熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」<2>旅好きの夫婦が教えてくれたアラスカで必須の3アイテム 米アラスカ州ワシラ

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 アメリカ合衆国のアラスカ州アンカレッジは、とても大きな町だった。次の町への抜けるルートが、すぐには分からないほどだ。なんとかアンカレッジを脱出できるハイウェイに辿り着き、その道を真っすぐ進むことにした。僕はアラスカ州第2の都市、フェアバンクスを目指し、約600kmの距離を漕ぎ始めた。

旅好きの夫婦に誘われ、湖畔の彼らの家へ。家の下には桟橋があり、湖でカヤックを漕がせてもらった Photo: Kensuke KUMAGAI旅好きの夫婦に誘われ、湖畔の彼らの家へ。家の下には桟橋があり、湖でカヤックを漕がせてもらった Photo: Kensuke KUMAGAI

<1>サイクリストに優しい街…でも郊外の道はけっこうガタガタ 米アラスカ州アンカレッジ

ハイウェイの洗礼

ハイウェイに乗り始めて、最初の方はサイクリングロードがあったが… Photo: Kensuke KUMAGAIハイウェイに乗り始めて、最初の方はサイクリングロードがあったが… Photo: Kensuke KUMAGAI

 最初の方はハイウェイに沿ってサイクリングロードがあったが、途中からは完全にハイウェイの中を走ることになった。僕の横を100km/h以上のスピードでクルマが通りすぎていく。本格な旅をスタートして、いきなり洗礼を浴びた気分だ。路肩の外側を走って、なるべく車との距離を遠ざけるが、真横を巨大な鉄のかたまりが通っていると思うと、ヒヤヒヤしてしまう。

 ハイウェイを4時間ほど走り、その日のゴールの「ワシラ」という町が近づいてきた。意気揚々と路肩を走っていると、1台の車が僕の前に止まった。助手席にも人がいたので2人だ。運転席から男の人が降りてきて、僕の方へ真っすぐに近づいてくる。警察かな?と思ったが、そうではなかった。

 「これからどこへ行くんだい? もし良かったら家(うち)にきなよ!」

 僕は彼を疑った。実はアンカレッジでも、現地の人の家に泊まらせてもらっていた。旅のしょっぱなから、そんな幸運が連続して起こるわけがないと思った。でも僕は言ってしまった。

途中から完全にハイウェイの中を通る。この先で夫妻に出会った Photo: Kensuke KUMAGAI途中から完全にハイウェイの中を通る。この先で夫妻に出会った Photo: Kensuke KUMAGAI

 「行きます!」

 元気よく、相手にちゃんと聞こえる声で言った。旅の出会いは大切に。もし何かあったら、荷物を捨てて逃げればいい。

 彼の名前は「デビッド」。助手席に座っていたのは、彼の妻の「バーバラ」。紙に地図を書いてもらい、約2時間かけて彼の家を訪ねた。

湖畔の邸宅に招かれて

 そこは湖の近くにある、林に囲まれた自然豊かな家だった。ロッジのような建物が、その背景に上手くマッチしている。まさに、自然とともに過ごす邸宅だ。過去に教師をしていたというデビッドは、今はリタイアしてバーバラと悠々自適の生活を送っている。

 結局僕は、彼らの家に2泊させてもらった。その間、湖で彼らが所有しているカヌーを漕いだり、周りの自然の中を散策をしたりしながら、ゆったりとした時間が過ぎていった。

ログハウスのようなオシャレな作りの家の前に立つ、デビッドとバーバラ Photo: Kensuke KUMAGAIログハウスのようなオシャレな作りの家の前に立つ、デビッドとバーバラ Photo: Kensuke KUMAGAI
彼らが所有しているカヌーとカヤック Photo: Kensuke KUMAGAI彼らが所有しているカヌーとカヤック Photo: Kensuke KUMAGAI
リビングルームで談笑をする時間が多かった Photo: Kensuke KUMAGAIリビングルームで談笑をする時間が多かった Photo: Kensuke KUMAGAI

 ディナーの時間はとても楽しかった。バーバラお手製のグラタンやマフィン、海外に来て初めて食べるスモークサーモンが、気持ちや胃袋を満足させてくれた。

 食事中に色々話をするのだが、僕が喋ることが多かった。僕の家族構成、大学で学んできたこと、これからの旅の行程や、目的など。僕のヘタクソな英語に対しても、嫌な顔ひとつせずに聞いてくれた。彼らが話をする時も、僕が聞き取れるように、ゆっくりと話をしてくれる。美味しい夕飯と一緒に、彼らの優しさも十分に味わった。

外はかなり明るいがディナータイムである Photo: Kensuke KUMAGAI外はかなり明るいがディナータイムである Photo: Kensuke KUMAGAI
バーバラ特製マフィン Photo: Kensuke KUMAGAIバーバラ特製マフィン Photo: Kensuke KUMAGAI
冬の間は動けないので、家でのトレーニングを欠かさないという Photo: Kensuke KUMAGAI冬の間は動けないので、家でのトレーニングを欠かさない Photo: Kensuke KUMAGAI
夫婦の寝室 Photo: Kensuke KUMAGAI夫婦の寝室 Photo: Kensuke KUMAGAI
庭の手入れはデビッドの仕事 Photo: Kensuke KUMAGAI庭の手入れはデビッドの仕事 Photo: Kensuke KUMAGAI

 庭や家庭菜園は、デビッドの手によって、しっかり手入れされていた。さらにデビッドは、なんでもハンドメードしてしまう。離れの倉庫やガレージの小屋など、全て彼が作ったのだという。

 ガレージの中が彼の工房で、そこで自転車のメンテナンスや、木材のカットを行っている。広々としたスペースには、モノを固定するバイス(万力)や電動工具、手作業工具全般、自転車が6台、車が2台置かれている。家や庭からかもし出される優しい雰囲気は、彼のハンドメードからきているのだろう。

デビッド作の倉庫 Photo: Kensuke KUMAGAIデビッド作の倉庫 Photo: Kensuke KUMAGAI
デビッド作のガレージ Photo: Kensuke KUMAGAIデビッド作のガレージ Photo: Kensuke KUMAGAI
ガレージの中の作業スペース Photo: Kensuke KUMAGAIガレージの中の作業スペース Photo: Kensuke KUMAGAI

 また、彼らが旅が好きであることを教えてもらった。ただの旅ではなく、ツーリングロングトリップをしているという。例えば、小径車のブロンプトンに乗り、公共交通機関を使いながらの欧州横断や、アメリカ合衆国の本土を東から西へ、時には北から南へとツーリングロングトリップに出かける。夫婦2人で旅ができるなんて、羨ましい限りだ。

欧州ロングトリップで使用したというブロンプトン Photo: Kensuke KUMAGAI欧州ロングトリップで使用したというブロンプトン Photo: Kensuke KUMAGAI
倉庫天井のサイクルラックも自作 Photo: Kensuke KUMAGAI倉庫天井のサイクルラックも自作 Photo: Kensuke KUMAGAI
工具置き場も自作だという。整理整頓が行き届いている Photo: Kensuke KUMAGAI工具置き場も自作だという。整理整頓が行き届いている Photo: Kensuke KUMAGAI
サルサのバイクにブルックスのサドルを付けたデビッドのバイク Photo: Kensuke KUMAGAIサルサのバイクにブルックスのサドルを付けたデビッドのバイク Photo: Kensuke KUMAGAI
バーバラもキャノンデールに、ブルックスのサドルとリアキャリアを取り付け Photo: Kensuke KUMAGAIバーバラもキャノンデールに、ブルックスのサドルとリアキャリアを取り付け Photo: Kensuke KUMAGAI

アラスカの旅で必要な、3つのアイテム

「熊よけスプレー」はアラスカやカナダでは常時携帯必須だそう。値段は30~40ドル Photo: Kensuke KUMAGAI「熊よけスプレー」はアラスカやカナダでは常時携帯必須だそう。値段は30~40ドル Photo: Kensuke KUMAGAI

 そんな旅の先輩であるデビッド夫妻から、アラスカの旅で必要な3つのアイテムを教えてもらった。

 まずは「熊よけスプレー」。熊が多いアラスカでは必須だという。カプサイシン(唐辛子エキス)を成分に含む、強烈なスプレーだ。これは後に聞いた話だが、同じ旅人が、試しにテント内でスプレーを少しだけ噴射してみたところ、死ぬかと思ったらしい。嗅覚に優れた熊相手には、間違いなく効果的だろう。

 次に「長い紐」。これも同じく熊関係で、なるべく長い紐が良い。キャンプ場に泊まることができず、野宿しなければいけない状況になったとき。ニオイを発する食料を、テント近くに置いておくのは得策ではない。

 そこで紐を使って、食料バッグを高い木に括り付けるのだ。食料を狙う熊が、ニオイにつられて食料を追っても、高い位置にあれば手出しができない。このときテントとの距離は、最低50mを離しておく。

「長い紐」。値段はピンキリだ Photo: Kensuke KUMAGAI「長い紐」。値段はピンキリだ Photo: Kensuke KUMAGAI
「濾過ポンプ」。80〜100ドル Photo: Kensuke KUMAGAI「濾過ポンプ」。80〜100ドル Photo: Kensuke KUMAGAI

 そして「濾過ポンプ」。アラスカは日本とは違い、100km以上の区間で、食料や水を手に入れることができないことがざらにある。食料もそうだが、水が無いとなると、生命の危機にさらされる。川や湖があっても、そのまま飲めば身体に影響がないとは言えない。濾過ポンプを使うことで、安全な飲み水として飲むことが可能になる。アラスカでは売店の数は少ないが、川や湖はたくさんあるので、濾過ポンプが大活躍するのだ。

次なる出会いは…

2日間泊まらせてもらい出発の日 Photo: Kensuke KUMAGAI2日間泊まらせてもらい出発の日 Photo: Kensuke KUMAGAI

 彼からアドバイスもらった後、この3つのアイテムを全て手に入れた。特に濾過ポンプは高頻度で使用しているので、大変助かっている。これからも、いろんな人に出会いアドバイスをもらって、便利なアイテムも増えていくだろう。

 僕はベッド中で、白夜(びゃくや)の沈まない太陽の日差しを受けながら、次なる出会いを妄想していた。

熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)

1984年、横浜生まれ。法政大学文学部英文学科を卒業後、東京3年+札幌3年間=6年間の商社勤務を経て、「自転車で世界一周」を成し遂げるために退社。世界へ行く前に、まずは日本全国にいる仲間達に会うべく「自転車日本一周」をやり遂げる。現在はフリーライターの仕事をする傍ら、3年をかけて自転車世界一周中。
オフィシャルサイト「るてん」 http://ru-te-n.com/

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