1台の自転車が、貧しい人々の生活を変えるツール・ド・フランス初出場の「MTN・クベカ」 アフリカの誇りを背負い、未来へ疾走

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 今年のツール・ド・フランスで、アフリカ大陸から初の出場を果たしたチーム「MTN・クベカ」が注目を集めている。南アフリカ籍のUCI(国際自転車競技連合)プロコンチネンタルチームで、出場9選手のうち5人を南アフリカやエリトリアなどアフリカの国籍の選手が占めている。 (文・写真 田中苑子)

今大会出場選手のなかで最年少の21歳、クライマーのメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)。2014年のツール・ド・ランカウイで総合2位の成績を残している今大会出場選手のなかで最年少の21歳、クライマーのメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)。2014年のツール・ド・ランカウイで総合2位の成績を残している

自転車競技のグローバル化を体現

緊張した面持ちでプレゼンテーションの壇上に上がる、現南アフリカチャンピオンのジャック・イャンスファンレンスブルフ緊張した面持ちでプレゼンテーションの壇上に上がる、現南アフリカチャンピオンのジャック・イャンスファンレンスブルフ

 チームの歴史をひも解くと、誕生したのは2007年。翌2008年にUCIコンチネンタルチームに登録し、2013年からはプロコンチネンタルチームとして活動している。UCI史上、アフリカ大陸では唯一のプロコンチネンタルチームであり、昨年にはグランツール(世界3大ステージレース)のひとつ、ブエルタ・ア・エスパーニャにも参戦した。

 チーム創設当初からメーンスポンサーを務めるMTNは、南アフリカや中東でサービスを展開する通信会社。第2スポンサーは2011年より、非営利団体で貧しい子どもたちに自転車をプレゼントする活動を行うクベカが務めている。

笑顔を見せるダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(エリトリア)笑顔を見せるダニエル・テクレハイマノット・ギルマジオン(エリトリア)
ノルウェーチャンピオンのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)ノルウェーチャンピオンのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)
南アフリカ、ヨハネスブルグ郊外を自転車レースが通る(2014年撮影)南アフリカ、ヨハネスブルグ郊外を自転車レースが通る(2014年撮影)

 このチームが急成長を遂げた背景には、UCIが推し進める(とくにパット・マックエイド前会長が熱心に取り組んだ)競技のグローバル化がある。UCIは南アフリカにトレーニングセンターを構え、アフリカ全土から有能な選手を集め、専門的なトレーニングを行っている。ここはスイスにあるUCIのワールドサイクリングセンターとも連携しており、アフリカ籍の多くの選手はそれらトレーニングセンターを経てチームに加入する流れができている。

 つまり、アフリカで年々高まる自転車競技の人気とともに、UCIとの密な連携もチームの成長を大きく助け、世界で戦う多くのプロ選手がアフリカに誕生した。そして今もたくさんの若い選手たちが、プロを夢みてトレーニングに打ち込んでいる。

厳しい現実のアフリカに勇気と希望を

 「自分たちがツール・ド・フランスに出場する意味はたくさんある」と選手たちは口々に話す。解釈すると、アフリカには今も多くの発展途上国が存在し、紛争やテロが後を絶たない。アフリカでもっとも進んでいる南アフリカですら、1991年までアパルトヘイト政策が行われており、20年以上経った今も、スラム街でたくさんの人が貧しい生活を強いられている。

 MTN・クベカの選手たちは、自分たちの活躍する姿を見せることで、そんな厳しい現実に直面するアフリカの人たちに勇気と希望を与えたいと考えている。これは他のチームにはない、特別な活動理念だ。

南アフリカの小学生。人種に隔たりがない南アフリカの今を象徴する(2013年撮影)南アフリカの小学生。人種に隔たりがない南アフリカの今を象徴する(2013年撮影)
いまも多く残るスラムに暮らす子どもたち。アパルトヘイト撤廃後も教育を受けていないために定職につけず、一部では貧しい暮らしが続く(2013年撮影)いまも多く残るスラムに暮らす子どもたち。アパルトヘイト撤廃後も教育を受けていないために定職につけず、一部では貧しい暮らしが続く(2013年撮影)
南アフリカ、ヨハネスブルグ郊外。広い庭付きの家々の奥にはスラム街が広がる(2014年撮影)南アフリカ、ヨハネスブルグ郊外。広い庭付きの家々の奥にはスラム街が広がる(2014年撮影)

 その活動理念が形になった一つの例として、チームがツール・ド・フランス期間中に行う#BicyclesChangeLivesキャンペーンがある。これはスポンサーであるクベカの活動の延長で、ツール・ド・フランス期間中にキャンペーンTシャツを販売したり、寄付を集めることで、5000台の自転車をアフリカの子どもたちにプレゼントすることを目標にしている。

 貧しいアフリカでは、自転車はもっとも身近な移動ツールであり、自転車があることで学校に通って勉強すること、仕事に就くこと、さらには病院に行くこともできる。「1台の自転車が、アフリカの人々の生活を変えることができる」。チームはクベカとともにそう信じて、力強いメッセージを発信し続けている。

チームプレゼンテーションのステージ上、手のひらを広げてクベカのロゴマークをアピールチームプレゼンテーションのステージ上、手のひらを広げてクベカのロゴマークをアピール

アフリカにいる誰かのために走る

 今年のツール・ド・フランスでエースを務めるのは、かつてステージ優勝の経験をもつエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)やタイラー・ファラー(アメリカ)という欧米出身の選手だ。しかし、出場選手最年少(21歳)であり2014年のツール・ド・ランカウイ総合2位のメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(エリトリア)や、2013年世界選手権U23カテゴリー2位、2014年南アフリカチャンピオン、2015年アフリカ選手権優勝など、弱冠23歳にして多くの成績をもつクライマーのルイ・メーンティス、現南アフリカチャンピオンのジャック・イャンスファンレンスブルフら、アフリカの才能あふれる選手たちにも大きな期待がかかる。

 「アフリカにいる誰かのために走る。そのことで背中が押されるし、とても素晴らしい特別な気分だ」と話すルイ・メーンティス。アフリカの誇りを背負って、またその先にあるアフリカの未来のために―。MTN・クベカの3週間にわたる戦いが始まった。

2014年のマザンシツアー(南アフリカ)でリーダージャージを獲得したジャック・イャンスファンレンスブルフ(右/南アフリカ)とメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(左/エリトリア)2014年のマザンシツアー(南アフリカ)でリーダージャージを獲得したジャック・イャンスファンレンスブルフ(右/南アフリカ)とメルハウィ・クドゥスゲブレメドヒン(左/エリトリア)
ルイ・メーンティス(南アフリカ)と彼の勝利を喜ぶ母(2014年撮影)ルイ・メーンティス(南アフリカ)と彼の勝利を喜ぶ母(2014年撮影)
MTN・クベカの3週間に渡る長い戦いが始まった。ジャージの背中にはクベカのロゴマークMTN・クベカの3週間に渡る長い戦いが始まった。ジャージの背中にはクベカのロゴマーク

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