猫も杓子も?! ツール・ド・フランス<2>避けては通れない沿道の困った観戦者たち 集団を待ちながらヒートアップ

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コースの上り区間には、ずらりとキャンピングカーが立ち並ぶコースの上り区間には、ずらりとキャンピングカーが立ち並ぶ

 ツール・ド・フランスの路上での観戦者数は1200万人以上。好天続きの今年は、1500万人に達するかもしれないといわれている。開催日にはレースの数時間前から道路封鎖が始まるので、観戦者は早めに家を出発し、路上で待ち続ける。

 その“道ばた待機”の平均は、平地で6時間、山岳エリアでは7時間半。

 人気の山岳コースの1つ、アルプ・デュエズでは、好みのコーナーで観たい!というキャンピングカー族が10日前から陣取りをはじめ、1台また1台と日に日に増え、最終的には、わずか15kmのつづら折りに80万人から100万人が並ぶ。フランスの一般的なバカンスは3週間。気長に待ち続けるのだ。

待って待って、待ち続けて

 そんなに長く待つ間、何をするか?…といえば、ほとんどの人は「呑み食い」。

 とりわけ暑い日が続くこの時期。灼熱の太陽の下では、イギリス人やドイツ人、オランダ人やベルギー人たちはビールをあおり、フランス人たちはキンキンに冷やしたロゼを片手に、のんびりダラダラ。いずれも、パソコンやタブレット、携帯電話などでツール・ド・フランスの実況をネット観戦しながら、呑んで過ごす。

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 そしてレースの通過予定タイムの1時間半ほど前になると、まずは待望のキャラバン隊が登場。はるばる異国からやって来る外国人観戦者(20%)とは違い、フランス人の多くは、実はレース自体よりも、このキャラバンが最大の目的なのだ(アンケートでも47%のフランス人が「キャラバンのために観戦にでかける」と回答)。

 なにせ十数社、150台以上のキャラバンカーが様々なグッズを気前よく放り投げ、その数、なんと1400万個に及ぶ。キャンディ会社のHariboなど1日3トンもの小袋をばらまく。いわば節分の豆撒きのような「祭り」なのだ。

 昔から映画やファッション界が影響力を持っていたせいか、どこかハイソで気品に満ちたイメージの強いフランスだけれど、実はほとんどのフランス人は「タダが好き」。

 「無料で観られる」「無料で貰える」「無料で飲める」「無料で食べられる」

 そういうことが大好きな人たちだ。

キャラバン隊でウォーミングアップ

景気良くグッズをバラまくサラミ会社のキャラバン。子供たちが被っている水玉の帽子も、スーパーマーケット・カルフールの定番キャラバングッズ景気良くグッズをバラまくサラミ会社のキャラバン。子供たちが被っている水玉の帽子も、スーパーマーケット・カルフールの定番キャラバングッズ

 なので、この150台以上の車が帽子や菓子、飲み物や文房具。新聞やキーホールダー、洗剤など、様々なグッズをバラまきながら通過する約45分の間、道路脇では、子供以上に大人たちが「われ先に!」と手を差し出し、時にはダイビングしたり、地面を這ったりもする「グッズ争奪戦」に夢中になる。

 そうして、路上の観戦者たちが完全に興奮状態となり、戦利品を手にしてホクホクと喜び、気分も高揚しているところに、ちょうどレースでトップの選手たちが現れる。ウォーミングアップが十分出来上がっている観戦者たちは、自転車など全く興味のない者まで大盛り上がりの拍手や歓声でそれを迎え…というシナリオ。これまた実に巧いショービジネスの手腕だ。

 ただ一方で、その「ショービジネス化」「祭り化」の弊害も生じている。

 本来は自転車競技などに全く興味のない観戦者が増えれば、どうしても選手へのリスペクトのない人間が増える。マナーを知らないどころか、危険を冒すリスクまで生まれる。

 さらに直前のキャラバン・パレードで、道に身を乗り出す癖(?)もついている。何時間も前、何日も前から呑み続けているアルコールで“お祭りモード”どころではない。完全なハイ状態になっている人もいたりする。

 ツール主催者は今年、有力選手がレースへのリスペクトを呼びかけるムービーを制作。観戦のマナーアップを呼びかけている。

困った観戦者も「進化」

 それでも、そういう”ヤカラ”の数は限られていたし、一目で解るから警備が事前に阻止することができた。「それよりも問題なのは、昨年から始まった新しい現象」と、多くの選手たちが口にし始めた新たな問題がある。

集団を背景にセルフィを撮影。迫力ある写真を撮るためには、なるべく集団に近づいて…集団を背景にセルフィを撮影。迫力ある写真を撮るためには、なるべく集団に近づいて…

 それは「セルフィ」。いわゆるスマートフォンで“自撮り”をする観戦者たちだ。

 自分のすぐ背後に走者の姿を入れ、レースの臨場感を撮影しようとする観戦者が昨年の英国ヨークシャーでのスタートから急増。観客のうちの誰がそれをし始めるか、その時にならなければ解らないので、警備は事前阻止のしようがない。

 そして撮影者は背中を向けているので、走者が間近に迫っても解らず、身を引かない。走者にとっては、脇から突然、小さな壁がヒョイと出てくるようなもの。

 「新世代のフーリガン…と呼びたくなるほど恐ろしい現象」

 興行収益のためには。猫にも杓子にも来てほしい。でもニュー・フーリガンの野放しは危険すぎる。選手たちは今、このことに頭を抱え始めている。

次回は沿道から!

 …と、今回は悪しき“猫も杓子も”について描きましたが、次回は良き“猫も杓子も”たちによる現地観戦の楽しみ方について。

 私も現地入りしてリポートします!

祐天寺りえ(ゆうてんじ・りえ)

1964年 横浜生まれ。1994年よりフレンチ・ アルプスのスキー場Meribel(メリベル)に在住。既出本:「フランスだったら産めると思った」原書房、「食いしんぼうの旅 アルプス〜コートダジュール編」パラダイム出版、「フランスの田舎暮らしとおいしい子育て」小学館

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