上りは妻、下りは夫が速く「ちょうどいい」「サイクリングは人生を変えられる」 トレックのバーク社長夫妻に日向涼子さんがインタビュー

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 7月19日、「ツール・ド・フランス 2015」の第19ステージと同じコースを走る一般参加レース「エタップ・デュ・ツール」に参戦しました。その2日前に、エタップのメーンスポンサーである米国「トレック・バイシクル」社のジョン・バーク社長(John Burke)と、夫人でトレック・トラベルの社長でもあるタニア・バークさん(Tania Burke)にインタビューする時間をいただきました。(レポート 日向涼子)

エタップ・デュ・ツールのスタート前、記念撮影に収まる米トレック・バイシクル社のジョン・バーク社長夫妻と日向涼子さん(中央) =7月19日、仏サン・ジャン・ド・モリエンヌ ©Kenji Hashimotoエタップ・デュ・ツールのスタート前、記念撮影に収まる米トレック・バイシクル社のジョン・バーク社長夫妻と日向涼子さん(中央) =7月19日、仏サン・ジャン・ド・モリエンヌ ©Kenji Hashimoto

エタップ・デュ・ツール出場に向けた最終調整として、トレックの幹部らとライドを楽しんだ日向涼子さん(左から2人目) =7月17日、仏アヌシー ©Kenji Hashimotoエタップ・デュ・ツール出場に向けた最終調整として、トレックの幹部らとライドを楽しんだ日向涼子さん(左から2人目) =7月17日、仏アヌシー ©Kenji Hashimoto

 この日、インタビューの前に、バーク社長夫妻をはじめトレック幹部の方々やご友人たちとのライドにご一緒させていただいたのですが、おふたりは大変仲が良く、また、お互いを尊重している姿にとても感銘を受けました。
そこで、お互い、相手についてどのように思っているのか、また「夫婦かつビジネスパートナー」としてうまくいく秘訣、できれば本音まで伺いたかったので、今回は別々にインタビューを敢行。まずは、ジョン・バーク社長にお話を伺いました。

エタップ・デュ・ツールのスタートゲート付近。メーンスポンサーであるトレック(TREK)のロゴやバナー(旗)が目立った ©Kenji Hashimotoエタップ・デュ・ツールのスタートゲート付近。メーンスポンサーであるトレック(TREK)のロゴやバナー(旗)が目立った ©Kenji Hashimoto

──「エタップ・デュ・ツール」のメーンスポンサーになった経緯を教えてください

 「ツール・ド・フランスと同じコースを走るイベントは他にないし、私自身、実際に走って感動したので、7年ほど前からトレック・フランスがスポンサーになっています」

── ご自身はいつから参加されたのですか

 「10年連続で走っています」

── 奥様も走られるそうですが、普段からおふたりで走ることはあるのでしょうか

 「しょっちゅう一緒に走っていますよ」

── 日本では、走るスピードが違ってケンカになるカップルもいるようですが、おふたりの間でそういったことにはならないのでしょうか

 「アメリカでも同じような問題はあります。しかし、私たちの場合、上り以外は同じくらいのスピードで走るので、そういったことはありません。彼女は、妻でもあるが、サイクリングのベストフレンドでもあり、とても良い関係を築けています」

インタビューで、タニア夫人について「妻でもあるが、サイクリングのベストフレンドでもあり、とても良い関係」と語る米トレック本社のジョン・バーク社長 ©Kenji Hashimotoインタビューで、タニア夫人について「妻でもあるが、サイクリングのベストフレンドでもあり、とても良い関係」と語る米トレック本社のジョン・バーク社長 ©Kenji Hashimoto

── ご自身で実感されている自転車の素晴らしさを、すでに自転車に乗っている人、それとも、これから自転車を始めようとしている人、どちらに伝えたいとお考えでしょうか

 「サイクリングは人生を変えることが出来る志の高いものなので、どちらの人にも実感してほしいと思っています」

2014年8月の来日時、早朝の京都市郊外でサイクリングを楽しむ米トレック・バイシクルの幹部ら2014年8月の来日時、早朝の京都市郊外でサイクリングを楽しむ米トレック・バイシクルの幹部ら

── 確かに、私自身も“自転車によって人生が豊かになった”と感じている一人なので、より多くの人に知って欲しいと考えています

 「例えばエタップは難しいイベントではありますが、トレーニングを積み上げて成功することで、自転車以外のことも自信がついてくる。自転車にはそういう力があります」

── 話は変わりますが、トレックが株式を公開しない理由を教えてください

 「先代の創立者は『悩み事はいらないし、別にお金もいらない。株を公開することで利害関係が生まれ、いろんな意見が出てくる。これ以上の資金もいらない』と考えていました。会社にはそんな背景があり、それが今も続いています」

── 株式を公開すれば、不特定多数の株主の意見を聞かなくてはならず、思い通りの経営が出来なくなる可能性がありますね

 「私たちは目先の利益ではなく、長い目で見て、より良いものを作っていきたいと考えています」

日向涼子さんのインタビューに答えるトレック・バイシクルのジョン・バーク社長 ©Kenji Hashimoto日向涼子さんのインタビューに答えるトレック・バイシクルのジョン・バーク社長 ©Kenji Hashimoto

── バークさんから見て、トレックと他のバイクメーカーとの一番大きな違いを教えてください

 「一番は、人材です。トレックでは、素晴らしい人材が長い年月とともに会社を支え、成長してきました。製品の強さも違いのひとつでしょう。そしてもうひとつ、ユーザーへのアフターケアです。『何か問題があったらメールをして欲しい』とマニュアルにも書いてあって、いま私はちょうど2人の対応をしています」

── えっ? 個人のメールにですか?

 「そうです。そのような企業は他にないと思うし、それがトレックの強みだと言えます」

── それだけ自社製品に自信があるということですね。ところで、ロードバイクのラインナップにはマドン、ドマーネ、エモンダと性格の異なる3つのシリーズがありますが、その中で個人的にどのバイクが一番好きですか?

 「どれもよく乗りますが、それぞれに良さがあって選べませんね…。ロングライドはドマーネが多いかもしれませんが…考えたこともなかったけれど、そうですね。これから乗り方によって変えてみましょうか(笑)」

── すみません。答えにくい質問だったかもしれませんね(笑) 最後に、先日発表された新型マドンについてお伺いしたいのですが、私は日本での発表会で直接目にしたとき、時代の最先端を行くバイクだと感じました。バーク社長は、新型マドンのどこが特に素晴らしいと感じていますか

 「衝撃・振動を吸収するIsoSpeed(アイソスピード)テクノロジーを搭載することで快適性が向上された点は、本当に素晴らしいですね」

ユトレヒト郊外のシアターを使って開催されたトレック「新型マドン」のプレゼンテーションに登壇したジョン・バーク社長 =6月30日、オランダ・ザイスト ©tanakasonokoユトレヒト郊外のシアターを使って開催されたトレック「新型マドン」のプレゼンテーションに登壇したジョン・バーク社長 =6月30日、オランダ・ザイスト ©tanakasonoko
世界のサイクル・ジャーナリストらを集めたプレゼンテーションでお披露目されたトレック「新型マドン」 ©tanakasonoko世界のサイクル・ジャーナリストらを集めたプレゼンテーションでお披露目されたトレック「新型マドン」 ©tanakasonoko

── 確かに、剛性が高いバイクは快適性はあきらめなくてはならないものだと思い込んでいたので、これまでの概念をくつがえされました。ワイヤーが内蔵化されてハンドルの周囲がスッキリした外観にも驚きました。お時間をいただき、ありがとうございました

 「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。エタップは頑張りましょう!」

◇         ◇

 バーク社長はまったく尊大なところがなく、同じ目線で物事を語ってくれる人だと感じました。そのような方が選ぶ女性はどのような人物なのか、とても興味が湧きます。続いてタニア・バーク夫人に話を伺いました。

インタビューに答えるタニア・バークさん。トレックが欧米で展開する旅行会社「トレック・トラベル」の社長も務めている ©Kenji Hashimotoインタビューに答えるタニア・バークさん。トレックが欧米で展開する旅行会社「トレック・トラベル」の社長も務めている ©Kenji Hashimoto

── 今日、一緒に走って驚いたのですが、タニアさんはとても速いですね。普段からどれくらい走られているのでしょうか

 「年間で7000マイル(約1万1300km)ほど走っています。レーサーではありませんが、昔から自転車に乗るのが好きで、距離を走ることが苦ではありません。ところで、あなたはなぜエタップを走ろうと思ったのですか?」

── えっ、私ですか?そうですね…これまでヒルクライムレースにしか出ていなかったのですが、新しいチャレンジをしたいと考えた時にエタップ・デュ・ツールのことを知り、挑戦しようと思いました

 「女性は全参加者の3%程度しかいないので、きっと沿道の応援がすごいと思いますよ」

── タニアさんは何回目のエタップですか?

 「今回で10回目です」

── いつもおふたりで参加されていたのですね。当日は、同じくらいのペースで一緒に走るのでしょうか

 「大体、近いスピードですね。私は上りが速いし、彼は下りが速いので、ちょうどいいです」

インタビューはレストランのテラス席で、和やかな雰囲気の中で進んだ ©Kenji Hashimotoインタビューはレストランのテラス席で、和やかな雰囲気の中で進んだ ©Kenji Hashimoto

── これまで、一緒に走っていてケンカになったことはありますか?

 「ありません(笑)」

── サイクリング以外の時でも、普段からケンカはしないのでしょうか。

 「しませんね(笑) 私たちは、いつも仲がいいです」

── えーっ、羨ましい!

 「そうですね。とてもラッキーだと思います」

── いつまでも仲良くいられる秘訣というか、気をつけていることはありますか?

 「細かいことを気にするとうまくいかないと思うので、あまり気にしないようにしています。それから彼には家庭の中でふたつの鉄則があります。ひとつは妻のことを守る。もうひとつは、『タニアがいつも正しい』ということです(笑)」

── 素敵! それはうまくいかない訳がありませんね(笑)

 「それから私たちは、お互いにケアをし、与えあい、リスペクトすると結婚の時に誓いました」

── お互いを尊重する気持ちが大切なのですね。

 「そうだと思いますよ」

トレック・トラベルのツアー参加者のサイクリングを支えるサポートカー ©Kenji Hashimotoトレック・トラベルのツアー参加者のサイクリングを支えるサポートカー ©Kenji Hashimoto

── 続いて、「トレック・トラベル」についてお伺いします。年間、どれくらいのツアーを開催しているのでしょうか。

 「参加人数が10人ほどのものを、年間500ツアー催行しています」

── 毎日1、2件のツアーが開催されていることになりますね。取り扱う旅行商品は、全て自転車に関するものですか?

 「ほとんどが自転車に関するツアーですが、コスタリカのツアーは、ハイキングやサーフィンもやっています」

── 参加者のバイクはトレックに限られるのでしょうか。

 多くはありませんが、トレック以外のバイクで来る人もいます。ただ、手ぶらで参加する人が多いので、ほとんどの方がトレックのレンタルバイクですね。私たちのツアーではグレードの高いカーボンバイクに乗れるので、それを目当てに参加する人もいます」

── 実際に乗って、トレックのファンになる人もいそうですね

 「ツアー参加者には300ドル(約3万7000円)の購入割引券を渡しているので、それを利用して購入する人も少なくないようです」

フランスで日向涼子さん(左)も参加したトレック・トラベルによるサイクリング ©Kenji Hashimotoフランスで日向涼子さん(左)も参加したトレック・トラベルによるサイクリング ©Kenji Hashimoto

── ツアーの男女比を教えてください。

 「私たちのツアーは47%が女性で、カップルでの参加が多いです」

── 自転車人口を考えると女性比率が大きいですね。

 「例えば、走りにくいところはサポートカーに乗せたりするなど、スキルがそれほど高くない人も安心して参加できるようフォロー体制を整えているからかもしれません」

── 女性の場合、興味はあっても不安があるとなかなか一歩を踏み出せないということが多いので、とてもいい取り組みだと思います

トレック・トラベルのツアーでは、サイクリングにも手厚いサポートが用意されていた ©Kenji Hashimotoトレック・トラベルのツアーでは、サイクリングにも手厚いサポートが用意されていた ©Kenji Hashimoto

 「支給されるバイクには全てGPS内蔵のサイクルコンピューターが搭載されていて、コースを外れると知らせてくれるようになっています。あらかじめサイコンにコースが入力されていることで、自分のペースでセルフライド出来ますし、もちろんガイドも一緒に走っています。サポートカーも帯同しているので、安心なのでしょう。ツアー客の40%くらいがリピーターです。20%は口コミで申し込まれるのですが、リピーターが口コミをして、それが広がっている状況です。景気が悪い時には伸び悩みましたが、おかげさまで2010年からずっと右肩上がりです」

── 口コミは一番信頼できますよね。トレック・トラベルで、一番人気のあるツアーはどのようなものですか?

 「イタリアのトスカーナへ行くツアーが人気です。どこまでも続く丘があって、写真などで見たことがあるかもしれません。こちらは参加者の8割がアメリカ人ですが、ヨーロッパやアジアからの参加者もいますよ」

── 日本からの参加者もいますか?

 「韓国ではまとまった数がきますが、それ以外の市場はこれからです。日本や中国など、今後は国際的なマーケットに向けて取り組みを拡大していきたいと考えています」

── ツアーのレベルはどのくらいのものなのでしょう?

 「75%は中級レベル、25%は上級レベルで、もっとも厳しいのは44日間でアメリカを横断するツアーです。毎日160km走り、ツアー料金は1万8000ドル(約223万円)です」

── それだけの休みを取れる人となると、仕事をリタイアした方がほとんどなのでしょうか

 「大体のツアーは平均45歳くらいですが、このツアーに関しては平均年齢が50歳くらいで、実業家や経営者のほか、もちろんリタイアした人もいます。あなたも参加してみますか」

── え、え~っと…50歳になる頃に考えます(笑)

 「私たちは3年以内に参加しようと考えています。44日後に夫婦関係がどうなっているかわかりませんが(笑)」

インタビューする日向涼子さん(右)とタニア・バークさん ©Kenji Hashimotoインタビューする日向涼子さん(右)とタニア・バークさん ©Kenji Hashimoto

── おふたりなら、より良くなっているように思います

 「私もそう思います(笑)」

── タニアさん個人がオススメするツアーを教えてください

 「先ほど紹介したトスカーナのツアーもいいですが、春か秋の暑くない時期に、アメリカにあるユタ州のブライスキャニオン国立公園へ行くのがお気に入りです」

── まだ見たこともないような景色が広がっているのでしょうね。最後に、トレック・トラベルとして今後の展望を教えてください

 「ツアー参加者から、『これまでの人生で、こんなに感動を覚えたツアーは初めてだ』と言われることがあります。今後もそういうツアーを増やしていき、ひとりでも多くの人に自転車の素晴らしさを知ってもらいたいです。日本にもトレック・トラベルを作りたいですね」

── ぜひ、日本にも作ってください! 楽しいお話をありがとうございました

◇         ◇

 時に真剣で、時にウィットに富んでいて…短い時間ではありましたが、おふたりのチャーミングな人柄に、「魅力的な人には素敵なパートナーがいるものだ」と、納得! ファンになってしまいました。また、自転車を愛する気持ちがビジネスのクオリティーを高めているのだと感じました。

日向 涼子 日向 涼子(ひなた・りょうこ)

企業広告を中心に活動するモデル。5年前にスポーツサイクルに出会い、自転車専門誌での連載をきっかけに“自転車タレント”としてブレーク。国内外でヒルクライム大会やロードレース、サイクリングイベントに多数出場し、優勝・入賞も果たしてきた。食の知識も豊富で、アスリートフードマイスター、食生活アドバイザー、フードアナリストの資格を持つ。女性のスポーツ活動に役立つ美容やコスメにも関心を深めている。新潟県出身。『日向涼子オフィシャルウェブサイト』( http://ryokohinata.com/ )

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