「きょうのメニューは日本食よ」ようこそ「ティンコフ・サクソ」の広々キッチントラックへ 選手の食を支える秘密基地

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 ツール・ド・フランスに参戦中のプロチーム「ティンコフ・サクソ」(デンマーク)には、ヘッドシェフのハンナ・グラントさん(Hannah Grant)がデザインした特別仕様のキッチントラックが帯同している。総合優勝候補のアルベルト・コンタドール(スペイン)や、ポイント賞を争うペテル・サガン(スロバキア)らトップ選手たちの食を支える秘密基地を取材した。(ポー 柄沢亜希)

2015年6月に出版された自身の料理本(右、英語版)とチームカラーの特別カバーを付した本を持つハンナ・グラントさん2015年6月に出版された自身の料理本(右、英語版)とチームカラーの特別カバーを付した本を持つハンナ・グラントさん

600Lの冷蔵・冷凍庫を3台装備

 「ごめんなさい、昼寝をしてて」と、エプロン姿のグラントさんは気さくな笑顔で現れた。今年2月の来日時にインタビューした際も、飾らない人柄がとても印象的だった。レース期間中は、ストレスを溜めないよう意図的にリフレッシュをしているのだろう。

 記者が訪問した13日はツールの休息日だったとはいえ、午前中、チームの主力選手イヴァン・バッソ(イタリア)に精巣がんが見つかってレースを離れると発表されたため、多くの取材陣が宿舎のホテルを訪れてバタバタとしていた。だからこそリフレッシュは必須で、ハードワークの合間の昼寝もそのひとつ。「寝ぼけた体を起こすのにコーヒーが必要ね」と、グラントさんは笑顔でキッチンに立った。

右奥に見えるのがキッチントラック右奥に見えるのがキッチントラック
キッチントラックのハッチを開けて外の空気を感じながら作業するキッチントラックのハッチを開けて外の空気を感じながら作業する

 レース機材を積むトラックよりもややこぶりなキッチントラックは、今年が4回目のツール・ド・フランス参戦という。車内の特徴は、「作業台を広く設置したこと。他のチームでキッチントラックがあったとしても、中にダイニングスペースもあったりしてキッチンはこれほど広くはないはず」とグラントさん。窓も備えて明るく広々、まるで業務用キッチンのショールームのようだ。

アウトドアの雰囲気を感じながら鳥肉をカットしていくグラントさんアウトドアの雰囲気を感じながら鳥肉をカットしていくグラントさん

 「鬱屈とした場所で仕事をするのは嫌だったから、デンマークのキッチン会社に頼んで思うようにデザインしてもらったの。外の風景や空気を感じながらインスピレーション豊かに料理ができるので、気に入っているわ」

大容量の冷蔵庫は1つで600L!大容量の冷蔵庫は1つで600L!

 大きな設備としては、冷蔵庫2台と冷凍庫1台。それぞれ600Lの容量があり、「食材が満杯であれば4日はもつ」という特大サイズだ。安心できる食材を大量に仕入れることが難しかったり、買い物の時間がなかったりすることが多いので、重宝しているという。

 ただし、4日分と言っても「9人のライダーが25人分は食べるという前提でね」とグラントさんは呆れた様子で付け足した。

夕食の準備に毎日5時間 日本食も

 電気コンロは4口。また2つのオーブンは、焼き料理だけでなく蒸し料理も可能だ。この日調理していたのは、「日本の記者が来るからってわけではないけれど、照り焼きチキンとちらし寿司」。チキンを一口大にカットして、ストックしていた箸に串刺しにしていく――焼き鳥ではないか。物欲しげに見つめる(取材する)記者に、グラントさんは「きのうのおやつだけど、よかったらどうぞ」と、パイナップルとルバーブのグルテンフリーパウンドケーキを振る舞ってくれた。

電気コンロは4口を備える電気コンロは4口を備える
オーブン(手前)は上下に2つ配置オーブン(手前)は上下に2つ配置
チームには小麦、ナッツを食べられないメンバーもいるとのことで、おやつにはパイナップルとルバーブのグルテンフリーパウンドケーキチームには小麦、ナッツを食べられない選手もいるため、おやつのケーキはグルテンフリー
とっておきのグッズ、お箸が登場とっておきのグッズ、お箸が登場
箸に鶏肉を刺して…焼き鳥ですね箸に鶏肉を刺して…焼き鳥ですね

 これだけ大掛かりな設備となると、設置には工夫が必要だ。以前も同じような設備を車内にレイアウトしたことがあるというグラントさん。「大きな箱(トラック)だったのに、ねじれる緩衝部分を設けなかったのには失敗しました。トラックが動く分のねじれを考慮しなかったために、設備が壊れてしまったのです」

大型設備以外は収納用の引き出しか棚。日本食の引き出しもあった大型設備以外は収納用の引き出しか棚。日本食の引き出しもあった
出汁をとるためのカツオ節や昆布を見せてくれたグラントさん出汁をとるためのカツオ節や昆布を見せてくれたグラントさん
中には「パーティーグッズ」の引き出しも。誕生日などお祝いごとを盛り上げるために欠かせない中には「パーティーグッズ」の引き出しも。誕生日などお祝いごとを盛り上げるために欠かせない

 グラントさんのほかに、アシスタントのルネ・ソレンセンさん(Rune Sorensen)が共に調理している。今年で2年目のソレンセンさんは、てきぱきと洗い物や力仕事をこなし、「本当に助かっているの」とグラントさん。「彼が来るまでは毎年新人を教えなきゃいけなかったけれど、もう何も教えなくても仕事をしてくれるので楽になったの。たまに寝過ごしちゃった時にも安心ね(笑)」

アシスタント歴2年目のルネ・ソレンセンさん。イケメンで女性ファンも多いとかアシスタント歴2年目のルネ・ソレンセンさん。イケメンで女性ファンも多いとか
インタビューに応じながらも手先は器用に作業を進めるインタビューに応じながらも手先は器用に作業を進める

 そんなことを話しながらも、グラントさんの手はひたすら作業を続けている。夕食の準備にかかる時間は「たいてい5時間くらい」とか。「鶏肉を漬けておいたり、ソースを作ったりと、なんだかんだで時間がかかってしまう。(忙しくて)忘れていることや思い出せないことがあっても、アシスタントが優れた“ハードディスク頭脳”でさばいてくれるの」

料理本は英語版も出版、日本でも発売中

車内のホワイトボードは楽しげな落書きも残されていた車内のホワイトボードは楽しげな落書きも残されていた

 グラントさんが2013年にデンマーク語で出版した「The Grand Tour Cookbook」は、今年6月に英語版も登場し、名実ともに世界的な料理家となった。ツール・ド・フランスで選手らに提供した23日分(21ステージと2日間の休息日)のレシピを収めたこの本は、オンラインで販売されているほか、日本ではラファ・サイクリングクラブ東京など3カ所の店頭でも入手できるという。

この日選手たちの食卓に並んだ寿司は彩り鮮やかだ(提供写真)この日選手たちの食卓に並んだ寿司は彩り鮮やかだ(提供写真)
ボリューム満点の焼き鳥!(提供写真)ボリューム満点の焼き鳥!(提供写真)

 次なる出版も計画しているというグラントさん。「こんどは日本の料理の要素をもっと取り入れようと思って」とアイデアを明かしてくれた。今年のレース・シーズンが一段落したら、再び来日して日本食の経験を積む予定だという。

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