気仙沼ワンウェイフォンドを疾走復興作業で亡くした兄を偲んで被災地を再訪 地元の一体感を感じた「ツール・ド・東北」

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 東日本大震災の被災地で亡くなった兄を偲び、宮城県の三陸沿岸で9月13日に開かれたサイクリング大会「ツール・ド・東北」に、約1300km離れた広島県大崎上島町から単身で初参加した男性がいた。菅尚貴さん(43)は、気仙沼市から石巻市まで95kmを駆け抜ける「気仙沼ワンウェイフォンド」に出場し、無事に完走。「いつかは息子と一緒に走りたい」と、再びこの地を訪れることを誓った。

三陸海岸のコースを疾走する菅尚貴さん Photo: Shusaku MATSUO三陸海岸のコースを疾走する菅尚貴さん Photo: Shusaku MATSUO

ロードバイクがきっかけに

復興作業中に亡くなった菅具徳さん復興作業中に亡くなった菅具徳さん

 菅さんの1つ年上の兄、菅具徳さんは、東日本大震災の復興作業で砂利運搬船に乗船していたが、震災から3カ月後の2011年6月、岩手県大船渡市で、船内で作業中に事故に遭って亡くなった。享年40歳だった。

 当時、菅さんは具徳さんの遺体を引き取るため、広島県から母と共にクルマで岩手県へ向かったが、大船渡の周辺ではまだ交通網が麻痺し、なかなかたどり着くことができなかったという。現地で火葬を行い、遺骨を乗せて広島に戻った。長い長い道のりだった。

 「もう東北の地を踏むことはない」と思っていた菅さんだが、再び三陸を訪れるきっかけとなったのはロードバイクだった。1年ほど前に趣味としてロードバイクに乗り始め、最近は週末を中心に100〜150kmのトレーニングに励んできた。ロードバイクの魅力に夢中になり、レースやイベントへ本格的に遠征する手始めにツール・ド・東北を選んだという。

復興が進む様子を確認

 出場したコースは、気仙沼市を出発して石巻市へと向かう「気仙沼ワンウェイフォンド」。スタート地点の気仙沼から、具徳さんが亡くなった大船渡までは30km程度と近い。

兄を偲んで参加した菅尚貴さん Photo:Shusaku Matsuo兄を偲んで参加した菅尚貴さん Photo:Shusaku Matsuo

 大会前日の9月12日、早めに気仙沼に到着した菅さんは、具徳さんが亡くなった大船渡の港まで足を延ばし、手を合わせた。震災直後の混乱の中で訪ねた時と同じようにクルマで向かったが、「今は復興が進み、道が整っていたのでスムーズに行けた」という。

 具徳さんが手がけた復興がしっかり進んでいる様子を確認した菅さんは、翌日の大会本番に向けて期待を膨らませ、「エイドステーションで地元のグルメを楽しみ、気持ち良く走りたい」と話した。

将来は「息子と一緒に参加したい」

 大会当日の朝、スタート地点の気仙沼プラザホテル前は青空と穏やかな日差しに包まれた。気仙沼ワンウェイフォンドの参加者が次々に出発していく中、菅さんは後方で出発を待つ。「地元の方に後ろからのスタートを勧められた。自分のペースで走り、景色やエイドステーションを楽しみたい」と、三陸海岸のコースをゆっくり楽しむ考えだ。

アップダウンが多いコースを淡々と走る Photo:Shusaku Matsuoアップダウンが多いコースを淡々と走る Photo:Shusaku Matsuo

 走り始めてからは、エイドステーションに到着するたびに足を止めてゆっくり休んだ。「沿道の方々の応援が多く、驚いた。振る舞われる食事もとても美味しい」と、ツール・ド・東北の魅力を味わった。

 コースは、震災で多くの犠牲者を出した南三陸町の防災対策庁舎の近くを通過する。菅さんはコースを逸れて防災対策庁舎の前に立ち、手を合わせて犠牲者を弔った。

多くの犠牲者が出た南三陸町防災対策庁舎で手を合わせた菅尚貴さん Photo:Shusaku Matsuo多くの犠牲者が出た南三陸町防災対策庁舎で手を合わせた菅尚貴さん Photo:Shusaku Matsuo

 スタートから6時間ほどかけてゴールの石巻専修大学に到着。無事に走り終えた菅さんは、「素晴らしいコースで、距離もちょうど良かった」と、今年新設された気仙沼ワンウェイフォンドを満喫した様子。また、「何より地元の方々の一体感を強く感じた」と、震災を乗り越えて大会参加者を迎えてくれた住民の温かさに感謝した。

 今回は一人で参加した菅さんだが、「小学2年生の息子が中学生くらいに成長したら、一緒にこのイベントに参加して走りたい」と、未来に思いを馳せた。

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