トレックの象徴、プロトンの英雄ジャパンカップのチーム勝利で最後のシーズンへ弾み カンチェッラーラ独占インタビュー

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 現代のサイクルロードレース界を代表する最強のライダー、ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリレーシング)が、宇都宮市で10月17、18日に開かれた「ジャパンカップサイクルロードレース」参戦のため来日し、翌19日に東京都内でCyclistの単独インタビューに応じた。2度の骨折に見舞われた今シーズンを「一筋縄ではいかなかった」と振り返ったカンチェッラーラ。すでに2016年限りで引退する意向を表明しており、来季が最後の舞台となる。インタビューでは、今回のジャパンカップ参戦への思いを明かしたほか、引退後の生活などプライベートについても語った。

Cyclistのインタビューに応じたファビアン・カンチェッラーラ =10月19日、東京都港区のトレックストア六本木 Photo: Seishiro TAKICyclistのインタビューに応じたファビアン・カンチェッラーラ =10月19日、東京都港区のトレックストア六本木 Photo: Seishiro TAKI

 今季は2月の「ツアー・オブ・オマーン」第2ステージで優勝、3月の「ティレーノ~アドリアティコ」第7ステージのタイムトライアルで優勝を遂げたものの、同月に行われた「E3ハーレルベーク」で椎骨を骨折。休養の後に出場した7月のツール・ド・フランスでは、第2ステージ終了時点でマイヨジョーヌを獲得したが、翌第3ステージの落車で再び椎骨2カ所を骨折して大会を去った。8月下旬から「ブエルタ・ア・エスパーニャ」にも出場したものの、第3ステージで体調不良によりリタイア。いったんは今シーズンの競技活動終了を表明したが、再びコンディションを整えて10月のジャパンカップに参戦した。

ジャパンカップに参戦できたことは誇り

 ――ジャパンカップではクリテリウム、本戦ともにトレックチームが勝利した

カンチェッラーラフミの勝利がチームを盛り上げた。UCI(国際自転車競技連合)公認のクリテリウムではなかったけれど、勝利は勝利。たくさんの観客の中でチームが協力しあってフミを勝利に導けた。完ぺきだった。

 日本を訪れただけの去年とは異なり、参戦できたことを誇りに思うし、たくさんのことを経験できた。ファンの皆さんに歓迎され、そしてレースとは関係ないところでも日本の皆さんにていねいなおもてなしを受けた。日本人は温かくて優しく、親切だということを知った。今では帰国することを寂しくすら感じているよ。予定がなければあと数日滞在を続けても問題ないくらい!

ジャパンカップクリテリウムで、別府史之(左端)を勝利に導くためトレック ファクトリレーシングのトレインを牽引するファビアン・カンチェッラーラ(右端) =10月17日、宇都宮市大通り Photo: Naoi HIRASAWAジャパンカップクリテリウムで、別府史之(左端)を勝利に導くためトレック ファクトリレーシングのトレインを牽引するファビアン・カンチェッラーラ(右端) =10月17日、宇都宮市大通り Photo: Naoi HIRASAWA

 ――今年はタフなシーズンだった?

カンチェッラーラ:そうだね、今シーズンは一筋縄ではいかなかった。だけど、いまラストレースを終えて、来季へのいいスタートを切れたと思っている。つまり、いい終わり方をしたことで、僕の新しいシーズンが幕を開けたんだ。

 ――9月の世界選手権を走ることができなかった

カンチェッラーラ:ふぅ、それがスポーツだから仕方ないね。もちろん参戦できなかったことは残念だったけれど、椎骨骨折を治すには家でゆっくりしているしかないんだ。全部で4週間、何もしない。コンディションは最低になってしまうから、そこからのリカバリーは大変だった。

 ――今季はそれを2度経験したわけですね

カンチェッラーラ:そう。ゼロからスタート地点までコンディションを戻し、そして最後はチームの勝利で終えることができた。

 すべてがよかったわけではないけれど、ポジティブな要素は見出せるので、来年につなげたい。それが、モチベーションだね。

プロトンにおける責任感

 ――プロトンの中に親しい人はいますか?

カンチェッラーラ:プロトンの“戦友”は、特別に親しい友達というわけではないけれど、例えばベルンハルト・アイゼル(オーストリア)とは…ワォ、かれこれ15年の付き合いになるんだね。

ジャパンカップサイクルロードレースで、ベルンハルト・アイゼル(前列右端)らと共にメーン集団をコントロールするファビアン・カンチェッラーラ(前列右から3番目) =10月18日、宇都宮市森林公園周回コース Photo: Naoi HIRASAWAジャパンカップサイクルロードレースで、ベルンハルト・アイゼル(前列右端)らと共にメーン集団をコントロールするファビアン・カンチェッラーラ(前列右から3番目) =10月18日、宇都宮市森林公園周回コース Photo: Naoi HIRASAWA

 ――プロライダーになろうと決めた時のことを覚えている?

カンチェッラーラ:22歳以下のジュニアカテゴリーの時だった。続けたいと望んだことと、プロになれる可能性があったから。とても意欲的だったね。

 ――どんなレースが好き?

カンチェッラーラ:独走勝利!

 ――2月、悪天候のツアー・オブ・オマーンで、レースを中断するようプロトンを代表してオーガナイザーと交渉した際の心境は?

カンチェッラーラ:僕にとっては自然なことだった。(レース中断へ導いたことは)大したことではない。大切なのは「中断させようか」と思い浮かんだ時に、僕が実行できたことなんじゃないかな。例えば若い選手にとってみれば、翌日の(ステージの)ことも考える必要があった。僕らは、そんなプロトンの一員なんだ。

ツアー・オブ・オマーンでは主催者にレースの中止を訴えた =2015年2月21日 Photo: Yuzuru SUNADAツアー・オブ・オマーンでは主催者にレースの中止を訴えた =2015年2月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ――プロトンでの責任を負っていると考えている?

カンチェッラーラ:そうだね、時々。いつもじゃないけれど、ツアー・オブ・オマーンでは僕がリードできるケースだった。チームの間に立って、現状をしっかりと把握しなければいけない。チームのスポンサーや自分自身のイメージ、大会運営側と大会スポンサー…関係者すべてを知っている。個人的にどうのという前に、そうすべきシチュエーションだったんだ。

 ――様々な事情をくんで、各所をつなぐポジションに立つ…マルチタスクですね

カンチェッラーラ:マルチタスクでありたいと思っている。ひとつのことしかできないのは、カッコ悪いからね。(自転車に関することならば)ペイントするだけでも洗車するだけでもなく、あらゆることをやっていきたい。

2016年は妻を日本に連れて来たい

 ――家族を連れて行きたい場所があれば教えてください

カンチェッラーラ:来季は僕の最後のプロライダーシーズンになる。そのスケジュールにもよるけれど、妻を日本に連れて来たいと思っているよ。いろんなところへ出かけて、買い物もしてリラックスするために。3歳と9歳の子供たちには(東京は)大き過ぎるし、子連れの旅はなかなか大変だから、4人じゃなく2人でね。ディズニーランドならヨーロッパにもあるしね!

「来季が最後のプロライダーシーズン」と語るファビアン・カンチェッラーラ Photo: Seishiro TAKI「来季が最後のプロライダーシーズン」と語るファビアン・カンチェッラーラ Photo: Seishiro TAKI

 きょうは銀座へ出かけてきた。トレックのスタッフに「メトロ(地下鉄)でホテルへ戻ってもいい?」って聞いたら、「いいけど、難しいかもしれないよ。時間もそれほどないし」って言われちゃって。次回は試してみようって思っているんだ。

 新しい冒険は、もちろん好き。せっかく東京にいるんだし。(ジャパンカップが開催された)宇都宮に関して言えば、日本的だけれども決してインターナショナルに観光をできる場所ではなくて、経済の中心でも高級ブランド店が並ぶ場所でもない。5つ星ホテルだってない。

 東京は世界で…3つの指に入る都市だっけ?(※) 国際的で、ファッションや経済などたくさんの要素があり、豪華で、美食にあふれ――なんでもある。それはヨーロッパ、特にスイス人の僕にとって受け入れやすく、しっくりくるんだ。

 宇都宮の人たちは、東京の人に比べて気さくでおっとりしている。僕がまだ訪れたことのない京都や長野も同じかもしれないね。日本で行ってみたいところは、富士山、沖縄、京都…そうだな、侍も見たいし、魚市場や相撲も見てみたいね。

※編集部注: 経済力で1位、総合でロンドン、ニューヨーク、パリに次ぐ4位(森記念財団『世界の都市総合力ランキング YEARBOOK 2014』より)

「トレックストア六本木」でファンのサインに応じるファビアン・カンチェッラーラ Photo: Seishiro TAKI「トレックストア六本木」でファンのサインに応じるファビアン・カンチェッラーラ Photo: Seishiro TAKI

 ――スイス・ベルンを拠点にしている理由は?

カンチェッラーラ:そこに生まれ育ったから。家族や友だちがいて、僕の人生すべてがそこにある。空港も近く、左から右へ、上から下へと無理なく旅ができる。チューリッヒへのアクセスがいいので、チューリッヒ~成田の移動も完ぺきだったよ。

 山へすぐに行けることも大切。雪山を望む山道へトレーニングに出かけるなど、選択は自由なんだよ。ドアを開ければ30kmで山岳エリアに行ける。

引退後のアイデアは「たくさんあるよ!」

 ――オン・オフの切り替え方法やオフの過ごし方を教えてください

カンチェッラーラ:自然とそうなるだけ。オフの時は、2時間ライドをすることもあるけれど、基本的には寝ているかな。(オフタイムは)そんなにたくさんいらないんだ。時々バランスを取るために何かはするよ。だけどショッピングとかではない。ショッピングは結局“モノ”でしかなくて、幸せでも自由でもない。買ってから20分間は嬉しいかもしれないけれど、それだけで終わってしまうから。

 ――プロライダー生活を家族はどう思っている?

カンチェッラーラ:サポートしてくれている。僕の心の支えであり戻るべき場所だね。(プロ選手は)常に外に出ているから、もちろん彼ら(家族)にとっていつも容易なわけじゃない。それは僕にとっても同じこと。16年が過ぎて、まもなくセカンドライフが始まる。心待ちにしているよ。

ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリレーシング)は1981年3月生まれ。プロトンの英雄は、2016年にラストシーズンを迎える Photo: Seishiro TAKIファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリレーシング)は1981年3月生まれ。プロトンの英雄は、2016年にラストシーズンを迎える Photo: Seishiro TAKI

 ――プロトンではなく家で担当している仕事は?

カンチェッラーラ:失敗を引き受けること。なにか壊れれば僕のせいだし、紛失する物があっても僕のせいになるとかね…。子供の面倒はよくみるよ。ベッドへ連れて行ったりとか。でも片付けなければならないオフィスワークや家庭のこともあって、いつも忙しくしている。それって、誰もが普段やっていることと同じだよね。

 ――食事で好物があれば教えてください

カンチェッラーラ:シンプルなものでいい。ミシュランの星がいくつもあるフルコースである必要はなく、妻が出してくれるものは何でもいい。豪華な食事がしたければ、外食をすればいいと思っている。

 ――プロライダー生活を終えたら何がしたい?

カンチェッラーラ:たくさんあるよ! アイデアは広がっていて、一歩ずつ取り組んでいきたい。いまは言えないけれど、それは自転車に関係があって、いいことだよ。新しいゴールを定め、野心を持ちつつ成功させたい。家族と楽しむことが前提だけれど、家でダラダラしているだけにはなりたくないんだ。

<取材協力 トレックストア六本木> 

ジャパンカップではアシストの立場からチームをまとめたファビアン・カンチェッラーラ(右から2人目)。シーズン最後のレースを僚友バウケ・モレマの勝利で締めくくった Photo: Naoi HIRASAWAジャパンカップではアシストの立場からチームをまとめたファビアン・カンチェッラーラ(右から2人目)。シーズン最後のレースを僚友バウケ・モレマの勝利で締めくくった Photo: Naoi HIRASAWA

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