レース中に“リタイア”が頭によぎり…最も厳しく、最も美しいヒルクライムレース 「台湾KOMチャレンジ」参戦記

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 全長105km、標高3275mまで駆け上る過激なヒルクライムレース「台湾KOMチャレンジ」。台湾・花蓮市の太魯閣(タロコ)国立公園を舞台に10月30日に開催されたこの大会に、Cyclist編集部から派遣されて筆者も参戦した。昨年は完走率が50%を下回り、“完走すれば台湾1周ライドより価値がある”とも称されるこの大会。今年は台湾内外から420人の健脚ライダーが集い、はるか上空のゴールを目指した。

渓谷に沿った道を進む Photo: Taiwan Cyclist Federation渓谷に沿った道を進む Photo: Taiwan Cyclist Federation

「完走くらい簡単」は甘かった…

 昨年の大会は悪天候だったが、今大会は過去3回開催した中でもっとも好天に恵まれ、スタート前は半袖ジャージで居られるほど快適だった。スタート会場には、サイクルウェアブランド「ラファ」の移動式拠点「モバイルサイクルクラブ」が駆けつけ、参加者にコーヒーを振る舞うなどサービスを展開した。会場をスタートし、18kmほど平坦路を走った後に太魯閣大橋を渡り終えるとアクチュアルスタート(レースの正式スタート)が切られた。

日の出とともにレースがスタート Photo: Taiwan Cyclist Federation日の出とともにレースがスタート Photo: Taiwan Cyclist Federation
太魯閣(タロコ)を渡り終えるとアクチュアルスタート Photo: Taiwan Cyclist Federation太魯閣(タロコ)を渡り終えるとアクチュアルスタート Photo: Taiwan Cyclist Federation

 筆者はトップ集団についていくことは不可能でも、正直、完走するくらいなら簡単だろうと考えていた。制限時間は6時間もある。序盤にメーン集団から遅れることがないよう、パレード走行から前方に位置どって完走を目指した。しかし結果的に、当初の考えは完全に甘かったことを思い知らされた…

 20km地点を過ぎて渓谷地帯に入ると、見上げるような大理石の断崖絶壁のなかを進んだ。そのスケール感の大きさに、周りの選手たちも感嘆の声を上げたほどだ。自然の地形を生かした道路なので、急に狭くなったり、道が荒れていたりするが、強豪選手揃いのプロトンではさすが落車もなく、レースはスムーズに進んだ。40kmを過ぎると勾配がきつくなり始め、筆者はメーン集団を見送り、1人で我慢の時間へと突入した。

標高が高く、低酸素域で苦しむ筆者 Photo: Taiwan Cyclist Federation標高が高く、低酸素域で苦しむ筆者 Photo: Taiwan Cyclist Federation

 60kmを超えると、標高が高くなったせいで酸素が薄いことを体感できる。1kmがいつもより長く感じ、なかなか進まない。エンデュランス系バイクの「トレック ドマーネ」Cyclist号に乗っていたので、疲労を抑えられたことが唯一の救い。リタイヤが頭によぎったほど辛かった。ラスト10kmから始まる最大27%の激坂区間は、もはや笑うしかないほど厳しい。標高3000mを超え、空気は薄く気温は低く、膝にも痛みを覚えたが、踏まないと止まってしまうので我慢し続けた。約5時間かかってようやくゴールへたどり着くと、安堵の気持ちとともに標高3275mの景色を楽しんだ。

 筆者がこれまで経験したレースのなかでは、ピレネー山脈の上りが最も辛かったが、今回はそれを完全に超えた。一方、今まで経験したレースの中で最も美しいロケーションのヒルクライムでもあった。完走直後は「もうこのコースを走りたくない」と思ったが、帰国後にふつふつとリベンジしたい気持ちが湧き出てきた。“最も厳しく最も美しい”極端なコースが、この大会の魅力であると感じた。

世界的なヒルクライマーらがトップ争い

 レースのトップ争いは熾烈だった。大会には今年のブエルタ・ア・エスパーニャで山岳賞に輝いたオマール・フライレ(スペイン、カハルラル・セグロス RGA)や、大会を2連覇しているジョン・エブセン(デンマーク、アンドローニジョカットリ)といった世界的に活躍するヒルクライマーも参戦。女子の部では、2年前に大会を制している與那嶺恵理(サクソバンクFX証券・YONEX)が優勝候補の最右翼だ。

序盤は斜度が緩く、ハイペースでレースは展開した Photo: Taiwan Cyclist Federation序盤は斜度が緩く、ハイペースでレースは展開した Photo: Taiwan Cyclist Federation

 コースの全長が105kmと長いため、レース序盤はそびえ立つ大理石の渓谷を眺める余裕があるほど落ち着いたペースで進んだ。とはいえ、スピードは時速30km以上だ。40km地点に差し掛かるまでは、数人がアタックを仕掛けて先行する展開が続いたが、次第に斜度が増す中でメーン集団もペースアップし、40人ほどまで絞られた。

 ケニア人ライダーが先頭を常にけん引するなか、エブセンが前方につけて勝負の機会をうかがった。日本から参戦した森本誠(FMA KIZUNA Cycling Team)や才田直人(FMA KIZUNA Cycling Team)もメーン集団で粘りの走りをみせる。

台湾ナショナルチャンピオンでランプレメリダに所属する馮俊凱(右から2人目)が集団をけん引する Photo: Taiwan Cyclist Federation台湾ナショナルチャンピオンでランプレメリダに所属する馮俊凱(右から2人目)が集団をけん引する Photo: Taiwan Cyclist Federation

27%越えの斜度でアタックの応酬

 レースは終盤に入り、トマ・ルバ(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)が他のライダーの脚を削るようなアタックを繰り返し仕掛けた。3000mを超えた標高では酸素が薄く、多くのライダーが苦しむが、この動きにチームメートのダミアン・モニエ(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)や才田、森本、エブセンらが続く。

男子エリート1位のダミアン・モニエ(チームブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Taiwan Cyclist Federation男子エリート1位のダミアン・モニエ(チームブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Taiwan Cyclist Federation

 ラスト10kmから現れる最大27%を超える激坂区間に差し掛かると、待ち構えていたかのようにエブセンが鋭いアタックを決め、10人ほどになったメーン集団を分解させた。追従できたのはモニエ1人のみ。マイペースで粘ってエブセンをキャッチしたモニエは、ラスト4kmでカウンターアタックを決め、食いさがるエブセンに30秒ほどのリードを保って優勝を決めた。

 ゴール後、モニエは「自分はクライマーだと自覚しており、ヒルクライムの自己テストを兼ねて出場した。トマと一緒なら勝てると思っていたので、2人とも個人的に参戦した。春先から狙っていたレースなので、勝ててうれしい」とコメントして喜んだ。

女子クラスで優勝を果たした與那嶺恵理(サクソバンクFX証券・YONEX) Photo: Taiwan Cyclist Federation女子クラスで優勝を果たした與那嶺恵理(サクソバンクFX証券・YONEX) Photo: Taiwan Cyclist Federation

 女子クラスを制したのは2年前にも優勝している與那嶺恵理(サクソバンクFX証券・YONEX)。2位に17分もの大差をつけての独走勝利だった。Cyclistの取材に対し、與那嶺は「シーズンが終わりコンディションが落ちている状態だったが、優勝できてよかった。2位とのタイム差を前回ほど広げることができなかったのが心残り。少しの休息のあと、シクロクロスシーズンに向けて励みたい」と語った。

 日本勢ではほかに、森本が男子エリートクラスで8位、才田が9位と健闘。2人は終盤の激坂区間までメーン集団内で粘って上位に食い込んだ。

優勝したダミアン・モニエ、2位のジョン・エブセン、3位のマーグ・ダーリン Photo: Taiwan Cyclist Federation優勝したダミアン・モニエ、2位のジョン・エブセン、3位のマーク・ダーリン Photo: Taiwan Cyclist Federation
優勝を果たした與那嶺、2位のマーク・フェディナ、3位だった曾筱嘉  Photo: Taiwan Cyclist Federation優勝を果たした與那嶺、2位のマーグ・フェディナ、3位だった曾筱嘉  Photo: Taiwan Cyclist Federation

日本人ライダーも健闘

 このレースには、オーダーウェアブランド「サンボルト」の橋本典久代表が現地コーディネートをした「FMA KIZUNA Cycling Team」のメンバーをはじめ、多くの日本人ライダーが出場した。森本や才田もそのメンバーの一員として挑み、総合で上位の成績を収めた。

 また、「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」などを主宰する日本サイクリング協会(JCA)の招待選手として埼玉県越谷市から参加した大久保知史さんはM30クラス(30歳代の部)で優勝を果たした。「メーン集団にいたのですが、ラスト20km地点の下りで落車に巻き込まれて転んでしまった。けがはなく走り始められたので、年代別で優勝することができた。初めて参加したが、今まで走ったヒルクライムレースの中で一番楽しいヒルクライムだった」と振り返り、また参加したいと語った。

M30クラスで優勝を果たした大久保知史さん Photo:Shusaku MATSUOM30クラスで優勝を果たした大久保知史さん Photo:Shusaku MATSUO
千葉市から参加した左から小川浩司さん、松本光美さん、長島賢治さんは最高の天気のなか楽しんで走れたと話す Photo:Shusaku MATSUO千葉市から参加した左から小川浩司さん、松本光美さん、長島賢治さんは最高の天気のなか楽しんで走れたと話す Photo:Shusaku MATSUO

グランツールレーサーが驚いた賞金額

用意された多額の賞金 Photo:Shusaku MATSUO用意された多額の賞金 Photo:Shusaku MATSUO

 台湾KOMチャレンジは一般参加者にとって、日本にはないダイナミックなスケールの自然を走れることが最大の魅力だ。一方で参加した上位選手たちは、“高額の賞金”が魅力だと口を揃えて語った。賞金総額は200万台湾ドル(日本円で750万円)。男子の優勝者には370万円、女子の優勝者にも75万円ほどと驚くほど高額で、モニエやトマはこの賞金を獲得するために自費で参加したという。

 フライレは賞金のことを知らずに台湾へやってきたといい、レース前日に賞金額をユーロで伝えると「そんなにもらえるの!?今からトレーニングしてこようかな」と驚いていた。與那嶺は「参加したのは賞金が高いから。プロとして賞金を獲得しに来ることは当然です」と語り、才田は「(レース中に)賞金圏内の6位に届かないとわかった時に脚が止まった」と打ち明けた。高額賞金は、間違いなく選手たちのモチベーションの源になっていたといえるだろう。

 「台湾KOMチャレンジ」は台湾人サイクリストにとって、国内で一定の成績を出していないと出場できない。このため、台湾1周サイクリングを完走するよりも、KOMチャレンジを完走する方がステータスが高いのだという。主催の一翼を担った台湾観光局には、海外のホビーレーサーを積極的に誘致し、台湾観光を盛り上げようという狙いがある。賞金を目的とした強豪選手だけでなく、地元選手も、海外のホビーレーサーも、誰もが最上級のやりがいを感じられるイベントだ。

台湾KOMチャレンジ総合結果(105km)
1 ダミアン・モニエ(フランス、ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)3時間34分19秒
2 ジョン・エブセン(デンマーク、アンドローニジョカットリ)3時間34分53秒
3 マーク・ダーリン(アイルランド)3時間35分56秒
4 アリヤ・ポウンサヴァス(ラオス)3時間26分05秒
5 トマ・ルバ(フランス、ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)3時間36分29秒
6 スチュアート・スミス(オーストラリア)3時間37分47秒
7 馮俊凱(台湾、ランプレメリダ)3時間38分19秒
8 森本誠(日本、FMA KIZUNA Cycling Team)3時間38分30秒
9 才田直人(日本、FMA KIZUNA Cycling Team)3時間39分40秒
10 スレイマン・カンガンギ(ケニヤ)3時間41分10秒

女子クラス結果(105km)
1 與那嶺恵理(サクソバンクFX証券・YONEX)4時間3分29秒
2 マーグ・フェディナ(カナダ)4時間20分31秒
3 曾筱嘉(台湾、AXMAN女子隊)4時間21分53秒

M30クラス(30歳の部)結果(105km
1 大久保知史(日本)3時間44分21秒

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