瀬戸圭祐さんが実走レポートサイクリストを惹きつける「Mt.富士ヒルクライム」 五合目に向け7800人がチャレンジ

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 世界文化遺産の富士山を舞台とするヒルクライムレース「Mt.富士ヒルクライム」が6月13~14日、山梨県の富士山有料道路「富士スバルライン」で開催されました。今大会には8600人以上が申し込み、レース当日の出走者も約7800人にのぼりました。盛り上がったイベントの模様を、グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事で、アドベンチャーサイクリストの瀬戸圭祐さんが実走レポートします。

五合目のゴールをくぐる、感動の瞬間。皆思い思いにガッツポーズをしたり、歓喜の奇声を発する者もいる五合目のゴールをくぐる、感動の瞬間。皆思い思いにガッツポーズをしたり、歓喜の奇声を発する者もいる

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“お祭り気分”で臨んだ36年ぶりの富士山

イベント会場である富士北麓公園からは、レース前日夕方に富士の山頂を眺めることができたイベント会場である富士北麓公園からは、レース前日夕方に富士の山頂を眺めることができた

 今年で12回目を迎えたMt.富士ヒルクライムは、今やわが国屈指の一大自転車イベントに成長した。実は筆者は、まだ10代の若き頃に、大会の舞台となる富士スバルラインに挑戦したことがある。かつてのスバルラインは料金所が国道139号線の近くにあり、その付近からのタイムを競っていた。当時は公式記録はなかったものの、1時間30分を切れば間違いなく上級者だった。筆者は体力のピークだった頃でもあり、ランドナーで旅の装備を積んで1時間30分程度で上り切ったと記憶している。

 それから30年以上たった現在、毎年多くの仲間がこのイベント参加しており、彼らから「富士ヒルはお祭りだよ」「タイムじゃなくて楽しんで走るのが目的」といった言葉を聞かされていた。それを真に受け、お祭り気分で36年ぶりの富士スバルラインに向かったのであった。

レース前日は「サイクルエキスポ」

富士北麓公園競技場のアリーナでは、翌日のレースに備えて人も自転車もくつろいでいた富士北麓公園競技場のアリーナでは、翌日のレースに備えて人も自転車もくつろいでいた

 レースの受付は前日の13日(土)に行われた。受付会場の富士北麓公園では、トークショーなどのステージイベントが行なわれ、様々なメーカーや飲食ブースが出店する「サイクルエキスポ」を楽しんだ。筆者もステージに出演する機会をいただき、6月1日から改正道路交通法が施行されたことを受け、「ロードバイクの交通マナー」についてというタイトルでトークショーに臨んだ。このようなイベントに出演する際、いつもはオヤジギャグを連発するのだが、今回はテーマを踏まえて真面目なトークとなり、聴衆の中には思わずあくびをしている人も…。

 他にも、元プロロードレーサーの今中大介さんや田代恭崇さんによるレース攻略講座、モデルの日向涼子さんやミュージシャンのシャ乱Qまことさんらによるトークショー、チアガールによる応援パフォーマンスなどが行われ、翌日のレースに向けて大いに盛り上がった。

グリコパワープロダクションのチアガールによる応援パフォーマンス。最も華やかな時間だチアガールによる応援パフォーマンス。最も華やかな時間だ
改正道路交通法の施行に伴って「ロードバイクの交通マナー」についてお話をさせて頂く。オヤジギャグは不発に終わった改正道路交通法の施行に伴って「ロードバイクの交通マナー」についてお話をさせて頂く。オヤジギャグは不発に終わった
前日イベントのハイライト、大抽選会では今中大介さんはじめゲストが番号をひいて、会場は一喜一憂前日イベントのハイライト、大抽選会では今中大介さんはじめゲストが番号をひいて、会場は一喜一憂
シャ乱Qまことさんも開会式でのご挨拶。この頃から雨が上がったシャ乱Qまことさんも開会式でのご挨拶。この頃から雨が上がった

気迫みなぎるスタート

 レース当日の14日は明け方から雨が降り始め、準備やウォームアップをしている頃には一時、雨脚が強くなったが、6時40分頃に開会式スタートセレモニーが始まると同時に雨は止み、レース中は雨具を着用する必要はなかった。スタート前の待機場所である富士北麓公園に隣接する広大な駐車場や、競技場グランドには、凄まじい数のロードバイクがびっしりとひしめき合っていて壮観だ。

スタートを待つ出場者たち。7800人と自転車7800台が大駐車場や競技場内を埋め尽くすスタートを待つ出場者たち。7800人と自転車7800台が大駐車場や競技場内を埋め尽くす
Mt.富士ヒルクライム大会会長の高野剛氏(山梨県体育協会副会長)による開会宣言Mt.富士ヒルクライム大会会長の高野剛氏(山梨県体育協会副会長)による開会宣言

 主催者選抜のトップ選手たちを先頭に、女性/ジュニア、そして男性の申告タイムの速い順に数百人ずつが5分毎にスタートゲートをくぐっていく。7800人がスタートするのには実に1時間以上もかかるのだ。スタート後、緩い上りを1.3Km進んだ地点からが計測区間となる。そこから富士スバルラインの料金所までは傾斜がきつくなるが、皆一気に本気モードにギアチェンジ。トップ選手は気迫をみなぎらせ、坂道とは思えないスピードで疾走していく。取材のために先にスタートさせていただき、お祭り気分で写真撮影をしていた筆者は、その迫力に思わず圧倒させられてしまった。

主催者選抜トップ選手のスタートで、レースの火ぶたが切って落とされた主催者選抜トップ選手のスタートで、レースの火ぶたが切って落とされた

 トップクラスの選手にお話を伺うことができたが、日常生活の中でできる限りの準備をし、この大会のためにトレーニングを積み、体調や機材のコンディションを最高の状態に持ってきて、昨年を上回るベストタイムを出すべく必死で努力をしているとのことだった。今大会の一般参加者の優勝タイムは、59分53秒とついに1時間を切った。お祭り気分で参加している人などはごく一握りであったようだ。筆者の自転車仲間はウソツキだったのかもしれない!? とはいえ、レース前の舌戦はそんなものであろう。

黙々ヒルクライム、声援がエネルギー

 9.5km地点には第1関門がある。エイドステーションのつもりでたどり着いたのだが、休憩しているような人はほとんど見受けられない。スタッフが水をボトルに入れてくれるだけで、コップ類もなく、もちろん補給食もない。スタッフの声をからしての応援が、唯一のエネルギー補給だ。

9.5Km地点の第一関門。足を止める人はほとんど無く、皆「ガチ」で先を急いで上って行く9.5Km地点の第一関門。足を止める人はほとんど無く、皆「ガチ」で先を急いで上って行く
グッチャリ仲間もたくさん出場、カメラ目線で良い表情のご協力!?グッチャリ仲間もたくさん出場、カメラ目線で良い表情のご協力!?

 富士山は厚い雲の中だが、ときおり残雪をたたえた美しい姿をのぞかせる。しかしそんな風景に見入っている選手はおらず、皆黙々とペダルを踏み続けている。10Km、15kmと進むにつれて、ペースが落ちてくる人やメカトラブルに見舞われる人も散見されるようになる。

計測開始地点直後にある料金所ゲート。膨大な人数が途切れることなく富士に向かっていく計測開始地点直後にある料金所ゲート。膨大な人数が途切れることなく富士に向かっていく
1合目から2合目へ向かう途中、時折雲が切れて富士の山肌が顔をだすが、ゆっくり景色を楽しんでいる人はいない1合目から2合目へ向かう途中、時折雲が切れて富士の山肌が顔をだすが、ゆっくり景色を楽しんでいる人はいない

 さらに上り続けていると、ドドンドンドンといったリズミカルな太鼓の音が響き始めた。17.2km地点にある第2関門では、地元の元気一番堂太鼓の皆さんが力強いバチさばきで、上ってくる人々にエールを送ってくれた。太鼓だけでなく精一杯の声援で参加者を励ましてくれたおかげで、まるでパワースポットにでもいるかようにドドンとパワーをもらったような気になる。しかし立ち止まって太鼓の演奏に見入る人はごくわずかで、みな一心不乱に坂道との格闘を続けている。

途中の駐車場などでは、地元の人たちが一生懸命の声援を送ってくれる途中の駐車場などでは、地元の人たちが一生懸命の声援を送ってくれる
メカトラも時折発生。ガチなレースでも困った時は仲間で助け合うメカトラも時折発生。ガチなレースでも困った時は仲間で助け合う

 コース上にはヒルクライマーたち途切れることなく、延々と連なって上ってくる。7800という人数は、泉から絶えず湧き出る水のように、底知れないボリュームなのだ。このころから、先にゴールして山を下ってくる人たちが増え始め、双方向での走行となる。下りの人たちは上りの人たちに「頑張れー」「もうひと踏ん張りだー」などの声援を送ってくれる。見知らぬ仲間からの応援にはとても力付けられた。

地元の元気一番堂太鼓の皆さんが力強いバチさばきで精一杯のエールを送ってくれ、ドドンとパワーをもらったような気になる地元の元気一番堂太鼓の皆さんが力強いバチさばきで精一杯のエールを送ってくれ、ドドンとパワーをもらったような気になる
早くゴールした人たちが下ってきて、上っている見知らぬ仲間たちに声援を送ってくれる早くゴールした人たちが下ってきて、上っている見知らぬ仲間たちに声援を送ってくれる

スプリット賞で「ここからもがけ!!」

終盤にある胸突き八丁の急坂は、山岳スプリット賞がかかった1kmのタイムを競う区間終盤にある胸突き八丁の急坂は、山岳スプリット賞がかかった1kmのタイムを競う区間

 19km~20km区間には特別な計測ポイントが設けられる。終盤で体力の限界が近づき、さらに勾配がきつくなる厳しい1kmに設定されたスプリット区間だ。この区間での最速タイムを記録した選手が、山岳スプリット賞を獲得するのである。

 筆者の仲間で元トッププロである辻善光氏と前夜に夕食を共にした際、彼はこの賞を獲りにいくとして、いろいろと秘策を練っていた。しかし結果は9位。賞の獲得者はこの超ハード区間を平均時速29.2Kmという信じられない速さで突破したという。

スプリット区間半ばからは勾配が更にきつくなる。もがかなければ越えられない超ハードなトライアルだスプリット区間半ばからは勾配が更にきつくなる。もがかなければ越えられない超ハードなトライアルだ
山岳スプリット区間ラスト100m、ホントにみんながもがいている!?山岳スプリット区間ラスト100m、ホントにみんながもがいている!?
20km地点の看板。残り4kmほどでゴールだが、体力の限界も近づいている20km地点の看板。残り4kmほどでゴールだが、体力の限界も近づいている

感動のゴールへ

 その先にある奥庭自然公園の広い駐車場を過ぎると、勾配が急に緩くなる。スタート以降で唯一、フロントのアウターギアが使える区間だ。森林限界を超えて富士の山肌がむき出しになり、北側には雲間から時々下界が見渡せる。富士五湖の一部も見え隠れし、景観を楽しみながら走ることができる。このあたりから応援者が増え始めた。ツール・ド・フランスで有名な「悪魔おじさん」を真似た応援者も現れ、思わず微笑んでしまった。

奥庭自然公園入口の駐車場付近。この坂を上りきるとゴールまでの勾配は一気に緩くなる。最後の踏ん張りどころ奥庭自然公園入口の駐車場付近。この坂を上りきるとゴールまでの勾配は一気に緩くなる。最後の踏ん張りどころ
4合目付近からは、遠く南アルプスの山々を見渡すことができた4合目付近からは、遠く南アルプスの山々を見渡すことができた
「悪魔お姉さん(?)」が応援してくれる。気持ちが和む貴重な瞬間だ「悪魔お姉さん(?)」が応援してくれる。気持ちが和む貴重な瞬間だ

 そしていよいよ感動のゴール! が、そこに待っていたのは、膨大な数のフィニッシャーや応援者による混雑だった。ゴール直後に大渋滞が待ち受けており、預けた荷物を取りに行くのにも一苦労。それでも先にゴールしていた仲間たちと合流できた時には、皆で健闘をたたえ合い、やっと感動に浸ることができた。

5合目駐車場で、事前に運んでもらった荷物を受け取る。7800人分の中から探し出すのも一苦労5合目駐車場で、事前に運んでもらった荷物を受け取る。7800人分の中から探し出すのも一苦労
共に楽しんだ自転車仲間たち。困難な挑戦を成し得た者同士の、一体感が強まるのも富士ヒルの大きな魅力である共に楽しんだ自転車仲間たち。困難な挑戦を成し得た者同士の、一体感が強まるのも富士ヒルの大きな魅力である

富士ヒルは不思議な媚薬?

 8年間続けて出場している仲間は、「自分の脚で五合目まで上る感動は非常に大きい、そのために毎年出場している」と目を輝かせた。また、今回初参加した仲間は、「大勢で抜きつ抜かれつ走るのは刺激的。わっしょいわっしょいって感じで楽しかったです」と、意外にお祭り気分を味わっていたようだった。3回目の出場となった女性は、「上りは大嫌いなんですが、ゆるゆる上っていても、なんだかんだゴールできるのでついつい出ちゃいます」と笑顔で語ってくれた。

 辛く苦しい挑戦にもかかわらず、8000人以上のヒルクライマーを惹きつけるMt.富士ヒルクライム。何か不思議な媚薬でもあるような感動のイベントであった。

(レポート グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事・瀬戸圭祐)

下り途中の駐車場からは視界が広がり、下界には富士の樹海や、河口湖を見おろす大展望を楽しむことができた下り途中の駐車場からは視界が広がり、下界には富士の樹海や、河口湖を見おろす大展望を楽しむことができた

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