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栗村修の“輪”生相談<54>40歳男性「レースに参加するのではなく、開催するには?」

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ロードバイクに乗り始め、もうすぐ1年になります。バイク仲間に誘われ、ビギナーでも楽しめる様々なレースやファンライドに参加してきました。その中には、地域ぐるみで開催しているイベントもたくさんあり、その土地ならではの特色ある景観や出展・飲食ブースなどを楽しむことができました。

 まだまだレースの事は良く分からない初心者ですが、自分の住む山岳地域でも、日本一有名な学生駅伝などを毎年開催しており、毎日多くのローディーが天下の剣で練習しています。

 この地域の魅力とロードバイクの魅力の情報発信を兼ねて、自分の住む地域でも自転車レースを開催したいと思っております。それにはどんな準備が必要でしょうか。

(40歳男性)

 僕も昨年からツアー・オブ・ジャパンの大会副ディレクターになって運営の仕事をはじめましたから、こういうご質問を頂けて嬉しいですね。

 僕は選手や監督、解説者、そして主催者として、自転車競技に関わってきました。その流れは、選手としてレースに出る→監督としてチームを率いる→主催者としてレースを作る…と変化してきましたが、後者に行けば行くほど、タイヘンだということがわかってきました。

 ある意味、選手時代はシンプルでした。今思えば、サービスを受ける側だったわけですからね(もちろんトレーニングやレースは苦しいのですが…)。しかしその後、監督としてチームを率いる立場になってからは、サービスを提供する側に変わったわけです。そこで、マネージメントの難しさを知りました。

 しかし僕はまだ、気付いていなかったのです。監督としての自分も、サービスを受ける側にいたということに。

 それはどういうことかというと、監督やチームは主催者からサービスを受ける立場だったんです。そのことの意味を、主催者としてレース作りに関わるようになった僕はひしひしと感じています。チームだけじゃありません。お客さんやスポンサー、メディアに対してもサービスを提供しなければいけない。当たり前のことなのですが、レースを作るということは、要するにサービス業なのです。

日本最大のロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」で、大会副ディレクターとして運営に携わる栗村さん日本最大のロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」で、大会副ディレクターとして運営に携わる栗村さん

 ところが恐ろしいことに、まだ先があるんです。今の僕はレースを主催する立場ですが、さらに上には、主催者をコントロールするUCIやJCFのような統括組織もある。僕はある意味で、上に行くほど大変だということを知りましたから、彼らの苦労が垣間見えた気がしています。それはともかく、レースを作るのは大変なサービス業なんです。

 さらに具体的な話をすると、おそらく質問者さんは一般公道でのレースを思い描いていらっしゃると思いますが、極めて困難です。たとえば、生活道路を借りるわけですから、沿道のお店には損害が出るわけですよね? その分の補償が必要になる場合もあります。そうでなくても迷惑をかけることは確かですから、正直、住民への説明だけで気持ちが折れる人が多いと思います。

 出場選手との関係も大変です。けが人や死者が出る可能性がある競技ですから、責任問題が付いて回ります。たとえ出場前に「自己責任で走ります」と一筆お願いしたとしても、いざ事故となった時には免責されるとは限らないんです。ご遺族やけがをされた方に訴えられた場合の莫大な費用と労力、社会的名誉の失墜、誹謗中傷とどう付き合うか。そのことも考えておかなければいけません。

 しかも、見返りはほぼありません。選手は称賛されますが、主催者が称賛されることは滅多にありません。いい走りが評価される加点方式の選手と違い、主催者は減点方式だからです。つまり、最高点が0点なんです。事故もミスも一切なしに大会を終えてはじめて、及第点をもらえるのが主催者です。そして、0点で終えられるレースなど、ほぼありません。普通はマイナスになります。何かしらトラブルは起き、それらはすべて主催者への減点につながります。

 つまり、若干言いにくいのですが、よほどの覚悟、哲学を持ち合わせなければ、今の時代に日本の公道で自転車ロードレースの開催を継続していくことは、挫折する可能性の方が高いと思います。

 厳しいお答えになってしまい、恐縮です。でもこれが現状です。けれど、それでも僕はレース主催者という立場を選びました。そこにはもちろん、僕なりの目標や使命感、哲学、覚悟があるからであり、そして、選手・監督時代には味わえなかった種類のやり甲斐が間違いなく存在しています。

(編集 佐藤喬・写真 米山一輝)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会副ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

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