山口和幸の「ツールに乾杯! 2015」<7>灼熱のアルプスで思い出す熱戦 記録は消えても記憶に残り続ける激闘

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第18ステージでは下り、第19ステージでは上りとなるグランドン峠。写真はエタップ・デュ・ツールのもの © ASO/M.Molle第18ステージでは下り、第19ステージでは上りとなるグランドン峠。写真はエタップ・デュ・ツールのもの © ASO/M.Molle

 今年のフランスはそれにしてもショー(暑い)。しかもトレ・ショー(とっても暑い)。こんなに暑いのは2003年以来。あのランス・アームストロングが見せかけの7連覇をしたときに唯一苦戦した年だ。ご存知のように薬物不正使用で全成績がはく奪されるのだが、アームストロング唯一の弱点が暑さだった。

 アームストロングの記録が抹消された2003年の話をしてもしょうがないが、当時のライバルだったヤン・ウルリッヒは暑さに強く、接戦で最後のタイムトライアルを迎えた。そして雌雄を決するその日は冷たい雨になった。アームストロングはどこまでラッキーなのかとあのとき思った。

 今年の第18ステージのゴール、第19ステージのスタートはサンジャンドモリエンヌだ。日本でいったら信州・菅平のような「スポーツ合宿村」として売り出している。V字谷の底辺にイタリアに向かう高速道路が1本通っていて、かつては採石場しかなかったへき地に、町の活性化によってスポーツ産業が芽生えた。

アルプスはコンパクトなので選手も関係者もセールポンソン湖周辺で3連泊アルプスはコンパクトなので選手も関係者もセールポンソン湖周辺で3連泊
サンジャンドモリエンヌでもらえるサイクリングのコースマップサンジャンドモリエンヌでもらえるサイクリングのコースマップ

 ここをベースにすればツール・ド・フランスで通過する数多くの峠に走りにいけるので、サイクリストにとっては魅力的だ。今年の第20ステージでは崩落によってコースから外されたものの、雄大にそびえるガリビエ峠。牧歌的な美しさを見せるマドレーヌ峠、「鉄の十字架」という意味を持つクロワドフェール峠などがちょうどいい距離にある。今年の目玉であるラセドモンベルニエは走り足りないほどすぐ近くにある。

 夏休みを利用してアルプスにロードバイクを持ち込んでみるのがおすすめだ。最近は日本の「走り屋系ツールファン」もそんな旅行を楽しむ人が増えているという。現地では峠のコースマップと高低表が印刷されたパンフが無料で入手できるのでサイクリングしやすい。フランス観光開発機構のサイトにも、ツール・ド・フランス情報ページやフランスでサイクリングするときに役立ちそうな情報が掲載されているのでチェックするといいかも。

フランスの峠道には1kmごとに勾配値と標高を記した看板が立てられているフランスの峠道には1kmごとに勾配値と標高を記した看板が立てられている

 サンジャンドモリエンヌに前回ゴールしたのは2010年だ。この年はアスタナのアルベルト・コンタドールがサクソバンクのアンディ・シュレクとの激闘を制して2度目の優勝を果たしたかに見えたが、後日コンタドールが薬物不正使用で失格になり、シュレクが繰り上がり優勝となった年である。こんな話ばかりだが、それは自転車競技界が薬物一掃を目指して厳格なアンチドーピングコントロールを行っていることの裏返しであることもつけ加えたい。

 あのステージはアルプスの最難関で、区間成績で2秒遅れの7位になったシュレクが総合成績で首位に立った。前日まで首位だったカデル・エバンスはこの日だけで8分09秒も遅れ、総合18位に。シュレクと激しく争ったコンタドールは区間6位で、総合成績では41秒遅れの2位に浮上した。

 このときのアスタナチームは引退を撤回して復帰したアームストロングとコンタドールとの確執があり、アームストロング寄りの監督やチームメートはコンタドールをたたきつぶす考えに捕らわれていた。ところがその前日のステージでアームストロングが脱落した。このサンジャンドモリエンヌでマイヨジョーヌをめぐる争いはシュレクとコンタドールに絞り込まれたのだ。

ツール・ド・フランスのコースから外れたガリビエ峠だが、サイクリストでいっぱい。フランスには、自転車で走るのが好きだけどツール・ド・フランスに興味がないという人も意外と多いツール・ド・フランスのコースから外れたガリビエ峠だが、サイクリストでいっぱい。フランスには、自転車で走るのが好きだけどツール・ド・フランスに興味がないという人も意外と多い

 「途中の峠でコンタドールを引き離すために全力を尽くした。彼は最後まで離れなかったけど、41秒差をつけてマイヨジョーヌを着用できた。明日からは彼だけをマークして走ればいい」とシュレク。

 対するコンタドール。「いい位置でアルプスの難関をクリアできた。故郷に近いピレネーで逆転できると信じている」と息巻いた。

 コンタドールはその言葉どおりピレネーで逆転し、見かけのうえではパリ・シャンゼリゼまでマイヨジョーヌを守るのである。

 記録の上でははく奪や抹消だが、当時としては選手たちの駆け引きや頑張りに沿道の観衆がエールを送り、すべての人の記憶に残ったはずである。薬物不正使用は弾劾されてしかるべきだが、その年の激闘がすべて否定されるものでもない。「スポーツ合宿村」にときおりそよぐ涼しげな風のように、ツール・ド・フランスはこれからもさわやかな感動を沿道に残して駆け抜けていかなければならない。

ガリビエ峠の頂上から北面を望むガリビエ峠の頂上から北面を望む
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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