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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<124>ブエルタ現地レポート「仕事のクオリティーで勝負」 ティンコフ・サクソの宮島正典マッサーにインタビュー

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 毎週、国内外のサイクルロードレース情報をお届けている「週刊サイクルワールド」ですが、今回はブエルタ・ア・エスパーニャで盛り上がるスペインはブルゴスから現地レポートをお届けします。2度目の休息日となった9月8日、今大会唯一の日本人チームスタッフとして参加しているティンコフ・サクソの宮島正典マッサーを訪問。自身の仕事やチームの雰囲気、所属選手を襲ったレース中の接触事故についてなどを語ってもらいました。

チームの総合エース、ラファウ・マイカとの2ショット撮影に応じるティンコフ・サクソの宮島正典マッサー。マイカはその後、母国ポーランドのメディアによるインタビューに臨んだ Photo: Syunsuke FUKUMITSUチームの総合エース、ラファウ・マイカとの2ショット撮影に応じるティンコフ・サクソの宮島正典マッサー。マイカはその後、母国ポーランドのメディアによるインタビューに臨んだ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

マイカを総合表彰台へ

ホテルの駐車場はほぼ貸切状態。チーム関係車両がズラリと並ぶ Photo: Syunsuke FUKUMITSUホテルの駐車場はほぼ貸切状態。チーム関係車両がズラリと並ぶ Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 休息日のこの日、選手たちは昼頃までに軽めのトレーニングライドで汗を流し、昼食後はそれぞれ休息へ。チームスタッフも昼過ぎには翌日の準備などを済ませ、束の間の休みを楽しんでいた。宮島マッサーは「明日(第17ステージ)は個人タイムトライアルなので、メカニックだけは忙しく過ごしていますよ」と言いながら、チームバスやチームカー、機材トラックが並ぶ駐車場を案内してくれた。

 チームは、総合エースのラファウ・マイカ(ポーランド)が第2週を終えて総合3位につける。持ち前の登坂力でライバルと好勝負を展開し、総合表彰台が見えるところまできている。「ラファ(マイカの愛称)はアマチュア時代からイタリアのトスカーナで過ごしているので、中身はイタリア人。“トスカーナジョーク”も多彩だし、たまに口が悪くなるし…」と笑いながら若きエースについて語る。「ここまではリラックスして毎日を過ごしてきたけれど、さすがにグランツールの総合表彰台がかかっているので、残る数日間はナーバスになるかもしれない」と続けた。

休息日明けの第17ステージは個人タイムトライアル。メカニックはバイク調整に余念がない Photo: Syunsuke FUKUMITSU休息日明けの第17ステージは個人タイムトライアル。メカニックはバイク調整に余念がない Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ジロ・デ・イタリアでは2013年に総合7位、2014年同6位、この年のツール・ド・フランスでは山岳賞と、マイカはグランツールで大きな功績を挙げてきた。しかし、実のところチーム内で「完全エース扱い」を受けて臨むのは、このブエルタが初めてなのだとか。これまでは20歳代前半という“若さ”が考慮されていたが、いよいよ失敗が許されない立場になっているという。

 また、「マイカをアシストするイェスパー・ハンセン(デンマーク)とパヴェウ・ポリャンスキー(ポーランド)も今後に期待できる選手ですよ」と宮島マッサー。彼らはマイカより1つ年下の25歳。プロトンのゴールデンエイジと呼ばれる1990年生まれの2人の働きぶりも、チーム内での評価が高いという。

 そんなやり取りをしていると、マイカが駐車場へとやってきた。母国ポーランドメディアのインタビューを受けるのだという。「じゃあその前に2人で写真を1枚!」と頼むと、快く応じてくれた。そこからはまだ、ナーバスな様子は感じられなかった。

マッサーは8人態勢

 今大会、レースに帯同しているティンコフ・サクソのマッサーは8人。チームにはボディセラピストと呼ばれる専門家が1人いることから、総勢9人で選手の体のチェックをしている。ペテル・サガン(スロバキア)の専属マッサーがサガンの第8ステージ後のリタイアを受けて大会を離脱し、現在はマッサーが1人減ったものの、それでも「マッサージテーブルが7台も並ぶ光景は異様ですよね…」とポツリ。何より、他チームと比較すると、ティンコフ・サクソのマッサーの人数は相当多いのだとか。全員がチームスタッフというわけではなく、年間契約を結んでいる人とブエルタだけのスポット契約の人とがいる。

 宮島マッサーが担当するのは、ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)とマチェイ・ボドナル(ポーランド)の2選手。ボドナルは当初サガン担当のマッサーが就いていたが、大会途中から宮島マッサーが受け持つことになった。ちなみに、“イケメン”として日本でもファンが多いベンナーティは、「ホテルの食事でもピシッと髪型や身なりを整えてくるような男」なのだとか。

ベルギー人マッサーと洗濯方法について確認する正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSUベルギー人マッサーと洗濯方法について確認する正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 マッサーの仕事は、選手の体をマッサージで癒すだけではない。選手がレースやトレーニングで着用したジャージ類の洗濯や、レース時の補給食・ボトルの準備、レース中のサコッシュ受け渡しなど多岐に及ぶ。それだけに、個々の考え方やスタンスが大きく異なってくる部分でもあるという。

 宮島マッサーはその点について、「同じく選手をケアする役割だとしても、“マッサー”や“ソワニエ(世話係)”など呼ばれ方1つでその仕事のあり方が変わっているのが実情」と話す。“マッサー”であれば選手のマッサージに最も比重を置くが、“ソワニエ”であればマッサージはそこそこに、その他雑用に多くの時間を割くというのが実態のようだ。

 「決して選手のケアをおろそかにはしたくない」と宮島マッサー。ボディセラピストと連携を図りながら、選手が常によいコンディションでレースに臨めるよう努めている。

2選手の接触事故にはチーム全体が怒り

 今大会では、ティンコフ・サクソの2選手がレース中にモトバイクに接触するアクシデントに見舞われた。第8ステージではサガンがニュートラルサービスのバイクと接触し落車。第11ステージではセルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)がコーナーでカメラバイクと接触し、左膝下を17針縫う負傷でリタイア。この2件に限らず、大会を通じ関係車両がレース中の選手に近付きすぎているとの指摘が、選手・関係者など各方面から飛び交っている。

 宮島マッサーは「われわれは被害を受けた立場なので、正直なところ怒りしかない」といい、チーム全体の共通認識でもあると述べた。サガンに関しては、落車直後にドクターカーを殴るといった行為がペナルティ(罰金)の対象になったこともチームの不満を大きくしている。

ファンからの記念撮影にボトルを持って応じる宮島正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSUファンからの記念撮影にボトルを持って応じる宮島正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 またパウリーニョのケースでは、コーナーで自らバイクに接触してしまった格好だったが、それでも「下りで勢いが増していた状況で、コーナーの途中でモトバイクが減速していたのが原因の1つになっている」というのがチームの見方だ。

 「少しでもいい映像や写真を押さえたいという点は選手も関係者も理解していて、その中での節度ある動きを求めていきたい」というのが、プロトンとそれを取り巻く環境における課題であると説明してくれた。

契約が続く限りはこの仕事を長くやっていきたい

 イタリアを拠点として8年目、現チームでは4年目の宮島マッサー。チーム内の公用語は英語ではあるものの、選手・スタッフとも多国籍とあってイタリア語やスペイン語なども飛び交っているのだとか。些細なことからスタッフ同士が言い争うこともよくあるといい、「ときには人種差別に近い扱いを受けることだってある」と話す。

 そうした環境で長く仕事を続ける秘訣は、決して落ち込まないことにあるようだ。何を言われても笑顔や冗談で返すくらいのタフさがないと、心身とも疲れ切ってしまう。今では世界を駆け巡っている宮島マッサーも、その領域に到達するまでに「4年はかかった」と話す。

 また、チームスタッフも選手同様実力の世界で、「チーム規模が大きいほど優秀なスタッフがそろいやすい」との実情も明かしてくれた。有力なコネクションがない限り、「仕事のクオリティーで勝負する」しか手はなく、日々の行動や言動を含めた人間性も、高いレベルで働くうえでの評価対象になっているそうだ。

 「もちろん、ここまで大変なことばかり。所属したチームが解散になったこともあるし、周囲の人々の助けもあって今に至っている」と宮島マッサー。今後については、「契約が続く限りはこの仕事を長くやっていきたい」とした。

イエローがひときわ鮮やかなティンコフ・サクソのチームバスをバッグに立つ宮島正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSUイエローがひときわ鮮やかなティンコフ・サクソのチームバスをバッグに立つ宮島正典マッサー Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 インタビューを終えると、ファンやチームスタッフと少しばかり談笑をしたのち、夕方に控えた選手マッサージのためホテルへと戻っていった。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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