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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<119>早くも“ストーブリーグ”開幕 大型移籍も相次ぐこの秋の動向に要注目

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 2015年のサイクルロードレースシーズンは後半戦へと突入しています。この時期になると、レース結果とともに賑わうのが選手の移籍情報。各チームは所属選手との契約更改や、契約最終年を迎えた他チームの有力選手の獲得交渉など、慌ただしい日々を過ごします。そこで、8月1日に解禁された移籍の情報を中心に、注目選手の動向を押さえていきましょう。

チーム スカイを去り、BMCレーシングへ移籍することが決まったリッチー・ポート(オーストラリア) =2015年7月26日(写真・砂田弓弦)チーム スカイを去り、BMCレーシングへ移籍することが決まったリッチー・ポート(オーストラリア) =2015年7月26日(写真・砂田弓弦)

UCIが定める移籍に関する規則

 サイクルロードレースの移籍市場は、国際自転車競技連合(UCI)によって毎年8月1日からの情報解禁が認められている。表向きは契約書へのサインなども8月に入ってから行うものとされる。とはいえ、実態として有力選手への正式オファーは各チームとも早くから行っており、チーム首脳による「ラブコール」的な関係づくりはかねがねレース会場などで進められている。

 つまり、7月31日までは契約書へのサイン、チームまたは選手からのオフィシャルリリース(公式発表)を行ってはいけないとされているだけであり、両者の合意や仮契約は済まされていることが多い。

ツール・ド・フランスは無事に閉幕したが、舞台裏では選手の移籍をめぐる駆け引きが活発化していた =2015年7月26日、パリ・シャンゼリゼ大通り(写真・砂田弓弦)ツール・ド・フランスは無事に閉幕したが、舞台裏では選手の移籍をめぐる駆け引きが活発化していた =2015年7月26日、パリ・シャンゼリゼ大通り(写真・砂田弓弦)

 もっとも、グランツールやクラシックなどのビッグレースで結果を残すほどの選手であれば、多くのチームが獲得に名乗りを挙げるだけに、少しでも早く合意に達し、他チームに交渉の余地を与えないことも重要になってくる。ツール・ド・フランスの休息日に動きが加速することも多く、ツールでの活躍の度合いによって一気に移籍交渉が進むパターンもある。

 これはサイクルロードレースに限らず、多くのプロスポーツに当てはまることだが、移籍市場が活性化する“ストーブリーグ”はチームの資金力の差が出る要素の1つでもある。トップシーンで戦うチームである以上、能力・人気、将来性などに富んだ選手を獲得し、強固なチーム体制を築きたいとの意識が働くのは当然だ。

 一方で移籍によって、これまでエースとして走っていた選手が、新チームではアシストに回る、といったケースも少なくない。チームの意向やコンセプトを選手が受け入れられるかどうかも移籍のポイントで、彼らにとっては人生を左右する大決断を迫られることになる。

 なお、所属チームとの契約延長交渉に関する制約はUCI規則に定められておらず、シーズン中いつでも締結することが可能。したがって、シーズン序盤で契約延長の合意に達したり、ビッグレースで活躍して翌年の大幅待遇アップを勝ち取ったりする選手も存在する。

ポートがBMC入り クフィアトコフスキー、ランダも移籍発表間近か

 そのような規則や慣行を踏まえつつ、8月に入って移籍が正式発表された選手たちを見ていきたい。

 動向が最も注目されていた選手の1人であるリッチー・ポート(オーストラリア、チーム スカイ)は、BMCレーシングチーム入りが発表された。移籍情報解禁の8月1日に全体の一番乗りで発表したあたりに、チームの並々ならぬ思いが込められていると言えそうだ。

ツール・ド・フランス2015 第12ステージで、山岳賞ジャージ「マイヨアポワ」を着て走るリッチー・ポート =7月16日(写真・砂田弓弦)ツール・ド・フランス2015 第12ステージで、山岳賞ジャージ「マイヨアポワ」を着て走るリッチー・ポート =7月16日(写真・砂田弓弦)

 2012年にサクソバンク・サンガード(現ティンコフ・サクソ)からチーム スカイ入りしたポートだが、このときもBMCが熱心にオファーしており、どちらを選ぶかで揺れ動いた経緯があるという。以後4年間、BMCのゼネラルマネージャーであるジェームズ・オシュウィッツ氏はラブコールを送り続けていたといい、相思相愛のもと実現した移籍だ。

 新天地での活躍を期するポートは当然、エース待遇でのチーム加入となる。当面の目標は、3月のパリ~ニースとヴォルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(カタルーニャ一周)での総合2連覇と公言。不動のエース、ティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ)との棲み分けも注目されるが、ダブルエースとしてツールに臨みたいと意気込む。

BMCレーシングを率いて先頭を走る総合エースのティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ) =2015年2月22日(写真・砂田弓弦)BMCレーシングを率いて先頭を走る総合エースのティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ) =2015年2月22日(写真・砂田弓弦)
今年のジロ・デ・イタリア第4ステージ終了時点で総合リーダージャージ「マリアローザ」を獲得したサイモン・クラーク(オーストラリア) =2015年5月12日(写真・砂田弓弦)今年のジロ・デ・イタリア第4ステージ終了時点で総合リーダージャージ「マリアローザ」を獲得したサイモン・クラーク(オーストラリア) =2015年5月12日(写真・砂田弓弦)

 また、今年のジロ・デ・イタリア第10ステージでは、チームの垣根を越えてホイール提供を受けペナルティが科せられる事態が発生したが、このときの相手であるサイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)をアシストに据える提案をチーム側が出しているとも言われ、今度こそチームメートとして共闘が実現するかもしれない。

ティンコフ・サクソからオリカ・グリーンエッジに移籍するクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク) =2015年5月14日(写真・砂田弓弦)ティンコフ・サクソからオリカ・グリーンエッジに移籍するクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク) =2015年5月14日(写真・砂田弓弦)

 オリカ・グリーンエッジは8月3日、ティンコフ・サクソからクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)を獲得すると発表した。平地や石畳を得意とし、今年のジロでは総合優勝したアルベルト・コンタドール(スペイン)を支えるなど、評価の高い選手。昨シーズンはジャパンカップで来日して10位に入るなど、日本でも馴染みのある選手だ。

 情報解禁日の8月1日が土曜だったことから、発表のペースは少々緩やかな印象だが、これから次々に大物の動向が明らかになるはずだ。

現ロード世界チャンピオンのミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)も、エティックス・クイックステップからの移籍が確定的な状況だ =2015年7月16日、ツール・ド・フランス第12ステージ(写真・砂田弓弦)現ロード世界チャンピオンのミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド)も、エティックス・クイックステップからの移籍が確定的な状況だ =2015年7月16日、ツール・ド・フランス第12ステージ(写真・砂田弓弦)

 ポートに並ぶ目玉とされるミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、エティックス・クイックステップ)の移籍も確定的な状況だ。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)、トム・ボーネン(ベルギー)らビッグネームがひしめくスーパーチームにあって、25歳にして世界王者の証、マイヨ・アルカンシエルを着る彼の年俸は高騰している。資金力が豊富なチームとはいえ、各選手へ支払うお金のやり繰りは難しいという事情があるようだ。

 加えて、「ミハウにグランツールは難しい」と述べるゼネラルマネージャーのパトリック・ルフェヴェル氏の言葉に不満を抱いていることも明らかにしており、新たなチームでグランツールの総合成績を狙っていきたいとの意向を示している。

 今年のジロで総合3位と躍進したミケル・ランダ(スペイン、アスタナ プロチーム)もグランツールでチームリーダーとなるべく、移籍を決断しているという。現チームにはヴィンチェンツォ・ニバリ、ファビオ・アール(ともにイタリア)という看板ライダーが所属しており、違った環境で自らのチャンスを膨らませたいとの希望があるようだ。

“金の卵”が躍動 トレーニーも続々チームに合流

 移籍に関する規則とならび、UCIでは8月1日から各チームにトレーニー(研修生)の採用を認めている。1チームあたり最大3選手が加入でき、採用されるのはおおむね23歳以下(アンダー23)の選手が中心だ。

 彼らは、本来の所属チームとあわせ、トレーニー登録するチームからもレース出場が可能。出場できるのはHCクラス以下のレースが対象となり、UCIワールドツアーのレースへの参戦は認められない。

 若い年代でトップを走る彼らだが、トレーニー採用されたからといって、必ずしもプロ契約をつかむことができるとは限らないのが、サイクルロードレース界の厳しさ。各チームは一人ひとりの個性や適性を見ながら、翌シーズン以降の正式採用を検討する。

 今シーズンは、8月1日時点でUCIワールドチーム、同プロコンチネンタルチーム、同コンチネンタルチーム合わせて74選手がトレーニーとして採用されている。

20歳の新星フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア)。8月2日のライド・ロンドン・サリー・クラシックで8位に入った © Etixx - Quick-Step / Tim de Waele20歳の新星フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア)。8月2日のライド・ロンドン・サリー・クラシックで8位に入った © Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 その中でも高い期待を集めているのが、エティックス・クイックステップに合流したフェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、20歳)。1月のツール・ド・サンルイス(アルゼンチン、UCI2.1)で、カヴェンディッシュをスプリントで撃破し彗星のごとく現れた選手だ。その後、2月の世界選手権トラックでは、オムニアム(6種目の混成競技)で完勝。ロード、トラックともにこの年代ではナンバーワンとの呼び声が高く、すでに来シーズンからの正式契約を締結している。

 ガヴィリアは、8月2日のライド・ロンドン・サリー・クラシック(イギリス、UCI1.HC)に出場し、8位でフィニッシュ。レース後半で形成された逃げグループに加わり、見せ場を作る上々の走りをみせた。7カ月前に勝利したカヴェンディッシュとチームメートになり、コンビネーションを高めている段階でもある。

 もちろん、ガヴィリア以外にも“金の卵”は多数。ぜひ未来のトップライダーにも目を向け、今から贔屓の選手を見つけておこう。

今週の爆走ライダー-マッテーオ・ペルッキ(イタリア、イアム サイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 8月2日に開幕したUCIワールドツアー、ツール・ド・ポローニュ(ポーランド)。大会序盤はスプリントステージが続くが、その1つである第2ステージをペルッキが制した。ゴール前に大クラッシュが起こる波乱のレースとなったが、好位置をキープして自らの展開に持ち込んだ。

ポーランドで開かれたツール・ド・ポローニュ第2ステージを制したマッテーオ・ペルッキ =8月3日(fot. ATCommunication)ポーランドで開かれたツール・ド・ポローニュ第2ステージを制したマッテーオ・ペルッキ =8月3日(fot. ATCommunication)

 2011年のプロデビュー以来、ジェオックス・TMC、チーム ヨーロッパカーと渡り歩き、現チームに至る。今ではチームが誇るエーススプリンターの1人だ。しかし、今シーズン序盤に2勝して以来、長らく勝利から遠ざかっていた。万全の準備で臨んだはずだったジロも落車負傷でリタイア。大きな失望を味わったばかりか、けがの回復に時間がかかってしまった。

 勝ちに飢えた彼が取った策は、トレーニングキャンプで自らを徹底的に鍛え上げること。ポローニュのためのキャンプまで張り、来たるべき日に備えた。そしてつかんだ勝利は、「私やチームにとってのゴールだけでなく、イアム ファンズ(メーンスポンサー)の創業20周年を飾る勝利だ。チームオーナーとスポンサーに捧げたい」と美酒に酔った。

 夢は自国のビッグレース、ミラノ~サンレモでの勝利。ポローニュ後はブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を予定しているが、「ブエルタで勝ってもそこが頂点だとは思っていない」とキッパリ。26歳のイタリアンスプリンターは、高く、大きな目標に向かって加速していく。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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