夏休みにベルギーで共同生活10代の選手が欧州ロードレースを経験 橋川健氏の「サイクリングアカデミー」初開催

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 日本で活動するU19(19歳未満:ジュニアカテゴリー)、U17(17歳未満:ユースカテゴリー)の若いロードレース選手たちが、ベルギーを拠点に本場ヨーロッパのレースを経験している。チームユーラシア・IRCタイヤの橋川健監督が企画した若手育成プロジェクト「サイクリングアカデミー」で、7月から8月まで学校の夏休みを利用した約2〜4週間の日程で、15人の高校生や中学生が参加する。 (レポート 田中苑子)

初戦を前に記念撮影を行った「サイクリングアカデミー」参加選手たち。緊張と期待が入り交じる初戦を前に記念撮影を行った「サイクリングアカデミー」参加選手たち。緊張と期待が入り交じる

U23より若い世代で経験を

補給を行う橋川健監督。若手選手の育成に熱心に取り組む補給を行う橋川健監督。若手選手の育成に熱心に取り組む

 2010年に発足したチームユーラシア(2012年よりチームユーラシア・IRCタイヤ)は、本場ヨーロッパで活躍できるプロ選手の育成を掲げ、過去にモトローラ(アメリカ)やトニステイナー(ベルギー)に所属してプロ選手として活躍した経歴をもつ橋川健氏が監督を務めている。チームは発足以来、ベルギーに拠点を構え、選手たちは共同生活を送りながら、本場ヨーロッパのレース環境で日々鍛錬を積んでいる。

 今回のU19、U17カテゴリーを対象とした育成プロジェクト「サイクリングアカデミー」を立ち上げるにあたり、橋川監督は経緯をこう説明する。

スタートラインに並んだ選手たちに橋川健監督がアドバイス。選手たちは緊張を隠せないスタートラインに並んだ選手たちに橋川健監督がアドバイス。選手たちは緊張を隠せない
初戦ながら健闘し、後続集団のスプリントに絡んで23位でゴールした小野寺望初戦ながら健闘し、後続集団のスプリントに絡んで23位でゴールした小野寺望

 「これまでのチームユーラシアは、U23からの活動だった。ヨーロッパでは、U23の選手はすでに淘汰された選手たち。子どものころから競技を始め、U17、U19とカテゴリーが上がるごとに弱い選手はやめていき、強い選手だけが生き残れる。なので、当然彼らのレベルは高く、日本では優秀とされている選手でも、いきなり同じレースを走るとカルチャーショックを受け、壁にぶつかってしまうことも多い。しかし、U19ではそこまでレベルに差はないため、レースのやり方や勝負の流れをつかむことができる。それは将来ヨーロッパで走りたい選手たちにとって、とても良いチャンスやステップになると思う」

ビセヘムで開催されたケルメスレース。隔周で中間スプリントが設定され、ジュニアのレースだが、当然賞金が出るビセヘムで開催されたケルメスレース。隔周で中間スプリントが設定され、ジュニアのレースだが、当然賞金が出る
2戦目は気温15度、雨や風に見舞われた悪天候下でのレースとなった。スタート前に橋川監督のアドバイスを熱心に聞き入る2戦目は気温15度、雨や風に見舞われた悪天候下でのレースとなった。スタート前に橋川監督のアドバイスを熱心に聞き入る

 橋川監督は以前から個別にジュニアカテゴリーの日本人選手を受け入れてきた実績があり、ある選手はジュニアでヨーロッパのレースを経験し、そのあとU23になってもレース展開にスムーズに順応することができた。今回は日本自転車競技連盟(JCF)からも「JCF強化パートナー」という形でバックアップが得られ、ジュニア世代の育成プロジェクトが実現した。

 チームとしての活動も視野に入れ、公募形式で参加選手を募ると、全国各地からプロ選手を夢見る若い選手からの相談や応募が集まり、アッという間に定員に達してしまった。若い選手の熱意は甲乙付け難く、広く門戸を開きたいという橋川監督の思いもあり、今回は定員を超える15人を受け入れることになった。

スタートを待つ吉岡拓也スタートを待つ吉岡拓也
ベルギー特有の悪天候下でのレース。 約60人ほどの選手がスタートを切ったベルギー特有の悪天候下でのレース。 約60人ほどの選手がスタートを切った

さまざまな経験を積む2週間

滞在期間中、数回組み込まれた英会話のレッスン。ベルギーに滞在しレース活動を行う女子選手が先生を務め、和やかな雰囲気で選手たちは英語に慣れていった滞在期間中、数回組み込まれた英会話のレッスン。ベルギーに滞在しレース活動を行う女子選手が先生を務め、和やかな雰囲気で選手たちは英語に慣れていった

 基本的に渡航費および生活に関する経費は自己負担。選手たちは寝食を共にし、ベルギー国内のU19やU17のケルメスレース(市街地で行われる周回レース)を中心に、2週間の期間中に5レース前後を走る。

 また期間中は英会話や自転車のメンテナンス教室なども組み込まれ、なかには親元を離れて初めてパスタ作りを経験する選手も。ここで若い選手たちは本場ヨーロッパでのレースを経験するだけでなく、自転車選手として必要な基礎能力も高める。橋川監督が親身になって指導を行い、チームユーラシア・IRCに所属する先輩選手もトレーニングや補給食作りに付き合う。

レース前の食事は自分たちで用意する。慣れない手つきでパスタを茹でるレース前の食事は自分たちで用意する。慣れない手つきでパスタを茹でる
初めてのレース前、自分たちで作ったパスタを食べる。トマトソースだと思って買ったソースが、味のついていないトマトピューレだった初めてのレース前、自分たちで作ったパスタを食べる。トマトソースだと思って買ったソースが、味のついていないトマトピューレだった
食事を済ませると急いでボトルを準備する。ボトルの洗い方や効率のいい作り方は先輩選手から教わった食事を済ませると急いでボトルを準備する。ボトルの洗い方や効率のいい作り方は先輩選手から教わった

 インターハイ前となる前期(7月下旬)の日程では、U19カテゴリーの高校生5人が緊張した面持ちでケルメスレースに出場していた。ベルギーのケルメスレースは平坦基調ながら、たくさんのコーナーや横風区間などテクニカルな要素が詰め込まれ、初めて走る日本人選手にとっては、その難易度はとても高く、学ぶべきことは山のようにある。しかし橋川監督は「初戦での目標は全員落車しないこと。2週間という短い期間で結果を求めることはしない。ヨーロッパでのレースを経験して、まずは無事に帰国してほしい」と話す。

ケルメスレースの受付は地元のカフェを使って行われることが多い。橋川健監督が出走手続きを手伝うケルメスレースの受付は地元のカフェを使って行われることが多い。橋川健監督が出走手続きを手伝う
受付を済ませてゼッケンを受け取った選手たち。いよいよヨーロッパで初めてレースに挑む受付を済ませてゼッケンを受け取った選手たち。いよいよヨーロッパで初めてレースに挑む
選手たちが驚いた手作りのゼッケン。ゼッケンは使い捨てではなく、返却すると参加費の大部分が返却されるシステムだ選手たちが驚いた手作りのゼッケン。ゼッケンは使い捨てではなく、返却すると参加費の大部分が返却されるシステムだ
初戦のスタート直前。橋川健監督とともに記念撮影。この日は滞在先から3kmほどの隣町でのレースだった初戦のスタート直前。橋川健監督とともに記念撮影。この日は滞在先から3kmほどの隣町でのレースだった
ジュニアカテゴリーのケルメスレースがスタート。鈴木史竜(右)と鳴海颯(左)ジュニアカテゴリーのケルメスレースがスタート。鈴木史竜(右)と鳴海颯(左)
体格のいいベルギー人選手に果敢に食いつく選手たち。この日、完走できたのは3選手だった体格のいいベルギー人選手に果敢に食いつく選手たち。この日、完走できたのは3選手だった

「ヨーロッパでプロに」が共通の夢

 今回、サイクルアカデミーに参加した鳴海颯(G.S.Positivo)は、「最初のレースでは、スピードなどわからず戸惑う感じだった。少しづつ慣れて集団で完走できるようになったが、テクニックの違いも感じている。今回の遠征ではほんの一部かもしれないけど、ヨーロッパのレースを知ることができた。この経験は大きなステップになると思う」と遠征の手ごたえを話す。脚質はクライマー、将来の夢はグランツールの山岳ステージで逃げて勝つ選手になることだ。

ベルギーの市街地を使ったケルメスレース。1周3.5kmほどの周回コースが使われたベルギーの市街地を使ったケルメスレース。1周3.5kmほどの周回コースが使われた
レース後に反省点を話し合う鳴海颯と橋川監督レース後に反省点を話し合う鳴海颯と橋川監督
初戦で完走できず悔しさをみせる門田祐輔初戦で完走できず悔しさをみせる門田祐輔

 取材後にはカナダのネイションズカップに参戦していたJCFの強化指定選手である大町健斗(チームユーラシア・IRCタイヤ)、小野康太郎(スミタ・エイダイ・パールイズミ・ラバネロ)も合流。大町は初戦のケルメスレースで6位に入った。

 参加選手のレベルや課題はそれぞれ異なるが、共通することは「ヨーロッパで活躍するプロになる」という夢をもっていること。橋川監督と選手たちは、レースが終わるごとにオンボードカメラなども使って、反省点や課題点を真剣に話し合っている。また同時期に遠征を行っているシマノレーシングの水谷翔はケルメスレースで毎回入賞圏内で走っており、彼の走りは現実的な目標として、選手たちの刺激となった。

メーン集団から遅れてしまったものの諦めず走り続ける鈴木史竜メーン集団から遅れてしまったものの諦めず走り続ける鈴木史竜
第2戦で完走を果たし、27位でゴールした鳴海颯。得意な登坂区間がコースには組み込まれていた第2戦で完走を果たし、27位でゴールした鳴海颯。得意な登坂区間がコースには組み込まれていた

若い選手たちの未来につなげる

2戦目と同じコースとなった3戦目のレース。前方でアタックがかかり続ける厳しい展開となり、選手たちは後方に取り残されてしまった2戦目と同じコースとなった3戦目のレース。前方でアタックがかかり続ける厳しい展開となり、選手たちは後方に取り残されてしまった

 2週間という短い滞在は、ヨーロッパでの生活やレースに慣れるだけで終わってしまう。しかし、ここで見たことや経験したことは、多感な若い選手たちの未来につながる大きな可能性を秘める。参加選手には高校3年生も多く「この夏に進路を決める」と話す選手もいた。ここでの経験が、彼らの未来にどう生かされていくのだろうか?

 橋川監督は「優秀な選手の発掘が自分にとっての目的。ヨーロッパのレースと日本のレースは違うもの。日本に帰って、無理をしてヨーロッパのスタイルを貫く必要はないが、ここで学んだヨーロッパの走り方や勝ち方を忘れてほしくない。今回参加した選手たちには、ぜひまたベルギーやヨーロッパに戻ってきてほしい」と、参加した選手たちにエールを送った。

懸命に走る吉岡拓也(手前)と鳴海颯(奥)、2人とも現在高校3年生だ懸命に走る吉岡拓也(手前)と鳴海颯(奥)、2人とも現在高校3年生だ
厳しい展開に歯を食いしばる吉岡拓也厳しい展開に歯を食いしばる吉岡拓也
同じレースで3位に入賞した水谷翔(シマノレーシング)。早生まれのため、高校は卒業しているがジュニアカテゴリーの2年目。実力だけでなくセンスの良さが光り、ベルギーの選手たちと互角の勝負を繰り広げる同じレースで3位に入賞した水谷翔(シマノレーシング)。早生まれのため、高校は卒業しているがジュニアカテゴリーの2年目。実力だけでなくセンスの良さが光り、ベルギーの選手たちと互角の勝負を繰り広げる

後半はU17の選手が中心

 8月末まで行われるチームユーラシア・IRCタイヤの「サイクリングアカデミー」は、今後はU17の選手が中心となる。8月21日から23日には、ウエストフランデレン・サイクリングツアーへの参戦が決まり、U17カテゴリーとしては貴重なステージレースへの参戦となる。

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