ジャパンカップで「優勝を狙う」ビッグレースでチームから信頼される別府史之 新型「マドン」を手に入れ勝利を誓う

  • 一覧

 5月に開かれた世界3大ステージレースの一つ「ジロ・デ・イタリア」で、4度目の出場・完走を果たしたトレック ファクトリーレーシングの別府史之が、シーズン中では珍しく一時帰国した。Cyclistのインタビューに応じた別府は、シーズン後半にブエルタ・ア・エスパーニャやジャパンカップに出場する可能性があり、トレックの新型エアロロード「Madone」(マドン)を駆って「優勝を目指していく」と活躍を誓った。

Cyclistのインタビューに応じた、トレック ファクトリーレーシングの別府史之(写真・瀧誠四郎)=神奈川県茅ヶ崎市「パシフィックデリ」Cyclistのインタビューに応じた、トレック ファクトリーレーシングの別府史之(写真・瀧誠四郎)=神奈川県茅ヶ崎市「パシフィックデリ」

フミはイタリアのファンから人気

 5月9~31日に開かれた今年のジロについて、別府は「野蛮というか、クラシックよりも激しいレースだった」と振り返る。「向かい風のなか、平均時速53kmで2時間走り続けた」というステージもあったほど、大会序盤からハイスピードなレースが毎日のように続いた。それによって集団は常にナーバスな状態で、グランツールではよく見られるゆったりと走れるステージがほとんどない“異常”な状況だったという。

 総合エースのいないチーム内において、別府には逃げてステージ優勝を狙う役割も与えられていた。しかしメーン集団には、逃げを得意とする選手を逃がさない傾向があったという。チャンスがあれば、ほとんどのステージで逃げを狙っていた別府だが、「持ち味を生かしきれなかった」と悔しい思いを語る。

ジロ・デ・イタリアで最終・第21ステージのスタートに向かう別府史之 =2015年5月31日(田中苑子撮影)ジロ・デ・イタリアで最終・第21ステージのスタートに向かう別府史之 =2015年5月31日(田中苑子撮影)

 ジロは好きなレースだと別府は常々語っている。「ジロには愛がある。ファンは自転車のことが好きで、ジロが好き。そして、いつも熱狂的な応援をもらえる」というのがその理由だ。生ハムだったり、ジェノベーゼだったり、訪れる地域ごとにおいしい料理が味わえるのも欠かせない楽しみとなっている。

 また、別府はイタリアの観客からも人気、知名度が高いのだという。沿道からはあちこちから「ベップ!」「フミー!」という声援が飛び交い、若いイタリア人のチームメートたちが「どうしてそんなに人気なの!?」と驚くほどの人気ぶりだ。

ポジション取りのうまさでマリアロッサ獲得に貢献

 今年のジロにおけるチームの目標は、エーススプリンターのジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)にポイント賞ジャージ「マリアロッサ」を獲得させることだった。「Fight for red」を合言葉に、第17ステージでマリアロッサを獲得すると、最終ステージまで予断を許さない展開のなかで最後までジャージを守りきった。戦略が機能して目標を達成するという、チームとして満足のいく結果を手にした。

 別府が担ったのは、スプリント勝負に向けてのラスト5kmからのチーム牽引。別府の集団内でのポジション取りのうまさも、チームの中で重宝される能力だ。ゴールに向けてペースが上がる中では、他チームの選手の邪魔にならずにポジションをキープするテクニックが必要とされる。さらに、チームを牽引する時はエースとその発射台になる数人分のスペースも考えながら走ることになる。

ジロ・デ・イタリア最終ステージ、マリアロッサを着たジャコモ・ニッツォーロが、これまでアシストしてくれた別府史之をねぎらった(写真・砂田弓弦)ジロ・デ・イタリア最終ステージ、マリアロッサを着たジャコモ・ニッツォーロが、これまでアシストしてくれた別府史之をねぎらった(写真・砂田弓弦)

 経験のない若手選手だと集団内で押しのけられてしまうこともあるが、別府は巧みに場所を確保してチームメートを連れていくことができる。スプリント勝負に挑むための重要な役割を担った別府に対し、ニッツォーロは「素晴らしい仕事をしてくれた」と感謝した。

エースたちがサポート役に指名

 今シーズンの別府は5月のジロに照準を合わせ、1月のオーストラリアでのレースを回避し、欧州のレースに出場しながらコンディションを高めていった。ステージレースのカタルーニャ一周に続いて、石畳と激坂で繰り広げられる“クラシックの王様”ツール・デ・フランドル、パンチャーやクライマーが活躍するアルデンヌクラシック3連戦と、ワールドツアーのレースに出場してきた。

アルデンヌクラシック3連戦に出場した別府史之。集団内でポジション取りに務め、エースを勝負どころに送り込んだ(写真・砂田弓弦)アルデンヌクラシック3連戦に出場した別府史之。集団内でポジション取りに務め、エースを勝負どころに送り込んだ(写真・砂田弓弦)

 平坦、アップダウン、過酷な石畳でも、オールラウンドに力を発揮できるのは別府の大きな強みだ。その証拠に、別府はさまざまなタイプのレースで、エースからの厚い信頼を受けて走ってきた。フランドルではスティーン・デヴォルデル(ベルギー)、アルデンヌクラシックではバウケ・モレマ(オランダ)から「フミには常に自分の近くにいて欲しい」と指名を受け、彼らをサポートした。

自宅近くのコースで自らスプリント勝負

 ジロの直後に臨んだクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(6月7~14日)では、監督から「平坦な第1、2、4ステージではフミにゴールスプリントに絡んで欲しい」というオーダーがあった。疲れは溜まっていたが、自宅の近くがゴールだった第2ステージでは12位に入った。

表情豊かにインタビューに応えた別府史之(写真・瀧誠四郎)表情豊かにインタビューに応えた別府史之(写真・瀧誠四郎)

 いつもトレーニングしている道をプロトンで走るのは「不思議な感覚だった」と別府は語る。チームメートのコンディションが悪く、自力で位置取りすることになったが、いいポジションで終盤に臨むことができた。

 ラスト20kmから集団前方につけていたが、ゴール手前3kmでスローパンク。そのため「最後に伸びなくて、残念だった」と振り返った。それでも「スプリント勝負ができて楽しかった。チャンスがあれば、これからもスプリントを狙っていきたい」と確かな手応えをつかんだ。

新型マドンに感動 「トレックのバイクは楽しい」

 トレックは6月30日に新型エアロロード「マドン」シリーズを発表した。開発段階からテストライドに参加していた別府はプロトタイプを見た時、その形状に驚き、「どういうバイクになるんだろうとワクワクした」という。

トレックの新型エアロロード「マドン」の最上級モデル、Madone RSL H1(写真・田中苑子)トレックの新型エアロロード「マドン」の最上級モデル、Madone RSL H1(写真・田中苑子)

 完成したマドンに乗ったフィーリングを別府にたずねると、うれしそうな笑みを浮かべて「『トレック、やってくれたな』という感じ(笑)」と革新的なデザインや性能を賞賛した。ショックを吸収するIsoSpeed(アイソスピード)テクノロジーによる快適さ、シッティングのまま加速して、一度スピードが乗るとそのまま落ちない空力性能、そして美しさ。その完成度の高さに「トレックは、どうしてこんな楽しいバイクを作れるんだろう」という感動を覚えたという。

 ツール・ド・フランスでは新型マドンが本格的に実戦投入されていて、チームの大半の選手が使用している。トレックには上りを得意とする軽量バイク「エモンダ」があるが、高速巡航性能が高いマドンは、山岳ステージを迎える際によりフレッシュな状態で上りに臨めるメリットがあり、オールラウンダーやクライマーにも新たな選択肢となるバイクだと別府は分析する。

ブエルタ出場メンバーにリストアップ

 別府のシーズン後半のレースは、8月2~8日にポーランドで開かれるツール・ド・ポローニュでスタート。ここから新型マドンを実戦投入する予定だ。スプリント時にグングン伸びる新型マドンと、ドーフィネでつかんだスプリントの手応えを合わせて、これから出場するレースでは「いい位置を狙える」と別府は語る。

日本で開催された新型マドン発表会に登場した別府史之(写真・平澤尚威)日本で開催された新型マドン発表会に登場した別府史之(写真・平澤尚威)

 8月から9月にかけて開かれるスペイン一周レース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」に向けても、チーム内で出場メンバーのリストに入っているといい、今年2つ目のグランツール出場の可能性がある。またアメリカで開催される世界選手権は、アップダウンの多い脚質に合うコースと見ている。

 そして10月には、トレック ファクトリーレーシングが出場を予定しているジャパンカップが控えている。昨年は日本人最高位の14位にという結果だったが、「自国で開催される最大のレース(UCI 1.HC)なので、優勝を狙いたい」とリベンジに燃える。

「戦う」姿勢を貫き通す

常に「戦う」という姿勢でレースに臨んでいる別府史之(写真・瀧誠四郎)常に「戦う」という姿勢でレースに臨んでいる別府史之(写真・瀧誠四郎)

 来年のリオデジャネイロ五輪、2020年に母国開催される東京五輪を目標とするかとの質問には、「わからない」と答えた。ロードレース界において、4年に1度の五輪に出場することは大きな意義があるが、他にも重要なレースがたくさんあるため、早くから五輪だけに的を絞ることはできないというのが別府の考えだ。

 「五輪までには、まだまだ戦っていかなければいけないフィールドがある」と慎重な姿勢を貫くが、そのうえで「戦っていった末の到達点として、出場したいし、狙いたいレース」と語った。

 別府は「戦う」という強い気持ちを大事にしている。「自転車が好きというより、ロードレースの競技のなかで戦っていくことが好き。そこに情熱をかけて、自分の魂をぶつけている」と自負する。これからの選手生活についても「自分はサイクルロードレースの第一線で戦っているし、いつまでも戦っていきたい」と力強く語った。

注目の若手はルクセンブルクチャンピオン

 チームが世代交代していくなかで、別府は「ベテランの域に達してきたな」と感じている。チームのムードメーカーでもあり、出場選手のなかで最年長だったジロでは、監督からチームを一丸にする役割を求められ「うまくチームを動かしてほしい」と要請された。「自由に走りたい」という若手選手に「こう走ったほうがチームのためになる」と説得したり、逆に悩んだり落ち込んだりしている選手に話しかけてケアしたりと、コミュニケーションを図った。

 多国籍の選手が集まるチームにおいて、別府が特に仲良くしているのはボーイ・ファンポッペル(オランダ)だ。グランツール通算22勝のスプリンター、ジャン=ポールを父にもち、母も自転車選手だったという自転車一家で、弟のダニーも現在のチームメート。親日家で、鯉が好きだというボーイは、オランダの自宅に日本庭園風の池を作って鯉を飼っているのだという。

 別府に注目すべきチームメートを尋ねると、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)と答えた。プロ3年目ながら「言ったことを実行する力があって、スター性、輝きがある」と別府は語る。今年は6月に開かれた国内選手権のロードレースと個人タイムトライアルを制しており、今年のツールで「1ステージは勝負に絡んでくるのでは」と予想する。また、ファビオ・フェッリーネ(イタリア)の名前も挙げ「この2人はいいセンスをもっている」と評した。

日本での交通マナーアップにも取り組み

 別府の出身地である神奈川県茅ヶ崎市は、道が平らで走りやすいため自転車利用者が多いが、それだけに自転車事故も多い。そこで、地元で開催されている自転車イベント「ちがさきヴェロフェスティバル」に毎年参加し、ロードレースのPRや、自転車の交通マナー啓発に取り組んできた。

別府史之(写真・瀧誠四郎)別府史之(写真・瀧誠四郎)

 今年も、秋に開催予定のヴェロフェスティバルに参加したいと考えている。「ロードレース界を、そして茅ヶ崎を代表する自転車選手として、地元と関われることはうれしい」と別府は語る。

 茅ヶ崎市では自転車のマナーアップに取り組んでいることもあって、事故は減ってきているという。別府は地元で成果が生まれ始めたことを受けて、それが全国に広がって欲しいと願う。「親がルールやマナーを間違えていると、子供も間違えてしまう。自分たちが正しい姿を見せることで、周りを変えていきたい」と今後の取り組みへの意気込みを語った。

(聞き手・平澤尚威)

【取材協力:トレック・ジャパン】

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

インタビュー トレック 別府史之

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載