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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<134>世界王者・サガンとキャリア最終シーズンのコンタドール ティンコフ 2016年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 前回からお届けしているサイクルロードレース2016年シーズンのチーム展望。来季に向けての傾向として、各チームが早めにメンバー編成を行っており、ビッグネームがひしめくティンコフもその1つに挙げられる。8月上旬に最初の残留選手を明らかにし、その後も契約延長や新加入となる選手を順次発表。早々に来季を戦う27選手を固めた。世界選手権ロードを制したペテル・サガン(スロバキア)、来シーズン限りでの引退を表明しているアルベルト・コンタドール(スペイン)らの動向を中心に、チームの方向性を探っていく。

ティンコフのエースを務めるペテル・サガン(左)とアルベルト・コンタドール Photo: Yuzuru SUNADAティンコフのエースを務めるペテル・サガン(左)とアルベルト・コンタドール Photo: Yuzuru SUNADA

サガンは照準はクラシック制覇とツール

 チームのメーンスポンサーであるサクソバンクは10月15日、8年間にわたり継続したスポンサードを終了すると発表。来シーズンは、ティンコフバンクが単独でメーンスポンサーとしてチームを支えることとなる。これに伴い、チーム名も「ティンコフ」になる予定だ。

 選手・スタッフは10月27日から4日間、アドリア海に面したクロアチア西部の街・ポレッチに集合して1回目のキャンプに臨んだ。ここではウエアのフィッティングや写真撮影、メディア対応が主な活動となり、本格的なトレーニングは実施していない。

 その中で大きな注目を集めたのが、世界王者のサガンだ。9月27日の世界選手権ロードレースで見せたラスト3kmの独走劇は、ファンのみならずライバル選手たちにも衝撃を与え、改めてその実力とメンタリティの強さを見せつけた。その後は地元での祝勝会やアブダビ・ツアーへの参戦、取材対応などに追われ、このキャンプで慌ただしかった日々が一段落するとホッとした表情を見せている。

アブダビ・ツアーでマイヨアルカンシエルを披露したペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADAアブダビ・ツアーでマイヨアルカンシエルを披露したペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 王者の証・マイヨアルカンシエルでの戦いについて問われたサガンは、「戦う姿勢は変わらない。唯一変化したのはひときわ美しいジャージを着られることだけ」と述べ、レースへの取り組みはこれまで通りだと強調する。

春のクラシックやツール・ド・フランスでのマイヨヴェール獲得を目指すペテル・サガン(アブダビ・ツアー2015) Photo: Yuzuru SUNADA春のクラシックやツール・ド・フランスでのマイヨヴェール獲得を目指すペテル・サガン(アブダビ・ツアー2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 来季のサガンの主なスケジュールは、1月18~24日のツール・ド・サンルイス(アルゼンチン、UCI2.1)でシーズンイン。まずはクラシックに照準を定め、3月19日のミラノ~サンレモ(イタリア)、同25日のE3ハーレルベーク、同27日のヘント~ウェヴェルヘム、4月3日のツール・デ・フランドル(いずれもベルギー)、同10日のパリ~ルーベ(フランス)での優勝を目指す。その後は、ポイント賞のマイヨヴェール5連覇をかけてツール・ド・フランスに臨むほか、リオ五輪も視野に入れる。

 今シーズンは2位フィニッシュが15回と、あと一歩で勝利を逃すシーンが目立ったが、「それはあくまでも時の運」と気に留めていない様子。このシーズンオフには結婚式を挙げ、私生活も充実。抜群の集中力と勝負強さで、狙ったレースにコンディションのピークを合わせる。

コンタドールの決意と覚悟

 サガンと並んでチームの顔となるコンタドールは、今シーズン序盤に「2016年シーズン限りで現役を引退する」との意向を表明。11月12日には自身が主宰する財団のイベントの席で、その意思に変わりがないことを明らかにした。

 引退までのカウントダウンをスタートさせた今季は、ジロ・デ・イタリアとツールを連続制覇する“ダブル・ツール”に挑戦。ジロでは大会終盤に脱水症状に見舞われながらも、ファビオ・アール(イタリア)、ミケル・ランダ(スペイン)のアスタナ プロチーム勢との激闘を制して総合優勝を果たした。しかし勢いは続かず、ツールでは山岳での遅れや下りでの落車が災いして総合5位に終わった。

アスタナ プロチーム勢との激闘を制しジロ・デ・イタリアで総合優勝を飾ったアルベルト・コンタドール Photo: Yuzuru SUNADAアスタナ プロチーム勢との激闘を制しジロ・デ・イタリアで総合優勝を飾ったアルベルト・コンタドール Photo: Yuzuru SUNADA

 ダブル・ツールの野望は絶たれたが、キャリア最後のシーズンとなる2016年はツール王座奪還とリオ五輪での金メダル獲得にすべてを注ぐ心積もりだ。

 2009年以来の総合優勝を狙うツールについて(2010年は薬物違反により成績抹消)、カギを握るのは個人タイムトライアル(TT)になると見ているようだ。第13ステージ(37km)、山岳個人TTの第18ステージ(17km)をどうクリアするか。「これまでの競技人生で最も勝つのが難しいライダー」と表現するクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)と自身を比較し、決定的な差はTTの走りにあると分析。「フルームが時速55km近くで走ってしまうと太刀打ちができない」とし、平坦よりもアップダウンに富んだTTコースを望んでいると話す。

 リオ五輪については、強力なメンバーが予想されるスペイン代表に加わり、金メダルを目指したいとしている。

アルベルト・コンタドールは2009年以来のツール制覇と五輪の金メダルを狙う(ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADAアルベルト・コンタドールは2009年以来のツール制覇と五輪の金メダルを狙う(ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 コンタドールもすでにリオ五輪までのレーススケジュールを発表済み。2月17~21日のヴォルタ・アオ・アルガルヴェ(ポルトガル、UCI2.1)でシーズンインし、3月6~13日のパリ~ニース(フランス)、同21~27日のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ、4月4~9日のブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・バスコ(ともにスペイン)でシーズン序盤を送る。しばしの休養を経て、6月5~12日のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(フランス)で調整し、7月2日からのツール、8月6日のリオ五輪ロードレース、同10日の個人TTに臨む。

 一部ではブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を期待する声も上がっているが、リオ五輪後のレース出場は未定。また、引退撤回の可能性については「ツールで“不幸な出来事”が起きない限りあり得ない」と話し、強い覚悟をもって2016年シーズンを戦う意志を見せている。

ジロ制覇を狙うマイカ

2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで自身初の総合表彰台に立ったラファウ・マイカ Photo: Yuzuru SUNADA2015年のブエルタ・ア・エスパーニャで自身初の総合表彰台に立ったラファウ・マイカ Photo: Yuzuru SUNADA

 サガン、コンタドール以外にもタレントがそろう布陣だ。今年のブエルタで総合3位に入り、念願の総合表彰台に立ったラファウ・マイカ(ポーランド)は、ジロの総合優勝に意欲を見せる。チームオーナーのオレグ・ティンコフ氏も、マイカのステップアップに大きな期待を寄せているという。

 2011年から2012年にかけてのバイオロジカルパスポート値に異常が指摘され、薬物使用が疑われていたロマン・クロイツィゲル(チェコ)は、数回にわたる調査によって疑惑が晴れ、レースに集中できる環境を取り戻した。2013年にはアムステル・ゴールドレースを制するなど、アルデンヌクラシックとの相性は抜群。来季もクラシック戦線でエースを務めることになる。グランツールについては、「アルベルト(・コンタドール)のアシストに集中する」と宣言している。

 グランツール路線では、チーム カチューシャから加入するユーリ・トロフィモフ(ロシア)の存在が心強い。今年のジロでは総合10位に入っており、総合エースとしてもアシストとしても実績は十分なだけに、マルチな起用を計算できる。現・ロシアロードチャンピオンでもあり、ティンコフ氏が望んでいた自国のチャンピオンジャージのチーム合流となる。

 アシスト陣は、ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)やマチェイ・ボドナル(ポーランド)、アンドローニジョカットリから移籍のオスカル・ガット(イタリア)らがサガンのクラシック制覇を後押しする。ミケル・ヴァルグレンアンデルセン、イェスパー・ハンセン(ともにデンマーク)、パヴェウ・ポリャンスキー(ポーランド)ら若手は、グランツールでエースを支えたことから評価を上げた選手たち。また、長年コンタドールの脇を固めてきたヘスス・エルナンデス(スペイン)、セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)、来季は42歳のシーズンとなるマッテーオ・トザット(イタリア)といったベテランも健在だ。

 コンタドールがアシストとして絶大な信頼を寄せるマイケル・ロジャース(オーストラリア)もこのほど、2016年シーズン限りで現役を引退する意向を示唆した。ツール期間中に精巣がんが発覚してレース復帰することなく現役を退くイヴァン・バッソ(イタリア)、そしてコンタドールに続き、チームを引っ張るライダーがまた1人、キャリアの幕引きを迎えようとしている。プロトンを去る前に、その堅実な走りをしっかりと目に焼き付けておきたい。

2016年限りでの引退を表明したマイケル・ロジャース(ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADA2016年限りでの引退を表明したマイケル・ロジャース(ツール・ド・フランス2015) Photo: Yuzuru SUNADA

ティンコフ 2015-2016 選手動向

【残留】
ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア)
マチェイ・ボドナル(ポーランド)
パヴェル・ブルット(ロシア)
アルベルト・コンタドール(スペイン)
イェスパー・ハンセン(デンマーク)
ヘスス・エルナンデス(スペイン)
ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア)
ミハエル・コラー(スロバキア)
ロマン・クロイツィゲル(チェコ)
ラファウ・マイカ(ポーランド)
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア)
セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)
エフゲーニ・ペトロフ(ロシア)
パヴェウ・ポリャンスキー(ポーランド)
マイケル・ロジャース(オーストラリア)
イヴァン・ロヴニー(ロシア)
ユライ・サガン(スロバキア)
ペテル・サガン(スロバキア)
マッテーオ・トザット(イタリア)
ニコライ・トルソフ(ロシア)
ミケル・ヴァルグレンアンデルセン(デンマーク)
 
【加入】
エリク・バスカ(スロバキア) ←AWT・グリーンウェイ
アダム・ブライス(イギリス) ←オリカ・グリーンエッジ
オスカル・ガット(イタリア) ←アンドローニジョカットリ
ミヒャエル・ゴーグル(オーストリア) ←チロル サイクリングチーム
ユーリ・トロフィモフ(ロシア) ←チーム カチューシャ
 
【退団】
イヴァン・バッソ(イタリア) →引退(テクニカルコーディネーター就任)
エドワード・ベルトラン(コロンビア) →未定
マッティ・ブレシェル(デンマーク) →キャノンデール プロサイクリング
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク) →オリカ・グリーンエッジ
ミケル・モルコフ(デンマーク) →チーム カチューシャ
ブルーノ・ピレス(ポルトガル) →ロス・シュコダ
クリスアンカー・ソレンセン(デンマーク) →フォルトゥネオ・ヴィタルコンセプト
オリヴァー・ツァウグ(スイス) →イアム サイクリング

今週の爆走ライダー-イェスパー・ハンセン(デンマーク)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 若手とベテランの融合が順調に進行するチームにあって、関係者が大きな期待を寄せるのが25歳のイェスパー・ハンセン。頭角を現す選手が多い1990年生まれ、プロトンのゴールデンエイジの1人だ。

 プロデビューの昨年は経験を積むことを重視したが、今シーズンは3月のツール・ド・ランカウイ(マレーシア、UCI2.HC)で総合6位に入ると、5月のツアー・オブ・ノルウェー(UCI2.HC)では難コースを制してキャリア初の総合優勝。第3ステージでライバルを置き去りにする圧勝劇を見せ、一気にチームの主力に躍り出た。

ツアー・オブ・ノルウェーで難コースを制し総合優勝したイェスパー・ハンセン Photo: Tinkoff - Saxoツアー・オブ・ノルウェーで難コースを制し総合優勝したイェスパー・ハンセン Photo: Tinkoff - Saxo

 初のグランツールとなったブエルタでは、同い年のエース・マイカを全面サポート。総合表彰台へと送り込み、山岳でのアシストで自身の評価を高めた。

 脚質はクライマー。アンダー23時代の2011年には、若手の登竜門であるツール・ド・ラヴニールの山岳ステージで、今をときめくロマン・バルデ(フランス、現・アージェードゥーゼール ラモンディアル)、ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、現・オリカ・グリーンエッジ)らと激戦を演じるなど、その世代では実力者と見られていた。

 実績と自信を積み重ねた今、当時のライバルたちに追いつこうとしている。そのカギとなるのは、まさに2016年の走り。エースかアシストかにかかわらず、走るレースのすべてで結果と内容が問われる、まさに真価を試されるシーズンとなる。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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