世界と互角に戦えることを証明日本ロードレース界の歴史を刻んだ世界選ジュニア4位 梶原悠未が見据える東京五輪“金”

by 田中苑子 / Sonoko TANAKA
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 日本サイクルロードレース界の期待の星、女子ジュニアの梶原悠未(筑波大付属坂戸高校)が9月25日、アメリカ・リッチモンドで開催されているUCI世界選手権ロードレースで、日本人の歴代最高成績となる4位に入る殊勲を挙げた。梶原は終始、集団の前方で展開し、同世代で世界トップクラスの選手たちに一歩もひけを取らない堂々の走りで、最後はメーン集団のゴールスプリントの先頭を取ってフィニッシュ。2020年東京五輪の金メダルを目指す梶原は、日本人選手が世界と互角に戦えることを自らの力で証明した。

メーン集団でのゴールスプリントで4位に入った梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKAメーン集団でのゴールスプリントで4位に入った梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA

単騎で参戦、終盤に勝負

スタートサインを行う梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKAスタートサインを行う梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA

 25日に始まった個人ロードレース種目で、女子ジュニアカテゴリーは午前10時にスタートする最初のレース。1周約16.2kmの周回コースを4周回する64.8kmで争われた。梶原は今年2月のアジア選手権でロード、トラックの計5種目の金メダルを獲得したこの世代の第一人者。その高い実力から、日本人初のロードレース世界王者の期待も寄せられるほどで、大きなプレッシャーがかかるなかでレースに臨んだ。

1周回目の集団の先頭でリビーヒルを越えた梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA1周回目の集団の先頭でリビーヒルを越えた梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA
石畳が敷かれたリビーヒルの登りはいくつものコーナーが連続する Photo: Sonoko TANAKA石畳が敷かれたリビーヒルの登りはいくつものコーナーが連続する Photo: Sonoko TANAKA

 スタートすると、梶原は序盤から集団の前方でレースを展開していった。このレースに出場した日本人選手は1人だけだったため、チームとして戦略を作ることはできない。他の強豪国の動きを見ながら走るしかない状況だが、梶原には作戦があった。基本的に逃げには乗らず、最後の勝負どころに賭ける。何人かが逃げても、終盤にはそれを吸収する動きがあるはずで、逃げを吸収してから単独で仕掛けることが、勝利への最短距離だと考えていた。

2つめの難所である23番通りの急勾配な登坂区間。梶原悠未が集団の前方で越えていく Photo: Sonoko TANAKA2つめの難所である23番通りの急勾配な登坂区間。梶原悠未が集団の前方で越えていく Photo: Sonoko TANAKA

 2周回目で、4日前に行われた女子ジュニア個人タイムトライアル(TT)で2位に入ったエマ・ホワイト(アメリカ)ら3選手が先行。そこへ個人TT世界チャンピオンとなったクロエ・ダイガート(アメリカ)が後方からブリッジをかけて合流し、さらにダイガートが単独で先行し始めた。アメリカは逃げに2選手を送り込む形となった。

2周回目のリビーヒル。右側から優勝選手となるクロエ・ダイガート(アメリカ)が先行しようとする Photo: Sonoko TANAKA2周回目のリビーヒル。右側から優勝選手となるクロエ・ダイガート(アメリカ)が先行しようとする Photo: Sonoko TANAKA

メーン集団の先頭でゴール

 事前に出場選手を詳細に分析していた日本代表チームの柿木孝之コーチによると、このレースで最も注意すべき国は開催国のアメリカだ。近年、若手選手の強化が急速に進んでおり、その成果は女子ジュニアの個人TTでダイガートとホワイトがワンツーフィニッシュという最高の形で証明していた。

ゴールスプリントに備えて集団の2番手で最終コーナーに向かう梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKAゴールスプリントに備えて集団の2番手で最終コーナーに向かう梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA

 数人が逃げる展開は梶原や柿木コーチが予想していたとおりだったが、そこに入ったのは予想を上回る強力な選手たち。また梶原は、逃げにアメリカ勢の2人が入ったことを把握できていなかった。中盤から終盤にかけて、他の有力国の選手たちが逃げを追いはじめ、梶原もそこに加わったが、結果的に捉えることができなかった。単独でアタックを仕掛けるための脚はあまり残っていなかったために、集団ゴールスプリントに備えた。

メーン集団でのゴールスプリントで4位に入った梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKAメーン集団でのゴールスプリントで4位に入った梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA

 最後は見事なスプリントで、メーン集団の先頭を取って4位でゴール。そのとき梶原は、逃げが3人だとは知らず、スプリントで3位に入れたと思ったという。しばらくして自分の成績が4位だと知り、勝てなかった悔しさに加えて「せめて表彰台」という望みも断たれ、その瞳から大粒の涙があふれた。けれども、自分の力でブリッジをしかけて前に追いつく脚が残っていなかったことも事実。「自分の力が足りていなかったんです。逃げ切った選手は本当に強い」と勝者を称えた。

悔しさの中で未来につながる自信

 これまでの日本人選手の世界選手権ロードレースにおける最高成績は、2010年大会男子エリートにおける新城幸也の9位。梶原の4位は、カテゴリーは違うものの、歴代最高を塗り替える好成績だ。現場にいた関係者みんなが彼女の走りを称えだが、梶原は「勝つことだけが目標でした」と下を向いた。一方で、これまで苦手としていた位置取りや集団スプリントなどがうまくいった場面もあり、悔しさの中で未来につながる自信も手にいれた。

23番通りの登坂区間を越える梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA23番通りの登坂区間を越える梶原悠未 Photo: Sonoko TANAKA

 アルカンシェルに手が届きそうな位置でレースを展開した梶原。現在高校3年生だが、自転車競技を始めたのは、意外にも高校入学後と遅い。つまり、わずか2年半で世界のトップクラスまで上り詰めたのだ、その急成長の背景には、恵まれた才能だけでなく人一倍の努力もあった。

 例えば、昨年、今年と2年連続で夏季にスイスのワールドサイクリングセンターでのトレーニング合宿に参加。昨年は英語がほとんどわからなかったが、毎日の通学時間を使って勉強し、今年はコミュニケーションが取れるまでに成長した。語学が上達したことで、トレーニング以外にも栄養学など、アスリートにとって大切な知識を得ることができ、以前よりも絞れた身体で世界選手権に挑むことができた。

 また、先頭を取った今回のゴールスプリントでも、昨年の世界選手権や様々なレースのスプリントシーンを何度も何度も繰り返し研究し、そのイメージを頭に叩き込んでいたという。さらには、スタート直前まで風向きを確認し、考え尽くされた最善のラインを使ってスプリントに挑み、それが見事にハマったのだ。

来年のアジア選手権で萩原麻由子をアシストへ

 梶原の努力を目にする関係者は、誰もが応援したい気持ちになる。さらには、レース後にバイクの調整を担当したメカニックスタッフたちに「完璧な機材でした。ありがとうございました」とお礼の気持ちを伝える礼儀正しさも持ち合わせている。才能、努力、人柄。それらが彼女の強さの秘訣だろうか。

勝利だけをめざしていた梶原悠未。ゴール後には悔しさから涙を見せた Photo: Sonoko TANAKA勝利だけをめざしていた梶原悠未。ゴール後には悔しさから涙を見せた Photo: Sonoko TANAKA

 現在高校3年性の梶原は、今回がジュニアカテゴリーとして走る最後のレースとなり、冬からはエリートカテゴリーへと進む。当面の目標は、エリートでもナショナルチームに選ばれ、来年の1月に日本の伊豆大島で開催されるアジア選手権で、日本のエースとなるであろう萩原麻由子(ウィグル・ホンダ)を支えるような走りをすることだ。そして何よりも大きな目標は、5年後に開催される東京五輪での金メダル。これからも、今まで以上にストイックな生活で競技に打ち込むと誓った。

結果を残せなった男子U23日本チーム

レース準備をする小石祐馬が笑顔を見せる Photo: Sonoko TANAKAレース準備をする小石祐馬が笑顔を見せる Photo: Sonoko TANAKA

 女子ジュニアに続いて開催された男子U23のレースでは、日本ナショナルチームは好調の小石祐馬(CCT p/b チャンピオンシステム)をエースとし、岡篤志、、面手利輝(ともにエカーズ)、 小橋勇利(JPスポーツテストチーム・マッサ・アンデックス)、徳田優(鹿屋体育大学)の5人が出場した。

U23世界選手権ロードレースがスタート。出場した日本人選手にとってU23カテゴリーでは初めての世界選手権 Photo: Sonoko TANAKAU23世界選手権ロードレースがスタート。出場した日本人選手にとってU23カテゴリーでは初めての世界選手権 Photo: Sonoko TANAKA
リビーヒルの頂上を越える小石祐馬 Photo: Sonoko TANAKAリビーヒルの頂上を越える小石祐馬 Photo: Sonoko TANAKA

 小石を温存し、終盤に集団が割れた時にチームが一丸となって小石を先頭集団に送り込み、そこから小石が勝負をしかけるという作戦だった。しかし終盤、小石が痛恨のパンクにより戦線離脱。そこからは、メーン集団に残っていた小橋と面手がそれぞれ自分の力で勝負しかけることになった。

23番通りを走る小石祐馬 Photo: Sonoko TANAKA23番通りを走る小石祐馬 Photo: Sonoko TANAKA
スローパンクをし、遅れをとった小石祐馬を引き上げる面手利輝。このときはパンクに気がつかず、不調だと思っていた Photo: Sonoko TANAKAスローパンクをし、遅れをとった小石祐馬を引き上げる面手利輝。このときはパンクに気がつかず、不調だと思っていた Photo: Sonoko TANAKA
歯を食いしばり最終周回に向かう小橋勇利 Photo: Sonoko TANAKA歯を食いしばり最終周回に向かう小橋勇利 Photo: Sonoko TANAKA
45位でゴールした小橋勇利 Photo: Sonoko TANAKA45位でゴールした小橋勇利 Photo: Sonoko TANAKA

 雨が降り始め、急に滑りやすくなった路面では落車が頻発。そして、足止めを食らいながらも小橋が45位、面手が61位、小石が122位でゴールした。トップ10入りを狙っていた浅田顕監督は、「残念な結果に終わってしまった。1年の集大成だったので、結果を出したかったですね。小石のトラブルはチームカーも下がっていて、タイミングも悪かった」と悔しさを滲ませた。

雨により顔や脚は泥がついた Photo: Sonoko TANAKA雨により顔や脚は泥がついた Photo: Sonoko TANAKA
序盤に落車し、途中でリタイアとなった徳田優は「力がなかった」と振り返る Photo: Sonoko TANAKA序盤に落車し、途中でリタイアとなった徳田優は「力がなかった」と振り返る Photo: Sonoko TANAKA
レース後にレースを振り返る小橋勇利(右)と面手利輝(左) Photo: Sonoko TANAKAレース後にレースを振り返る小橋勇利(右)と面手利輝(左) Photo: Sonoko TANAKA

 この日、最後まで集団に食らいついた小橋は、「後ろで走っていてもあまりメリットがない気がしたので、石畳区間などはできるだけ前に出た。終盤でエースの小石さんが離脱してしまい、そこから作戦を変更することになった。ただ、最終周回に入ってからは、集団のスピードが速く、そこにしがみつくのが必死の状態だった。最後にスプリントの展開になったら前に出ようと思っていたけれど、力がなくてそれができなかった。強豪国がレースを思うように展開している姿が印象的だった。自分たちはその展開に乗るということしかできない。その差は大きいと思った」と振り返った。

 ロードレース2日目の26日は男子ジュニア、女子エリートのレースが開かれる。

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