山口和幸の「ツールに乾杯! 2015」<5>ピレネーの村は革命記念日でお祭り騒ぎ きょうも何とか生き延びた「孤独」な旅

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巡礼地ルルドを目指す田舎道がツール・ド・フランスのコースになった巡礼地ルルドを目指す田舎道がツール・ド・フランスのコースになった

 ツール・ド・フランスの一行は7月13日の休息日を機に大移動し、一気にピレネー・アトランティックへ。そして14日のフランス革命記念日では、フランス国民を挙げてお祭り騒ぎを楽しんだ。この日から3日間がピレネーの山岳ステージだ。

 フランスとスペインの国境をなす大山脈。最高峰は標高3404mのアネト山。全体としてフランス側が急斜面で、スペイン側は緩やか。「ヨーロッパはピレネー山脈で終わる」と言われたように、文化や交流が断ち切られる要衝だった。

 この日はピレネーからの下山が何時になるか分からないので最初にホテルに寄ってみたら、村の広場に面していてすでに革命記念日で盛り上がっていた。「お祭りは今夜だよね」と聞くと、「違う。今日よ」と返されたので、フランス語は難しいなと思った。暗くなるのが遅いので花火は夜11時過ぎから上がる。疲れているボクは静かに休みたいのだが、それがうるさくて眠れないこともある。

ピレネー山麓の小さな村の広場。たいていの人はツール・ド・フランスのレース展開に一喜一憂することなくこの日を楽しむピレネー山麓の小さな村の広場。たいていの人はツール・ド・フランスのレース展開に一喜一憂することなくこの日を楽しむ

 レストランに入店するとたいていの場合は「コンビアン・ド・ペルソンヌ?(何人?)」と聞かれるが、1人で入るとちょっとビックリしたように「トゥットスル?(単独?)」と聞かれる。「ユヌペルソン(1人)」とこっちが伝えても「トゥットスル」と確認される。単独って孤独の「独」が付くので、お店の人もそんなニュアンスを持っているのかなと感じる。

コースには採用されていない峠でもサイクリストの姿が多かったコースには採用されていない峠でもサイクリストの姿が多かった

 こうしてフランスの各県を「孤独」に回っていると、県道沿いに交通事故を抑止する手段としてさまざまな対策を見かける。それは日本よりもかなり現実的だ。死亡事故現場に等身大の黒い人型を立てて、頭から赤い血をたらしているのはどこかでよく見かけた。場所によっては8枚くらい立っていて、ゾッとする。この前は同じような黒い人型を見たが、胸に「私はそのとき35歳だった」と書かれていた。

 気がついたのは動詞の活用が半過去を使っていることだ。フランス語のいくつかの過去形のなかで、半過去は「過去において継続していた動作や状態。その経緯が現在の状況に密接に関係している」場合に使われる。あのとき事故を起こしたから、もうその人はこの世にはいないとでも言いたげで、「スピードを出さないで交通安全を心がけよう」と固く心に誓う。

スペインのミゲール・インデュラインがツール・ド・フランスを訪問。<写真提供・ASO>スペインのミゲール・インデュラインがツール・ド・フランスを訪問。<写真提供・ASO>

 かつてピレネーはスペイン選手が大活躍し、それを応援するためにスペイン語を話す民族が大挙して詰めかけた。1988年の大会を制したペドロ・デルガド、1991年から前人未踏の5連覇を達成したミゲール・インデュライン。ところがどうも最近はスペイン勢も地の利を生かせないようだ。今大会も英語圏の選手の方が集団をコントロールしている。第12ステージでスペインのホアキン・ロドリゲスがベテランらしい走りで一矢を報いたのはさすがだ。

 いずれにしてもピレネー。ホテルが少ないので下山までに時間がかかって苦労する。ホテルでほこりまみれの顔だけ洗って、町中に見つけたレストランのテーブルに一人で着くと「きょうも何とか生き延びたか」と本気で思う。あ、また「トゥットスル」だ。

ピレネーは観光地アルプスよりも未開発で牧歌的だ。時代を間違えたように感じるピレネーは観光地アルプスよりも未開発で牧歌的だ。時代を間違えたように感じる
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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