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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<125>ブエルタ現地特別編アールを総合優勝に導いたアスタナのチーム力 ブエルタ・ア・エスパーニャ2015総括

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 シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが9月13日に閉幕しました。今大会は事実上の最終決戦となった第20ステージまで総合争いがもつれ込む接戦となりました。そこで今回は、総合優勝を争った2人の主役、ファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)とトム・ドゥムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)を中心に、現地取材で得た関係者のコメントなどをもとに大会を振り返ります。

第20ステージで総合優勝を確実なものにしたファビオ・アールが、アシストとして活躍したルイスレオン・サンチェスを称えながらゴール Photo: Yuzuru SUNADA第20ステージで総合優勝を確実なものにしたファビオ・アールが、アシストとして活躍したルイスレオン・サンチェスを称えながらゴール Photo: Yuzuru SUNADA

ヴィノクロフGMがアールに望むのは「ツールの頂点」

 最終日前日の第20ステージ、アールは早い段階でのペースアップでドゥムランを引き離し、有利な展開に持ち込んだ。逃げに乗り生き残っていたアシスト陣も終盤でしっかりと機能し、エースを総合優勝へと導いた。

第21ステージで全身マイヨロホカラーに身を包んだファビオ・アール。赤のバイクにもご満悦 Photo: Syunsuke FUKUMITSU第21ステージで全身マイヨロホカラーに身を包んだファビオ・アール。赤のバイクにもご満悦 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)やミケル・ランダ(スペイン)らエースクラスの選手が多くメンバーに名を連ねたことで「誰がエースなのか」に興味が集まったアスタナ プロチームだったが、ニバリは第2ステージでチームカーにつかまる違反行為で失格となった。一方でアールは終始高いレベルで安定した走りを見せ、エースの座を確固たるものにした。

 マイヨロホを手繰り寄せる大きなポイントとなったのは、やはり第17ステージの個人TTだったと言えるだろう。2分以内に4選手がひしめき、なかでも総合トップから1分51秒差につけていたTTスペシャリストのドゥムランが圧倒的有利だった状況で、アールもステージ10位と健闘。トップに立ったドゥムランと総合タイム差3秒にまとめたことは、その後の山岳ステージで逆転の大チャンスがめぐってきたことを意味していた。

 第18ステージでは再三アタックを仕掛けるもドゥムランに粘られ、続く第19ステージでは途中の落車が影響してドゥムランとのタイム差が6秒に開いてしまった。しかし厳しい山岳での登坂力を考えれば、1級山岳が4つ登場した第20ステージで力の差を見せつけたことは、目論見通りだったと言えるだろう。

 今大会は終盤2ステージでゼネラルマネジャーであるアレクサンドル・ヴィノクロフ氏がチームに合流。アールの総合での逆転とマドリードでの表彰台に立ち会った。そこで、今回のアールの勝利についてヴィノクロフ氏に質問をぶつけてみた。

アスタナのゼネラルマネジャー、アレクサンドル・ヴィノクロフ氏 Photo: Syunsuke FUKUMITSUアスタナのゼネラルマネジャー、アレクサンドル・ヴィノクロフ氏 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

――アールの総合優勝おめでとうございます。勝因はどこにあったとお考えですか?

 「ありがとうございます。勝因を挙げるとするならば、スタッフによる徹底したチーム管理とアシスト陣のパーフェクトな働きだ。アールはもちろん素晴らしい走りを見せたが、マドリードにたどり着いた7選手が全員最高の走りだったと褒めてあげたいね」

――持ち前の登坂力に加え、長距離TTへの適応力が身に付いてきたことで、アールにはグランツールレーサーとしての今後にも期待がかかります。これからのターゲットはどのレースになるでしょうか?

 「まずは今年、ジロ・デ・イタリアとブエルタで結果を残したことを評価したい。ただ、近いうちに新たな目標を設定する必要がある。個人的な意見だが、アールには次なるターゲットとしてツール・ド・フランスの頂点を目指してほしいとの思いがある」

ツェイツとともに山岳アシストとして貢献したルイスレオン・サンチェス Photo: Syunsuke FUKUMITSUツェイツとともに山岳アシストとして貢献したルイスレオン・サンチェス Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 また、チームのプレスオフィサー(広報担当者)であるジェフリージョン・ピッツォルニ氏は、「チーム全体の勝利だ」としながらも、貢献度の高かった選手について「ルイスレオン(・サンチェス、スペイン)とアンドレイ(・ツェイツ、カザフスタン)だ」と明言した。サンチェスは山岳でのハイペースな集団牽引を担い、ツェイツは主にメーン集団のコントロールを担当。第20ステージでは追い上げを試みたドゥムランのチェックに入り、追撃の芽を摘んだ走りでチームに大きく貢献した。

 今大会は失格になったニバリのほか、落車でパオロ・ティラロンゴ(イタリア)を失うなど、アスタナ プロチームにとっては逆境の連続だった。完走こそ果たしたもののアレッサンドロ・ヴァノッティ(イタリア)も歩くことがままならないほどの落車のダメージがあったという。そんな中でのブエルタ制覇。第20ステージフィニッシュ後に人目をはばからず涙したヴァノッティやダリオ・カタルド(イタリア)の姿が、その喜びと苦悩を物語っていたといえるだろう。

第20ステージフィニッシュ後、アールのマイヨロホ獲得に涙したアレッサンドロ・ヴァノッティ(左)とダリオ・カタルド。互いの働きを称え合う Photo: Syunsuke FUKUMITSU第20ステージフィニッシュ後、アールのマイヨロホ獲得に涙したアレッサンドロ・ヴァノッティ(左)とダリオ・カタルド。互いの働きを称え合う Photo: Syunsuke FUKUMITSU

ドゥムランは気持ちを切り替え世界選手権へ

 ノーマークから一気に総合優勝争いの主役に躍り出たドゥムラン。最後の最後に大魚を逃してしまったが、ステージを追うごとに見せた巧みな走りは今後のグランツールでライバルたちに脅威を与え続けることだろう。

 総合争いにおける走りのパターンは明白。TTでタイムを稼ぎ、その貯金を山岳で守るスタンスだ。TTと山岳をバランスよく走る姿は、現地では「ミゲル・インドゥラインの再来」としてファンから受け入れられた。この活躍で将来的に目指す方向性が定まった、と言い切るのは早いかもしれないが、レースプログラムやトレーニング方法のあり方によって、グランツール総合制覇も夢ではないだろう。

第17ステージの個人タイムトライアルで優勝し、総合首位に立ったトム・ドゥムラン Photo: Yuzuru SUNADA第17ステージの個人タイムトライアルで優勝し、総合首位に立ったトム・ドゥムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 また、土壇場で大きな遅れを喫した要因の1つに、山岳アシストの手薄さが挙げられる。チームとしてドゥムランがこれほどの活躍を見せるとの計算ができていなかったことも考えられるが、しっかりとペースメーキングできるアシストライダーを備え、若きオランダ人エースを盛り立てていけるかが今後の課題だ。

第20ステージまでマイヨロホを着用したトム・ドゥムラン。ジャージを守る間もリラックスした姿が印象的だった Photo: Syunsuke FUKUMITSU第20ステージまでマイヨロホを着用したトム・ドゥムラン。ジャージを守る間もリラックスした姿が印象的だった Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 そんなドゥムランは、マイヨロホを守っていた間も表情は明るく、リラックスした姿が印象的だった。大会終盤には「絶好調だ」とコメントするなど、日々自信を深めている様子だった。ジャージを失ったあとの最終ステージも笑顔を絶やさず、悔しそうな素振りは一切見せなかった。

 チーム監督の1人、クリスティアン・ギベルトー氏もドゥムランの成長に目を細める。アールらに逆転を許したことについては、「あれだけのタイム差をつけられてしまっては仕方がない」としながらも、粘りの走りを高く評価した。一方で、「気持ちの切り替えはできている。トムはすでにマイヨアルカンシエル獲得を見据えているよ」とのこと。前回、銅メダルを獲得した世界選手権個人TTでの初優勝を狙う構えだ。

 実際に、今大会の大活躍により、世界選手権個人TTでの優勝候補筆頭に挙げる声も増えてきている。ブエルタの勢いで世界王者の座を奪取できるかに注目が集まる。

1990年生まれ“ゴールデンエイジ”の台頭

 総合トップ10を改めて振り返ってみると、上位常連のベテランに比べ、将来のグランツールを支えるであろう新世代のオールラウンダーが目立ち、世代交代の時が近づきつつあることを印象付けた。

総合3位に入ったラファウ・マイカも1990年生まれの“ゴールデンエイジ” Photo: Yuzuru SUNADA総合3位に入ったラファウ・マイカも1990年生まれの“ゴールデンエイジ” Photo: Yuzuru SUNADA

 総合優勝のアールを筆頭に、1990年生まれの“ゴールデンエイジ”が上位10人のうち半数を占めた。アール以外には、総合3位ラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)、同4位ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、同5位ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)、同6位ドゥムラン。総合10位のルイ・メインチェス(南アフリカ、MTN・クベカ)も1992年生まれの23歳と、将来を嘱望される1人だ。

ベテランのホアキン・ロドリゲスは初のグランツール制覇こそ逃したものの総合2位 Photo: Yuzuru SUNADAベテランのホアキン・ロドリゲスは初のグランツール制覇こそ逃したものの総合2位 Photo: Yuzuru SUNADA

 ブエルタと相性のいいベテラン、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)とアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)はそれぞれ総合2位、7位とまとめた。ロドリゲスは苦手のTTでタイムを失ったことが惜しまれるが、全体を通して高いレベルで安定していた。また、バルベルデはツールの疲労が影響していた感はあるものの、結果的にポイント賞のプントスを獲得したあたりはさすが。キンタナとのダブルエース態勢も機能した。

 来たる世界選手権ロードレースでも、彼らを中心に勝負が繰り広げられる可能性が高い。最終ステージを制したジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)のような上れるスプリンターにも勝機があるとされ、あらゆる展開が予想できるだけに楽しみは尽きない。なお、アールは世界選手権の欠場を表明している。

 今年すべてのグランツールが終わり、シーズンは残りわずか。とはいえ、世界選手権のほか、イル・ロンバルディア、パリ~トゥール、そしてジャパンカップなど、ビッグレースはまだまだ控えている。スペインの地で熱く戦った選手たちはもちろんのこと、新たな力の台頭にも期待したい。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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