産経ニュース【被災地を歩く】より2年ぶりの「ツール・ド・三陸」出走で見えた“今” 変わったもの、変わらないもの

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 東日本大震災の被災地の岩手県陸前高田市や大船渡市を自転車で巡るイベント「ツール・ド・三陸」が10月11日に開催された。イベントは陸前高田市の商工会などでつくる実行委員会が主催で4回目。3年前に岩手沿岸の被災地担当となった記者にとって、取材も3回目だ。変わったもの、変わらないもの、2年ぶりの“出走取材”で被災地の今が見えてきた。(産経新聞東北総局 高木克聡)

碁石のような小石の浜辺で知られる名勝・碁石海岸にも重機が入り工事が続く。参加者を受け入れた民宿の従業員が手を振って声援を送った =岩手県大船渡市 Photo: Katsutoshi TAKAGI碁石のような小石の浜辺で知られる名勝・碁石海岸にも重機が入り工事が続く。参加者を受け入れた民宿の従業員が手を振って声援を送った =岩手県大船渡市 Photo: Katsutoshi TAKAGI

 今回は陸前高田市から大船渡市の景勝地・碁石海岸を経由する約50kmの2コースと、約22kmのファミリーコースの計3コースが設定され、ボランティアも合わせて約1300人が集まった。初回の参加者数は約400人だったが、その後は800人、1100人と回を重ねるごとに規模を大きくし、被災地の名物イベントに成長した。

空室が目立つ仮設住宅

 スタート・ゴール地点となった陸前高田市役所は仮設のままだが、向かいにあるコミュニティホールは今年5月に開館したばかりだ。小雨に負けない熱気の中、午前7時半にスタート。参加者は次々と津波が直撃した市の中心部に滑り込んでいく。

東日本大震災から4年7カ月の月命日に開催された自転車イベント「ツール・ド・三陸」。今年5月に開館したばかりのコミュニティホールの前からスタートした =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI東日本大震災から4年7カ月の月命日に開催された自転車イベント「ツール・ド・三陸」。今年5月に開館したばかりのコミュニティホールの前からスタートした =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI

 2年前は更地だった周辺の景色は、約10mの盛り土によって一変した。できあがった人工の丘の谷間を縫うように昔の市街地を走り抜ける。この丘の上に街が出来るのはまだ数年先だ。

 沿線に住む市民らの声援が2年前に比べて、小さく感じるのは悪天候のせいだけではない。仮設住宅には空室の張り紙が目立つ。

仮設住宅からの声援を受けて走る参加者。仮設住宅には「空室」の張り紙が目立つようになっている =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI仮設住宅からの声援を受けて走る参加者。仮設住宅には「空室」の張り紙が目立つようになっている =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI
津波が直撃した市の中心部を走る参加者。高台には災害公営住宅が完成し、新しい生活が始まっている =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI津波が直撃した市の中心部を走る参加者。高台には災害公営住宅が完成し、新しい生活が始まっている =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI

 遠くの高台には災害公営住宅がみえた。昨年10月から、市内最初の公営住宅の入居が始まっており、ベランダの物干し台やカラフルな窓のカーテンに新たな生活の様子がうかがえる。2年前、沿道で手を振ってくれた仮設の住民がその窓の奥に暮らしていると思えば、声援の小ささにも納得だ。

変わらぬもてなしの心

 一方、参加者の熱意と一人一人のもてなしの心は変わらない。坂道の途中でパンクし立ち往生していると、福島県白河市から出場した契約社員、大塚明さん(50)ら3人が「大丈夫ですか」と声をかけてくれた。3人はお互い初対面だったが、初めて顔を合わせた人たちが、一緒に修理作業をする姿は復興現場とも重なる。

手作りの応援グッズで参加者を応援する沿道の住民ら =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI手作りの応援グッズで参加者を応援する沿道の住民ら =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI

 「今年もよく来たね。来年も待ってるよ」。沿道に住む村上キクミさん(91)は毎年、親子3代で声援を送り続ける。今年もビニール傘に飾りをつけた手作りの応援グッズを力いっぱい振って参加者を励ました。

 初回から大会の応援団長を務め、今回初めて出走した元F1レーサーの片山右京さんも「ここまで純粋な応援は受けたことがない。この小さな気持ちを無駄にはできない」と被災地への支援を改めて誓った。

広田漁港の休憩所ではカキご飯のおにぎりなど、出荷が始まったばかりのカキづくしのおもてなしに参加者の疲れも吹き飛ぶ =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI広田漁港の休憩所ではカキご飯のおにぎりなど、出荷が始まったばかりのカキづくしのおもてなしに参加者の疲れも吹き飛ぶ =岩手県陸前高田市 Photo: Katsutoshi TAKAGI

 各休憩所では地元の名物が参加者を出迎えた。碁石海岸ではホタテやワカメのおやきのほか、地元産の農産物が振る舞われた。陸前高田市の広田漁港では出荷が始まったばかりのカキづくし。カキごはんのおにぎりが参加者の疲れを癒やし、1200人分2400個の蒸しガキはあっという間になくなった。

海との距離広がる

 漁港には真新しい加工場や倉庫などが建ち並び、水産業の復興を思わせる。その反面、海岸の整備工事で汚れた海や防潮堤の建設で間近に見ることができなくなった浜もある。高台に移転する市民と海との距離がずいぶん広がってしまったようにも感じる。

「ツール・ド・三陸」の参加者に沿道から温かい声援が送られた Photo: Katsutoshi TAKAGI「ツール・ド・三陸」の参加者に沿道から温かい声援が送られた Photo: Katsutoshi TAKAGI

 行政が進める『命を守る防潮堤』の必要性も理解できるし、海が見えないことが困るという住民の意見にも納得がいく。多くの命を奪った海だが、三陸の暮らしは海とは切っても切り離せない。もう一度、海と人々を結び直すのも、これからのまちづくりに課せられた大きな課題だ。

産経ニュースより)

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