産経WEST【銀幕裏の声】より「弱虫ペダル」を地でいくロードレーサー 還暦迎えた“リアル坂道くん”山崎敏正さん

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(上)『劇場版 弱虫ペダル』のワンシーン。チーム一丸となって戦う坂道(前列左から2人目)ら=©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会 (下)シルベストサイクルのチームトレーニングで先陣を切る最年長の山崎敏正さん(左から2人目)(上)『劇場版 弱虫ペダル』のワンシーン。チーム一丸となって戦う坂道(前列左から2人目)ら=©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会 (下)シルベストサイクルのトレーニングで先陣を切る最年長の山崎敏正さん(左から2人目)

 アニメ好きの典型的な文系の高校生、小野田坂道が屈強なロードレーサーに成長していく姿を描く長編漫画『弱虫ペダル』のアニメの劇場版が全国で公開中だ。美術部の高校生が、ある日街を駆け抜けるロードレーサーにひと目ぼれし、競技用自転車に乗り始め、数年後に“幻”のモスクワ五輪代表選手に選ばれる…。まるで坂道のような人生をたどったロードレーサーが実在する。大阪、京都に3店舗を展開するロードバイク専門店「シルベストサイクル」の統括店長、山崎敏正さん。今月、還暦を迎えたが、いまだ現役選手として全国の大会に出場し、若手の強豪相手に表彰台に立ち続ける鉄人だ。そんな坂道の人生を地でいく還暦レーサーを紹介したい。(産経新聞大阪文化部編集委員 戸津井康之)

弱虫ペダルで人気沸騰

『劇場版 弱虫ペダル』のワンシーン。自転車と出会い坂道の人生は大きく変わる ©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会『劇場版 弱虫ペダル』のワンシーン。自転車と出会い坂道の人生は大きく変わる ©渡辺航(週刊少年チャンピオン)/劇場版弱虫ペダル製作委員会

 《スポーツにまったく縁のなかったアニメ好きの坂道が、高校で自転車部に入部。平坦コースの得意なスプリンター、登り坂を得意とするクライマー、そしてオールラウンダーのチームのエース。メンバーそれぞれが自分の役割を果たし、助け合いながら長距離の戦いを制するロードレースの世界の奧深さを知った坂道は猛練習を積み、メキメキと頭角を現していく…》

 漫画家、渡辺航さん原作で現在、少年漫画誌で連載中の『弱虫ペダル』はコミックスの累計発行部数が1300万部を超える人気漫画だ。

 「『弱虫ペダル』の影響で、ロードバイクを購入し、乗り始める人たちが激増しています。特に女性層に人気が広がっていますね」。競技人口も少なく、まだロードバイクが市民権を得ていなかった時代を知る山崎さんは真っ黒に日焼けした顔をほころばせ、うれしそうに語る。

 ロードバイクを専門に扱うシルベストサイクルでは入門用バイクもあるが、フレームだけで数十万円という高額な上級者用バイクを購入する本格派の愛好家が多い。

 「店でのロードバイクの販売は一昨年に比べ4~5割アップ、女性の客層は3~4倍にも増えています」と統括店長の山崎さん自身がその人気の急騰ぶりに驚いているという。

 坂道やライバル選手たちが乗るロードバイクと同じフレーム、車種を求めて訪れる女性客も少なくない。「その影響は絶大。正直、ロードバイクがここまでのブームになるとは想像もしませんでした」

「弱虫でも必ず速くなる」

山崎さんの速さの秘密が明かされた『「弱虫」でも強くなる! ひとつ上のロードバイク〈プロ技〉メソッド』(SB新書)山崎さんの速さの秘密が明かされた『「弱虫」でも強くなる! ひとつ上のロードバイク〈プロ技〉メソッド』(SB新書)

 統括店長であり、現役のロードレーサー。山崎さんはロードバイクを知り尽くす立場から、部品選びに走行テクニック、トレーニング理論など、これまでの競技人生で身に付けた知識を、このほど刊行された新書のなかで余すところなく披露している。

 タイトルは『「弱虫」でも強くなる! ひとつ上のロードバイク〈プロ技〉メソッド』(SB新書)

 現実にロードレースの世界では、生まれつき運動神経に恵まれた体育会系の人間ばかりが活躍しているわけではない。山崎さんや坂道のように運動音痴と思い込んでいた“弱虫”が突然、覚醒することは珍しくないのだ。

「ずっと乗り続けたい」。レースとはうって変わり、ふだんは柔和な笑顔の山崎敏正さん「ずっと乗り続けたい」。レースとはうって変わり、ふだんは柔和な笑顔の山崎敏正さん

 「誰でも鍛えれば鍛えるほど必ず速くなります」。還暦となっても、「いまだ成長途上にある」という山崎さんの言葉に嘘はない。

 シルベストサイクルには、山崎さんに憧れ入社してくる自転車競技の経験者が多く、早朝の勤務前の練習や休日、山崎さんとともに汗を流すのが日課だ。

 「練習で一緒に走っていても、若い私たちが追いつかないんです」と若い女性スタッフが言う。実は彼女自身、ロードレースの大会の女性部門上位入賞の常連だ。

美術少年 → 幻の五輪代表

 山崎さんの経歴を知って驚かないものはいないだろう。まるで、『弱虫ペダル』の主人公、坂道のキャリアそのものなのだ。

 「昔から屈強なスポーツマンだったのでは、とよく誤解されますが、もともと私は文系の人間。幼い頃から絵画が好きで中・高校時代は美術部員でした。将来は美大へ進学して絵画の世界へ進もうと考えていたのですが…」と笑う。

 昭和30年、大阪市生まれ。府立の高校に通う2年のときに転機は突然、訪れる。

 「17歳の頃でした。街ですれ違ったロードバイクのあまりの美しさ、格好良さに魅せられて…」

著書の出版記念トークショーでは、女性ロードレーサーの西加南子さんと語り合った =2015年7月21日、東京新宿・のブックファースト新宿店Photo: Ikki YONEYAMA著書の出版記念トークショーでは、女性ロードレーサーの西加南子さんと語り合った =2015年7月21日、東京新宿・のブックファースト新宿店 Photo: Ikki YONEYAMA

 速く走ることを目的に、一切の無駄を排して作られたロードバイクの洗練された美しさに、「この機能美に勝るものはない、と美術部員の視点から惹かれたんです」と振り返る。

 さっそくアルバイトで貯金し、大阪から京都の自転車店へ出掛け、変速機付きの自転車を買い、「美しさだけではない、走る楽しさ、気持ちよさを知った」という。

 本格的に自転車競技を始めたのは20歳から。山崎さんはメキメキと頭角を現し、トラック種目で日本記録を叩(たた)き出し、そして55年のモスクワ五輪自転車競技(4000m個人追い抜き)の日本代表にまでのぼりつめるのだ。しかし、日本はモスクワ五輪をボイコットし、山崎さんの出場も幻と終わった。

還暦迎えまだまだ現役 生涯ロードレーサー

 モスクワ五輪の出場は幻と終わるが、山崎さんは実業団選手として世界の競技会に参戦。その後、いったん競技選手を引退するが、自転車メーカーに社員として残り、自転車部品の企画から開発、営業などを担当。ビジネスマンとして世界を転戦し、欧米などの大手自転車メーカーとしのぎを削ってきた。

 「自転車部品を抱えて世界各国に出張しました。米国の空港では、自転車好きの税関職員から『この部品は凄いな。説明してくれ』などと質問攻めにあったり…」。当時から米国は自転車競技が盛んで、その人気ぶりを肌で感じながら、山崎さんはビジネスマンとして自転車の世界市場の第一線で戦い続けてきたのだ。

 ビジネスマンとなってからは、「自転車競技は趣味程度で続けています」と謙虚に語るが、57歳のときに実業団レースで優勝。最年長記録を作り、昨年も同大会で入賞するなど衰えを見せない。

コーナーを猛スピードで駆け抜ける山崎敏正さん=平成22年、滋賀県で開かれたクリテリウム大会で(撮影: Kei Tsuji)コーナーを猛スピードで駆け抜ける山崎敏正さん=平成22年、滋賀県で開かれたクリテリウム大会で(撮影: Kei Tsuji)

 「選手としてロードバイクに乗り、自転車メーカーで部品の企画・開発を担当し、今は統括店長として自転車の販売が仕事。さまざまな立場で得た自転車の知識を多くの人に伝えたい」と意欲は尽きない。

 「もし私が運動神経に恵まれ、スポーツ選手としてロードバイクに乗り始めていたら、たぶん還暦まで乗ることはなかったと思う。17歳のとき、美術部員の視点で見たロードバイクの美しさへの憧れ。それが忘れられないから、今も乗り続けているのだと思います」

産経WESTより)

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