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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<117>ツール・ド・フランス第2週で際立ったフルームの強さ 総合上位陣は「現実路線」へ転換か

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 ツール・ド・フランスは第2週の戦いが終了。この1週間は、ピレネー山脈と中央山塊を抜けるルートで戦いが繰り広げられました。総合優勝争いはもとより、有力選手にとっては今大会後半戦に臨むうえで、目標を再設定する場にもなりました。ピレネー、中央山塊での走りをいま一度振り返りながら、アルプス山脈、そしてパリ・シャンゼリゼを目指す第3週を展望していきます。

山岳ステージの多かった第2週はクリストファー・フルーム(チーム スカイ)の強さが際立った山岳ステージの多かった第2週はクリストファー・フルーム(チーム スカイ)の強さが際立った

ポートに加えトーマスも強力にアシスト

 今大会の第1週は、第2ステージで強風を利用した集団分断による動きがあったものの、それ以外にタイム差が発生したのは第1ステージ(個人TT)、第3ステージ(ユイの壁)、第9ステージ(チームTT)と、おおむね戦前の予想通りの展開だった。そんな中でも、ほぼ完璧ともいえる走りで総合首位の座に就いたのが、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)だった。

 フルームが好調であることは、その走りからも明らか。このため山岳ステージが本格化する第2週以降は、フルームの戦いぶりと合わせ、タイム差を開けられたライバルたちが差をどう縮めるのかが焦点となった。

 しかしふたを開けてみると、フルームの強さが際立った。今大会最初の頂上フィニッシュとなった第10ステージ(167km)で後続に1分以上の差をつける圧勝劇。3kmにわたる急坂を経てフィニッシュした第14ステージ(178.5km)では、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)のアタックにしっかりと対応。最後はマッチスプリントさながらの気迫の走りを見せ、タイムをさらに稼いでみせた。

超級山岳重畳ゴールの第10ステージで圧勝し、ライバルに大きな差をつけたクリストファー・フルーム超級山岳重畳ゴールの第10ステージで圧勝し、ライバルに大きな差をつけたクリストファー・フルーム

 第10ステージの快走は、ライバルたちに自身の強さを誇示するには十分すぎる走りだった。翌ステージ以降は、チームとしてメーン集団の主導権を確固たるものとし、より戦いやすい状況を作り出した。第12ステージ(195km)のプラトー・ド・ベイユ、第16ステージ(201km)のマンス峠と、総合上位勢が次々と攻撃に出たが、危なげなくしのぎ切った印象が強い。

 アルプスが舞台となる第3週も、これまで通り攻撃的な「ノーギフト」の姿勢で戦うことだろう。リーダージャージを着る選手はステージ優勝争いにおいて下位の選手に勝利を譲り、ジャージの保持に集中するケースが多いが、執念を見せるライバルたちに対してフルームは正面からぶつかっていく心積もりだ。頂上フィニッシュとなるステージでは、マイヨジョーヌ自らアタックを見せる可能性が高い。

クリストファー・フルームの山岳アシストとして働きながら、総合6位につけるゲラント・トーマスクリストファー・フルームの山岳アシストとして働きながら、総合6位につけるゲラント・トーマス

 また、フルームの強さを際立たせているのが、充実のアシスト陣であることも見逃せない。特に今大会で光っているのが、ゲラント・トーマス(イギリス)の存在だ。これまで、山岳アシストといえばリッチー・ポート(オーストラリア)のイメージが強かったスカイのアシスト陣だが、ジロ・デ・イタリアでの体調不良から立ち直ったばかりのポートに代わり、山岳アシスト“最後のひと駒”となっているのがトーマスだ。フルームのアタックをお膳立てするばかりか、第2週を終えて自らも総合6位につける。近年は、ステージレースの総合成績を狙うか、従来通りクラシック路線でキャリアを進めていくか模索している彼だが、このツールである程度進むべき道が見えつつあるといえそうだ。

 なお、トーマスは第16ステージ、マンス峠の下りでワレン・バルギル(フランス、チーム ジャイアント・アルペシン)と接触し落車。コース外へと投げ出されるアクシデントがあったが、大きな負傷はなく、レースを続行する見通しだ。落車時に街路灯に頭を打ち付けたことから、フィニッシュ後にチームドクターが診察を行ったが、「ボクはクリストファー・フルームだよ」と言って笑わせる余裕を見せたといい、チームメートやスタッフはみな胸をなでおろしている。

 フルームをはじめスカイ勢の強さにフランスメディアが懐疑的な報道を行い、さらにはファンによるレース中の妨害行為が起こるなど、周囲から雑音が生じている。そこで、2回目の休息日には、チームがフルームのパワーデータを公表する意向だ。これから大会の終盤にかけて、より毅然とした態度で彼らは戦いを続ける。

マイヨジョーヌをあきらめないキンタナ

 前回のこのコーナーでは、フルーム、キンタナ、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)による“ファンタスティック4”に加え、今シーズン好調のティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)を含めた“ビッグ5”について紹介した。第2週を終え、各選手の調子の差が浮かび上がったが、それでも戦いの中心は彼らであることを再確認する1週間でもあった。

 ただ、ここまでの戦いを経て、“ビッグ5”それぞれの意識には差が生まれている様子だ。もちろん、ステージを重ねるごとに目標の修正や再設定は必要といえる。ビッグ5の場合、フルームの強さを認め、自らは「現実路線」に切り替えている選手が多いようだ。

第16ステージの最後の上りで攻撃を仕掛けたアルベルト・コンタドール第16ステージの最後の上りで攻撃を仕掛けたアルベルト・コンタドール

 フルームから4分23秒差の総合5位につけるコンタドール。表向きはやる気を崩していない様子だが、彼を見守るショーン・イエーツ監督は「正直なところフルームに追いつくことは難しいと思っている」と苦戦を認める。激しいレースが繰り返される中で、衝撃的といえるコンタドールの脱落シーンも目立ち、ここまで思うような走りができていない。強さを発揮したジロでの疲労が影響しているのではないか、または足かせになったのではないか、との見方についてはコンタドール自ら否定。最終週の走りに威信をかける。

総合8位に甘んじているヴィンチェンツォ・ニバリだが、少しずつ復調の兆しを見せている総合8位に甘んじているヴィンチェンツォ・ニバリだが、少しずつ復調の兆しを見せている

 7分49秒差の総合8位に甘んじているニバリ。やはり前半ステージでの遅れが痛かった。第16ステージ、マンド峠では上りでアタックし、その後フィニッシュにかけてはダウンヒラーの真骨頂を発揮。復調の兆しを見せる。それまでのふがいない走りに、ゼネラルマネージャーのアレクサンドル・ヴィノクロフ氏が激怒し、ニバリを今シーズン限りで放出するのではないかとの噂が立ったが、それは両者とも否定。こちらも周囲が騒がしいが、残る1週間はステージ優勝を視野に入れるつもりだ。

第2週を総合3位で終え、表彰台を目指しての戦いに臨むティージェイ・ヴァンガードレン第2週を総合3位で終え、表彰台を目指しての戦いに臨むティージェイ・ヴァンガードレン

 ヴァンガーデレンは目標の総合表彰台に向け、勝負の1週間となる。第2週は山岳で苦しむ場面こそあったが、遅れはいずれも最小限にとどめた。第1週での貯金を生かしつつ戦いを続けるが、当面のライバルは30秒差に迫っている総合4位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)だ。熱望する“ビッグ5”の高みまで、一歩ずつ階段を上っていく。

 それぞれが現状に合った目標を設定していくなか、マイヨジョーヌを諦めない強い意志を示しているのがキンタナだ。フルームとの総合タイム差は3分10秒。こちらも第1週に加え第10ステージでついた大差が痛手だといえる。それでも、キンタナの特徴として誰もが認めるのが「第3週での強さ」。フルームの調子を見るに、マイヨジョーヌ奪取は難しいと見られるが、それでも山岳でライバルを引き離し、ステージ優勝する可能性はまだまだ十分に残されている。戦い方は単純明快、強力なアタックを繰り出すことだ。また、アシストに百戦錬磨のバルベルデが控えるのも心強い。

マイヨジョーヌのクリストファー・フルームに攻撃を仕掛けるナイロアレクサンデル・キンタナマイヨジョーヌのクリストファー・フルームに攻撃を仕掛けるナイロアレクサンデル・キンタナ

 そのほかでは、心疾患から完全復調をアピールするロベルト・ヘーシンク(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)は総合7位、グランツールの戦い方を心得ているバウケ・モレマ(オランダ、トレック ファクトリーレーシング)は総合9位につけ、さらなるジャンプアップを目指す。総合10位のバルギルや、同11位トニー・ガロパン(ロット・ソウダル)、同12位ロマン・バルデ(アージェードゥーゼール ラモンディアル)には、トップ10入りとともにフランス勢最上位がかかっている。

サガンのマイヨヴェール4連覇に現実味

 総合首位のマイヨジョーヌのほかに、各賞ジャージ争いも最後の戦いへと入っていく。

 まず、ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)が着用するポイント賞のマイヨヴェール。サガンが405ポイントで、316ポイントの2位アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)に大きく差をつけている。サガンは第2週、再三の逃げで中間スプリントポイントでのトップ通過を繰り返したばかりか、第14、16ステージでは逃げたままフィニッシュを果たした。

 ピュアスプリンターのグライペルは、仮にパリ・シャンゼリゼでの第21ステージを制し、中間スプリントも加えた平坦ステージ最大の70ポイントを獲得してもサガンには届かない。逆転のためにはアルプスでの山岳ステージでもポイントを稼がねばならず、事実上サガンに迫ることは難しい状況にある。サガンはステージ優勝こそないものの、マイヨヴェール4連覇が現実味を帯びてきた。

積極的な逃げでポイントを積み重ね、マイヨヴェール獲得に近づいているペテル・サガン積極的な逃げでポイントを積み重ね、マイヨヴェール獲得に近づいているペテル・サガン

 アルプスステージの楽しみは、山岳賞とチーム総合の争いとなりそうだ。頂上フィニッシュとなる第17(2級)、第19(1級)、第20(超級)ステージではポイントが2倍となるほか、第18ステージは超級を含む7つのカテゴリー山岳が登場。思わぬ伏兵がマイヨアポワ獲得に名乗りを挙げることも考えられる。現状では、フルームが61ポイントで首位、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)が52ポイントで続く。

 チーム総合は、モビスター チームが首位。続くMTN・クベカはジャンプアップを狙って第16ステージで3選手を逃げに送り込み、作戦を成功させた。両者の差は20分50秒で、3位ティンコフ・サクソは29分36秒差。一見大差に見えるが、複数選手を前方へ送り込み、大逃げを成功させると一発逆転もあり得るのがチーム総合争いの醍醐味だ。もうしばらく戦況を見守りたい。

 25歳以下対象の新人賞、マイヨブランはキンタナが優位。2位バルギルとの差は7分53秒。こちらはトラブルさえなければ、キンタナがその座を守ることだろう。

今週の爆走ライダー-マルコ・ハラー(オーストリア、チーム カチューシャ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ツール第16ステージ、最後の上りの2級山岳マンス峠で粘りの走りを見せた。途中で力尽きてしまい、ステージ16位に終わったが、序盤からの大逃げが貯金となってメーン集団よりも先にフィニッシュ。その第一声は「体重80kgのボクにしてはよくがんばった方だと思うよ」。

 公称では身長178cm・体重82kg。ロード選手の中でも大型の部類に入る。かつてはトラックやシクロクロスで活躍し、ロード転向後はスプリンターとして走る。プロ初勝利は2012年のツアー・オブ・北京第4ステージ。その後もスプリントステージではコンスタントに上位に入り、今シーズンは5月のツール・ド・フィヨルド(ノルウェー)でキャリア初の総合優勝。6月には初のオーストリアチャンピオンに輝いた。

大柄なスプリンターのマルコ・ハラー。山岳ステージで粘りの逃げを見せた大柄なスプリンターのマルコ・ハラー。山岳ステージで粘りの逃げを見せた

 グランツール初出場となった今大会では、エーススプリンターのアレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー)のアシストが主な役割。一方で、スプリントとともに得意とする逃げでチャンスを見出すべく奮起している。

 このほど、チームとの契約延長にサインした。ツール第16ステージ終盤で一緒に逃げたアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ソウダル)に感謝のコメントを送るなど、律儀なところや競技への姿勢を関係者は高く評価しているという。エーススプリンターとしても、アシストとしても堅実に走るスタイルは、今後より磨きがかかっていくことだろう。

 ツール第3週、アルプスの急峻な山々をグルペットで乗り切った後には、パリ・シャンゼリゼでの大仕事が待ち受ける。今大会未勝利のエース、クリツォフを勝利に導くミッションの遂行に、ハラー自身の未来もかかっている。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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