熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」<4>カナダの砂利道にKO寸前 一人旅の寂しさから救ってくれた“チャリダー”仲間たち

  • 一覧

 僕の経験からすると、旅を実際に始めても、旅人モードになるには少しの時間が必要だ。以前、自転車で日本一周をしたときもそうだった。いま、毎日自転車を漕ぎ続け、キャンプ場を目指し、テント生活を送っている。日本にいた頃とは違うライフスタイルに慣れたと実感し始めたのは、旅がスタートして約1カ月が過ぎてからだった。

自転車にスタンドがないので、ガードレールを利用して自撮りをしている Photo: Kensuke KUMAGAI自転車にスタンドがないので、ガードレールを利用して自撮りをしている Photo: Kensuke KUMAGAI

昼も夜も寂しい一人旅

一人旅は、毎日一人っきりの寂しいディナーでございます Photo: Kensuke KUMAGAI一人旅は、毎日一人っきりの寂しいディナーでございます Photo: Kensuke KUMAGAI

 知らない土地で、ひとりテントで過ごすのは寂しい時間である。とはいえ、大きな町を離れてしまうと、昼間も同じく寂しい時間が流れる。周りには雄大な山々がそびえ立ち、はるか遠くを見ても青い空と雲、そして次々に山々がコンニチワ。動くものといえば、僕の横を通り抜けていく鉄のかたまり、クルマだ。人の気配を感じることができるのは、そんなクルマか、キャンプ場(人がいれば)、途中に立ち寄るレストランぐらいだ。寂しがり屋の僕は、人と話がしたくて仕方がない。そんな僕を救ってくれたのは、僕と同じようにペダルを漕ぎ続けるロングツーリストやアドベンチャー・サイクリストの仲間達。いわゆる“チャリダー”達だった。

時速100km以上のスピードで車が僕の横を通り抜ける Photo: Kensuke KUMAGAI時速100km以上のスピードで車が僕の横を通り抜ける Photo: Kensuke KUMAGAI
キャンプ場から見える素晴らしい景色に癒されます Photo: Kensuke KUMAGAIキャンプ場から見える素晴らしい景色に癒されます Photo: Kensuke KUMAGAI
走り終えてキャンプ場に到着しても洗濯が待っている。手洗いなので時間がかかる Photo: Kensuke KUMAGAI走り終えてキャンプ場に到着しても洗濯が待っている。手洗いなので時間がかかる Photo: Kensuke KUMAGAI
洗濯の量が少ない時は、自転車に洗濯物を干します。多い時はロープを使用 Photo: Kensuke KUMAGAI洗濯の量が少ない時は、自転車に洗濯物を干します。多い時はロープを使用 Photo: Kensuke KUMAGAI
キャンプ場にたどり着けなかった時は、野宿をするのだ Photo: Kensuke KUMAGAIキャンプ場にたどり着けなかった時は、野宿をするのだ Photo: Kensuke KUMAGAI

アラスカからカナダへ突入

ついにカナダに入国! Photo: Kensuke KUMAGAIついにカナダに入国! Photo: Kensuke KUMAGAI

 旅をスタートしてから約3週間をかけてアラスカを抜け、とうとうカナダ国境に到達した。初めての国境越えはドキドキ。しかし特に面白いイベントが起こることなくカナダへ入国した。何のドラマもなかったことは、少し残念…そんなことを思いながら、新天地カナダの大地を漕ぎ進める。

 まもなく異変に気付いた。自転車のスピードが全然上がらない。理由は一目瞭然だった。路面が砂利道なのだ。

アラスカの車道は、ほとんどよく整備されていた Photo: Kensuke KUMAGAIアラスカの車道は、ほとんどよく整備されていた Photo: Kensuke KUMAGAI
カナダに入国してから砂利道が続く。たまに転びそうになり怖い Photo: Kensuke KUMAGAIカナダに入国してから砂利道が続く。たまに転びそうになり怖い Photo: Kensuke KUMAGAI
想像以上に大きい石もあるので、スピードは大減速してしまう Photo: Kensuke KUMAGAI想像以上に大きい石もあるので、スピードは大減速してしまう Photo: Kensuke KUMAGAI

 アラスカでは、ほぼ全ての道が舗装されていたので、道路に不満を持つことはなかった。カナダに入国してから受けた先制パンチは、さしずめ真下からのアッパーであった。カナダみたいな大国の道が、砂利道からスタートするなんて想像できるだろうか? そこから約200kmの区間は、砂利道と未舗装路の連続であった。それに加えて逆風という怒濤のパンチ。早くもノックアウト寸前である。

砂利道ゾーンを抜けて安心するも、次は工事中ゾーンに突入 Photo: Kensuke KUMAGAI砂利道ゾーンを抜けて安心するも、次は工事中ゾーンに突入 Photo: Kensuke KUMAGAI
工事ゾーンは砂利道+泥でさらにスピード減 Photo: Kensuke KUMAGAI工事ゾーンは砂利道+泥でさらにスピード減 Photo: Kensuke KUMAGAI
やっと整備されている道路になり、世界遺産であるクルアニ国立公園を堪能 Photo: Kensuke KUMAGAIやっと整備されている道路になり、世界遺産であるクルアニ国立公園を堪能 Photo: Kensuke KUMAGAI
100km以上の区間で、食料確保できないことがある。閉店が多いのだ Photo: Kensuke KUMAGAI100km以上の区間で、食料確保できないことがある。閉店が多いのだ Photo: Kensuke KUMAGAI
日本では見られないダイナミックな山々が、どこまでも続く Photo: Kensuke KUMAGAI日本では見られないダイナミックな山々が、どこまでも続く Photo: Kensuke KUMAGAI

チャリダーたちとの出会い

 一人で寂しさと逆境に立ち向かっていると、マイナス思考に陥ってしまう。笑顔はなく、歯を食いしばりながら走るだけだ。気持ちも顔も下を向きそうになる時、遠くの反対車線から小さい米粒みたいなものが、微弱に動きながらこちらに向かってくる。時間が経つにつれて、その米粒の正体が分かってくる。チャリダーだ。そう分かった瞬間、まるではぐれていた仲間とやっと合流できたような嬉しさが涌き起こる。反対側の路肩へ行き、いつもの挨拶がスタートする。

こんな道が200km以上続くのである。晴れていたら最高だ! Photo: Kensuke KUMAGAIこんな道が200km以上続くのである。晴れていたら最高だ! Photo: Kensuke KUMAGAI

 僕がマイナス思考に陥っていると、タイミング良くチャリダーに出会う。僕と同じように、彼らもロングツーリストだ。これまで出会ったのはアメリカ人と欧州のチャリダーで、ほとんどの人たちがアラスカ方面に向かっている。季節が遅かったせいか、南下するチャリダーにはあまり会うことがなかったが、僕と同じようにメキシコへ向かうチャリダーもいた。多くのチャリダーが強い思いを持って走っている。

ドイツ人カップルチャリダー。フィン(左)とエステル(右) Photo: Kensuke KUMAGAIドイツ人カップルチャリダー。フィン(左)とエステル(右) Photo: Kensuke KUMAGAI
大量の荷物を搭載しているクリス(25)。デカ過ぎでしょ(笑) Photo: Kensuke KUMAGAI大量の荷物を搭載しているクリス(25)。デカ過ぎでしょ(笑) Photo: Kensuke KUMAGAI
これからシアトルに向かうカップルチャリダー。ジョン(28) Photo: Kensuke KUMAGAIこれからシアトルに向かうカップルチャリダー。ジョン(28) Photo: Kensuke KUMAGAI
シアトルに向かうカップルチャリダー。ホープ(35) Photo: Kensuke KUMAGAIシアトルに向かうカップルチャリダー。ホープ(35) Photo: Kensuke KUMAGAI

 会うと、基本的には立ち話を5〜15分程度して別れるケースが多いが、僕は積極的に話しかけて、一方的な仲間意識で接しながら元気を分けてもらった。

 相手も同じロングツーリストなので、気持ちは同じだったに違いない。お互いの健闘を称え合うように、「Have a nice trip. See you again!」と言って、またペダルを漕ぎ始める。別れた後も、僕には興奮の余韻が残っている。力いっぱいペダルを漕いで、言葉にならない気合いの声を、空に向かって大きく叫ぶ。

 「っっっっっっっっしゃぅうああああああーーーおおおおおお!!!!」

 その後、我に返って周りを見渡す。数分前と同じように、山と雲と空があるだけだ。

カナダの国境を越えてすぐに出会った、イエローが大好きなジュリ Photo: Kensuke KUMAGAIカナダの国境を越えてすぐに出会った、イエローが大好きなジュリ Photo: Kensuke KUMAGAI
こちらはレッドが大好きなマイク。おしゃべり好きで30分は話をした Photo: Kensuke KUMAGAIこちらはレッドが大好きなマイク。おしゃべり好きで30分は話をした Photo: Kensuke KUMAGAI
カリフォルニア出身のカップルチャリダー。彼氏のジャスティン Photo: Kensuke KUMAGAIカリフォルニア出身のカップルチャリダー。彼氏のジャスティン Photo: Kensuke KUMAGAI
カリフォルニア出身のカップルチャリダー。彼女のメリッサ Photo: Kensuke KUMAGAIカリフォルニア出身のカップルチャリダー。彼女のメリッサ Photo: Kensuke KUMAGAI
一緒にキャンピングカー見学をしたトニー(30) Photo: Kensuke KUMAGAI一緒にキャンピングカー見学をしたトニー(30) Photo: Kensuke KUMAGAI

ロングツーリストに人気のアイテムは?

 自転車のロングツーリストと何回も会っていると、みんなが使っている自転車やパーツが嫌でも目につく。自転車はSalsa(サルサ)のFARGOと、SURLY(サーリー)のLong Haul Truckerが多い印象だ。変速レバーはバーエンドについたタイプが多かった。ここからは色々見て教えてもらった、ロングツーリストが推薦するアイテムを紹介しよう。

ソーラーパネルで電池を充電している。今のところ僕は必要なさそうだ Photo: Kensuke KUMAGAIソーラーパネルで電池を充電している。今のところ僕は必要なさそうだ Photo: Kensuke KUMAGAI
人気のスポーツカメラGoProをリアに搭載。使っているのはチャリダーよりバイカーの方が多い印象 Photo: Kensuke KUMAGAI人気のスポーツカメラGoProをリアに搭載。使っているのはチャリダーよりバイカーの方が多い印象 Photo: Kensuke KUMAGAI
まだ魚釣りをしていないが、どこかで釣り竿は欲しい Photo: Kensuke KUMAGAIまだ魚釣りをしていないが、どこかで釣り竿は欲しい Photo: Kensuke KUMAGAI
水色のラッパみたいのは、熊よけのエアホーン。大音量で熊を寄せ付けない Photo: Kensuke KUMAGAI水色のラッパみたいのは、熊よけのエアホーン。大音量で熊を寄せ付けない Photo: Kensuke KUMAGAI

 1つ目は「BROOKS」(ブルックス)のサドル。創業140年を迎えるイングランドの老舗サドルメーカーであり、品質に重点を置いているのが強みだ。最高級の皮を使用して、サイクリストの走行時の快適性を追求している。日本で旅の準備を進めている時から、このメーカーのサドルが良いことは知っていたが、皮製品は雨に弱いので、購入した自転車に装備されていた合成皮革のサドルのまま出発した。

 だが、最初の頃は良かったが、近頃オシリの調子が悪くなってきている。気になって、実際にブルックスのサドルを使ってるチャリダーに聞いてみると、「すこぶる調子が良い!(みたいなニュアンス)」と、購入を勧めてくる。やはり買うべきか。オシリと相談のうえで、次の大きな町で購入を検討しよう。

荷台にのっかっているのは食料。ピーナッツやドライフルーツなど Photo: Kensuke KUMAGAI荷台にのっかっているのは食料。ピーナッツやドライフルーツなど Photo: Kensuke KUMAGAI
マイクはarkelのパニアバックを使っている。防水機能はないがタフとのこと Photo: Kensuke KUMAGAIマイクはarkelのパニアバックを使っている。防水機能はないがタフとのこと Photo: Kensuke KUMAGAI

防水バッグは必需品

 2つ目のアイテムは「ORTLIBE」(オルトリーブ)のパニアバッグである。自転車でロングツーリングをする時には、キャリアに取り付け可能なバッグが必需品。ほとんどのチャリダーが、このメーカーのパニアバッグを使用しており、ご多分に漏れず僕も使用している。これがまた「すこぶる調子が良い!」のである。

 何が良いかというと、「防水機能」「脱着簡単」「ショルダーバッグとして使用可能」の3点。一番ありがたい機能は防水である。日本一周をしていた時は別メーカーのバックを使用していたが、防水機能が無かったために、バッグはもちろん、その中身の衣類などが湿った状態になり、臭過ぎて周りの人たちに迷惑をかけるという苦い経験をした。

 値段は少し高めだが、機能性からすると妥当であり、旅を快適にしてくれる便利なバッグだと思う。少しでもスマートに旅をしたい方にはオススメだ。

クリスは自転車に大量のバッグを搭載。多過ぎでしょ(笑) Photo: Kensuke KUMAGAIクリスは自転車に大量のバッグを搭載。多過ぎでしょ(笑) Photo: Kensuke KUMAGAI
クリスの自転車のトレーラー連結部 Photo: Kensuke KUMAGAIクリスの自転車のトレーラー連結部 Photo: Kensuke KUMAGAI

 そのオルトリーブのバッグを、積み過ぎなくらい自転車に積んでいたのがクリスだ。パニアバックを前輪と後輪に取り付けるだけでは飽き足らず、後輪に1輪トレーラー(?)なるものを取り付けて、さらに載せている。たしかに積載能力は増えるが…あきらかに重いでしょ! 何が入っているのか気になるところだが、今回は調査することができなかった。

 大きなバッグを持つロングツーリストにとって、荷物チェックは、家の冷蔵庫をチェックされるのと同じ。あまり突っ込んで聞けないのが残念である。

熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)

1984年、横浜生まれ。法政大学文学部英文学科を卒業後、東京3年+札幌3年間=6年間の商社勤務を経て、「自転車で世界一周」を成し遂げるために退社。世界へ行く前に、まずは日本全国にいる仲間達に会うべく「自転車日本一周」をやり遂げる。現在はフリーライターの仕事をする傍ら、3年をかけて自転車世界一周中。
オフィシャルサイト「るてん」 http://ru-te-n.com/

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載