日本籍のプロコンチネンタルチーム設立へ世界レベルの実力を改めて証明した新城幸也 次のステップへと進む日本ナショナルチーム

by 田中苑子 / Sonoko TANAKA
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 9月27日にアメリカ・リッチモンド開催されたUCI世界選手権、エリート男子・ロードレースで、日本勢は新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の17位という結果で幕を閉じた。新城は自身が2010年メルボルンでの世界選手権で残した日本人最高位の9位という数字を更新することができず悔しがったが、今回の世界選手権は、メルボルン大会よりもコースや展開の難易度が高く、弱い選手は最後まで生き残れないレースだった。そのなかで優勝候補の選手たちと最後まで互角に戦った新城の走りは素晴らしく、新城の実力が世界のトップクラスにあることを改めて証明した。

レース直後、悔しさを口にした新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKAレース直後、悔しさを口にした新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKA

石畳、落車、アタック… 261km・6時間14分の戦い

郊外のリッチモンド大学からスタートした男子エリートカテゴリーの世界選手権ロードレース Photo: Sonoko TANAKA郊外のリッチモンド大学からスタートした男子エリートカテゴリーの世界選手権ロードレース Photo: Sonoko TANAKA

 レースは、リッチモンド郊外のリッチモンド大学をスタートし、石畳に覆われた2つの登坂区間を含む周回コースを15周する261.4kmで争われた。前日までの天気予報では雨マークが並んでいたが、当日はときおり小雨が降る反面、薄日が差す時間もあり、濡れると滑りやすくなる石畳は終日、乾いたままだった。

 UCIアジアツアーの国別ランキングにより、3つの出場枠を獲得した日本ナショナルチームは、世界の第一線で戦い続ける新城幸也(チーム ヨーロッパカー)と別府史之(トレック ファクトリーレーシング)をダブルエースとし、中堅選手でエリートカテゴリーの世界選手権は初出場となる内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)がアシストとしてスタートを切った。日本チームの浅田顕監督は3選手の調子を「シーズンで一番いい状態だと思う」と太鼓判を押した。

スタートサイン台で日本代表3選手が並んで記念撮影。(左から)別府史之、内間康平、新城幸也 Photo: Sonoko TANAKAスタートサイン台で日本代表3選手が並んで記念撮影。(左から)別府史之、内間康平、新城幸也 Photo: Sonoko TANAKA
スタート地点に並んだ別府史之(トレック ファクトリーレーシング)と内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKAスタート地点に並んだ別府史之(トレック ファクトリーレーシング)と内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKA
男子エリートの序盤にできた8選手の逃げ。ここに加わったパク・ソンベク(韓国)は、かつて浅田監督のもとで新城幸也らと一緒に走った経験をもつ Photo: Sonoko TANAKA男子エリートの序盤にできた8選手の逃げ。ここに加わったパク・ソンベク(韓国)は、かつて浅田監督のもとで新城幸也らと一緒に走った経験をもつ Photo: Sonoko TANAKA
レース中盤、集団内で走る内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKAレース中盤、集団内で走る内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKA
集団中程で23番通りの登坂区間を越える新城幸也(チーム ヨーロッパカー)、勝負のときを待つ Photo: Sonoko TANAKA集団中程で23番通りの登坂区間を越える新城幸也(チーム ヨーロッパカー)、勝負のときを待つ Photo: Sonoko TANAKA
リビーヒルの石畳を越える別府史之(トレック ファクトリーレーシング) Photo: Sonoko TANAKAリビーヒルの石畳を越える別府史之(トレック ファクトリーレーシング) Photo: Sonoko TANAKA

 序盤に8選手が逃げるものの、集団はその差を射程圏内に保ち、やや不安定なペースながらもレースは順調に進んでいった。逃げていた選手たちが残り5周回で吸収されると、集団内にはいつ勝負がかかってもおかしくない緊張が漂った。新城は勝負のときを見極めながら、徐々に集団内での位置を前方に上げていった。その一方で別府は、中盤に急激な体調不良を起こし、残念ながらリタイアとなった。

レース中盤で体調を崩しリタイアとなった別府史之(トレック ファクトリーレーシング) Photo: Sonoko TANAKAレース中盤で体調を崩しリタイアとなった別府史之(トレック ファクトリーレーシング) Photo: Sonoko TANAKA

 残り3周回を切って集団がペースアップするなか、補給所で落車が発生した。新城と内間は2人とも落車することはなかったが、ここで足止めを食ってしまった。新城はスムーズに集団に復帰したものの、内間は前も後ろも塞がれてしまい、大きく後退。1つ目の石畳までになんとか集団に復帰するも、2つ目の石畳で再び前を走る選手が止まってしまい、そこからうまく再スタートを切ることができず、この周回でレースを終えた。

 内間が遅れてしまったそのとき、集団の前方では大きくレースが動いていた。石畳でイアン・スタナード(イギリス)が仕掛け、トム・ボーネン(ベルギー)やミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)ら有力選手を含む8人の強力な逃げが形成された。結果的に彼らは集団に吸収されてしまったが、集団前方でその動きを見ていた新城は「あの逃げに乗りたかった」と悔しそうに話す。

 レースの世界に“たられば”はないが、もし新城や、さらに他の強力な選手が逃げに加わっていた場合、ゴールまで逃げ切る勝ち逃げとなっていた可能性もある。その場合、結果は変わっていたのかもしれない。

最終周回、23番通りの登坂区間。新城幸也(チーム ヨーロッパカー)が集団の前方で歯を食いしばって走る Photo: Sonoko TANAKA最終周回、23番通りの登坂区間。新城幸也(チーム ヨーロッパカー)が集団の前方で歯を食いしばって走る Photo: Sonoko TANAKA

 しかし、逃げに乗らなかった新城に「結果オーライで、待って正解だった」と、チャンスが再び訪れる。残り2周回で逃げは吸収され、再び集団が一つになった。最終周回の2つ目の石畳で、「待って待って、1回のアタックにすべてを掛けた」と言うペテル・サガン(スロバキア)が爆発的な力で先行し、集団はサガンを捕えることができなかった。そして、2位以下を決めるゴールスプリントとなり、新城もスプリントに参加して、17位でフィニッシュラインを駆け抜けた。

サバイバルレースで力を発揮した新城

17位でゴールした新城幸也(チーム ヨーロッパカー)、もっと上位に入りたかったと悔しさをにじませる Photo: Sonoko TANAKA17位でゴールした新城幸也(チーム ヨーロッパカー)、もっと上位に入りたかったと悔しさをにじませる Photo: Sonoko TANAKA

 「残り1kmの位置取りでミスをした…」

 ゴールした新城から真っ先に飛び出した言葉だ。残り1kmとは、最終コーナーに向かう緩やかな登り区間に当たる。それまで新城は、2位に入ったマイケル・マシューズ(オーストラリア)らに近い、いい位置にいたが、残り1kmではぐれてしまったのだと言う。

 しかし、レースを終えてホテルに戻った新城は「もし残り1kmの地点で位置取りがうまくいっていたとしても、そのあとの平坦の向かい風などで後退してしまったかもしれないし、最後のパンっていうパンチ力も足りていなかった。もっとインターバル系の練習をしないといけない」と冷静に振り返った。そして、悔しさが残るのも事実だが、いろいろなことを踏まえると、今年の世界選手権は「運もよく、すべてがうまくいき、力を出せた世界選手権だった。期待に応えられて良かったと思う」と笑顔で結論づけた。

別府史之(トレック ファクトリーレーシング)と内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)が新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の力走を讃える Photo: Sonoko TANAKA別府史之(トレック ファクトリーレーシング)と内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)が新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の力走を讃える Photo: Sonoko TANAKA
浅田監督とレースを振り返る新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKA浅田監督とレースを振り返る新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKA

 意外にも感じるが、世界選手権での新城は、9位に入った2010年のメルボルン大会以来、落車や体調不良によるリタイアが続き、さらに2013年のフィレンツェ大会では、日本は出場枠すら確保できなかった。今大会は後悔する点もあったが、無事に実力を発揮できたことや、厳しいサバイバルレースのような展開で最後まで勝負に絡めたことなど、プラスの要素のほうが多かった。今季の新城は、4月のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで落車し、骨折。シーズンの中盤にレースに出られない辛い時期を過ごした。その分、走ったレース数は例年より少なく、身体も頭もフレッシュな状態で世界選手権に向き合うことができたという。

17位でレースを終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー)。無事に走りきった安堵の表情がうかがえる Photo: Sonoko TANAKA17位でレースを終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー)。無事に走りきった安堵の表情がうかがえる Photo: Sonoko TANAKA
レースを終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKAレースを終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKA

「もっと世界へ」 内間が感じた危機感

 3人目の日本代表として大抜擢された内間は、今季は2月のアジア選手権ロードレースで3位に入ったほか、アジアツアーやヨーロッパツアーのレースで活躍してUCIポイントを多く稼ぎ、別府、新城に続く世代で注目されている選手だ。「26歳でエリートの世界選手権に初出場するのは遅すぎる。必ず、この先につなげるレースにしたい」と話してスタートしていった。

スタートサインをする内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKAスタートサインをする内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKA
エリートカテゴリー初めての世界選手権となった内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)。リタイアとなってしまったが、貴重な経験を積んだ Photo: Sonoko TANAKAエリートカテゴリー初めての世界選手権となった内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)。リタイアとなってしまったが、貴重な経験を積んだ Photo: Sonoko TANAKA

 世界選手権を前に、260kmを超える長距離を意識したトレーニングを地元の沖縄で積んだ。しばらくトップカテゴリーのレースから離れているため、集団走行や高速域でのレースを心配していた内間だったが、「集団走行のテクニックは、かつてNIPPOに所属してヨーロッパで走っていたときの経験を身体が思い出した。平坦路での巡航速度や中切れを埋める加速は少しきつかったけれど、石畳でも集団に付いていくには問題がなく、余裕もあった」と振り返った。リタイアするまでは、補給食を運ぶなどエースのために走った。

今回の経験を未来につなげると誓う26歳の内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKA今回の経験を未来につなげると誓う26歳の内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Sonoko TANAKA

 それだけに、落車による足止めによるリタイアは「最後の肝心なところで(新城を助ける)仕事ができなかったのは残念」と悔しがった。また、今回の世界選手権で感じた世界トッププロの走りや、チームメートとして走った2人の先輩選手の走りから「大切な経験を積むことができた。このまま走っていても、現状維持しかできないと思った。もっと世界へ飛び出していかないといけない。年齢的にも自分がナショナルチームを引っ張っていけるようになりたい」と今後への抱負を語った。

結束と機能を高める日本ナショナルチーム

スタート地点で脚にオイルを塗りこむ新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKAスタート地点で脚にオイルを塗りこむ新城幸也(チーム ヨーロッパカー) Photo: Sonoko TANAKA

 選手たちは、日本ナショナルチームの“チーム”としての機能が年々高まっていると話す。「浅田監督の手配によりフランスの自宅からリッチモンドまでストレスなく移動でき、スムースにナショナルチームと合流できた」と別府。新城も「最近はいつも同じメンバーなので、みんな勝手がわかり、チームとしてまとまってきていて、とてもやりやすい」と話し、リッチモンド到着後は腕の良い日本人マッサーによるマッサージを毎日受けて、コンディションがかなり良くなったという。

頼もしいスタッフが増え、年々ステップアップする日本ナショナルチーム Photo: Sonoko TANAKA頼もしいスタッフが増え、年々ステップアップする日本ナショナルチーム Photo: Sonoko TANAKA

 選手もスタッフもふだんは別々に活動しており、大会期間中だけ召集がかかってナショナルチームの一員となるため、悪い言い方をするなら“即席チーム”のような側面は否めない。しかし、プロフェッショナルな人材が増え、国の代表という共通意識のもとにチームとして結束が高まっている。また選手だけでなく、ティンコフ・サクソの宮島正典マッサー、NIPPO・ヴィーニファンティーニの西勉メカニックなど、世界トップの現場で働くスタッフの存在もナショナルチームにとっては強みだ。

走り終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の脚 Photo: Sonoko TANAKA走り終えた新城幸也(チーム ヨーロッパカー)の脚 Photo: Sonoko TANAKA

 そして、いよいよ浅田監督が熱心に取り組んでいるサービスコルス(活動拠点)がフランス・コンピエーニュに完成し、さらには、現在、浅田監督が中心となって、ナショナルチームの延長となるような日本籍プロコンチネンタルチーム設立の動きがあるとされている。新城幸也の17位、そしてジュニア女子の梶原悠未(筑波大附属坂戸高校)の4位など、好成績を残せた今年の世界選手権。その背後で進化を続ける日本ナショナルチームの動向にも、要注目だ。

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