「来年はキリマンジャロを走る」旅先から始まった30年間のプロ生活 MTBのスターであり続けるハンス・レイにインタビュー

by 中村浩一郎 / Koichiro NAKAMURA
  • 一覧

 90年代にはマウンテンバイク(MTB)ビデオスターとして、そして21世紀にはアドベンチャーライダーとして走り続けるMTBプロライダー、ハンス・レイ。長くMTBシーンを追いかけているファンであれば、一度は彼のMTBによるトライアル的なアクションライディングの映像を見たことがあるはずだ。GTのプロモーションの一環として来日したハンスに、その30年間にわたる“MTBアンバサダー”としての軌跡を聞いた。(中村浩一郎)

卓越した技術でファンを魅了するMTBプロライダー、ハンス・レイが来日し、Cyclistのインタビューに応じた Photo: Naoi HIRASAWA卓越した技術でファンを魅了するMTBプロライダー、ハンス・レイが来日し、Cyclistのインタビューに応じた Photo: Naoi HIRASAWA

“GT一筋”のプロライダー

GTを代表するハードテイルMTB、ザスカーの25周年モデルを手に。「GTは自分のファミリーだと思う。GTがなければプロにはなれなかったんじゃないかな」 photo: GTGTを代表するハードテイルMTB、ザスカーの25周年モデルを手に。「GTは自分のファミリーだと思う。GTがなければプロにはなれなかったんじゃないかな」 photo: GT

 ハンス・レイは30年以上にわたり、MTBのプロライダーとして走り続けている。現在49歳で世界レベルのプロライダーであるということ以上に、その全てのキャリアをGTという一つのチームで走り続けているというのも、他に例をみない事実だ。

 華麗なバイクトライアルのスキルを駆使し、レースには出場せず、世界の壮大なトレイルを、エクストリーム・フリーライダーとして走り続けてきた。70カ国以上にわたる土地の文化、歴史、そしてトレイルの走り心地を、350冊以上の雑誌の表紙となり発信し続けてきた。この冒険の模様は、ハンスの公式ウェブ(英語)に詳しく掲載されている。

世界各国のトレイルを走り続けるハンス。そのバイクコントロール技術は、速さのみを良しとするレースからは生まれない感動を与える photo: GT世界各国のトレイルを走り続けるハンス。そのバイクコントロール技術は、速さのみを良しとするレースからは生まれない感動を与える photo: GT

 1986年、自転車トライアルのライダーとして活躍していたスイス人の18歳の青年は、アメリカ旅行に出かけた。選手引退の卒業旅行のようなつもりだったのだが、渡米の数週間後、彼はマウンテンバイク界のヒーローになった。これが30年近くGTに乗り続けるプロライダー、ハンス・レイのキャリアの始まりだ。

“軽い気持ち”で行ったアメリカでMTBヒーローに

笑みを浮かべながらインタビュアーの質問を聞くハンス Photo: Naoi HIRASAWA笑みを浮かべながらインタビュアーの質問を聞くハンス Photo: Naoi HIRASAWA

 ハンスは1980年代、20インチのバイクトライアル(トリアルシン)のライダーとして名を馳せた。歩くのすら困難なセクションに、自転車で飛び乗り、舞い降りるという、最高峰の車体コントロール技術が試されるトライアル。ヨーロッパでのバイクトライアルの文化は長く深いが、それでも当時、トップクラスのライダーでも、アマチュアの延長のようなものだった。

80年代からこれまで、MTBの世界をリードするライダーとして30年間走り続けてきたハンス・レイ photo: GT80年代からこれまで、MTBの世界をリードするライダーとして30年間走り続けてきたハンス・レイ photo: GT

 「ある大会で、アメリカからやってきたライダーに会ったんだ。当時のアメリカはBMXが全盛期で、彼はBMXをはじめとする多くのスポンサーをつけていた。そんな彼が言うんだ。『いまアメリカでは、MTBっていうスポーツが成長している。アメリカでMTBに乗ってみたらどうか?』って」

 当時ハンスは18歳。大学に進学したばかりで、トライアル競技もそろそろ潮時かなと考えていた。「アメリカでのBMXの盛り上がりはヨーロッパにも伝わっていたからね。ライダーにはスポンサーがついて、プロとしてガッツリ稼いで、ポルシェを乗り回している、みたいな(笑)」

 選手生活の最後にアメリカに行ってみるのもいいかなと思い、大学を半年休学して渡米。誘ってくれたライダーにさまざまな人を紹介されながら、彼の持つトライアル技術を、盛り上がり始めたアメリカでのMTBシーンに魅せていく。

 「車の上に飛び乗ったり、飛び降りたり。これがアメリカの人々には面白かったんだろうね。いろんな人に会うたびに『ここに飛び乗れよ、ここから飛び降りろよ』なんて喜ばれてね」

ハンスが愛用するGTのモデルは「センサー」。「このバイクならどこでも走れる。大切なのは設計される角度なんだ。最高のリアサスシステムだ」とハンス photo: GTハンスが愛用するGTのモデルは「センサー」。「このバイクならどこでも走れる。大切なのは設計される角度なんだ。最高のリアサスシステムだ」とハンス photo: GT

「あと半年」「もう半年」を繰り返して30年

ハンス・レイが愛用するGT「センサー」 Photo: Naoi HIRASAWAハンス・レイが愛用するGT「センサー」 Photo: Naoi HIRASAWA

 当時、バイクトライアルというのは主にヨーロッパを中心とした競技だった。つまり、北米の人々は、バイクトライアルという、自転車で岩を登ったり、前輪をあげて段差を飛び降りるという動きそのものを知らなかった。

 雑誌やビデオ、さまざまなメディアに取材され、あれよあれよと言う間に、MTBシーンのど真ん中に放り込まれたという感じだった。GT、アディダスを始めとするスポンサーも付き始める。「最初は半年の休学だったはずなのに、もう半年、もう半年なんてやって、すでに60回目の半年だ(笑)」

フルカーボンで蘇った名作MTB、ザスカーの誕生25周年記念モデルを駆り、自在に走る photo: GTフルカーボンで蘇った名作MTB、ザスカーの誕生25周年記念モデルを駆り、自在に走る photo: GT

 ハンスを世界的に著名にしたのは、ビデオだった。90年代前半は、ビデオテープが動画という新たなメディアとして迅速な広まりを見せていた。その流れに乗るようにして1992年、彼のトライアルスキルを前面に押し出したMTBビデオ「No Way Rey」に出演する。

 ノーウェイとは「無理だよ」「まさか」といった意味合いの英語イディオム。その語呂の良いタイトルをそのままニックネームに、アメリカをはじめとする世界マウンテンバイクシーンに、「すごいライディングをする」ノーウェイ・レイとしてのライドを見せつけていった。ビデオという“最新メディア”で、アクションライドを披露する彼の姿は、さまざまな場所で流れ、テレビでも放送された。

MTBの素晴らしさを伝えるため世界の秘境トレイルを走る

 そして90年代後半、世界的に名を知られるようになり、チームGTの一員としてレース会場などでのショーを中心にライド活動を続けていたハンスは、彼の舞台を、MTBが本来走るべき場所、レースではなくリアルなトレイルへと移す。それが1997年から行った、世界各国の素晴らしいトレイルを走り、記録し、発表するアドベンチャー・ライドである。

ハンスの劇的なアクションテクニックには、これまで世界中のMTB好きが魅了されてきた photo: GTハンスの劇的なアクションテクニックには、これまで世界中のMTB好きが魅了されてきた photo: GT

 「レースでのショーライドから身を引き、20年前からアドベンチャートリップを始めた。より多くの層にMTBの素晴らしさを伝えるためには、素晴らしい土地をMTBで走るという活動が最適だと考えたんだ」

 そこから20年をかけて、ケニア山からダウンヒルし、マチュピチュの神秘的なインカトレイルを走り、スイスの氷河を走り、エクアドルの火山を走り、ネパールのアンナプルナを駆け抜けてきた。そんなハンスに、「これまでのアドベンチャーで、最も良かったのはどこ?」という質問を投げかけると彼はこう答えた。

 「それは難しいね。これまでに食べた食事で何が一番好き? という質問みたいだ。今年、スティーブ・ピート(MTB DHのトップレーサー、ハンスとは元GTのチームメイト)と一緒に走ったアイスランドも良かったし、昨年の北アルゼンチンも良かったね。そのトリップの1日は、僕の人生の中でも最も幸せな1日だったよ。アルプスも良かったし、僕が作ったトレイルもあるイタリアのリビーニョもいい。それに、期待していないところが最高だったこともある。アメリカ・フロリダ州には山は全くなかったけれど、人工のトレイルは最高だった」

自転車を必要とする人への寄付活動も

 知らなかったトレイルを走り、知らなかった文化に出会ううちに、彼はいま自分が、MTBのプロライダーとして、そして成熟した大人として成すべきことを見い出していった。それがハンスが行っている「wheels4life」(ホイールズ・フォー・ライフ)という活動だ。

身振り手振りを交えながら想いを語るハンス Photo: Naoi HIRASAWA身振り手振りを交えながら想いを語るハンス Photo: Naoi HIRASAWA

 「これはね、ありていに言えば、発展途上の国々にいる、自転車が必要な人々に、自転車を渡すという活動だ。学校に行くために、収穫物を市場に運ぶために、移動のために自転車を必要とする人々に」。これまでの10年で、ホイールズ・フォー・ライフは8000台以上の自転車を寄付してきた。「とても小さいけどピュアな活動だ」とハンス。この活動と並行してアドベンチャーを続けていく。そして、次の大きな計画も決まっている。

 「来年はキリマンジャロを走る許可が出るんだ。大きなチャレンジだよ。みんなが知っている山だからね」

来年はキリマンジャロでのライドを計画している。「MTBというスポーツは、自転車のブームで増えた愛好家を巻き込み、いま最も面白く進化している」とハンスは言う。photo: GT来年はキリマンジャロでのライドを計画している。「MTBというスポーツは、自転車のブームで増えた愛好家を巻き込み、いま最も面白く進化している」とハンスは言う。photo: GT
今回の来日では、河口湖のトレールを走り楽しむ「GT RIDE MEETING」のゲストライダーとして、日本ライダーにその存在感を見せつけた photo: GT今回の来日では、河口湖のトレールを走り楽しむ「GT RIDE MEETING」のゲストライダーとして、日本ライダーにその存在感を見せつけた photo: GT

 ちなみに、日本のトレールを走ったことはあるのだろうか?

 「乗ったことはあるけど、まだしっかりと走っていない。機会を見つけて、日本の素晴らしいトレイルと景色の中を走ってみたいと思っているよ。実現したらその模様は、ぜひ日本の皆さんに見てもらいたいと思っているよ」

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

GT MTBレース

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載