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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<115>明暗分かれた“ファンタスティック4” ツール・ド・フランス序盤戦の焦点

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 ツール・ド・フランスが開幕! みなさん、楽しく観戦されていますか? 序盤から波乱が起き、さらには大規模落車も発生しましたが、そんな驚きのレース展開からも、他の大会とは全く異なるツールならではの緊張感と盛り上がりを実感させられます。果たして、これからのステージではどんな展開が待ち受けているのでしょうか。そこで今回は、大会序盤に起こった注目の話題をピックアップ。今後の見どころと合わせてお届けします。

第3ステージ、“ファンタスティック4”のなかで最初にマイヨジョーヌに袖を通したクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)第3ステージ、“ファンタスティック4”のなかで最初にマイヨジョーヌに袖を通したクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)

総合争いの形勢を左右する第1週のタイム差

第2ステージ、分断された後方集団に取り残されたニバリ。必死に追走するも、タイムを大きく失う結果に第2ステージ、分断された後方集団に取り残されたニバリ。必死に追走するも、タイムを大きく失う結果に

 開幕早々、大波乱の展開となった総合優勝争い。個人タイムトライアル(TT)で争われた第1ステージ(13.8km)に続き、強風による集団分断が起きた第2ステージ(166km)で早くも大きなタイム差がつき、総合争いの形勢を左右する状況を招いた。

 総合優勝のマイヨジョーヌ最右翼として多くの視線が注がれる、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)の“ファンタスティック4”も、明暗がくっきり。第2ステージでは先頭集団でフィニッシュしたフルームとコンタドールに対し、ニバリとキンタナは1分28秒の遅れを喫した。

第3ステージのゴール前の「ユイの壁」で失速したコンタドール。短い上りながら一気に18秒を失った第3ステージのゴール前の「ユイの壁」で失速したコンタドール。短い上りながら一気に18秒を失った

 さらに、第3ステージ(159.5km)のフィニッシュ地点・ユイの壁では、4選手のコンディションがある程度見えるレース内容となった。ゴール直前で爆発力を見せたフルーム、何とか上位戦線にとどまったニバリとキンタナ。しかしフルームをマークしたコンタドールは失速してしまった。

 そのほか、総合上位につけるティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)、リゴベルト・ウラン(コロンビア、エティックス・クイックステップ)らも含め、総合タイム差を意識した走りはステージを追うごとに激しさを増すことだろう。むしろ、本格的な山岳ステージが始まる第2週までにどれだけマイヨジョーヌに近い位置にいられるかが、その先の戦いに大きく関係してくると見た方がよさそうだ。

第4ステージを終えて、首位から2分8秒差の総合17位につけるキンタナ第4ステージを終えて、首位から2分8秒差の総合17位につけるキンタナ

 チームTTの第9ステージ(28km)は、ライバルとの差を広げる、またはタイムを取り戻すチャンスとなるだろう。加えて、イギリス海峡に沿って西へと進路をとる第5~8ステージの4日間も、強い風や悪天候に見舞われるようだと、アシストを含め総攻撃を仕掛けるチームが出てきそうだ。

 もちろん、大会序盤のタイム差がそのままパリ・シャンゼリゼまでつながるとは考えにくい。第3ステージを制したホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)に言わせれば、「ツールの頂点に立つ選手は強さだけではない。どれだけの強運を持ち合わせているかと、トラブルに見舞われないかが重要だ」という。各選手のコンディションの変化やレースの流れなど、予測がつかないのがツールでもある。今後も見どころは次々と訪れるはずだ。

カンチェッラーラはリタイアのままツール引退か

第3ステージでマイヨジョーヌを着たまま落車。チームメートのマルケル・イリサル(スペイン)に付き添われゴールするカンチェッラーラ第3ステージでマイヨジョーヌを着たまま落車。チームメートのマルケル・イリサル(スペイン)に付き添われゴールするカンチェッラーラ

 第2ステージで3位に食い込み、自身通算29日目のマイヨジョーヌに袖を通したファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)。その矢先、第3ステージで大規模な落車に巻き込まれ、完走こそしたもののジャージを失ったばかりか、レース後に腰椎第2・3番の2カ所を骨折していることが判明。題ステージに出走することなく大会を去っていった。

 開幕前、今回がキャリア最後のツールになると公言。チームとの契約が終了する2016年シーズン限りでの現役引退も現実味を帯びている。これまで、個人TTで争われたツールの開幕ステージを制すること5回。現役最終年となる可能性が高い2016年は、ツール開幕がラインステージであることが決まっているため参加を見合わせ、リオ五輪と世界選手権に照準を合わせるとの見方が強まっている。

 そんな中、まさかの落車負傷によるリタイア。今大会の離脱はやむを得ないが、このままツール引退となってしまうのか。今後、カンチェッラーラ本人がどのような判断をくだすのかにも注目していきたい。

第3ステージの大規模落車による負傷の状況

落車の後、レースが完全にストップさせられるという、異例の事態になった落車の後、レースが完全にストップさせられるという、異例の事態になった

 第3ステージ、100km地点を過ぎたあたりで起こった集団落車は、あまりの規模の大きさに誰もが目を覆いたくなったことだろう。カンチェッラーラを含め、多くの有力選手が巻き込まれ、今後のレース展開にも影響を及ぼしかねない状況となっている。

 落車発生時の状況について、タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ プロチーム)が「時速80kmは出ていた」と証言。道幅が広かったことから、走行ラインを左右に移動しようとする選手が多い場面であったという。各選手がポジションを整えようとしていた中で、ウィリアム・ボネ(フランス、エフデジ)が前を走っていた選手と接触。後続が次々と巻き込まれることとなってしまった。左腕と手首、顔面を負傷したダニエル・オス(イタリア、BMCレーシングチーム)は「気がついたときには地面に飛ばされていた」と話す。

落車後、チームドクターのチェックに顔をしかめる、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)落車後、チームドクターのチェックに顔をしかめる、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)

 このクラッシュにより、ボネが外傷性脳挫傷と第2頸椎の損傷。命に別状はなく、意識もはっきりしているというが、頸椎の手術を行うことが決まっている。そのほか、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)は鎖骨、サイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)は手首、トム・ドゥムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)は肩、ディミトリー・コゾンチュク(ロシア、チーム カチューシャ)は鎖骨と肩甲骨をそれぞれ骨折。いずれもリタイアしている。

 また、ここでの負傷を抱えながらもレースを続行する選手も多数。満身創痍の状態でありながらも、パリ・シャンゼリゼを目指す戦いを彼らは継続する。

MPCCが一時的にアスタナ プロチームの登録を停止

 大会開幕を直前に控えた7月3日、衝撃的なニュースが走った。ラルス・ボーム(オランダ、アスタナ プロチーム)が、MPCC(世界的反ドーピング倫理運動)が定めるコルチゾール基準値を下回ったため、規定によりツールのスタートラインに立てないと指摘されたのだ。

 MPCCは任意団体であることから、UCI(国際自転車競技連合)やWADA(世界アンチ・ドーピング機構)による薬物違反とはならないものの、加盟団体は自主的に当該選手のレース活動を中断させる必要がある。規定に沿えば、ボームは8日間レース活動をストップしなければならない。

 これを受け、チームはボームに代わる選手としてアレッサンドロ・ヴァノッティ(イタリア)を緊急招集。しかし、マネジャーズミーティング(監督会議)がすでに終了し、出場選手登録期限が過ぎていたことから、UCIによってボームとヴァノッティの入れ替えは不可能との決定がなされた。

アスタナ プロチームのゼネラルマネジャーを務める、アレクサンドル・ヴィノクロフ氏アスタナ プロチームのゼネラルマネジャーを務める、アレクサンドル・ヴィノクロフ氏

 結果的に、アスタナはボームを第1ステージに出走させた。ゼネラルマネジャーのアレクサンドル・ヴィノクロフ氏の見解は、「MPCCは任意団体であり、UCIやWADAで違反との決定がくだされない限り、出走には問題がない」とのこと。昨シーズン、下部組織を含め5選手が薬物違反となり、現在はUCIによる厳格な監視のもとトップシーンでのレースを続けているアスタナ プロチーム。当初はMPCCのルールに従わざるを得ないとの見方もあったが、ボームの強行出場に踏み切った。

 MPCCでは今後、アスタナへの処遇を決める見通し。ひとまずは、ボームの出走を認めるため、暫定的にアスタナの登録を停止する形をとった。

 最近では、ジロ・デ・イタリア直前にジョージ・ベネット(ニュージーランド、チーム ロットNL・ユンボ)がコルチゾールの基準値を下回り、ジロを欠場。その後、チームはMPCCを脱会した。同様のケースとなったバルディアーニ・CSFは当該選手をジロに強行出場させ、やはりMPCCを脱会している。今後のアスタナとMPCCの動向も気になるところだ。

 なお、ボームは低コルチゾール値の理由を、かねてから使用していた喘息薬にあるとしている。

ローハン・デニスが第1ステージで“ボードマン超え”

第1ステージの個人TTで驚異的なタイムを叩き出したローハン・デニス(オーストラリア、BMC レーシングチーム)。コンパクトで空気抵抗の少ないフォームだ第1ステージの個人TTで驚異的なタイムを叩き出したローハン・デニス(オーストラリア、BMC レーシングチーム)。コンパクトで空気抵抗の少ないフォームだ

 第1ステージの個人TTを制したローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。鮮やかな走りで今大会最初のマイヨジョーヌ着用者となったが、その快走はツールの歴史を塗り替えるものでもあった。

 13.8kmを14分56秒で走破。平均時速にすると55.446km/hとなり、1995年にクリス・ボードマン(イギリス)が記録した55.152 km/hの「ツール最速記録」を20年ぶりに更新したのである。

 ボードマンといえば、3度のアワーレコード樹立に加え、世界選手権ロードの個人TT初代王者にも輝いた伝説的なTTスペシャリスト。ツールでは“ミスター・プロローグ”とも呼ばれた。

 ボードマンが55.152km/hを記録したときのレース距離は7.2km。コースコンディションの違いこそあれど、より長いレース距離で新記録をマークしたデニスの走りがいかに素晴らしいかが分かるだろう。

 今年2月にアワーレコードを更新したデニス。その後、記録は破られてしまったが、再チャレンジを見据えており、「平均時速55km/hは、今後のアワーレコードにおいて必要なスピードだ」とコメントした。マイヨジョーヌ獲得を足掛かりに、再び記録を塗り替えようとしている。

今週の爆走ライダー-アレクシー・ヴュイエルモーズ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

ツール第4ステージで3位に食い込んだアレクシー・ヴュイエルモーズツール第4ステージで3位に食い込んだアレクシー・ヴュイエルモーズ

 ツール第3ステージ、激坂ハンターのロドリゲス、総合優勝に向け軌道に乗るフルームがユイの壁の頂上へと急いだ後方で、粘りの走りで3位となったのがヴュイエルモーズ。同地を舞台とする4月のフレーシュ・ワロンヌで、6位に食い込んだ走りがフロックではないことを証明してみせた。

 典型的なクライマーだが、そのベースにあるのはマウンテンバイクでの経験と実績。ジュニア時代の2008年には世界選手権でチームクロスカントリーを制し、マイヨアルカンシエルを獲得。以降も、各年代のフランスチャンピオンとなり、国内では無敵だった。

 ロードへの本格参戦は2013年から。24歳と少々遅咲きではあったが、その年のツール第3ステージでは逃げを打つなど、プロ1年目から存在感をアピールしてきた。現チーム入りは2014年。マウンテンバイク時代のチームメートでもあったジャンクリストフ・ペロー(フランス)と同じチームを選択。加入早々、ジロ・デ・イタリア総合11位と健闘し、一躍チームの主力選手に踊り出た。

ツール初出場の2013年、ラルプ・デュエズの坂を上るヴュイエルモーズ。このステージは41位ゴールだったツール初出場の2013年、ラルプ・デュエズの坂を上るヴュイエルモーズ。このステージは41位ゴールだった

 満を持して臨む今回のツールは、若きエースのロマン・バルデ(フランス)や、長年慕ってきたペローを支えることが大きなミッション。ユイの壁で見せた走りは、第2週以降の山岳ステージでの働きを十分に計算できる内容だった。

 状況さえ整えば、自身がエースとして戦うこともできるだろう。新たな可能性を広げ、名を挙げる3週間にできるだろうか。選手層に厚みを増すフレンチチームにまた1人、“大物”候補が現れた。

 ちなみに、フレーシュ・ワロンヌ、ツール第3ステージとも、トップとの差は4秒だった。この4秒を埋められるかどうかで、彼の未来は大きく変化する。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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