つれづれイタリア~ノ<2015さいたま~の編>ホアキンとフルームたちはイタリア語でトーク さいたまクリテリウムで見た選手の素顔
みなさん、今年もさいたま新都心からボンジュール!10月24日に行われた「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」を、2年連続で通訳として手伝いました。17、18日のジャパンカップサイクルロードレースに続き、さいたまクリテリウムでも、プロの隣にいられる特権が与えられました。サイクルロードレースを愛する者として、見たことと感じたことをみなさんと分かち合いたいと思います。
昨年はツール・ド・フランスを制したヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)、3年連続でポイント賞を獲得したぺテル・サガン(スロバキア、当時キャノンデール)、山岳賞のラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)の通訳として働きました。ところが今年はステージ1勝を挙げたニバリも、4年連続ポイント賞に輝いたサガンも結婚を控え来日せず、イタリア語を母国語とする4賞ジャージの選手は一人もいませんでした。今年は出動の可能性がないかなと思った矢先に、電話がかかってきて急遽呼び出され、通訳を務めることになったのです。
英語が苦手な「外国人」も!

担当するライダーを聞いた時に、驚きました。なんとホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)だったのです。彼はスペインを代表する選手の一人で、今年のツールで2度のステージ優勝を飾っています。
スペイン語とイタリア語。確かにラテン系の言葉で部分的に似ていますが、東北弁と関西弁のような関係にあります。フランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語を話す選手たちの共通点は、ほとんどが英語を苦手としていることです。ホアキンがイタリア語を流暢に話せて、ほかのイタリア人選手が参加している点で、私が通訳に選ばれたのだと思います。
さて、なぜホアキンはイタリア語が話せるのか。彼は2004~06年の3年間はプロチームのサウニエルデュバル・プロディールに所属し、スタッフや選手(レオナルド・ピエポリ、マルコ・ピノッティなど)に多くのイタリア人がいて、そこでイタリア語の洗礼を受けました。

さて、英語の苦手なホアキンはどうやってほかの選手たちとコミュニケーションを取ったのでしょうか。もちろん、イタリア語です。控室やバスでクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)とずっとイタリア語で談笑していました。彼はラテン系らしいムードメーカーで、昨年のヴィンチェンツォ・ニバリを思い出しました。
ホアキン「フルーム、調子はどう?」
フルーム「そこそこだよ。けがが治ったばかりで、まだ本調子ではないけれど」
ホアキン「デゲンコルプは?」
デゲンコルプ「20日間はほとんど自転車に乗っていないから、脚がまだ重い」
と言った感じで、ほかの選手を気遣うホアキンがいました。もちろん、やり取りは全部イタリア語で!
言葉をめぐる不思議な現状
また、面白い場面に会いました。ウクライナ出身のヤロスラフ・ポポヴィッチ(トレック ファクトリーレーシング)がホテルに到着した時のこと。ホールを活発に動き回っていた8歳の息子、ジェーソンくんを落ちつかせるため、ポポヴィッチはイタリア語で優しく言葉をかけ、それに対してジェーソンくんはフランス語で答えました。イタリア、トスカーナ州に住んでいるポポヴィッチは、イタリア語がイタリア人以上に丁寧で驚きました。

息子さんはイタリア語を理解できても、なぜかフランス語で答える。その理由を聞いてみると、ポポヴィッチは丁寧に答えてくれました。ジェーソンくんはイタリア系フランス人の母との間で生まれましたが、離婚しました。現在、母と一緒にフランス領のニューカレドニアに住んでいるため、母国語はフランス語になりつつありますが、イタリア語は覚えています。なぜかというと、母はニューカレドニアでイタリア語講師として勤めているから。不思議な人間関係です。
負けず嫌いはプロへの道
さて、本題に戻りましょう。大会前日の23日、昼食を終えた選手たちが、午後2時にホールに集合し、最初の目的地である弓道の名門、さいたま市立浦和高校に向かいました。ここで生徒たちと弓道を通して交流することが企画されていました。弓道と自転車競技、まったく異なりますが、体を使う競技として、みんなの目が光りました。
ホアキン「フルーム、弓の経験はある?」
フルーム「(出身国の)ケニアで少々!(笑)」



冗談が飛び交い、和やかな雰囲気で着替えが始まりましたが、選手たちは急に静かになり、目が真剣そのものになりました。やはり勝負はいつも真剣!着替えが思ったより時間がかかり、練習もできず、すぐ本番になりました。大勢のメディアと生徒の前で「恥をかくまい!」と、空気が張りつめました。デゲンコルプが全ての矢を的に当てたものの、ホアキンだけは全ての矢を的から外してしまい、悔しさで赤面でした。それを見た弓道部の先生は、予定になかった4本目の矢を与え、これでホアキンがやっと命中。とっさの判断でしたが、プロとしてのプライドがあると見抜いたのでしょう。
顔を覆う濃いひげがイケメンのトレンド?

さいたまクリテリウムの一つの大事なポイントは、選手をすぐそばで見られること。選手の体型を見ると、特徴が鮮明に分かれます。チーム スカイやアージェードゥーゼール ラモンディアル、エティックス・クイックステップは身長が高く体格が細い、ステージレースの総合成績や山岳ステージを狙うような選手を、チーム カチューシャやチームジャイアント・アルペシンは比較的に体型ががっちりした、クラシックなどのワンデーレースやステージ優勝を狙うタイプの選手を連れてきていました。彼らは食事の量も違います。

さらにイケメンのトレンドが見えてきました。2014年に書いた『イタリア人イケメン図鑑』というコラムでは、「三日ひげ」が流行っているとお伝えしましたが、今年は顔を覆う濃いひげが確実に流行っています。特にチーム カチューシャの中で、マルコ・ハラー(オーストリア)とヤコポ・グアルニエーリ(イタリア)が立派なひげをしていました。王者は、チーム ジャイアント・アルペシンのシモン・ゲシェケ(ドイツ)。


さいたまクリテリウムが終わると、1月までロードレースがお休みです。短い休みのシーズンですが、来季に向けてすでに合宿を始めている選手たちがいます。私たちファンも、来年に向けてカレンダーに目を通しましょう。

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ」