title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<130>ジャパンカップで新城幸也の走りを学んだ東京五輪世代 若き日本ナショナルチームの挑戦

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 宇都宮市で10月17、18日に開催されたジャパンカップサイクルロードレースでは、世界の名立たるチームを国内チームや日本人ライダーが迎え撃った。そのなかには、日本のエース新城幸也を中心に、若手の有望株を集めて構成された「日本ナショナルチーム」の姿もあった。今回は「東京五輪世代」と呼ばれる若い選手たちの戦いをクローズアップし、絶対エース・新城を表彰台に送り込んだアシストぶりや、彼らが描く将来のビジョンを紹介する。

ワールドクラスの戦いに挑んだ日本ナショナルチーム。(左から)浅田顕監督、新城幸也、徳田優、面手利輝、黒枝咲哉、入部正太朗 Photo: Syunsuke FUKUMITSUワールドクラスの戦いに挑んだ日本ナショナルチーム。(左から)浅田顕監督、新城幸也、徳田優、面手利輝、黒枝咲哉、入部正太朗 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

コミュニケーションに不安なし

出走サインを終え、ステージに並んだ5選手。明るい表情が印象的  Photo: Syunsuke FUKUMITSU出走サインを終え、ステージに並んだ5選手。明るい表情が印象的  Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 今回、日本ナショナルチームとして戦いに挑んだのは新城のほか、入部正太朗(シマノレーシング)、徳田優、黒枝咲哉(ともに鹿屋体育大学)、面手利輝(EQADS)の5選手。UCI(国際自転車競技連合)の公認レースにおけるナショナルチームの編成は、出場チーム以外から選出されることが義務付けられており、5人とも自ら所属するチームが出場できなかった点が共通している。

 とはいえ、どの選手も国際経験は豊か。特にアンダー23(23歳以下)の徳田、黒枝、面手は世界選手権、アジア選手権、ネイションズカップ(国別対抗で争われるシリーズ戦)を転戦し、シーズンを通じてナショナルチームとして走ってきた。26歳と今回のメンバーでは新城の31歳に次ぐ年齢の入部も、ジュニア時代から代表入りを経験し、ロード・トラックで実績を積んできた。

新城幸也(左)を中心にスタート直前まで戦術の確認が続いた Photo: Syunsuke FUKUMITSU新城幸也(左)を中心にスタート直前まで戦術の確認が続いた Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ナショナルチームはレースのたびに編成される側面から、連携や意思統一などを図る時間がなかなか確保できない。しかし今シーズンのロード日本代表は、2月のアジア選手権以降、多少の入れ替わりがあったもののおおよそ同じ顔ぶれの選手たちで構成され、世代を超えて顔を合わせる機会が多かった。今回のジャパンカップでは、チーム内で飛び抜けた存在である新城に対しても遠慮せず話しかけられる雰囲気があり、コミュニケーション面での不安はなかったという。

 「チームの目標は優勝。最低でも2位」と浅田顕監督にハッパをかけられて臨んだ17日のジャパンカップクリテリウムでは、入部が逃げグループに入ったほか、チームでトレインを組んでメーン集団の前方へ位置するなど、見せ場を作った。

作戦が的中した面手のアシスト

 そして迎えた18日のメーンレース。10.3kmの周回コースを14周、計144.2kmで争われ、序盤は7選手の逃げグループが形成され、中盤には数度のアタックによりメーン集団が活性化、そして優勝争いが激化した終盤へと展開されていった。ラストの3周はUCIワールドツアーのレースに勝るとも劣らないハイレベルの戦いとなった。

 日本ナショナルチームの新城は、最後の最後まで優勝を争い、ゴールスプリントで敗れたものの3位に食い込んだ。その新城をトップ争いに送り込んだラスト3周までのレース展開は、日本ナショナルチームにとってまさに想定通りだった。

レース前半、新城幸也(左)の近くで走る入部正太朗(中央)と面手利輝 Photo: Syunsuke FUKUMITSUレース前半、新城幸也(左)の近くで走る入部正太朗(中央)と面手利輝 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 新城をアシストするチームメート4人の中で、最も調子がよかった面手には、「常に新城の近くで走る」という役割が与えられた。補給や位置取りのサポートを含め、新城の指示を仰ぎながら、レースが急展開する重要局面を待った。そんな面手に仕事の瞬間が訪れた。新城から「ラスト3周の古賀志林道の上りで絶対にペースが上がるから、そこで前方にポジショニングしてほしい」と告げられていた指示に従い、面手はラスト3周を迎えたタイミングで、ランプレ・メリダ、チーム スカイなどUCIワールドチーム勢が固めていたメーン集団前方をこじ開けて、古賀志の上りへと突入した。

 予想通り、この上りで集団の顔触れは有力選手のみに絞られ、そこへ新城を送り込むことができた。優勝争いに直結する動きを演じた面手は、「『あとはお願いします!』という気持ちで新城さんにバトンタッチした」と振り返る。「幸也さんのオーダー通りの仕事はできたという感覚がある」と、ホッとした様子を見せた。

優勝争いに残り、3位という好成績を残した新城幸也 Photo: Yuzuru SUNADA / Japan Cup Utsunomiya優勝争いに残り、3位という好成績を残した新城幸也 Photo: Yuzuru SUNADA / Japan Cup Utsunomiya

 日本代表やEQADSで面手を指導している浅田監督も、今大会での働きに目を細めた。新城の3位は「最低限の結果だ」としながらも、「ペースが上がる局面で新城を引き上げた面手の走りは、よくやったと言える」と率直に評価した。

学ぶべきは新城の「戦う姿勢」

 浅田監督がスタート前に選手に告げたチームオーダーは、序盤に10人以上が逃げるようであれば、入部か徳田が加わり、逆に逃げが少人数であればメーン集団に待機して新城をサポートするという内容だった。レース中は新城が、展開や集団内の動きを見ながらアシストに的確な指示を送った。

 面手が予定通りの働きを見せた一方で、入部、徳田、黒枝の3選手は中盤までに集団から遅れてしまった。黒枝は「コンディションが思うように上がっていなかった。ただ、今回は仮に調子がよくてもラスト4周までに遅れてしまっていたと思う」、入部は「これといった仕事ができなかった。本当に悔しいし、新城さんに申し訳ない思いでいっぱい」と、それぞれ反省を口にした。

入念にバイクチェックする新城。スタート直前のいつものルーティーンだ Photo: Syunsuke FUKUMITSU入念にバイクチェックする新城。スタート直前のいつものルーティーンだ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 スタート直前に「何かを感じ取ってくれたらうれしい」と語っていた新城は、レース後、「展開や集団内での走り方など、今回の経験を大切にしてほしい。ミーティングでもう一度確認していきたい」と話した。浅田監督は、好不調の差が大きかったアシスト陣に対し「日本代表メンバーであるとの自覚をもってコンディション調整を行ってほしかった」と苦言を呈した上で、若い選手たちに「新城の“戦う姿勢”を学んでほしい」と語った。

 「新城はジャパンカップに向けて好調と言われていたとはいえ、優勝争いに加わることは並大抵ではない。そんな選手がエースとしてチームにいる以上、アシストも“戦う姿勢”を見せていかなければならない」と強調する浅田監督。選手の生活面にも触れ、ただ真似をすれば強くなれるわけではないとしながらも「新城が食事の際にどんなものを口にしているか、といったレース前後の取り組みを参考にしてほしい」と語る。

3位でフィニッシュした新城幸也(左)に入部(右から2人目)らチームメートが駆け寄った Photo: Syunsuke FUKUMITSU3位でフィニッシュした新城幸也(左)に入部(右から2人目)らチームメートが駆け寄った Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 新城がフィニッシュした直後、浅田監督が真っ先に出迎え、リタイアしてレースを終えていたアシスト陣も駆け寄ってくるなど、チームはムードのよさが光った。アシストした4選手は一様に「新城さんからは学ぶことが本当に多い」と口にする。気さくで明るい新城の性格が、若い選手にフィットしている面も大きい。次世代を担う選手たちにとって、ジャパンカップ期間中は、将来への糧を得られる貴重な日々だったに違いない。

2016年のU23編成は「白紙」

 年間を通して「ナショナルチーム化」が進んだ今シーズン。その集大成ともいえるジャパンカップでチームへの貢献度が大きかった22歳の面手は、来シーズンからエリートに昇格する。21歳の徳田、20歳の黒枝は引き続きアンダー23カテゴリーで走る。

 次に迎える重要レースは、2016年1月に地元開催で迎えるアジア選手権(東京・大島)。若手で構成するU23チームについて、浅田監督は「今回の走りでは、メンバーは白紙。誰が走っても同じという印象は拭えない」と手厳しい。

関係者とレースを振り返る入部正太朗(左)と面手利輝。話を聞く(右から)男子ジュニアロードレースのアジアチャンピオン沢田桂太郎、2015年のインターハイを制した渡邉歩 Photo: Syunsuke FUKUMITSU関係者とレースを振り返る入部正太朗(左)と面手利輝。話を聞く(右から)男子ジュニアロードレースのアジアチャンピオン沢田桂太郎、2015年のインターハイを制した渡邉歩 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 入部にとっては今回、3月のツール・ド・台湾に続くナショナルチーム入りだったが、2度ともリタイアに終わってしまった。「せっかく代表に選んでもらったのに、自分の持ち味がまったく発揮できていない。よい部分をもっと見せていく必要がある」と反省する。長期目標を2020年東京五輪の代表入りに据える入部は、それまでの間にUCIプロコンチネンタルチーム、同ワールドチームへとステップアップを目指しており、今シーズンの経験を飛躍のきっかけにしたいところだ。

 スプリンターとして躍進が期待される黒枝は、「登坂力をつけ、上れるスプリンターとして戻ってきたい」とジャパンカップでのリベンジを誓う。大学での活動と並行してUCIコンチネンタルチーム「CCC p/b チャンピオンシステム」の一員としてベルギーを拠点に走ってきた徳田。ヨーロッパでのプロ入りを目指す面手とともに、同世代の選手たちよりもはるかに貴重な経験を積み重ねている。

 「ジャパンカップで活躍した選手は、のちに大成する」というジンクスがファンの間で囁かれている。若き日本人ライダーたちはジンクスにあやかることができるか。果敢にチャレンジした彼らのこれからの走りを、温かく、そして長い目で見守っていこうではないか。

今週の爆走ライダー-面手利輝(日本、EQADS)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ジャパンカップのレース後に筆者がコメントを求めると、「幸也さんのラストはどんな感じだったのですか?」と逆質問を受けた。4選手のスプリント勝負だったと説明すると、「あー!」と残念そうに叫んだ。その真意を問うと、「僕がゴールまで仕事できていれば(サポートできれば)、幸也さんは勝てたかもしれない」。作戦通りの走りができて満足する一方で、エースを勝利に導けなかったことへの悔しさが募った。

 それでも、アシストの役割に誇りをもって戦ったのだろう。高ぶる思いに声を上ずらせながら、「アシストの立場は、エースが結果を残してこそ評価されるもの。今回の幸也さんの走りを通じて、どうか僕たちにも目を向けてほしい」と語気を強めた。そして、「本当に幸也さんは偉大。感謝してもしきれない」と続けた。

日本ナショナルチームでアシストとして力を発揮した面手利輝(ジャパンカップクリテリウム2015) Photo: Yuzuru SUNADA / Japan Cup Utsunomiya日本ナショナルチームでアシストとして力を発揮した面手利輝(ジャパンカップクリテリウム2015) Photo: Yuzuru SUNADA / Japan Cup Utsunomiya
ヨーロッパでのプロ入りを目指す面手利輝 Photo: Syunsuke FUKUMITSUヨーロッパでのプロ入りを目指す面手利輝 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 U23クラスからの卒業を目前に控えた現在、ヨーロッパでプロ契約をつかみとることを目指している。その一方で、「ジャパンカップで優勝争いに加われないあたりは、まだまだ力が足りていない証拠」と自らを厳しく見つめる。

 「長い時間をかけて、しっかりと成長していきたい」。その誓いの先には世界で戦う自らの姿を描いている。夢への挑戦は、これからも続く。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

2015 ジャパンカップ 2015 ジャパンカップ・選手チーム密着 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載