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砂田弓弦の風を追うファインダー<2>部屋の鍵が共通? ホテル・その1

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 2007年9月、ドイツのシュツットガルトで世界選手権が行われた。1990年に宇都宮でロードレースの世界選手権が行われたが、その翌年はこのシュツットガルトで開催されており、僕自身、2度目の訪問だった。

 その頃、自転車界はドーピングスキャンダルが多発していたが、ドイツにおける反ドーピング運動は過剰だった。なにしろ、一度でもドーピング事件を起こした者は現地に入れないとすることが決められたのだ。これにより、自転車界の神様エディ・メルクスや、1991年大会の覇者ジャンニ・ブーニョですら、足を踏み入れることができなかった。いったい、何十年前のことを掘り返すのだろうか?

エディ・メルクスの現地入り拒否に対し、抗議の幕を掲げるベルギーファン(2007 ロード世界選手権) Photo: Yuzuru SUNADAエディ・メルクスの現地入り拒否に対し、抗議の幕を掲げるベルギーファン(2007 ロード世界選手権) Photo: Yuzuru SUNADA

 さらに、地元の女性議員がプレスルームに入り込み「ドーピング漬けの自転車を糾弾する」と、声明文を読み上げる始末。政治的なパフォーマンスもここまでやると演出過剰で、みんなシラケきっていた。

 そして僕の身にも事件が起こった。

 シュツットガルト郊外のホテルにチェックインしたときのことだ。鍵を受け取り、荷物を持って階段を上った僕は、部屋番号をよく確かめず、どういうわけか階段の突き当りの部屋に入った。もらった鍵でドアを開け、荷物を広げた。そしてレース受付会場に行ってパスをもらい、夕食を食べて部屋で寝た。

 翌日、フロントの女性がカンカンに怒っている。僕が寝た部屋は、すでに他の客がチェックインした部屋だったというのだ。客の女性は深夜、シュツットガルト中のホテルで空いている部屋を探さなければならなかったとか。

 そういえば、たしかに僕が寝ている間にだれかが鍵を開けて入ってきたような記憶があったが、なにぶん深夜のことなので、よく覚えていなかった。

 フロントの女性は2部屋分の料金を払えとまくしたてる。プレスルームにやってきた女性議員と同様、ヒステリーは度を越していた。

2007 世界選手権ロードレースの覇者パオロ・ベッティーニ(イタリア) Photo: Yuzuru SUNADA2007 世界選手権ロードレースの覇者パオロ・ベッティーニ(イタリア) Photo: Yuzuru SUNADA

 部屋番号を確かめずに入ってしまったのは悪いが、いちばんの原因は、2つの部屋の鍵が共通しているという信じられないようなホテルの杜撰さだ。

 ついに僕も堪忍袋の尾が切れて、フロントの机を拳で強く叩いた。

 「じゃあ、この鍵で開いたあのドアはなんなの? このホテルのセキュリティはいったいどうなっているんだ!」

 フロントの女性は黙った。そしてその部屋と、本来の僕の部屋の鍵だけが共通していることを認め、ボスに相談すると言って出て行った。もちろん、僕の支払いは一部屋分だけで済んだ。

 毎年200日以上をホテルで泊まっていると、いいホテルもあれば、もう信じられないような劣悪なホテルにめぐり合うことだってある。(続く)

砂田弓弦
砂田弓弦(すなだ・ゆづる)

1961年9月7日、富山市生まれ。大学卒業後にイタリアに渡り、1989年から自転車競技の取材・撮影に携わる。世界のメジャーレースで、オートバイに乗っての撮影を許されている数少ないフォトグラファーの一人。多くの国のメディアに写真を提供しており、ヨーロッパの2大スポーツ新聞であるフランスのレキップ紙やイタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙にも写真が掲載される

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