6月28日の全日本選手権ロードに全力で挑戦多くの人に支えられて日本へ単身“遠征” 萩原麻由子の欧州レポート<2>

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 イギリスの女子プロ・ロードレースチーム「ウィグル・ホンダ」に所属する萩原麻由子は、まさに女子の世界トップレベルで走っている。チームメートには元世界女王や各国チャンピオンがズラリ。そんな中で経験を重ね、レーサーとしての階段を着実に上っている。萩原本人の手記による短期連載の2回目は、チームの様子に加え、全日本選手権ロードレースに出場するため欧州から日本へ単身“遠征”している想いも語った。

2014年のルート・デ・フランスでスタートを待つ萩原麻由子。ナショナルチャンピオンということで最前列に並ばせてもらったという ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling2014年のルート・デ・フランスでスタートを待つ萩原麻由子。ナショナルチャンピオンということで最前列に並ばせてもらったという ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling

<1>より良い競技環境を求めてドイツを拠点に活動

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「なんだそれ!」と言われても…電子辞書で悪戦苦闘

 前回の記事でも触れたように、チームには多くの国籍の選手たちが所属しています。公用語は英語。チームからの連絡、レース前のミーティング、無線、普段のコミュニケーションもすべて英語で行われます。

2014年のスエーデンW杯のチームプレゼンテーション。萩原はこの後、2度の落車で途中棄権し、救急車で搬送されてしまった ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling2014年のスエーデンW杯のチームプレゼンテーション。萩原はこの後、2度の落車で途中棄権し、救急車で搬送されてしまった ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling

 初年度はそれこそ全く聞き取れず、レース前のミーティングも監督の英語が流暢すぎて聞き取れなかったため、全体ミーティング後、個別でペンと紙を持参し、その日のレースの要点を監督に書き出してもらい、文字で理解する、という事を繰り返していました。

 小型の電子辞書を持参し、チームメイトに「なんだそれ!」と言われても、大事な事は自分で理解できるよう、いろいろ工夫をしました。

 次第に耳が慣れ、レースに関する専門用語も覚え、いまではミーティング内容を明確に理解する事ができています。分からなかった点はその場で、もしくは個別に、監督やチームメイトに確認するようにしています。レースが始まって、内容、役割を明確に理解していないのは致命的。というのも、状況をみて即座に判断し、とっさに動けるほど、ヨーロッパでのレースを熟知しているわけではないからです。

 そんな中、チームのエーススプリンターで、キャプテンでもあり、元世界チャンピオンのジョルジア・ブロンジーニは、フィジカル、メンタル共にすぐれた人物です。厳しい一面もありますが、その人柄も素晴らしいと尊敬しています。

“絶対エース”の近くにチャンスあり

 ジョルジアは常に仲間を大事にして思いやるイタリア人特有の性質を備え、とても温かい人間性を持っています。私自身、遠征の合間に数回、ジョルジアの自宅に滞在させてもらったことがありますが、彼女は料理も得意で、いつも手料理を振る舞い、皆に楽しい時間を過ごさせてくれます。

「おい麻由子! ジャパニーズスタイルでセルフィーとるで!」というジョルジア・ブロンジーニ(右)の音頭でパシャリ! ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling「おい麻由子! ジャパニーズスタイルでセルフィーとるで!」というジョルジア・ブロンジーニ(右)の音頭でパシャリ! ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling

 遠征中でもよく冗談を言い、日本でいうところの関西的なノリで皆を和ませてくれます。

 一方、レースにおける彼女の指示はとくに明確で、彼女の近くに最終局面までいる事ができれば、チームや自分自身にとってチャンスが生まれるという事も分かりました。

2015年のイタリアW杯のプレゼンテーション前。ライダーは6人だが、この日はブロンジーニの愛犬ダーダが“特別参加” ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling2015年のイタリアW杯のプレゼンテーション前。ライダーは6人だが、この日はブロンジーニの愛犬ダーダが“特別参加” ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling

 今年、ウィグル・ホンダがワールドカップなどの大きなレースでたくさんの勝ち星を挙げている理由の一つに、ジョルジア・ブロンジーニという絶対的エースの存在があります。彼女を司令塔とし、今年移籍してきた若いエースたち、エリーザ・ロンゴ・ボルギーニ、ユーリン・ドーレ、クロエ・ホスキンズといった強力なメンバーが勝利をつかみ取るパターンが何度もあります。

世界トップへの階段を上るウィグル・ホンダ

ウィグル・ホンダの指揮を執るエーフォン・フェン・ケソ監督と萩原麻由子 ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cyclingウィグル・ホンダの指揮を執るエーフォン・フェン・ケソ監督と萩原麻由子 ©Bart Hazen/Wiggle Honda Pro Cycling

 また、今年から指揮を執るオランダ人のエーフォン・フェン・ケソ監督による、コース情報等に基づいた緻密で詳細な戦術も、チームにマッチして勝利に貢献していると思います。

 チーム設立から3年目を迎えているWiggle Hondaは、まさに今、世界のトップチームへの階段を着実に上っている最中だと実感しています。

 この中で、いかにしてメンバーに入り、成果を上げ、チームに認められるかが、私の最も重要なポイントです。22~25歳の選手たちが活躍するいま、28歳の私は決して若くなく、年齢だけでいえばもうベテランの域に差し掛かりつつあります。

 いまはまだ伸るか反るか、もろ刃の剣のような存在の私ですが、チームメイトたちからより多くを学び、成長していきたいと思っています。

人間臭さがロードレースの魅力

 チームメイトの人柄は一人ひとり個性豊かで、書き始めるとキリがありません。ジョルジアを筆頭に、素晴らしいキャラクターを持った選手がたくさんいるおかげで、いつも笑顔が絶えません。こういったことも今年のチームの好成績につながっていると実感しています。

今年5月、ベルギーのレースで名所カペルミュールの激坂を上る萩原麻由子。このレースでは3位入賞を果たした今年5月、ベルギーのレースで名所カペルミュールの激坂を上る萩原麻由子。このレースでは3位入賞を果たした

 ロードレースは、ただ練習して身体が強ければいい、というものではありません。レース展開を察知して動ける力、そして他人との協調や駆け引きが勝負を大きく左右します。極限状態での人間関係といったらいいのか…そんな人間臭さが顕著に表れるロードレースの魅力に、私はさらに取りつかれるようになりました。

 レースにおいても、生活においても、この年齢にしてなお頭を打ってばかり、学ぶことの多い日々を過ごしています。しかし、場所や文化が変わっても、今まで自分が日本で学んできた基本を大事に、自分の持ち味を生かしながらこの欧州で生き残っていきたいと思っています。

リカバリーにノンアルコールビール

 日本にいた時ノンアルコールビールを口にして、「こんなものはもう二度と飲まん!」と思ったのですが、ドイツでは昔からノンアルコールビールが親しまれています。ビールからアルコール成分を抜いたもので、ミネラル等が豊富なのだとか。

 銘柄や成分についてはあまり詳しくは知りませんが、ある日ノンアルコールビールの瓶を開けたところ、これが美味しくて…いまでは運動後にリカバリードリンクとして飲んだりしています。

さすがドイツはビールの国。ノンアルコールビールも美味しい!さすがドイツはビールの国。ノンアルコールビールも美味しい!

 さすがビールの国です。欧州1年目に過ごしたベルギーも同じようにビールの国でしたが、国や地域ごとに違うとも思いました。

NIPPO大門監督の紹介で万全のサポート

 毎年4、5月ごろになると、全日本選手権への遠征のことで頭の中が忙しくなります。いまは自分の拠点が欧州にあるため、日本へ“単独で遠征に行く”という位置づけになっています。この遠征は、多大な労力や費用をかける点でも、また自分自身のキャリアにとって重要なナショナルチャンピオンを勝ち獲りにいく点でも、非常に重要な取り組みです。

 ただ、旅行の計画や手配などをすべて自分で行うため、特に最初の年はとても苦労しました。

 そんな時、かねてからお世話になっていたチームNIPPOの大門宏監督へ連絡をとり、NIPPOの全日本遠征に同行させてもらえないかとお願いしました。

チームNIPPOのマネージャーを兼任する大門宏監督。日本の自転車競技界の発展のために多大な情熱を注いでいる =2015年5月、ジロ・デ・イタリアで撮影 ©NIPPO Vini FantiniチームNIPPOのマネージャーを兼任する大門宏監督。日本の自転車競技界の発展のために多大な情熱を注いでいる =2015年5月、ジロ・デ・イタリアで撮影 ©NIPPO Vini Fantini

 いま思えば、なぜ大門監督に真っ先にコンタクトを取ったのでしょうか? チームもカテゴリーも、何もかもが違い、共通点といえばバイクのコンポーネントにカンパニョーロを使用している日本では稀なチーム、ということだけだったかもしれません。

 しかし、当時の切羽詰まった私の脳裏に浮かんだのは、「ヨーロッパでの活動は大門さんに聞こう」という事でした。この理由なきひらめきに対し、カテゴリーやチームの枠を超えて申し出を受けて下さった大門監督にはとても感謝しています。

 そのご紹介により、当時からコルナゴ・ジャパンに全日本選手権遠征への機材サポートをいただいています。

 今年はカンパニョーロジャパンからもサポートをいただき、さらにペダルブランドのルック、ヘルメットのレイザーからも機材のご協力をいただき、万全の態勢で6月28日の全日本選手権ロードレースに臨みます。たくさんのご協力をいただいて遠征を敢行できている事に感謝しています。

2015年6月21日、ウィグル・ホンダのウェアを着て全日本選手権個人タイムトライアルを走る萩原麻由子。このレースでは2位に終わったが、コルナゴ、カンパニョーロなどからサポートを受けて“日本遠征”に臨んでおり、同月28日の全日本ロードで連覇を目指す =栃木県大田原市(田中苑子撮影)2015年6月21日、ウィグル・ホンダのウェアを着て全日本選手権個人タイムトライアルを走る萩原麻由子。このレースでは2位に終わったが、コルナゴ、カンパニョーロなどからサポートを受けて“日本遠征”に臨んでおり、同月28日の全日本ロードで連覇を目指す =栃木県大田原市(田中苑子撮影)

全日本選手権への格別の思い

2013年の全日本選手権ロードレースで3位に敗れ、レース後にうなだれる萩原麻由子 =2013年6月23日、大分県(米山一輝撮影)2013年の全日本選手権ロードレースで3位に敗れ、レース後にうなだれる萩原麻由子 =2013年6月23日、大分県(米山一輝撮影)

 欧州から単独参戦した初年度(2013年)の全日本選手権は、見事に力負けの惨敗。まさに遠征しただけで精一杯で、情けない結果に終わりました。

 その時、次のような言葉をいただきました。

 「プロとして勝たなければいけない場面では、絶対に勝たないといけない。それがプロの仕事であるし、こちらもプロとしてサポートしている。次年度も同じような負けに終われば、こちらは今後サポートはしません」

 厳しいようで、もっともな言葉に、ハッとしました。「このままではいけない」と思い知らされ、自分が選んだ“プロ”という職業、生き方を、真の意味で理解するきっかけになったのです。この年、結果は散々でしたが、非常に大きな収穫のあった遠征となりました。

 全日本選手権は、いくら走っても、何度経験しても格別なものがあります。国内にも若く優秀な選手が育っており、レースで勝つことは常に簡単ではありません。しかし、そういった困難や試練は必ず自身を強く鍛え上げてくれます。

2014年6月29日、全日本選手権ロードレースの女子エリートで優勝した萩原麻由子 =岩手県八幡平市(米山一輝撮影)2014年6月29日、全日本選手権ロードレースの女子エリートで優勝した萩原麻由子 =岩手県八幡平市(米山一輝撮影)
2014年6月29日、全日本選手権ロードの表彰台の中央に立った萩原麻由子(米山一輝撮影)2014年の全日本選手権ロードで表彰台の中央に立った萩原麻由子(米山一輝撮影)

 今年は、5月下旬のフランス・ベルギー3連戦で3位入賞を2回果たし、その後アメリカW杯出場を経て、全日本選手権に向けて自分のコンディションを上げてきています。また、今年も様々な方のサポートを得て全日本に挑むことが出来ます。その分、より一層強い力でペダルを踏み込める気がします。

 全力を尽くし、よい全日本選手権遠征にしたいと思っています。

【取材協力:dhb 】 <3>は7月掲載予定

萩原麻由子萩原麻由子(はぎわら・まゆこ)

1986年、群馬県生まれ。県立伊勢崎女子高校在学中にアジア選手権ロード・ジュニア優勝。2005年に鹿屋体育大学に進み、ジャパンカップ・オープン女子優勝、アジア大会ロードレース優勝、全日本個人タイムトライアル優勝など数々の実績を挙げる。2009年よりサイクルベースあさひに所属し、全日本選手権ロード優勝、ロンドンオリンピック出場。2013年シーズンよりウィグル・ホンダに所属。

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