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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<118>ツール・ド・フランス2015を総括 勝敗だけでは語れない“ファンタスティック4”の強さ

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 世界最大のサイクルロードレース、ツール・ド・フランス2015が無事閉幕しました。大会序盤から波乱の連続。第1週で優位に立ったクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)を、ピレネーやアルプスの山岳ステージでナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)らが追う展開は、今大会のハイライトとなりました。今回は、総合争いやアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)らスプリンターの活躍を分析し、今大会の傾向を振り返ります。

最後の山岳決戦となった第20ステージ、リッチー・ポート(先頭)のアシストを受けながらマイヨジョーヌを守り抜く走りを見せたクリストファー・フルーム最後の山岳決戦となった第20ステージ、リッチー・ポート(先頭)のアシストを受けながらマイヨジョーヌを守り抜く走りを見せたクリストファー・フルーム

やはり“ファンタスティック”だった4選手

 このツールの総合争いは、4選手を軸に展開されるとの予想が多くを占めた。実際に総合優勝を果たしたフルーム、同2位のキンタナ、前回ツール王者のヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)、ジロ・デ・イタリアで圧勝したアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)。現在のプロトンにおける中心人物でもある彼らは、戦前から“ファンタスティック4”と呼ばれるようになった。

最終日の表彰台に登壇した総合トップ3。(左から)ナイロアレクサンデル・キンタナ、クリストファー・フルーム、アレハンドロ・バルベルデ最終日の表彰台に登壇した総合トップ3。(左から)ナイロアレクサンデル・キンタナ、クリストファー・フルーム、アレハンドロ・バルベルデ

 3週間の戦いを振り返り、「“ファンタスティック4”は、やはりファンタスティックだった」との印象が強い。総合トップ5にきっちり入ってきたことはもちろんだが、それ以上に彼らのレース運びやトライする姿勢に着目すべきだろう。

 フルームは強風による集団分断(第2ステージ)や“激坂”ユイの壁(第3ステージ)などをほぼ完ぺきにクリアし、第1週を終えた時点でマイヨジョーヌを確保した。圧巻だったのは、今大会最初の超級山岳フィニッシュとなった第10ステージでの圧勝劇。休息日明けで、エンジンがかかりきらない選手が多かったなか、ライバルたちに強さを見せつけた。第3週でコンディションを落としたが、第2週までの走りが総合優勝の決め手になったといえる。

第3週に熾烈な争いを演じたナイロアレクサンデル・キンタナ(左)とクリストファー・フルーム第3週に熾烈な争いを演じたナイロアレクサンデル・キンタナ(左)とクリストファー・フルーム

 キンタナは、自他ともに認める「第3週での強さ」を発揮した。アルプスでの第19ステージ、第20ステージとフルームにタイム差をつけてフィニッシュし、最終的な総合タイム差を1分12秒まで縮めた。第10ステージではフルームに1分以上の差をつけられてしまったが、それ以上に後方集団に取り残された第2ステージなど第1週の遅れが痛手となってしまった。それでも、最後までマイヨジョーヌを諦めない姿勢を崩さず、最も力を発揮できる山岳で見せた追撃は、今後のグランツールでもライバルたちへの脅威となるだろう。

 総合2連覇を目指したニバリも第1週で後れを喫し、その時点でマイヨジョーヌ争いに白旗を揚げた。その後はステージ優勝狙いに切り替え、調子の波に左右されたものの第19ステージできっちり勝利。コンタドールもジロ後の調整に苦心した点は否めないが、調子が上がりきらないなかで何とか走りをまとめたと言ってよいだろう。両者は結果的に総合4位と5位に入っている。

第19ステージで、ここまでの不振を払拭する勝利を挙げたヴィンチェンツォ・ニバリ第19ステージで、ここまでの不振を払拭する勝利を挙げたヴィンチェンツォ・ニバリ
アタックは不発に終わったものの、レースを盛り上げたアルベルト・コンタドールアタックは不発に終わったものの、レースを盛り上げたアルベルト・コンタドール

 フルーム優位の状況にあっても、キンタナ、ニバリ、コンタドールそれぞれが隙あらばアタックを繰り出し、さまざまな形でレースを動かした。チーム スカイのアシスト陣による徹底したペースコントロールに、多くの選手がなす術もなく脱落していくなかで、再三見せた攻撃的な姿。冷静に対応したフルームの強さに屈した形ではあったが、彼らの威信をかけた戦いぶりこそが、“ファンタスティック4”たる所以ではないだろうか。その時々で、でき得るチャレンジを見せた彼らが、戦いの中心に立っていたことは事実である。

躍進や復活を果たした“成功者たち”

 今大会は、“ファンタスティック4”以外にも目を見張る活躍や将来への期待、復活をアピールした選手が多く現れた大会だった。

念願の総合表彰台入りを果たしたアレハンドロ・バルベルデ(中央)念願の総合表彰台入りを果たしたアレハンドロ・バルベルデ(中央)

 総合3位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)は、35歳にして悲願の総合表彰台入り。第20ステージのアルプ・デュエズ登頂後には、これまでの苦労を思って涙するなど、今大会への意気込みは並々ならぬものだった。戦前からキンタナのアシストに回ることを明言し、山岳ステージでは幾度のアタックでライバルにプレッシャーを与え続けた。これまでにビッグレースで数多くの勝利を収め、グランツールでは2009年のブエルタ・ア・エスパーニャを制した第一人者が、このツールで新たな一面を見せた。エースを上位に送り込みながら、自らもしっかりと結果を残すあたりは、真の実力あってこそだ。

 ロベルト・ヘーシンク(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)は、昨年手術を行った心疾患からの完全復活となる総合6位。大会序盤から好調さをうかがわせ、最後まで安定した走りをキープした。自己最高位である2010年の総合5位には及ばなかったが、体調の不安なく高いレベルで戦えることを示した。

 スプリンターで特筆すべきは、やはりグライペルだろう。ステージ4勝は、文句なしで今大会ナンバーワンスプリンターの証だ。強固なトレインから放たれての飛び出しだけではなく、混戦時には自ら好ポジションを確保した。ときにはスプリントラインをこじ開けて加速するなど、その勝ち方はさまざま。多少ポジション取りに失敗してもパワーでライバルを凌駕するだけの強さを持ち合わせていた。

最終日、パリ・シャンゼリゼでステージ4勝目を挙げたアンドレ・グライペル最終日、パリ・シャンゼリゼでステージ4勝目を挙げたアンドレ・グライペル
4年連続でマイヨヴェールを獲得したペテル・サガン4年連続でマイヨヴェールを獲得したペテル・サガン

 グライペルは筋骨隆々のピュアスプリンターなので、上りでも強さを発揮するペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)にポイント賞のマイヨヴェールは譲ったが、純粋なスプリント力だけ見ればグライペルの右に出る者はいなかった。来年以降ポイント賞を狙うかと問われた際には、「サガンが引退しない限りは、現行ルールでのマイヨヴェールは無理だね」と冗談交じりに述べており、ルール変更がない限りは賞レースへの色気を見せないつもりだという。

第3週は逃げに3選手を送り込む戦略で臨んだMTN・クベカ第3週は逃げに3選手を送り込む戦略で臨んだMTN・クベカ

 アフリカ籍のチームとして初のツール出場となったMTN・クベカは、8選手が完走。第14ステージではスティーヴン・カミングス(イギリス)がステージ優勝を挙げた。ダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(エリトリア)は、第1週から第2週にかけて4日間にわたり山岳賞のマイヨアポワを着用。第3週には、チーム総合優勝を狙って毎ステージ3選手を確実に逃げグループに送り込むなど、戦術的なレースも披露した。来シーズン以降のUCIワールドチーム昇格を目指すうえで、足掛かりとなる活躍ぶりだった。

 そのほか、大会終盤まで総合上位を走ったゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)は、グランツールライダーとしての資質を証明した。フルームのアシストを優先したことから、アルプスで息切れ気味になってしまったが、来年はグランツールのいずれかで総合エースを務める可能性をチーム首脳陣が示唆している。

 また、第17ステージで体調不良により涙のリタイアとなったティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)も、第2週までの走りから高い評価は変わらず。8月に27歳の誕生日を迎えることもあり、「まだ若く、チャンスは十分にある」とチーム関係者も前向きだ。ともに、今後のレースを盛り上げる存在となっていくだろう。

今週の爆走ライダー-ルーク・ロウ(イギリス、チーム スカイ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2年ぶりにツール王座を奪還したフルームを支えたアシストの1人。レース前半や中盤にかけてのペースコントロールを担った。

 昨年のブエルタでのアシストぶりが高く評価され、今シーズンはリッチー・ポート(オーストラリア)やフルームがエースを務めるレースでメンバー入り。堅実な仕事をこなしてきた。このツールでは、「フルームがパリでマイヨジョーヌを着ていること」をテーマに毎ステージ走り続けた。

集団のコントロール役を担い、フルームの総合優勝を支えたルーク・ロウ(左)集団のコントロール役を担い、フルームの総合優勝を支えたルーク・ロウ(左)

 総合争いの行方が決まるアルプ・デュエズでの第20ステージでは、メーン集団から離れて以降、装着していた無線からの情報が入らず、エースの結果が分からないまま頂上まで走っていたという。フルームの総合優勝が確定的になったことを知ったのは、チームバスに戻ってからのこと。その瞬間を「本当に感動的だった」と振り返る。

 今大会は、観客によるフルームへの妨害行為がトピックとなったが、沿道に立つファンすべてが悪いとは思っていない。特にアルプ・デュエズでは「素晴らしいファンの存在が力になった」と述べる。

 持論は「よきチームリーダーを作り上げることもアシストの仕事」。チームが誇る絶対的エースをツール王座に返り咲かせ、ミッションは完遂した。そして、その高い意識でこれからもチームを鼓舞していくことだろう。25歳と若く、チャレンジはまだ始まったばかり。今後、多くのビッグレースで彼の働きを目にすることができるはずだ。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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