咲きを果たした今年は、ジロとブエルタでアールをアシスト。特に、アールが総合優勝したブエルタではヴィノクロフ氏にして「ルイスレオンがいなければアールの勝利はなかった」とまで言わしめた完璧な仕事ぶり。32歳とベテランの域に入り、円熟味を増した走りでチームに貢献し続ける。

第20ステージのゴールで、総合優勝を確実なものにしたファビオ・アール(右)が、献身的にアシストしたルイスレオン・サンチェスを称えた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA第20ステージのゴールで、総合優勝を確実なものにしたファビオ・アール(右)が、献身的にアシストしたルイスレオン・サンチェスを称えた(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 3歳年下の弟・ペドロは、年代別スペイン代表を経験したサッカーのトッププレーヤー。末弟のアントニオも元フットサルプレーヤーというスポーツ一家。また、勝利したレースのフィニッシュでは、必ず両手人差し指を天に掲げる。それは、2005年にバイク事故死した兄に捧げるもの。スポーツ一家の次男の素顔は、家族思いの一面もある心優しき男なのである。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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