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新型マドン開発者の日本人女性に迫る「最先端の製品を作り続ける」 トレックの空力エンジニア鈴木未央さんに日向涼子さんがインタビュー

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 トレックのエアロ製品開発の中心メンバーで、新型エアロロードバイク「マドン」などを手がけた空力エンジニアの鈴木未央さんが、8月に京都で開かれた「TREK WORLD JAPAN 2016」(トレックワールド ジャパン)のために来日しました。日本人女性でありながら、アメリカで自転車開発の最先端を牽引する鈴木さん。その探究心やバイタリティー、そして感性に迫ろうと、トレックユーザーの女性サイクリスト、日向涼子さんがインタビューしました。「自分が最先端の製品を作る人でありたい」と話す鈴木さんの素顔をご紹介します。

最新バイクの開発エピソードから、女性としての働き方まで、さまざまなことを語り合った鈴木未央さん(右)と日向涼子さん =8月5日、国立京都国際会館で開かれた「トレックワールド ジャパン2016」で撮影最新バイクの開発エピソードから、女性としての働き方まで、さまざまなことを語り合った鈴木未央さん(右)と日向涼子さん =8月5日、国立京都国際会館で開かれた「トレックワールド ジャパン2016」で撮影

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見学会でゴーグルを返却し忘れ…「働かせて!」

トレックワールドで展示された新型エアロロード「マドン」トレックワールドで展示された新型エアロロード「マドン」

 日向「鈴木さんは日本人女性で、そしてエアロダイナミクスの専門家ということで、プレゼンテーションに来場した方の多くが興味をもっていましたね。プラズマやオーロラを研究されていたと聞きましたが、それはエアロと関係があるんですか?」

 鈴木「プラズマというのはガスが破裂したものです。大学・大学院ではガスダイナミックという学問を勉強していました。空気もガスですよね。なので根本的にはエアロも同じものを扱っていることになります」

 日向「トレックに入社する時、自分から売り込んだという話をうかがいました」

 鈴木「(米国北部の)ウィスコンシンの大学院で博士課程を終えたあと、仕事に就かずのんびりしていました。当時は(ウィスコンシン州の州都)マディソンに住んでいて、トレック本社が近くにあることを知って、オフィスで一般公開されるパブリックツアーに参加しました。そこでエンジニアたちの説明を聞いて『私、そういうのやりたいし、バックグラウンドがあるからできるし、オフィスの環境もいいからここで働いてみたい』と思ったんです」

 日向「それがきっかけなんですね」

「トレックワールド ジャパン2016」のプレゼンテーションに登壇し、新型マドンの開発過程を説明する鈴木未央さん「トレックワールド ジャパン2016」のプレゼンテーションに登壇し、新型マドンの開発過程を説明する鈴木未央さん

 鈴木「ツアーには工場の見学があって、そこで安全用のゴーグルを渡されるんですが、返すのを忘れて帰っちゃったんです。そのあと、エンジニアリングマネジャーのメールアドレスをネット上で探し出して、『インターンでもいいので、ぜひトレックで働かせてください』『ゴーグルも返さなきゃいけないので、また行きます』というメッセージを送りました(笑)。そうしたら、1時間後に『履歴書を送ってくれ』というレスポンスがきて、次の月曜には仕事が決まりました」

 日向「行動力が素晴らしいですし、ゴーグルを忘れたことにも縁を感じます。レスポンスが早かったというのは、マネジャーの興味を引いたからなんでしょうね」

見た目でわかる空力性能

 日向「鈴木さんが開発に携わった製品はどのくらいあるんですか?」

 鈴木「エアロに関連するものは全てですね。マドン、(タイムトライアルバイクの)スピードコンセプト、それにヘルメット、ホイール、ハンドル、ステムなどです」

 日向「一般的なサイクリストにとって、フレームはなかなか買い換えられませんが、空力性能を向上させようと考えてパーツを一つ替えるなら、何をオススメしますか?」

対談が始まるとすぐに打ち解け、気さくに語り合ったトレックのエアロダイナミクスエンジニア、鈴木未央さん(左)とモデルの日向涼子さん対談が始まるとすぐに打ち解け、気さくに語り合ったトレックのエアロダイナミクスエンジニア、鈴木未央さん(左)とモデルの日向涼子さん

 鈴木「ホイールです。私はいま旧型のマドンに乗っていて、(トレックのパーツ・アクセサリーブランド)ボントレガーの『アイオロス7』というカーボンディープリムホイールを使っています。旧型マドンはエアロダイナミクスを突き詰めたバイクではないのですが、アイオロス7を使っていると、下り坂などではペダリングしなくても他の人を抜かしてしまうくらいよく進みます。また、いいホイールは加速性能が全然違います」

 日向「バイクやアクセサリーの空力性能は、見た目でわかるものですか?」

 鈴木「そうですね。フレームやホイールを見ると、流体力学的な効果などがだいたいわかります。バイクショップに行ったら、他社のバイクが気になって色々見てしまいますね。お店の人からみれば怪しい客かも知れません」

 日向「でも実は、空気がどう流れるかを見てる(笑)」

 鈴木「自転車以外でも、車の設計を見て、ヘルメットの設計に応用できないかなと考えたこともありますね。F1や飛行機までいくと、速度が違いすぎるので、わからなくなってしまいますが」

走り心地とエアロ性能 タイヤはどちらを優先?

 日向「タイヤを選ぶときには、路面抵抗だけではなく、空気抵抗も関係あるんですか?」

 鈴木「両方関係あります。タイヤのサイズによって空気抵抗が変わってきます。23Cから、少し太い25Cになるだけで、エアロダイナミクスの差がすごく出てきます」

 日向「でも、25Cは空気抵抗が大きくても、すごく流行っていますよね」

リラックスした表情を見せる鈴木未央さんリラックスした表情を見せる鈴木未央さん

 鈴木「流行ってますね。乗っていてすごく気持ちいいですし。プロのロードレース選手の間でも、25Cが増えていると聞いています」

 日向「走り心地とエアロ性能と、どちらを優先させるかは難しいですね」

 鈴木「短いタイムトライアルに出場するなら、22~23Cくらいのサイズがいいと思います。長い距離のロードレースであれば、25Cの方が疲れず、パワーを残しながら走れます。空気抵抗は増えますが、最後まで“強く”乗りたいなら、25Cを勧めたいですね。私は通勤の自転車に23Cを使っていますが、ウィスコンシンは農業道路みたいな所もあって、けっこう路面がでこぼこなので『25Cにすればいいのに…』と自分で思いながら乗っています」

男性も女性も同じ 妥協せず意見を言う環境

 日向「乗っている自転車のパーツを、ご自身で替えることはありますか?」

 鈴木「だいたい何でもやりますよ。風洞施設では、バイクのセットアップを限られたスタッフでやらなくてはいけない。フレームから1台のバイクに仕上げるところまでやります」

 日向「え~、すごい! 少なくとも日本では、女性ってメカのことが疎くて、仲間の男性やお店に任せることが多いけれど…」

 鈴木「女性の方がメカに疎いというのはアメリカでも同じですが、トレックのエンジニアとなれば男性も女性も同じ。私ができないのは、高いところに置いてあるものが取れないくらいです(笑)」

鈴木未央さん(右)が開発に携わったエアロヘルメット「バリスタ」について説明を受ける日向涼子さん鈴木未央さん(右)が開発に携わったエアロヘルメット「バリスタ」について説明を受ける日向涼子さん

 日向「エンジニアにはサイクリストが多いんですか?」

 鈴木「ほとんど全員がサイクリストで、レースに出る人も多いです。エンジニアは男性が80人、女性は4人くらいですね。私は男っぽい気性だから違和感がないし、自分に合っていると思います」

 日向「話していてもあまり感じませんが、男っぽいところがあるんですか?」

 鈴木「けっこうズバズバものを言いますね。あと、ミーティングで否定的なことを言われても、全然気になりません」

 日向「日本人だと、そういう場面で個人的に攻撃されているように感じてしまう人が多いですけれど、仕事とパーソナルな面を分けて、サバサバと意見を交わせるんですね」

 鈴木「そうじゃないと、トレックのエンジニアとしては生きていけません。いい製品を作るために、妥協しないで意見を言わなきゃいけない。お互いを尊重しているからこそストレートに言える。最終目標は同じですからね。いい仲間に囲まれていると思います」

コンピューター上で50以上のプロトタイプを作成

鈴木未央さんに次々と質問を投げかける日向涼子さん鈴木未央さんに次々と質問を投げかける日向涼子さん

 日向「新型マドンのプロトタイプはどのくらい作ったのですか?」

 鈴木「コンピュータ上では50以上作成しました。風洞実験施設に持っていた実物は、5つくらい。でもプロトタイプを作る前に、鉄でバイクのフレームの芯を作って、その周りに3Dプリントで作ったヘッドチューブやダウンチューブなどを付け、パズルのように組み合わせて実験しています」

 日向「それだと相当な組み合わせができますね。一方で乗り心地のように、数値化できない要素があると思うんですが、バイクの最終的な形状はどの段階で決定されるんですか?」

 鈴木「以前はそれですごく悩んでいました。風洞実験の結果はよくても、乗り心地のよくないものができあがったりして…。でも今回の開発の際には、快適性に関する構造解析の専門家がいたので、プロトタイプは空気抵抗と乗り心地の両方を計算してから作ることができました」
 日向「快適性も数値化できるんですね」

 鈴木「プロ選手にとっては、レースだけでなくて日頃の練習も長時間なので、快適性は重要です」

 日向「期間の長いツール・ド・フランスなどはともかく、ワンデーレースなら快適性はあまり重要ではないと思っていました。でも、選手は普段の練習でも疲れが残りにくいバイクを選びたいんですね」

 鈴木「ファビアン・カンチェッラーラがドマーネをものすごく気に入っていて、その振動吸収テクノロジーであるIsoSpeed(アイソスピード)を採用することが、新型マドンのコンセプトのひとつでした」

注目されるブランドの仕事が「誇らしい」

 日向「これまでは、エアロロードには快適性を求めてはいけないと思っていたけれど、それが両立できることが分かって、目からウロコが落ちたようでした。あと、ハンドル周りがすごくスッキリしていて、見た目にも驚きました。『変形してロボットになっちゃうんじゃないの?』みたいな(笑)。自分の自転車からワイヤーが出ているのを見ると、旧世代のものに思えてきちゃう」

「次の製品を開発しています」と語った鈴木未央さん「次の製品を開発しています」と語った鈴木未央さん

 鈴木「旧型マドンがトレックワールドで発表された時、販売店の皆さんが試乗中に、警察に通報があったらしいです。リアブレーキがボトムブラケットの下に装着されたから、(一見すると)リアブレーキのない自転車がいっぱい走ってると思ったみたいで(笑)」

 日向「そう考えると、トレックは常に最先端をいっている感じがします。次は何がくるんだろうって、ワクワクしちゃいますよね」

 鈴木「そう言ってくれるとうれしいですね。もう、次のことをやっていますよ」

 日向「新型マドンを見た皆さんはびっくりしたし、反応がよかった。日本のサイクリストたちは、また次を楽しみにしていると思います」

 鈴木「世界的にも『トレックは毎年新しいことをやってくる』と注目されている。そのブランドで仕事をしていることは誇らしいですね」

 日向「そういった時代の最先端の場面に、日本人女性が携わっていることが、日本人としてすごくうれしいです」

トレックの新型エアロロード「マドン」の前で写真に収まる鈴木未央さん(左)と日向涼子さんトレックの新型エアロロード「マドン」の前で写真に収まる鈴木未央さん(左)と日向涼子さん

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