参加者と開催地の人たちの交流を促進「ツール・ド・東北」きっかけに「民泊」の規制が緩和 10年継続開催へ有償宿泊を制度化

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ヤフー本社の「ツール・ド・東北」の写真パネル前に立つコーポレート政策企画本部の宮田洋輔さん(右)と復興支援室の鈴木哲也さん Photo: Aki KARASAWAヤフー本社の「ツール・ド・東北」の写真パネル前に立つコーポレート政策企画本部の宮田洋輔さん(右)と復興支援室の鈴木哲也さん Photo: Aki KARASAWA

 宮城県で開催される震災復興支援サイクリングイベント「ツール・ド・東北」をきっかけに、来訪者らが民家に宿泊する「民泊(みんぱく)」の規制が緩和され、宿泊できるケースが広がった。ツール・ド・東北を共催するヤフーが今年2月、政府の会議でイベント開催時の宿泊施設不足を取り上げ、民家での有償宿泊を認めるなど旅館業法の規制緩和を要望。その後、公共性の高いケースなどでは旅館業法の適用外となることが閣議決定によって明確化された。サイクリングイベントへの情熱が政府を動かした今回の経緯や背景について、同社コーポレート政策企画本部の宮田洋輔さんと復興支援室の鈴木哲也さんに話を聞いた。

震災の伝承の場となった民泊

 旅先で地域住民などの家屋に宿泊する「民泊」。これまで国体のような大規模イベントを地方都市で開催する際に、宿泊施設不足を解消する目的などで実施されてきた。

 ツール・ド・東北では、初開催の2013年から導入。翌2014年も同様に実施し、参加者や民泊提供者(ホスト)から好評だった。宿泊料は無料だった。

 大会参加者は、開催地の人々と交流するチャンスを持つことができる。実際、東日本大震災についてホスト家族から話を聞いたり、写真を見せてもらったりして、震災当時の被災地がどんな状況だったのかを知り、理解を深める機会になった。それにより、イベントで被災地を走ることの意義が再確認されていった。

2014年大会で民泊のホストとして参加者を迎えた石巻市の齋藤伊平さん(中央) Photo: Naoki OHOSHI2014年大会で民泊のホストとして参加者を迎えた石巻市の齋藤伊平さん(中央) Photo: Naoki OHOSHI
ホタテの刺身や牡蠣の燻製など参加者に振る舞われた民泊での食事例(2014年大会) Photo: Naoki OHOSHIホタテの刺身や牡蠣の燻製など参加者に振る舞われた民泊での食事例(2014年大会) Photo: Naoki OHOSHI

 一方、ホストにとっても、そういった体験を全国から集まった参加者と共有することで、「震災への想いを伝えるいい機会となった」「新しい出会いが癒やしとなった」という声が聞かれたという。ホスト家庭によっては、地元の新鮮な魚介をふんだんに用いた豪華な食事を用意してもてなすケースもあった。

内閣府でプレゼンテーション

主に大会開催地での運営に携わる鈴木哲也さん Photo: Aki KARASAWA主に大会開催地での運営に携わる鈴木哲也さん Photo: Aki KARASAWA

 問題は、無料で実施することが結果的にホストの負担となってしまうこと。ホストが報酬や実費として宿泊料を受け取ることは、旅館業法に抵触するため認められなかったのだ。

 「ヤフー石巻復興ベース」で民泊のコーディネートなどに携わってきた鈴木さんは、「民泊をした参加者からは『きちんと対価を払いたい』という声が届いていた。しかしホストの方々は、実際には費用がかかって負担を感じつつも『楽しみでやっているので…』と言う。自発的にお金を取ることに抵抗感がある場合がほとんどだった」と説明する。

 そこでヤフーは2月、内閣府の規制改革会議の場で、「民泊の実現に向けて」と題したプレゼンテーションを実施。参加者3000人規模のツール・ド・東北は地域を盛り上げる一方、深刻な宿泊施設不足が起こっていると説明し、有償の民泊を認めない旅館業法の問題点などを取り上げ、法律の適用除外や法改正を訴えた。

 4月23日の「地域活性化ワーキング・グループ」では、厚生労働省の担当者が「ツール・ド・東北は旅館業法に当たらない場合として検討している」と発言。その後、6月末には「イベント開催時であって、宿泊施設の不足が見込まれることにより、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するような公共性の高いケース」について、民泊が旅館業法の適用外となることを厚生労働省より各自治体へ周知することが閣議決定された。

 もともとツール・ド・東北の大会事務局は、民泊について「反復継続性がなければ有償であっても実施可能」という法解釈にもとづき、宮城県から有償で実施する許可をとっていたという。しかし、内閣府や宮城県と折衝を重ねてきた宮田さんは、「有償での民泊受け入れを反復させないために、毎年完全に新しいホストを見つけていくとなると、10年間の継続開催を目指すツール・ド・東北としてはとても大変」と指摘。大会が復興支援を目的とし、自治体とも協力しながら開催してきたことに触れ、「閣議決定されたケースの対象となるでしょう」と語った。

住民の自発的な運営へ

「民泊を地方創生に活用できるものとしていきたい」と話す宮田洋輔さん Photo: Aki KARASAWA「民泊を地方創生に活用できるものとしていきたい」と話す宮田洋輔さん Photo: Aki KARASAWA

 9月13日に開催された2015年大会では、参加者から延べ225人が民泊を利用。食中毒や物品破損といったトラブルへの保険料を含んだ4000円が宿泊費として利用者に課された。この宿泊費に対する不満や疑問は挙がっていないという。

 鈴木さんは、「ホストからは『安心して泊まってもらえた』という声が届いている。また、地元のふとん店から寝具をレンタルするプランを提案したところ、多くのホスト家庭が寝具のレンタル費用を宿泊費から捻出して利用した。地域経済の活性化にも役立てることができました」と成果を語った。

 また、今大会の新しい試みとして、大会開催前の8月末に「ホスト交流会」を初開催。2013、14年大会のホストが、15年に新たにホストとなった人たちと顔を合わせ、参加者を迎える際のポイントや、不安に対するアドバイスなどを語ったという。

2015年8月末には新旧の民泊ホストたちが集まる交流会が催された Photo: Yahoo2015年8月末には新旧の民泊ホストたちが集まる交流会が催された Photo: Yahoo

 「大会を『10年続ける』と掲げていることが、地元の方々の胸に響いている」と鈴木さん。民泊への取り組みについては、「最初は私たちがお願いをするところから始めたが、今ではホスト側から『楽しかったので、来年はこうしたい』といった改善のアイディアが続々に出てきている」と目を細める。

 民泊だけでなく、地元グルメが満載のエイドステーション運営でも、最初は大会実行委員会が主導したが、いまでは7対3の割合で地元の人が中心になっているという。鈴木さんは「地元の方には、大会を『やってもらっている』から、『自らもてなしたい』へと転換していってほしい」と展望を語った。

 また宮田さんは、「自転車イベントに限らず各地で宿不足は深刻。閣議決定された内容は、いい内容だが曖昧な部分もある。(有償での民泊が)地方創生に活用できるものとして広がっていくよう、グレーなままにせず、きちんと法律で位置付けるべき。引き続き関係省庁にアピールしていきたい」と意気込んだ。

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