世界へのステップに位置づけ若手を成長させる国際レース「ツール・ド・北海道」 大学チームもプロにもまれて奮闘

by 田中苑子 / Sonoko TANAKA
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 9月11~13日に開催された「ツール・ド・北海道(UCI2.2)」は、日本で開かれるステージレースの中で特に“若手の登竜門”としての役割が強い大会だ。主催者は「ここから世界で活躍する選手が育ってほしい」という思いから、出場するUCI登録チームに対し、“26歳以下の選手が主体となるメンバー構成”を要請しており、さらに毎年多くの大学チームを招待している。若手選手のさまざまな戦いにスポットを当てつつ、3日間の大会を振り返った。

兄の山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)と弟の大喜(鹿屋体育大学)がともにアタックに反応する。元喜も鹿屋体育大学の卒業生 Photo: Sonoko TANAKA兄の山本元喜(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)と弟の大喜(鹿屋体育大学)がともにアタックに反応する。元喜も鹿屋体育大学の卒業生 Photo: Sonoko TANAKA

北海道から世界に羽ばたいて

 今年のツール・ド・北海道には、大学チームが5チームが出場した。UCI2クラスのレースであれば、UCI登録でないチームも出場でき、クラブチームが出走することは多いが、U23カテゴリーのレースを除いて、出場にあたって年齢についてのルールがあるのは珍しい。

 大学生をはじめとした若手選手を多く出場させる理由を、大会ディレクターの山本隆幸さんに聞いた。山本さんは「ツール・ド・北海道は1987年の第1回大会から、大学生、実業団チーム、そして海外チームが一緒に走ってきた伝統があります。現在、世界のトップレースで活躍する新城幸也選手(ヨーロッパカー)も、過去にはツール・ド・北海道を走っている。ツール・ド・北海道で若い選手たちが様々なことを経験し、それを次のステップにつなげて、世界に羽ばたいていってほしいと思っているからです」と説明する。

閉会式で挨拶をする山本隆幸大会ディレクター。若手選手の活躍を毎年楽しみにしている Photo: Sonoko TANAKA閉会式で挨拶をする山本隆幸大会ディレクター。若手選手の活躍を毎年楽しみにしている Photo: Sonoko TANAKA
第2ステージで、「プロに挑戦したかった」と果敢に逃げた山本大喜(鹿屋体育大学) Photo: Sonoko TANAKA第2ステージで、「プロに挑戦したかった」と果敢に逃げた山本大喜(鹿屋体育大学) Photo: Sonoko TANAKA

本場同様のレーススタイルを経験

 大学生にとって、ツール・ド・北海道に出場するメリットはとても大きい。たとえば、街から街へと移動する本格的なラインレースであることは大きなメリットだ。刻一刻と変化するコースや風向きに対応してレースを進めることは、国内で主流の周回コースでは得られない経験だ。また、ロードレースの本来のスタイルであるチームカーを使ってのレースも、国内で経験できる機会は非常に少ない。学生にとって北海道は本場のロードレースと同様のスタイルを経験できる、数少ないチャンスの大会なのだ。

ジュニア時代にナショナルチームとして世界選手権など国際レースに出場した経歴をもつ草場啓吾(日本大学)。大学1年目で初めて挑んだ北海道は総合59位だった Photo: Sonoko TANAKA)ジュニア時代にナショナルチームとして世界選手権など国際レースに出場した経歴をもつ草場啓吾(日本大学)。大学1年目で初めて挑んだ北海道は総合59位だった Photo: Sonoko TANAKA)

 今年のインカレで総合3連覇を達成し、これまでに多くのプロ選手を輩出している鹿屋体育大学の黒川剛監督は「学生たちにとって、ツール・ド・北海道は『ぜったいに出ないといけないレース』という認識」と、出場する価値の大きさを説明する。

 黒川監督は「出場できるチームとできないチームとでは、経験できること、与えられることの差は大きい。選手だけでなくスタッフも、ツール・ド・北海道に育ててもらっている。ここに出ないことにはステップアップできない」と話す。出場するためは学生のレースでのランキングが関わっており、現在、各大学ではツール・ド・北海道の出場枠をかけての、熾烈な戦いもあるという。

大学を卒業したあとの将来につながる

第3ステージで3位でゴールした黒枝咲哉と黒川剛監督(鹿屋体育大学) Photo: Sonoko TANAKA第3ステージで3位でゴールした黒枝咲哉と黒川剛監督(鹿屋体育大学) Photo: Sonoko TANAKA

 鹿屋体育大学は、最終ステージで19歳の黒枝咲哉がプロ選手に混ざってスプリント勝負をし、ステージ3位で日本人選手として唯一表彰台に立った。第2ステージでは山本大喜が果敢に逃げるシーンもあった。同大学は、これまでに表彰台5回、ステージ優勝を3回挙げており、近年のツール・ド・北海道において、大学チームを代表する存在となっている。

 最終ステージで3位に入った黒枝咲哉は、ツール・ド・北海道は「学生にとっては普通では経験できないことが経験できる場所」と話す。具体的にはプロ選手たちの走りを間近で見ることが、「大学を卒業したあとの将来につながる経験」になっているという。鹿屋体育大学の卒業生も今大会は6人が出場。大学生たちがプロ選手として活躍する大学OBの走りから学ぶことは多く、またここでの活躍が、UCI登録チーム加入への近道にもなっている。

 黒川監督は「鹿屋の選手たちは挑戦して撃沈して強くなるのがスタイル。そのなかでチャンスを掴んでいく。プロ選手に怒られながらも育ててもらっている。迷惑をかけてしまうこともあるけど、ここでご指導いただきながら強くなっている」と話している。

最終ステージで区間3位に入った黒枝咲哉が表彰台に立つ。「勝てなくて残念だけど、上位が格上のプロコンチの選手であることが救い」 Photo: Sonoko TANAKA最終ステージで区間3位に入った黒枝咲哉が表彰台に立つ。「勝てなくて残念だけど、上位が格上のプロコンチの選手であることが救い」 Photo: Sonoko TANAKA
閉会式を終えて、鹿屋体育大学の在学生と卒業生で記念撮影。今年はチャンピオンシステムから出場の徳田優を含め現役生が6人、卒業生が6人出場した Photo: Sonoko TANAKA閉会式を終えて、鹿屋体育大学の在学生と卒業生で記念撮影。今年はチャンピオンシステムから出場の徳田優を含め現役生が6人、卒業生が6人出場した Photo: Sonoko TANAKA

若いプロ選手も大会を通じて成長

総合優勝したリカルド・スタッキオッティ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ)もプロ2年目の23歳と若い選手 Photo: Sonoko TANAKA総合優勝したリカルド・スタッキオッティ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ)もプロ2年目の23歳と若い選手 Photo: Sonoko TANAKA

 一方、出場した若いプロ選手にもメリットはある。

 たとえば今年の優勝チームのNIPPO・ヴィーニファンティーニも、33歳のダニエーレ・コッリ(イタリア)をキャプテンとしたが、その他4選手はすべて23歳の若い選手で編成した。個人総合優勝をはたしたリカルド・スタッキオッティ(イタリア)もまだ23歳。「主催者の意向を汲んだチーム編成であり、チームにとって勝利を狙うにはベストとは言いがたく、イタリア側は今回のメンバー選考を心配していたのも事実」と大門宏監督はレース後に打ち明けた。

 絶対的エースのいないNIPPOは、第1ステージでは誰もがエースになる可能性を秘めていた。今回出場した若い選手たちは、通常はエースのために走るのが使命。しかし今回は、自らエースとして走ることができる貴重なチャンスだった。そのため、若手選手は高い士気をもって挑み、第1ステージの結果スタッキオッティが総合成績で首位に立つと、若手選手が主体となってリーダージャージを守り切った。

チーム一丸となり、リカルド・スタッキオッティ(イタリア)のリーダージャージを守ったNIPPO・ヴィーニファンティーニ Photo: Sonoko TANAKAチーム一丸となり、リカルド・スタッキオッティ(イタリア)のリーダージャージを守ったNIPPO・ヴィーニファンティーニ Photo: Sonoko TANAKA

 同チームは今季はこれまで勝利に恵まれず、“リーダージャージを守る”という走りを経験してこなかった。UCI登録上は格上のプロコンチネンタルチームで、結果的に圧勝とみられる成績を残したが、エリートカテゴリー1年目、2年目の23歳の若い選手たちはベテラン選手であるコッリに導かれて、一致団結して戦い、ツール・ド・北海道で貴重な経験を積んだのだ。

◇      ◇

 大会ディレクターの山本さんは「今後も同じように大学生や若手選手が多く出場できる大会にしていきたい」と抱負を語る。来年は30周年の記念大会となるツール・ド・北海道。年々、開催日数が縮小されてしまっているが、とくに若い世代の選手たちにその存在価値は大きい。一人でも多くの選手が、世界で活躍できるように。その最初のステップとして、ツール・ド・北海道は若い選手たちの挑戦を見守り続けている。

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