はらぺこサイクルキッチン<45>力強い走りを生み出すのは牛肉やマトン 若いモンゴル人選手たちに聞いた食生活
8月23~29日にモンゴルのウランバートル周辺で開かれた全長約900kmを走るマウンテンバイク(MTB)のステージレース「モンゴリアバイクチャレンジ」(MBC)に、夫でMTBプロアスリートの池田祐樹(トピークエルゴンレーシングチームUSA)が出場し、総合4位でフィニッシュしました。世界各国から強豪選手が集まり、完走率も低い過酷なレースでは、モンゴル勢の力強い走りが印象的でした。初めて会った彼らの姿に衝撃を受けた私は、食生活についてお話を聞かせてもらいました。

取材したのは、ロードレースチーム「オート ザム」(AUTO ZAM)に所属しているマラル・エルデネ選手、ボロル・エルデネ選手のお二人です。苗字は同じですが、親戚関係ではないとのこと。
モンゴルは日本と同じアジアの国ですが、食生活には共通点もあれば、初めて耳にするユニークな伝統もありました。彼らの監督は、食生活について厳しい指導をしていましたよ。さっそく選手たちの食と、強さの秘訣をひも解いていきましょう。
食事を減らして、人の2倍練習
マラル選手は2007年にロードバイクに乗り始め、2009年にモンゴル国内のレースで優勝し、現チームの監督にスカウトされました。今年のツアー・オブ・チンハイレイクに出場。MBCは今回が2回目の出場で、第3ステージで優勝するなど活躍し、総合6位につけていましたが、第6ステージで落車により惜しくも途中棄権に。1994年10月15日生まれの21歳。身長182cm、体重72kg。
ボロル選手は、ロードバイクを始めたのは2012年ですが、早くも頭角を現しています。マラル選手と同じくMBC出場は2回目。第1ステージで3位、第6ステージで2位、総合では5位という好成績を残しました。1995年6月8日生まれの20歳。身長186cm、体重74kg。
Q.食事はどなたが作っているのですか?
マラル選手(以下、マ)「基本的には一緒に住んでいる妹が作ってくれますが、今は夏休みで帰省しているので自分で作っています」
ボロル選手(以下、ボ)「母が忙しかったので、中学の時から自分で作っています。今はチームの寮で生活していますが、そこでも自炊しています」
Q.トレーニング量は週にどれくらいですか?
マ「日によって違いますが、ロードバイクには毎日乗っています。軽い練習が休息日みたいなものです。二人とも同じチームなので、ほぼ同じ時間乗っています」


Q.特に好きな食べ物は何ですか?
マ「一番はジャガイモ。そして人参、キャベツ、大根が好きです」
ボ「肉をニンニクやネギなどの野菜と調理したものが好きです。モンゴルでは胃袋や内臓などの肉も食べます」
Q.苦手な食べ物は?
マ「ヌードル。脂っぽいもの。気持ちが悪くなります」
ボ「ピーマンです」
Q.レース中は何を食べていますか?

ボ「バターやジャムをはさんだ食パンを作っています。アルミホイルに包んでレース中やレース後に食べます。エナジーバーは高いし、この方が食べた感じがして元気が出ます。監督の指示で、フィードゾーンでもジャンクフードは食べるなと言われているので(ポテトチップスやグミなどが用意されていました)食べませんでした。水分は、水を飲めと言われています(フィードゾーンに用意されていたのは水とコーラでした)。でもレース中のコーラはおいしいので…飲みました」
Q.食事とトレーニングで意識していることはありますか?
マ「子供のころからぽっちゃりしていたので人の2倍以上練習して、食事も減らして痩せました。体づくりに食事は大事だと思います」
ボ「トレーニングに合わせて、食べる量を調整しています」

Q.将来の夢、目標を教えてください
マ「プロのロード選手として世界で有名なチームに入って、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスに出場し、1ステージでもいいから勝ちたいです」
ボ「もっと頑張って、いい成績を残したいです」
少しシャイで笑顔が可愛い両選手。まだ20歳ながら、すでに多くの経験を積んでいます。これからの活躍を期待しています。
細い選手は羊や馬、がっちりした選手は牛の肉
この選手たちを束ねるるチーム「オート ザム」のウルゼイ・オルシフ監督にもお話をうかがいました。
Q.食事は選手にとって大事だとお考えですか?
オルシフ監督(以下、オ)「食べ物はすごく大事ですし、一番気をつかうところです。選手にはけっこう厳しく言っています。まだ若いから、好きなものを好きなだけ食べてしまうので」
Q.やはりモンゴル選手のパワーの源はマトンなのでしょうか?(ラムは仔羊の肉を指しますが、モンゴルでは大人になった羊の肉であるマトンの方が一般的)

オ「夏は牛、冬はマトンを食べるように言っています。肉の柔らかさが重要で、夏のマトンは硬いのであまり積極的には食べません。柔らかい肉(ただし脂がないもの)は、柔らかい筋肉を作ると考えています。そして選手の体型や体質によっても、合う肉と合わない肉があります。例えば、細い選手には羊や馬を、がっちりした体型の選手には牛を勧めています」
Q.選手をスカウトする際、どういった点で選ばれたのですか?
オ「バイクレースの結果と、体格を見て決めています。田舎育ちの子の方が馬に乗っていて足腰が丈夫で、精神的にも強いですね。都会育ちの子は甘やかされた環境で育つことが多いです」



Q.今後の目標などをお聞かせください。
オ「オリンピックでメダルを取ることです。まだ国から補助金などが出ないマイナーなスポーツなので、スポンサーを獲得しながらもっとメジャーにして、世界に通用する選手を育成していきたいですね」
栄養価の高い遊牧民の保存食「ボルツ」
近年、食べ物が変わったことで若者の平均身長がずいぶんと伸びているそうですが、取材したお二人も180cmを超える長身でした。選手の体格によって食べる肉の種類を変える、というのは面白いですね。試してみる価値はあるかもしれません。

他のモンゴル人選手は、牛肉を極限まで乾燥させた「ボルツ」という肉を持参し、レース後にボルツとお湯をカップに入れて、スープとして飲んでいました。もともと冷蔵庫がない遊牧民の保存食だそうですが、今でも食している人は多く、飲むと汗が吹き出るほど強い栄養があるそうです。
私も滞在中、マトンを始めとしたモンゴルの伝統的な食事をたくさん堪能しました。「力強い走りにつながるわけだ」と納得させられるほど、パワーが湧いてくる食事でしたよ。
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MBCのレースの模様は、年末年始の時期にテレビ放映される予定です。詳細が決まり次第、お知らせいたします。
さて、夏の長期海外遠征も、次が最後の国。韓国へと飛びます!

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。