理想の自転車を追い求めて「フレームの魔術師」と呼ばれる男 「FELT」創業者ジム・フェルト氏インタビュー

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 ハワイ・コナで開催された「2015アイアンマン世界選手権」の女子優勝者、ダニエラ・リフ選手をはじめ、多くのアスリートの活躍を支えるドイツのバイクメーカー「FELT」(フェルト)。空気力学を追究したフレーム設計と独自のカーボン技術により、広くレーシングブランドとしての支持を獲得している。創業者はブランドにその名を刻むジム・フェルト氏。別名「フレームの魔術師」と呼ばれる彼だが、かつてはモトクロスバイクのメカニックという意外な経歴をもつ。11月上旬にプロモーションイベントのため来日したフェルト氏に、ブランド誕生の秘話や、目指す自転車づくりについて話を聞いた。

ジム・フェルト氏 Photo: FELTジム・フェルト氏 Photo: FELT

趣味が転じた理想の自転車づくり

Photo: Kyoko GOTOPhoto: Kyoko GOTO

 ――モトクロスバイクのメカニックだったフェルトさんが自転車づくりを始めた原点は?

フェルト:メカニックをしていた当時、モトクロスバイクに乗るための体作りとして、サイクリングやランニングでトレーニングしていました。1982年、家の近くで開催されたトライアスロン大会に参加し、それ以来、趣味としてデュアスロンとトライアスロンに打ち込んでいたんです。

 当時は市販のバイクを使っていて、最初に手に入れたのはブリヂストンでした。モトクロスでブリヂストンのタイヤのサポートを受けていたので、日本で販売されていたバイクを取り寄せてもらいました。ただ、モトクロスのバイクを作っている身として、「もっと良い自転車ができるんじゃないか」と思いまして、その結果、自分でトライアスロン用のバイクフレームを作ってしまいました。それが私の自転車づくりの原点です。

 そのフレームが当時、新たに自転車事業部を立ち上げようとしていたイーストン・スポーツの目にとまり、製品開発に携わらないかと声をかけられました。スペシャライズドやキャノンデール、トレックなど大手にチュービングの供給を開始するためのエンジニアが必要になったということで、そのオファーを受けました。

アイアンマンレースで話題をさらった「B2」

 ――そこから「FELT」はどのようにして誕生したのですか?

フェルト:イーストンで、ポーラ・ニュービー・フレイザーという当時有名だったトライアスロンの女子選手をサポートすることになり、フレームビルダーもやっていた私が彼女のフレームを手がけることになりました。さまざまな試行錯誤を経て、当時としては非常に軽量で、かつ革新的な自転車を作り上げることができました。

FELTの幕開けはトライアスロン向けのバイクからだった Photo: FELTFELTの幕開けはトライアスロン向けのバイクからだった Photo: FELT

 最終段階、まったく塗装がなされていない状態の自転車を前に、どんなグラフィックにしようかと私と妻とポーラの3人で話していたとき、モトクロス時代の「FELT」の名前が大きく書かれているデカールが残っていたので、それを貼ろうということになりました。さらにポーラが「自転車を真っ黒なstealth bomber(ステルス爆撃機)のような見た目にして、名前も航空機にちなんで『B2』にしよう」といったことがきかっけで、黒単色でFELTの白抜きのステッカーが貼られただけの自転車が出来上がりました。

 「この自転車、コナ(ハワイ)のアイアンマンで見せつけてくるから!」といってポーラが大会に出場したところ、「なんだこの自転車は!」という騒ぎになり、さらにポーラが優勝したことで、FELTの名は一躍有名になりました。そこがFELTとしてのスタートです。今日のFELTのハイエンドモデルが真っ黒なのは、それが理由です。

 ――当時、自転車を設計する際のポイントとして、フェルトさん独自の視点はありましたか?

フェルト:モトクロスのメカニックをやっていたからこそ、自転車がローテクに感じたのだと思います。チュービングからして満足できなかった。当時、モトクロスで進んでいた金属加工技術を自転車に取り入れたおかげで、それまでになかったエキゾチックな形で、フレーム重量が750gという非常に軽いフレームを作ることができました。

目標は「世界で最高の自転車」を作ること

Photo: Kyoko GOTOPhoto: Kyoko GOTO

 ――アルミからカーボンへとレーシングバイクの素材がシフトした現在、自転車づくりにおいて変わってきたことは?

フェルト:フレーム設計の自由度が増したことが最大のメリットだと思います。カーボンシートを重ね合わせることで、各パーツをさまざまに成形できます。まさにケーキを焼く作業と同じで、レシピを1つ作って、そこから色々な形を導き出せる。金属ではそうはいかない。材料で素材の特性は決まってしまうし、チューブの形状ひとつ変えることも多大な労力がかかります。

 カーボンはレシピを変えることによって、同じ素材でまったく違うものを作り上げることができる。レシピを細かく変え、色々試すことによって研究開発を早く進めることができます。

 ――FELTというブランドのアイデンティティーについてどのように考えていらっしゃいますか?

フェルト:バイクを作る上で私たちは、高剛性(Fast)、軽量性(Light)、 快適性(Smooth)の3つのコンセプトを重視しています。ハイエンド機種でも一般機種でも、軽くて、進みが良くて、生きたフレームを目指すことに違いはありません。そのためにカーボン生成方法を改良し、数年前までトップグレードモデルにしか採用されていなかったカーボンをローエンドモデルに採用することで、バイクの性能を飛躍的に向上させることに成功しました。

FELTの技術をつぎ込んだトライアスロンバイク「IA FRD」 Photo: Ikki YONEYAMAFELTの技術をつぎ込んだトライアスロンバイク「IA FRD」 Photo: Ikki YONEYAMA
インタビューを行ったイオンモール幕張新都心の「サイクルテラス」では、数十台のFELTのバイクが並ぶコーナーも設置。ご機嫌のジム・フェルト氏 Photo: Ikki YONEYAMAインタビューを行ったイオンモール幕張新都心の「サイクルテラス」では、数十台のFELTのバイクが並ぶコーナーも設置。ご機嫌のジム・フェルト氏 Photo: Ikki YONEYAMA

 私たちの目標は世界一大きな自転車メーカーになることではなく、世界で最高の自転車を作ること。それは出来上がりの見た目が美しいということではなく、エンジニアリングの結果として、ベストなパフォーマンスを生み出すために帰結する形こそが、最高の自転車であると考えています。

 “To design, develop, and deliver the best bicycles in the world.”(世界で最高の自転車を、設計、開発及び提供すること)─このフィロソフィーはブランドを立ち上げた当初から変わっていませんし、これからも継続していきます。

フェルト氏自ら最新テクノロジーを解説

「TeXtream」(テキストリーム)のシート Photo: Kyoko GOTO「TeXtream」(テキストリーム)のシート Photo: Kyoko GOTO

 インタビューのあと、フェルト氏自身による、FELTバイクの最新テクノロジーの解説が行われた。

 FELTカーボンで現在使用される「TeXtream」(テキストリーム)は、従来使われるカーボンの“糸”を編み込んだ「Weave」(ウィーブ)に対し、平らな“シート”を編んだもので、その大きな網目によるチェック模様の地肌は、FELTハイエンドバイクの特徴にもなっている。テキストリームはウィーブに比べ、重量が約40%程度と非常に軽量で、かつ強靭で薄い。フェルト氏いわく「良いことづくめの素材」だという。

 カーボンバイクのフレームは、一方向に繊維をそろえたユニディレクショナルカーボンのシートを、内部で角度を変えて積層させることで剛性をデザインする。ウィーブは外側に配され表面を守る役割を果たすが、これを軽くて薄いテキストリームに置き換えることで、より軽量なフレームを実現している。また「(外側を)より薄い厚みで作るほど、自転車そのものの乗り味が生きてくる」とフェルト氏。内部で形作られる剛性バランスを邪魔しない、より純粋な性能を発揮するフレームになるという。

一般的なカーボンフレームの成形前の状態。型にカーボンの素材を敷き詰め、中で風船を膨らませて型の中で圧縮して張り合わせる Photo: Kyoko GOTO一般的なカーボンフレームの成形前の状態。型にカーボンの素材を敷き詰め、中で風船を膨らませて型の中で圧縮して張り合わせる Photo: Kyoko GOTO

 カーボンの成型にも、先進の手法がとられる。従来のカーボンフレームは積層させたカーボン素材を、内側から風船を膨らませて外側の型に密着させ成型していた。現在もFELTのローエンドを含めたおよそ90%のカーボンフレームで用いられているというこの方法は、成型後に風船の一部がフレーム内に残留して重量増につながるほか、カーボンパーツの位置に設計との誤差が生じることがあったという。

 現在のFELTの上位モデルではシリコンやポリウレタンのインナーモールドを使用。マントルと呼ばれる金属の芯材と組み合わせ、カーボンを巻いて焼き上げる。風船を用いた手法と違って、内壁の厚みを均等に出すことができ、現存する手法の中では最も精度が高い方法だという。フレーム内の残留物もほぼゼロとなる。

フレキシブルシリコン製のインナーモールド。成型後には完全に取り出すことが可能だ Photo: Kyoko GOTOフレキシブルシリコン製のインナーモールド。成型後には完全に取り出すことが可能だ Photo: Kyoko GOTO
風洞実験の様子。完璧なフォルムを作るため、空気抵抗をチェックしてデザインを作り上げる Photo: FELT風洞実験の様子。完璧なフォルムを作るため、空気抵抗をチェックしてデザインを作り上げる Photo: FELT

 このほか、風洞実験に使用されたモデルも持参。「フレームをパーツごとに入れ替えられるようにして、様々な組み合わせを試す。CFD(コンピューター解析)では完璧ではないので、風洞実験を重ねてデザインを作り上げる」とFELTの研究開発のこだわりを語った。

 インタビューを行った千葉市のイオンモール幕張新都心「サイクルテラス」では、11月7日にフェルト氏を迎えてのファンイベントが開かれ、フェルト氏自身による技術プレゼンテーション、またサイン会などが行われた。

ファンイベントでのトークショーの様子 Photo: Kyoko GOTOファンイベントでのトークショーの様子 Photo: Kyoko GOTO
イベントでファンと交流するフェルト氏 Photo: Kyoko GOTOイベントでファンと交流するフェルト氏 Photo: Kyoko GOTO
イベント参加者と記念撮影 Photo: Kyoko GOTOイベント参加者と記念撮影 Photo: Kyoko GOTO

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