52歳で自己最高位フィニッシュ自転車への情熱を確認した210km 「ツール・ド・おきなわ」に挑んだ片山右京さん

by 橋本謙司 / Kenji HASHIMOTO
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 11月8日に開催された、ロードレースシーズンの最後を飾る「ツール・ド・おきなわ2015」。国内外のトップチームが参戦した「チャンピオンレース210km」に、今シーズンのJプロツアーを圧倒的なチーム力で制した「チームUKYO」も参戦していた。しかし、そのチームカーに「片山右京監督」の姿はなかった。午前6時45分にチャンピオンレースがスタートしてから1時間後。市民レースの最高峰カテゴリー「市民210km」のスタートラインに、選手として並ぶ片山さんの姿があった。

アマチュアレーサーで構成される「チームUKYOレブ」の鈴木亮さん(右)とともにスタートの時を待つ片山右京さん Photo: Kenji HASHIMOTOアマチュアレーサーで構成される「チームUKYOレブ」の鈴木亮さん(右)とともにスタートの時を待つ片山右京さん Photo: Kenji HASHIMOTO

おきなわは特別なレース

 UCI(国際自転車競技連合)コンチネンタルチームとして活躍するチームUKYOがツール・ド・おきなわに参戦したのは3年前からだが、片山さん自身が選手として初めて挑戦したのは、今から7年前の2008年大会だった。

 「当時はとにかく自身のパフォーマンスを高め、ライバルとの勝負を楽しみ、どこまで上に挑戦できるかをモチベーションにしていました」と語る片山さん。四輪のモータースポーツや、登山などの活動と同様に、ロードレースというスポーツへ純粋に挑戦していた。2011年シーズンは、実業団のエリートツアーにも参戦した。

 チームUKYOがおきなわに挑戦する以前の2008〜2012年、片山さんはこの5年間のうち4回、市民最高峰カテゴリーに挑戦してきた。2008年は138位、2009年は107位。2011年、2012年はともに111位。沖縄北部の険しい山岳を舞台に、国内トップの市民レーサーたちがしのぎを削る「市民210km」は、毎年完走率が50〜60%台と厳しいレースだ。それをすべて完走してきた。

 「42歳でロードバイクに出会って以来、Mt.富士ヒルクライムなどのレースに積極的に参加してきましたが、一般道路を交通規制して市民レーサーたちがガチンコ勝負をできるツール・ド・おきなわは特別なレース」と、片山さんは「おきなわ」への想いを語る。

自転車を好きなのか「確かめたかった」

 しかし、ここ数年はチームUKYOの運営はじめ、多方面での活動が多忙を極め、自身のレース活動からは遠のいていた。「最後に挑戦した2012年のおきなわの終盤に、補給所でボトルを取ろうとしたら、肩が上がらず受け取れなかったんだ。五十肩だった。練習はしていたのに、フラフラになってゴールして、もういい歳だな、と」

 しかし、今年52歳になった片山さんは3年ぶり5回目の挑戦を決めた。

ツール・ド・おきなわの1か月前、「ツール・ド・三陸」にゲスト参加した片山右京さん(左端)。この時点で1か月間に7kgの減量に成功していた =2015年10月11日 Photo: Kenji HASHIMOTOツール・ド・おきなわの1か月前、「ツール・ド・三陸」にゲスト参加した片山右京さん(左端)。この時点で1か月間に7kgの減量に成功していた =2015年10月11日 Photo: Kenji HASHIMOTO

 「今回は、競技として上のリザルトを目指すという想いで参加したわけではなくてね。今後の自分自身に対する禊(みそぎ)のようなものだった」と、少し笑いながらも、すぐにこう続けた。

 「チームUKYOを発足させた当初(2012年シーズン)は、チームのみんなとレースで勝った負けたで一気一憂するだけで楽しかった。でも、4年目の今シーズンにもなれば、様々な課題にブチ当たったりして、色々とツライことや悩みも多かった。選手として上を目指す以上に、今後、チームとして本気で世界で戦っていくには、大きなエネルギーが必要になる。チームを運営する立場として、再度、自分自身が本当に自転車を好きなのかどうかを確かめたかったんだ」

多忙の合間を縫ってトレーニング

 今年、おきなわに挑戦すると決めたのは7月末。チームのシーズン前半戦最後のレース、湾岸クリテリウムが終わった直後だ。大会本番まで3か月半での決断だった。

 「数年間、トレーニングらしいことをしていなかったから、最初は全然走れなかったね。ローラーで10分走ったら疲れていたし、ケイデンス(回転数)も上がらなかった。とにかく毎日乗って、10分、15分、20分と時間を延ばして、まずは1時間乗れるようになるところから。それに、最近はメタボになりつつあったから、食事制限も始めてさ。月並みだけど糖質制限ダイエットで、朝は普通に食べて、昼はおにぎり1個だけにして、夜はお肉と豆腐や枝豆のタンパク質系という具合だよ」

「市民210km」のスタート最前列には、高岡亮寛さん、白石真吾さんら歴代優勝者がずらりと陣取った Photo: Kenji HASHIMOTO「市民210km」のスタート最前列には、高岡亮寛さん、白石真吾さんら歴代優勝者がずらりと陣取った Photo: Kenji HASHIMOTO

 徐々にトレーニングを再開した片山さんだったが、睡眠時間を削ってトレーニングすることも多く、相変わらずの多忙な日々は続いた。

 「1日3時間睡眠が続くこともザラだった。他の事業の仕事もあるし、F1などテレビ関係の仕事の依頼をお断りもしてきました。そもそも、おきなわにチームが参加するのに監督はチームカーに乗らないし。今の立場的にも、年齢的にも正直きつかった。でも、自分で『おきなわに出る!』と宣言したんだから、意地でもトレーニングは欠かさず続けたよ」

 ロングライドに出かける時間はなかなか確保できないため、基本的に3本ローラーで効率を追求。朝4時起床で1時間半、仕事から帰宅して深夜の0〜1時に、自宅で、ひとり汗をボタボタと垂らしながらペダルを回し続けた。

出張先でヒルクライム

 「ケイデンス100回転以上の高回転で1時間こぐメニューが神経系のトレーニング。それと、ヒルクライムを想定してローラーの負荷設定を最大にして、ケイデンスは70台に落とし1時間こぐ筋力強化のメニューを組み合わせてやってきた。筋力強化のメニューは3日空けずにね。そうしたら、徐々に重いギヤで踏めるようになっていったよ。朝などに乗れない日も、帰宅後に30分だけ乗るようにしてきた」

 週3〜5日の朝晩のローラー以外には、スケジュールのすき間時間を見つけては、実走トレーニングを重ねた。自宅と会社の通勤を往復で最長70kmほど走ったり、出張先で山を中心にトレーニングを重ねたりした。

 「おきなわのコースは、登りで集団から千切れたら終わりだなと思っていたから、身体を絞って、とにかく出張先にある山で登坂練習を繰り返してさ」

 四輪レースのスーパーGTで宮城県の菅生に入った時には、宮城蔵王側から片道35kmのヒルクライムをして山形側へ降りて、再び上り返した。F1で鈴鹿へ行けば、青山高原の上りでアタックした。最初は50分ほどかかっていたところを最終的には42分まで短縮。また、チームの拠点がある神奈川県の道志みちでのチーム練習に帯同した時は、途中の鶴峠で10分走を5本のインターバルでもがいた。夜に移動がある時は、日が暮れる前に外を走り、健康ランドで汗を流してから現場に入ることもあった。

月間2000km乗り込み14kgの減量

145km地点、第3集団の先頭付近で厳しい上り坂をクリアしていく片山右京さん(右端) Photo: Kenji HASHIMOTO145km地点、第3集団の先頭付近で厳しい上り坂をクリアしていく片山右京さん(右端) Photo: Kenji HASHIMOTO

 こうして8月から徐々にトレーニングの量と質を高め、8月末から9月末にかけては月間2000km以上を乗り込んだ。そして、食事制限をしながらコンディションを維持するためにサプリメントを活用し、毎日摂り続けた。

 「トレーニング前後のホエイプロテインはもちろん、糖質ダイエットをしているから、トレーニング中にエネルギー切れしないようにハイポトニックドリンクを飲んでいたよ。最初64kgあった体重が8月末からの1か月間だけで7kgも落ちたんだ。疲れすぎたり、頭が働かなくなったりしない範囲でやっていたつもりだったけど、その後も病気じゃなかと思うほど、どんどん身体が絞れて一時50kgを切るところまでいった。最終的には53kg前後で推移して、ちょうど良い状態で当日を迎えることができたかな」

 2か月で最大14kgもの減量に成功。これは、数年前にレースに出ていた時よりも5kg近く軽かった。

長時間レースへのスタミナに課題

 「上りだけのパフォーマンスは、昔エリートで走っていた時より上がっていたんじゃないかな。実際、ヤビツを練習用のアルミホイールの状態で走ったら30分で登れたからね」と、短期間で過去最高に近い登坂力をつけていた。

 しかし、その一方で、5〜6時間の長時間レースに対応するだけのスタミナには課題を残していた。

「結局、本番までロングライドの練習時間を作れなくて、チーム練習で120kmを1回走っただけだった。本当に練習は嘘をつかなくて、2時間半を過ぎるとすぐに疲れちゃう」と苦笑いを浮かべた。

 長時間の練習こそできていなかったが、体脂肪率も5%台まで絞り、順調に身体を仕上げてレースを迎えようとしていた。その矢先、発熱で体調を崩してしまった。

 「本当、大事な時に限ってこうなっちゃうんだよね。でも、やるしかなかったし、沖縄入りしてからもインナーやウィンドブレーカーを着込んで『寒い寒い』って言っていたよ。でも逆に、みんなが感じた沖縄の暑さは感じなかったかな。変なアドバンテージを得て、けがの功名だったね」と、おどけてみせた。

「上りが短く感じた」

 迎えたレース当日は、暑さと戦うサバイバルレースになった。

全国から強豪市民レーサーが集い、ガチンコバトルをするアマチュア最高峰カテゴリー「市民210km」のプロトン Photo: Kenji HASHIMOTO全国から強豪市民レーサーが集い、ガチンコバトルをするアマチュア最高峰カテゴリー「市民210km」のプロトン Photo: Kenji HASHIMOTO

 「序盤、70kmの海岸線は落車をかいくぐりながらも、無事に1回目の与那の上りに入れた。上りは集団が分かれたんだけど、以前よりもラクに上れていたと思う。先頭40人くらいのパックに付いていける感覚もあったけど、安全策で無理には追わなかったんだ。でも、その後の集団はサイクリングペースになっちゃって。レース中の判断は難しいね。2回目の与那の上りも短く感じたし、その後の安波小学校からの上りも、坂じゃないと思えるほどだったんだけど…」

 上りでは、かなり余裕があって集団の前に出ることもあった。しかし、その後、東海岸のアップダウンには苦しんだ。

今年は最高気温30度に達する暑さの中でのサバイバルレースになり、完走率は48%台と厳しかった Photo: Kenji HASHIMOTO今年は最高気温30度に達する暑さの中でのサバイバルレースになり、完走率は48%台と厳しかった Photo: Kenji HASHIMOTO

 「長時間走り続けることに対応できていなかったということ。エネルギー切れだけはしないように、レース中はとにかく食べ続けたんだけど、後半は足がつり出したり、腕や肩などが痛み出したりと、本当につらかった。暑さもこたえて『パンクしてくれたら楽になるんだよな』なんて思っちゃうほど。指がしびれたりして、やっぱりおきなわは苦しいね」

自身のレース活動に一区切り

自身がプロデュースしたバイク「Reve」(レブ)でツール・ド・おきなわを走った片山右京さん。レブはフランス語で「夢」を意味する Photo: Kenji HASHIMOTO自身がプロデュースしたバイク「Reve」(レブ)でツール・ド・おきなわを走った片山右京さん。レブはフランス語で「夢」を意味する Photo: Kenji HASHIMOTO

 190km地点の羽地ダムの上りで集団から抜け出してみたが、市街地で再び集団に吸収されると、最後は集団の最後尾でフィニッシュを迎えた。6時間00分46秒で74位。完走率は48.6%だった。50歳代での完走者7人中4番目。「タイムも順位も予想の範囲内だった」と振り返るが、74位は過去最高の順位だった。

 「今回のおきなわに向けては、短期間ながら頑張れたと思う。苦しさの中でペダルを漕ぎ、時速80kmで下る中で、僕はこの自転車という競技が本当に好きなんだと確認できた。これで自分自身のレース活動を一区切りして、来シーズンから覚悟を決めてチームのマネジメントに集中できると思う。このチームを世界の舞台に持って行くのは大変なエネルギーが必要だけれど、やっていけると感じることができた」

 ツール・ド・おきなわ挑戦という「みそぎ」を終えた片山さんは、そう締めくくった。

片山右京さん「ツール・ド・おきなわ」挑戦の軌跡
2008 138位 5’59 45歳
2009 107位 5’53 46歳
2010 不参加
2011 111位 6’07 48歳
2012 111位 5’53 49歳 
2013 不参加
2014 不参加
2015 74位  6’00 52歳

片山右京片山右京(かたやま・うきょう)

元レーシングドライバーで登山家、サイクリスト。四輪レースでは日本人3人目のF1レギュラードライバーとして世界で活躍。自転車界ではチームUKYOを結成して監督に就き、2012年からJプロツアーに参戦。2013年に個人・チームの年間総合優勝を、2014年も個人総合優勝を獲得。2015年は全24戦のうち13勝を挙げる圧倒的な強さで2度目の個人・総合二冠を獲得。神奈川県相模原市出身、52歳。 →「チームUKYO」

橋本謙司橋本謙司(はしもと・けんじ)

自転車雑誌「funride」、ランニング雑誌「ランナーズ」の編集者を経て、2014年よりスポーツライターとして活動。八千代松陰高〜早稲田大学人間科学部卒。スポーツバイク歴10年、マラソン歴19年。愛称「ハシケン」
 →公式サイト「CYCLING & RUNNING BASE」

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