title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<112>ウィギンスの驚異的なアワーレコードを検証 挑戦が期待されるカンチェッラーラとマルティン

  • 一覧

 6月7日にロンドンのリーバレーヴェロドロームでブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム ウィギンス)がアワーレコードに挑戦しました。国際自転車競技連合(UCI)によるアワーレコードのルール改正以降、独走力自慢による挑戦が続くなか、満を持して大物が登場。54.526kmをマークし、従来の記録を大幅に上回ってみせました。今回はウィギンスの快走を検証するとともに、アワーレコードの今後も見据えていきます。

アワーレコードに挑戦したブラッドリー・ウィギンス。従来の記録を大きく上回る54.526kmをマークした(Photo: UCI)アワーレコードに挑戦したブラッドリー・ウィギンス。従来の記録を大きく上回る54.526kmをマークした(Photo: UCI)

「与えられた環境で最高の走りができた」

 ルール改正を経て、2014年9月のイェンス・フォイクト(ドイツ、当時トレック ファクトリーレーシング)によるチャレンジからスタートした“現代アワーレコード”。2015年5月までに男女合わせて8選手が挑戦し、記録水準が高まっていった。ウィギンスは4月15日にアワーレコード挑戦を正式表明。その注目度の高さは、6000枚用意された観戦チケットがわずか7分で完売したところにも表れた。

パリ~ルーベを最後にロードレースのトップシーンを退いたブラッドリー・ウィギンス<写真・砂田弓弦>パリ~ルーベを最後にロードレースのトップシーンを退いたブラッドリー・ウィギンス<写真・砂田弓弦>

 4月12日のパリ~ルーベ(18位)を終え、同月をもって2010年の結成当初からともに歩み続けたチーム スカイを離脱した。5月1日からは自身が主宰する「チーム ウィギンス」の一員となり、ツール・ド・ヨークシャー(UCI2.1)に出場。危なげない走りで全3ステージを走りきり、以降はアワーレコードの準備に集中した。

 実施直前にかけてあらゆる憶測が飛び交ったが、まず明らかになったのは使用バイク。ピナレロ「BOLIDE HR」(ボリデHR)は、彼が長年愛用しているTTバイク「ボリデ」をトラック用にチューニング。イギリスの自動車メーカーである、ジャガーランドローバー社で最も空力特性に優れた「ジャガーXE」からヒントを得て、TTバイクよりもエアロ効果を7.5%向上させた。

タイムトライアルバイクをトラック用にチューニングしたピナレロ「ボリデHR」(Photo: Jaguar)タイムトライアルバイクをトラック用にチューニングしたピナレロ「ボリデHR」(Photo: Jaguar)

 ボリデHRに装着・搭載されたパーツは、ペダルがスピードプレイのエアロバージョン「ゼロエアロ」。サドルはここ数年間使用しているフィジークのトライアスロン用「アリオネK3」。シューズも近年使っているジロ「エンパイアSLX」の特注ゴールドカラー。ウエアはラファのスキンスーツに加え、下肢の疲労軽減をねらいとしたロングソックスを着用。ヘルメットとホイールは、イギリストラックチームが使用するUKSI製品を使ったと見られている。ちなみに、ギアは58×14を選択している。

54.526kmという記録を喜ぶブラッドリー・ウィギンス(Photo: WIGGINS)54.526kmという記録を喜ぶブラッドリー・ウィギンス(Photo: WIGGINS)

 また、現地ジャーナリストの間では、彼が近年たくわえてきたトレードマークのひげを剃るのではないかとの噂が浮上。その話題は見事に的中し、大歓声のもとヴェロドロームに登場したウィギンスはすっきりとした顔つきになっていた。そこからは、少しでも空気抵抗を軽減させ、記録に反映させようという意図が見えた。

 結果的に目標の55kmには到達しなかったが、その要因は1030ヘクトパスカルを記録したこの日の高気圧にあるとのもっぱらの評判だ。しかし、それを言い訳にはせず、「与えられた環境で最高の走りができた」と述べ、自身の走りを喜んだ。会場内は気温30度に設定されるなどの最大限のバックアップもあったが、「気象条件ばかりは仕方がない。まぁ妻や子供たちは気圧について多少は詳しくなったんじゃないかな」と、外的要因に関する質問を冗談でかわした。

先駆者たちはカンチェッラーラやマルティンに期待

 アワーレコードの歴史は、いまから142年前までさかのぼる。現存で最も古い記録は、ジェームズ・ムーア(イギリス)が1873年に記録した23.331kmと言われている。その後数人が記録を更新したが、アンリ・デグランジュ(フランス)が1893年にマークした35.325kmからUCIの公認記録となった。

1994年に当時の記録を更新したミゲル・インドゥライン<写真・砂田弓弦>1994年に当時の記録を更新したミゲル・インドゥライン<写真・砂田弓弦>

 技術の進化とともに記録が飛躍的に伸びていき、1972年にエディ・メルクス(ベルギー)が49.431kmをマーク。その後、フランチェスコ・モゼール(イタリア)、グレアム・オブリー、クリス・ボードマン(ともにイギリス)、トニー・ロミンゲル(スイス)、ミゲル・インドゥライン(スペイン)が記録を更新した。特に、1996年9月にボードマンが出した56.375kmは「スーパーマンスタイル」と呼ばれるフォームで、後にまで語り継がれることとなる。

1996年に「スーパーマンスタイル」で56.375kmを記録したクリス・ボードマン<写真・砂田弓弦>1996年に「スーパーマンスタイル」で56.375kmを記録したクリス・ボードマン<写真・砂田弓弦>

 しかし、特殊なエアロポジションでの挑戦が過熱していったことから、1997年にUCIがルールを変更。前述したメルクスの実施時の設定を基準とし(メルクススタイル)、ファニーバイク、TTヘルメット、ディスクホイール・バトンホイール、エアロバー、モノコックフレームの使用を禁止した。ボードマンらの記録はすべて「UCIベストヒューマンエフォート」と位置付けられた。

 メルクススタイルと定められてからは、ボードマンが2000年に49.441kmを、オンドレイ・ソセンカ(チェコ)が2005年に49.700kmをマーク。その後は挑戦者が現れなかったが、昨年5月にUCIが新たなルールを発表した。「トラック競技に準じる」と定め、エアロヘルメットやディスクホイール、エアロバーの使用を許可し、現在に至っている。

現行ルールでのアワーレコード挑戦者と記録

2014年9月18日 イェンス・フォイクト(ドイツ、当時トレック ファクトリーレーシング) 51.110km(スイス、グレンヘン)
2014年10月30日 マティアス・ブランドレ(オーストリア、イアム サイクリング) 51.852km(スイス、エーグル)
2015年1月31日 ジャック・ボブリッジ(オーストラリア、チーム バジェットフォークリフツ) 51.3km(オーストラリア、メルボルン)
2015年2月8日 ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) 52.491km(スイス、グレンヘン)
2015年2月25日 トーマス・デッケル(オランダ) 52.221km(メキシコ、アグアスカリエンテス)
2015年2月28日 サラ・ストーリー(イギリス) 46.065km(イギリス、ロンドン)
2015年3月14日 グスタフ・ラーション(スウェーデン、クルトエナジー プロサイクリング) 50.016km(イギリス、マンチェスター)
2015年5月2日 アレックス・ドーセット(イギリス、モビスター チーム) 52.937km(イギリス、マンチェスター)
2015年6月7日 ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チーム ウィギンス) 54.526km(イギリス、ロンドン)

 しばらく続いたアワーレコードブームだが、ウィギンスの驚異的な記録をもって落ち着くこととなりそうだ。それでも、歴史をつくってきたかつての挑戦者たちは、新たなライダーの参戦に期待をしている。

関係者からアワーレコード挑戦を期待されるファビアン・カンチェッラーラ(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>関係者からアワーレコード挑戦を期待されるファビアン・カンチェッラーラ(ティレーノ~アドリアティコ2015)<写真・砂田弓弦>

 現代アワーレコードとなって最初に挑んだフォイクト氏は、ウィギンスの記録を受けて「現役復帰をしなくては!」とSNSで冗談を披露。そんな彼は、今後挑戦すべき選手としてファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック ファクトリーレーシング)、トニー・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)、アドリアーノ・マローリ(イタリア、モビスター チーム)を指名した。

 また、メルクス氏は「ウィギンスの記録はしばらく破られないだろう」とコメントしつつも、カンチェッラーラやマルティンの挑戦を熱望する。レコードホルダーとなったウィギンス本人も「カンチェッラーラやマルティンに挑戦してほしいし、ドーセットもきっと再挑戦するのではないか」と述べる。

ロードでは圧倒的な独走力を誇るトニー・マルティン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014)<写真・砂田弓弦>ロードでは圧倒的な独走力を誇るトニー・マルティン(ブエルタ・ア・エスパーニャ2014)<写真・砂田弓弦>

 デニスやドーセット、ウィギンスと、トラック中距離種目経験者が記録を更新してきた点で、現在のルールが「トラック競技寄り」となっている印象が強まっている。その一方で、ロードで圧倒的な独走力を誇るマルティンらがチャレンジするとあれば、新たな傾向が見られる可能性もある。トラックとロードではライドポジションが異なることから、計画的なトレーニングが求められる点をどのようにクリアしていくのかがポイントだ。

 なお、マルティンは将来的にチャレンジしたいとの意向を明らかにしている。カンチェッラーラは当初メルクススタイルでの実施を予定していたが、ルール変更により頓挫。現ルールでのトライは行わない方針を示している。

今週の爆走ライダー-アマエル・モワナール(フランス、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 5月上旬のツール・ド・ロマンディを走り終え、シーズン前半を終了する予定だった。しばしのバカンスへと向かった先で受けた「ジロ・デ・イタリアに招集する」との連絡。急遽帰宅し、準備を整えてイタリアを目指した。

 ロマンディ以降はトレーニングを行っていなかったため、ジロ第1週は苦しむことを覚悟していたという。ところが、思いのほか調子がよいことを実感すると、第4ステージでは逃げグループに入ってステージ7位。第9ステージではステージ4位。山岳ステージでも上々の走りを続けた。

第9ステージでは4位に入ったアマエル・モワナール(ジロ・デ・イタリア2015)<写真・砂田弓弦>第9ステージでは4位に入ったアマエル・モワナール(ジロ・デ・イタリア2015)<写真・砂田弓弦>

 そして、真骨頂を発揮したのは第18ステージ。チームメートのフィリップ・ジルベール(ベルギー)とともに逃げると、激坂の1級山岳でペースメーク。上りでジルベールが遅れたため一度ははぐれてしまったが、下りで戻ってくると確信し先頭で待ち続けた。圧巻のダウンヒルでトップに躍り出たジルベールを見送ると、その後は再三にわたってライバルによる追撃の芽を摘み、チームリーダーのステージ優勝をアシストした。

安定した登坂力でチームを支えるアマエル・モワナール(ジロ・デ・イタリア2015)<写真・砂田弓弦>安定した登坂力でチームを支えるアマエル・モワナール(ジロ・デ・イタリア2015)<写真・砂田弓弦>

 安定した登坂力と、たびたびのアタックが功を奏し、このジロでは総合15位とまずまずのリザルト。ジルベールとのコンビプレーが光った第18ステージでタイムを大きく稼いだ。

 現チームには2011年に加入。1年目からカデル・エヴァンス(オーストラリア)のツール・ド・フランス総合優勝をお膳立てするなど、山岳アシストとして活躍している。最近はティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ)やダミアーノ・カルーゾ(イタリア)など、若いオールラウンダーを支える、よきベテランだ。

 突然の招集でレーススケジュールが変更となったが、ツールにも出場する心積もりでいる。ジロでは自分のために走る場面もあったが、今度は絶対エースであるヴァンガードレンの総合上位が目標だ。地元フランスでも、いぶし銀の働きが見られることだろう。

 派手さこそないが、その走りを見ればチームから高い信頼を寄せられる理由がきっと分かるはずだ。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

世界記録 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載