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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<127>世界選手権男子エリートロードレースを検証 選手コメントからサガンの勝因に迫る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 9月20~27日にアメリカ・リッチモンドで開催されたUCIロード世界選手権。最終日に行われた男子エリートロードレースは、ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)が制し、世界チャンピオンの証である虹色のジャージ「マイヨ・アルカンシエル」に袖を通した。若き王者サガンがアタック一発で仕留めた勝利の要因を、サガン本人や、敗れた選手たちらの発言をもとに検証する。

世界選手権ロード男子エリート表彰台、金メダルをかじって“ハルク”ポーズを決めるペテル・サガン(中央) Photo: Yuzuru SUNADA世界選手権ロード男子エリート表彰台、金メダルをかじって“ハルク”ポーズを決めるペテル・サガン(中央) Photo: Yuzuru SUNADA

待って、待って、待った末のアタック

石畳かつ最大斜度19%という、23番通りの上りで猛烈なアタックを決めたサガン Photo: Yuzuru SUNADA石畳かつ最大斜度19%という、23番通りの上りで猛烈なアタックを決めたサガン Photo: Yuzuru SUNADA

 「(勝負のときを)待って、待って、待ち続けた」とレース後に振り返ったサガン。リッチモンドの市街地に設けられた16.2kmの周回コースの勝負どころは、終盤に2カ所設けられた石畳の急坂だ。レースが動くのは、最初に訪れるリビーヒルの上り坂か、その次に迎える23番通りの上り坂になるのか? サガンが勝利を決定づけたのは、23番通りの上りだった。

 ここでのアタックについて、サガンは「単騎になっている選手が勝負する場面はこの場所しかなかった」と述べている。オーストラリア、ベルギー、イタリアなどが複数の選手をメーン集団に残して組織的に走っているのに対し、3選手で出場し、かつ2人のアシストをすでに失っていたサガンにとって、ゴールスプリントを待たず勝負に出ることは自然なことだった。

 同様の見方はズデニェック・シュティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)もレース後にコメントしている。結果的にアタックに失敗して43位に終わったものの、最終周回のリビーヒルを先頭で駆け上がったあたりに、数的不利を跳ね返そうと試みた姿を見ることができる。

 胸のすくようなアタックもさることながら、筆者は直後の下りの走りにサガンの勝因があったと見ている。23番通りの上りを終えた時点では、サガンに続いたフレッヒ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、MTN・クベカ)との差はごくわずか。しかし、その後の下りであっという間に差を10秒以上に広げたのである。

得意の下りで後続を突き放したサガン Photo: Yuzuru SUNADA得意の下りで後続を突き放したサガン Photo: Yuzuru SUNADA

 このところダウンヒルもサガンの代名詞の1つになっている。マウンテンバイクやシクロクロスで培ったダウンヒルテクニックは、今年のツール・ド・フランスでも大いに話題となった。クラウチングスタイルのまま高ケイデンスでペダリングするなど、その巧みな技は、グランツールの山岳ステージで見せる派手さこそなかったものの、世界選手権のゴールで築いた後続とのタイム差3秒に反映されていたのではないかと思っている。

 サガンに続いてメーン集団のスプリントを制し、銀メダルを獲得したマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は、この下りでの動きを悔いた。上りでサガン、ヴァンアーヴェルマート、ボアッソンハーゲンが先行した時点では、3選手が先頭グループを形成すると読み、「この3選手であれば牽制状態になり、集団が合流できると感じていた」と振り返る。ところが、同じオーストラリアチームでダブルエース態勢にあったサイモン・ゲランス(オリカ・グリーンエッジ)と自身のどちらで勝ちにいくかが最後まではっきりしなかったばかりか、下りで独走に持ち込んだサガンに自身の勝機が失われていくのを痛感したという。マシューズはレース後のインタビューで、「サガンを1人で下らせてしまえば、誰も勝つことができないんだ」と話している。

 加えて、追撃を目論んだヴァンアーヴェルマートに対し、ボアッソンハーゲンはノルウェーのエーススプリンター、アレクサンドル・クリツォフ(チーム カチューシャ)を待つために追走に協力しなかったこともあって、よりサガンに有利な展開になったとも言えそうだ。

ついに獲得した金メダルをアピール。表情がほころぶ Photo: Yuzuru SUNADAついに獲得した金メダルをアピール。表情がほころぶ Photo: Yuzuru SUNADA

 大会前のインタビューでは、レース展開の予想やライバルについて聞かれ、「それを考えるのは時間の無駄でしかない」とナーバスな様子だったサガン。レース後には「ブエルタ・ア・エスパーニャの途中リタイアから3週間、多くの犠牲を払ってきた」と話した。この勝利のためにかつてない集中のもと本番に臨んでいたことがうかがえる。一方で、「3週間もレースから遠ざかっていたことで、(世界選手権本番を)どのように走るべきか計算できなかった」とも打ち明けた。数多くの勝利でファンや関係者の心をつかんできた彼であっても、計り知れない苦労や悩みを抱えてスタートラインに立ったのだろう。

 アタックを成功させ、ライバルたちの猛追をかわしたフィニッシュまでのラスト3kmは、これまでの苦難を打ち破る最高のウイニングライドとなったのである。

HCクラスと1クラスのレースでも無線の使用を許可

 ここからは、来シーズンに向けたいくつかの情報をお届けしたい。例年、ロード世界選手権の期間中に、翌シーズンのレーススケジュールの確認やレギュレーション(規則)の決定・変更の話し合いが行われている。今回のアメリカ・リッチモンド大会でも、国際自転車競技連合(UCI)が数点の見直しや決定事項を発表している。

 注目は、レース中の無線使用に関するレギュレーション変更だ。現在は、UCIワールドツアーのレースにのみ使用が限定されているが、来シーズンはUCIコンチネンタル(大陸)ツアーに含まれるHCクラスと1クラスでも使用が許可される。

チームカーの監督と無線で会話するアルベルト・コンタドール=2011年ジロ・デ・イタリア Photo: Yuzuru SUNADAチームカーの監督と無線で会話するアルベルト・コンタドール=2011年ジロ・デ・イタリア Photo: Yuzuru SUNADA

 日本国内で開催されるレースでは、ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)とジャパンカップ(UCI1.HC)が今回の決定に該当する。

 同時に、2016年における男女のUCIワールドツアー日程も発表された。8月にリオデジャネイロ五輪が開催されることや、カタールで行われるロード世界選手権が10月に実施されることなどが関係し、例年とは異なるレーススケジュールとなっている。また、女子は今年まで行われてきた「UCI女子ワールドカップ」を発展させ、「UCIウイメンズ・ワールドツアー」と改称。ジロ・デ・イタリア・インテルナツィオナーレ・フェッミニーレやラ・クルス・バイ・ル・ツール・ド・フランスを含んだ全17戦で争われる。

 UCIコンチネンタルツアーの日程もいくつか決定しており、日本国内開催レースについては、ツアー・オブ・ジャパン(UCI2.1)が5月29日から6月5日、ツール・ド・熊野(UCI2.2)が6月16日から19日、ツール・ド・北海道(UCI2.2)が9月1日から3日と発表されている。

●2016年UCIワールドツアー

1月19~24日 サントス・ツアー・ダウンアンダー(オーストラリア、2.UWT)
3月6~13日 パリ~ニース(フランス、2.UWT)
3月9~15日 ティレーノ~アドリアティコ(イタリア、2.UWT)
3月19日 ミラノ~サンレモ(イタリア、1.UWT)
3月21~27日 ヴォルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(スペイン、2.UWT)
3月25日 E3ハーレルベーク(ベルギー、1.UWT)
3月27日 ヘント~ウェヴェルヘム・イン・フランダースフィールズ(ベルギー、1.UWT)
4月3日 ツール・デ・フランドル(ベルギー、1.UWT)
4月4~9日 ブエルタ・シクリスタ・アル・パイス・ヴァスコ(スペイン、2.UWT)
4月10日 パリ~ルーベ(フランス、1.UWT)
4月17日 アムステルゴールドレース(オランダ、1.UWT)
4月20日 ラ・フレッシュ・ワロンヌ(ベルギー、1.UWT)
4月24日 リエージュ~バストーニュ~リエージュ(ベルギー、1.UWT)
4月26日~5月1日 ツール・ド・ロマンディ(スイス、2.UWT)
5月6~29日 ジロ・デ・イタリア(イタリア、2.UWT)
6月5~12日 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(フランス、2.UWT)
6月11~19日 ツール・ド・スイス(スイス、2.UWT)
7月2~24日 ツール・ド・フランス(フランス、2.UWT)
7月12~18日 ツール・ド・ポローニュ(ポーランド、2.UWT)
7月30日 クラシカ・シクリスタ・サン・セバスティアン(スペイン、1.UWT)
8月20日~9月11日 ブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン、2.UWT)
8月21日 クラシックス・ハンブルグ(ドイツ、1.UWT)
8月28日 ブルターニュクラシック・ウエスト・フランス(フランス、1.UWT)
9月9日 グランプリ・シクリスト・ド・ケベック(カナダ、1.UWT)
9月11日 グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル(カナダ、1.UWT)
9月19~25日 エネコ・ツアー(オランダ・ベルギー、2.UWT)
10月1日 イル・ロンバルディア(イタリア、1.UWT)

●2016年UCIウイメンズ・ワールドツアー

3月5日 ストラーデビアンケ(イタリア、1.WWT)
3月12日 ウイメンズ・ワールドツアー・ロンド・ファン・ドレンテ(オランダ、1.WWT)
3月20日 トロフェオ・アルフレド・ビンダ-コムーネ・ディ・シッティグリオ(イタリア、1.WWT)
3月27日 ヘント~ウェヴェルヘム・イン・フランダースフィールズ(ベルギー、1.WWT)
4月3日 ツール・デ・フランドル(ベルギー、1.WWT)
4月20日 ラ・フレーシュ・ワロンヌ・フェミニン(ベルギー、1.WWT)
5月6~8日 ツアー・オブ・チョンミンアイランド・ワールドカップ(中国、2.WWT)
5月19~22日 アムジェン・ツアー・オブ・カリフォルニア(アメリカ、2.WWT)
6月5日 フィラデルフィア・インターナショナル・サイクリング・クラシック(アメリカ、1.WWT)
6月15~19日 アビバ・ウイメンズ・ツアー(イギリス、2.WWT)
7月1~10日 ジロ・デ・イタリア・インテルナツィオナーレ・フェッミニーレ(イタリア、2.WWT)
7月24日 ラ・クルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス(フランス、1.WWT)
7月30日 プルデンシャルライド・ロンドングランプリ(イギリス、1.WWT)
8月19日 クレセント・ウイメン・ワールドカップ・ヴォルゴーダTTT(スウェーデン、1.WWT)
8月21日 クレセント・ウイメン・ワールドカップ・ヴォルゴーダ(スウェーデン、1.WWT)
8月27日 グランプリ・ド・プルエー-ブルターニュ(フランス、1.WWT)
9月11日 マドリードチャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ(スペイン、1.WWT)

※レース名、カテゴリーはUCIの発表による
※リオ五輪は8月5~21日開催
※UCIロード世界選手権は10月9~16日にカタール・ドーハで開催

今週の爆走ライダー-タイラー・ファラー(アメリカ、MTN・クベカ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 世界選手権男子エリートロードレース。残り11kmで飛び出すと、約6kmにわたる逃走劇。勝負どころを前にメーン集団に捕まってしまったが、地元アメリカの大応援を背に十分に見せ場はつくった。

地元アメリカのウェアを着てアタックしたタイラー・ファラー(アメリカ、MTN・クベカ) Photo: Yuzuru SUNADA地元アメリカのウェアを着てアタックしたタイラー・ファラー(アメリカ、MTN・クベカ) Photo: Yuzuru SUNADA

 とにかく苦しかった。毎周回の終盤に訪れるリビーヒルの上りに差し掛かるたびに、集団から遅れるのではないかという恐怖と戦っていたという。粘った末、ラスト1周までメーン集団に残ったが、「このままではどうがんばっても第2集団でのフィニッシュが精いっぱい」と、悔いを残すことが目に見えていた。いまアタックすればメーン集団より前で石畳に行けるかもしれない、そんな思いでトライしたのだった。

 結果は失敗に終わったが、「最初から最後まで鳥肌が立ちっぱなしだった。6時間半もハイペースで走り続けたのは初めて。これもみんなの応援のおかげだよ」と満足そうな表情を見せた。奇しくも、レースのあった9月27日は親友であり、ベルギーでのトレーニングパートナーであったワウテル・ウェイラントの31回目の誕生日。2011年ジロ・デ・イタリアでの事故で命を落とした仲間を思う気持ちも、きっとあったはずだ。

今季から南アフリカ籍のMTN・クベカに所属 Photo: Yuzuru SUNADA今季から南アフリカ籍のMTN・クベカに所属 Photo: Yuzuru SUNADA

 押しも押されもせぬアメリカを代表するスプリンターとして、3つのグランツールすべてで勝利を収めた経験を持つ。このほど、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、エティックス・クイックステップ)の移籍加入が決まり、チームメートとなるが「大きなきっかけになると思う。彼は史上最高のスプリンターなんだ。チームにきっとフィットするよ」と歓迎する姿勢を見せ、スプリントトレインへの貢献に意欲を見せた。

 近年はけがで以前のようなキレのある走りは見られなくなったが、もう一度花を咲かせる心積もりでいる。世界選手権で見せたあのアタックこそが、彼の心境を表しているのかもしれない。“タイラー・ファラー第2章”が、今まさに始まろうとしている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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