女子エリートの與那嶺は落車後に精密検査世界の壁に跳ね返された若き日本代表チームの苦闘 経験を次世代につなぐ男子ジュニア

by 田中苑子 / Sonoko TANAKA
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 米バージニア州リッチモンドで開催されたUCI(国際自転車競技連合)ロード世界選手権で、ジュニア男子は日本ナショナルチームが最も力を入れてきたカテゴリーと言えるだろう。2年前から、ジュニアカテゴリーの有力選手を集めてUCIネイションズカップ出場を中心とする海外遠征を積極的に行い、世界のレベルに追いつくための取り組みや体制作りが進められてきた。9月26日、ロードレース男子ジュニアのレースには、4選手がスタートラインに立った。

最終周回に入るジュニア男子のレース。石上優大(エカーズ・横浜高校)がメーン集団に残った Photo: Sonoko TANAKA最終周回に入るジュニア男子のレース。石上優大(エカーズ・横浜高校)がメーン集団に残った Photo: Sonoko TANAKA

リッチモンドのコースに向けて選ばれた4人

 今回のメンバーは、ジュニア2年目の石上優大(横浜高校)、小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ)、そしてジュニア1年目で全日本チャンピオンの沢田桂太郎(東北高校)、渡邉歩(学法石川高校)。この4人が選ばれたのは、選考合宿での調子に加え、集団走行ができ、リッチモンドのコースに向いている脚質であることも考慮された。昨年の世界選手権ロードレースで17位に入り、海外でのレース経験も豊富で、リーダー的存在である石上が若き日本代表チームのキャプテンを務めた。

 男子ジュニアのレースは周回コースを8周回する129.6km。午前9時、いまにも雨が降り出しそうな灰色の空の下、17、18歳の若い選手たちがスタートを切った。悪天候が予想され、また前日のU23のレースで落車が頻発したこともあり、日本チームの作戦は、前半は常に集団の前方で走り、終盤になって生き残った選手で協力しながら上位をめざす―というサバイバルレースを想定したものだった。ジュニア男子を指揮する柿木孝之コーチは「今回のコースでは、最初から前にいることが勝つための第一条件」と話す。

ネイションズカップなど世界の大会で経験を積むジュニアカテゴリーの日本人選手 Photo: Sonoko TANAKAネイションズカップなど世界の大会で経験を積むジュニアカテゴリーの日本人選手 Photo: Sonoko TANAKA
2回目の世界選手権出場となる石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA2回目の世界選手権出場となる石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA
レース前に固定ローラーを使ってアップをする小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKAレース前に固定ローラーを使ってアップをする小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKA
雨に備えてクリアのサングラスを選択した小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKA雨に備えてクリアのサングラスを選択した小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKA
スタートを待つ石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKAスタートを待つ石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA

パワーも経験も不足 世界との差が明らかに

 しかし、1周目に小野、3周目に沢田、4周目に渡邉が濡れた路面で落車してしまい後退。それぞれメーン集団に復帰するまでに脚を使ってしまい、また慣れない石畳での位置取りにも苦しんだ。最終周回では石上がなんとかメーン集団に食らいついたものの、クライマーである石上向きのコースではなかったこと、また石上自身にも終盤の優勝をかけた争いに参加する脚が残っていなかった。

 石上はトップから3分18秒差の70位、沢田は12分30秒差の93位でフィニッシュ。小野と渡邉は途中棄権となった。

 柿木コーチは、世界の壁に跳ね返されたレース結果を前に「非常に残念」と肩を落とした。細い石畳の上りにおける集団走行では何度も踏み直す必要があり、パワーを要求されるが、そのような脚質の選手が日本チームにはいなかった。また、こうしたコースはこれまでネイションズカップに組み込まれていなかったこともあり、経験不足が現れてしまった。

リビーヒルの石畳を越えていく沢田桂太郎(東北高校) Photo: Sonoko TANAKAリビーヒルの石畳を越えていく沢田桂太郎(東北高校) Photo: Sonoko TANAKA
石畳での位置取りで脚を消耗する選手が多かった Photo: Sonoko TANAKA石畳での位置取りで脚を消耗する選手が多かった Photo: Sonoko TANAKA
リビーヒルを走る渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKAリビーヒルを走る渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKA
集団のやや前方で石畳を越えていく石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA集団のやや前方で石畳を越えていく石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA

 レース結果について、石上は「世界との差が明白になった気がする」と率直に分析する。

 「トラブルを避けるために、前半は脚を使っても集団の前方に食らいついていた。最後の坂でも、残り2周目まで、すごくキツイというわけではなかったけど、最後になって少しずつ溜まっていた疲れがドッと出てしまった」

 集団から遅れた最後の上りではスピードがすごく速かったわけではないが、勝負に加わることができなかった。「脚が削られてから、どれだけ勝負ができるかというのが大切だと思う。そこから力を出せた選手が勝負に絡めたのだと思う」と石上は悔しがった。

70位でレースを終えた石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA70位でレースを終えた石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA

 昨年の17位と比べるとレース結果は大きく後退したが、石神は「去年が成績が出すぎたように思う。いい成績で(ジュニアの)1年目を過ごしてしまったので、今年は結果を出せずに苦労した」と冷静だ。ジュニア最後のレースを終え、今後はU23カテゴリーへと歩を進める。「U23では、最初はうまく走れないと思うが、2年目、3年目で結果を出せるようにまた頑張っていきたい」と誓った。

他国選手との親交は大きな財産

 近年、JCF(日本自転車競技連盟)はジュニアやU23世代の強化に取り組んでおり、石上をはじめジュニアの選手たちが順調にステップアップしていることも事実だ。12人前後の強化指定の選手たちのほとんどは、UCIネイションズカップなどで世界レベルの戦いを経験している。

スタートラインで笑顔を見せる石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKAスタートラインで笑顔を見せる石上優大(エカーズ・横浜高校) Photo: Sonoko TANAKA

 「ジュニア時代は、まず多くのことを経験することが大切。チームカーの使い方など、世界レベルで戦うために最低限必要なことを知ってもらいたい。ここでの経験を、浅田監督が率いるU23のナショナルチームに引き継いでいくことが使命です」と柿木コーチは話す。

 また選手たちは遠征を通じて、他国の同年代の選手たちと親交を深めている。例えば日本の選手たちは、今季のネイションズカップのシリーズ戦覇者であるアメリカチームと仲がよく、アメリカの選手がレース中に「日本なら入ってもいいよ」と集団内の場所を譲ってくれることもあるという。レースを通じて仲良くなれるのはジュニアカテゴリー特有の経験だ。強豪国のジュニア選手は将来、世界のトップ選手になる可能性が高い。この時期に培った同世代の他国選手との友情は、世界をめざす日本の若い選手たちにとって、大きな財産となっていくことだろう。

友だちのアメリカ人選手を見かけ、握手を交わす小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKA友だちのアメリカ人選手を見かけ、握手を交わす小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ) Photo: Sonoko TANAKA
スタートラインで他国の選手と笑顔で会話をする渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKAスタートラインで他国の選手と笑顔で会話をする渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKA

 ジュニア時代にナショナルチームの一員として世界のレースを経験し、そこに挑戦する厳しさや面白さを知り、覚悟をもってU23、エリートで世界を目指そうとする日本の若い選手たち。そして間もなく、2016年度に向けたジュニアの合宿が始まっていく。今度は、先輩2選手に率いられて世界選手権を経験した沢田と渡邉らが、先輩としてジュニア1年目の選手たちに世界で戦うことを教えていく。経験を引き継ぎながらステップアップを重ね、来季もネイションズカップや世界選手権での結果を出すことを目標に活動していく予定だ。

全日本ジュニアチャンピオンの沢田桂太郎(東北高校)は石畳を得意とする Photo: Sonoko TANAKA全日本ジュニアチャンピオンの沢田桂太郎(東北高校)は石畳を得意とする Photo: Sonoko TANAKA
落車し、顔に擦り傷を負った渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKA落車し、顔に擦り傷を負った渡邉歩(エカーズ・学法石川高校) Photo: Sonoko TANAKA

與那嶺はゴールまで残り3kmで痛恨の落車

ゼッケンをつけてレース準備を進める與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKAゼッケンをつけてレース準備を進める與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA

 26日午後1時にスタートした女子エリートカテゴリーは、日本代表に選ばれていた萩原麻由子(ウィグル・ホンダ)が大会直前に鎖骨を骨折したため、與那嶺恵理(サクソバンクFX証券)が単独で出場した。トップ10入りを狙った22日の個人タイムトライアルでは18位に沈み、悔しさを晴らすためにもロードレースで再び10位以内を目指してスタートラインに立った。

リビーヒルを越える與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKAリビーヒルを越える與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA
落車しながらもゴールをめざす與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA落車しながらもゴールをめざす與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA

 序盤から集団のなかでレースを進め、少しずつ前方に位置を上げながら勝負のときを待っていた與那嶺。終盤に向けて、強豪国や優勝候補のトップ選手たちがレースを作っていき、最終周回でメーン集団が逃げていた選手を捉えた。いよいよアルカンシェルを賭けた勝負が始まり、與那嶺は石畳のリビーヒルの上りをメーン集団の中程で越えて残り3kmを通過した。しかし、23番通りに向かう右コーナーで落車してしまう痛恨のアクシデント。急いでバイクに飛び乗ったものの、この時点で與那嶺のレースは終わってしまった。

 落車後も、與那嶺は気力を振り絞って23番通りの急坂を越え、トップから3分33秒遅れの63位でゴール。頭を打っていたため、大事をとって病院で精密検査を受けた。幸いにも大事には至らなかったが、世界選手権で力を出し切れなかった悔しさは大きい。

落車により遅れてしまったものの、最後まで力を振り絞って走った與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA落車により遅れてしまったものの、最後まで力を振り絞って走った與那嶺恵理(サクソバンクFX証券) Photo: Sonoko TANAKA
悪天候ながらも多くの観客があつまったリビーヒルの難所 Photo: Sonoko TANAKA悪天候ながらも多くの観客があつまったリビーヒルの難所 Photo: Sonoko TANAKA

 一方、萩原は今季、女子最高峰のステージレース「ジロ・ローザ」でステージ優勝するなど大活躍を重ねてきたが、9月13日にブエルタ・ア・エスパーニャ最終ステージと併催された女子レース「ラ・マドリッド・チャレンジ」で落車し、鎖骨を骨折してしまったため世界選手権に出場できなかった。今大会は萩原が得意とするコースだっただけに悔しさは拭えないが、萩原は日本での手術を無事に終え、リオ五輪が開催される2016シーズンに向けて気持ちを切り替えている。

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