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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<111>王者コンタドールの強さと次世代の台頭 ジロ・デ・イタリア3週間の戦いを総括

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 2015年最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアが5月31日に閉幕。4年ぶりに参戦(2011年の記録は薬物違反により抹消)したアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)が、2008年以来2度目の総合優勝に輝きました。今回の週刊サイクルワールドはジロ3週間の戦いを総括し、コンタドールの勝利のポイント、彼を脅かした次世代ライダーの走りにスポットを当ててみます。

第16ステージのモルティローロ峠で、50秒以上の遅れを一人で巻き返したアルベルト・コンタドール(手前)。白い新人賞ジャージを着るファビオ・アールらを置き去りにした<写真・砂田弓弦>第16ステージのモルティローロ峠で、50秒以上の遅れを一人で巻き返したアルベルト・コンタドール(手前)。白い新人賞ジャージを着るファビオ・アールらを置き去りにした<写真・砂田弓弦>

自らピンチを打開したコンタドール

 第20ステージ、今年のチーマコッピ(最高標高地点)に設定されたコッレ・デッレ・フィネストレでは、総合優勝に王手をかけたコンタドールが攻撃に出るのか、はたまたライバルたちが最後のアタックを繰り出すのかが注目された。すると、未舗装区間に入りコンタドールが失速。マリアローザの行方が大きな焦点になった。

 第6ステージでの落車による左肩脱臼の負傷はあったものの、レースの中で訪れたピンチといえば、この最後の山岳ステージくらいだった。それでも、彼はフィネストレ頂上通過後、ライバルとの差を大きく開けられることなくフィニッシュへ到達した。

 コンタドールはフィネストレでの失速理由を、脱水症状だと説明。この日の気候は決して暑いわけではなかったが、前日までのステージで体重を落としてしまい、リカバリーができていなかったという。しかし、頂上通過後の下りでリズムを取り戻し、ライバルとのタイム差を把握しながらフィニッシュ地点を目指し、見事にマリアローザ(総合リーダージャージ)をキープした。アシストを失いながらも自らの力で窮地を打開したあたりに、ただ順位やタイムだけでは計ることのできない彼の強さが現れている。

第20ステージ、単独でチーマコッピを上るアルベルト・コンタドール<写真・砂田弓弦>第20ステージ、単独でチーマコッピを上るアルベルト・コンタドール<写真・砂田弓弦>

 かつてグランツールを制したときのコンタドールといえば、山岳はもとよりタイムトライアル(TT)の強さも際立っていた。ステージ優勝、あるいはそれに肉薄する走りを見せ、まさに真のオールラウンダーの境地にあった。以後、登坂力向上を目指したことで、TTでの苦戦が目立つようになったが、このジロでは「TTに強いコンタドール」が帰ってきた感がある。

 コンタドールと総合2位のファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)との最終総合タイム差は1分53秒。TTだけに限れば、第1ステージのチームTT(17.6km)で6秒、第14ステージの個人TT(59.4km)で2分47秒、それぞれコンタドールが上回っている。レース展開にも左右されるので単純比較は難しいが、数字だけを見れば、TT以外ではアールの方が速かった計算になる。距離が長かったことも関係しTTの比重が高かった今大会。TTでタイムを稼ぎ、山岳ではライバルを見ながら冷静に走る、コンタドールが本来得意としていたレースパターンにうまく持ち込んだ印象だ。

最終ステージのスタート会場に、電動アシスト付きのスポーツバイクで登場したアルベルト・コンタドール<写真・砂田弓弦>最終ステージのスタート会場に、電動アシスト付きのスポーツバイクで登場したアルベルト・コンタドール<写真・砂田弓弦>

 ジロを制し、次なる目標は5年ぶりのツール・ド・フランス制覇。それが実現すれば、史上8人目の“ダブルツール”達成となる。山岳の比重が大きくなり、パヴェ(石畳)ステージも出てくるツールをどう攻略するのか。3~4日の休養後、高地トレーニング先のカナリア諸島・テネリフェ島へと向かうとしているが、どう仕上げてくるかに注目が集まる。また、ジロでは各ステージ序盤のレース運びに重きを置いて働いたアシスト陣だが、ツールに向けてコンタドールが誰を脇に据えるかも見ものだ。次戦は6月18~21日のルート・ドゥ・スッド(フランス、UCI2.1)を予定しており、お手並み拝見といきたい。

若手もベテランも 有力選手の攻撃的な走り

 今大会の特徴として、有力選手たちの積極的な走りが見られたことを挙げたい。特に第2週以降、山岳ステージが進むにつれて総合上位陣がそれぞれの目標に向かってアタックした姿勢は、このジロのハイライトといえる。

最難関山岳の第19ステージで会心の勝利を挙げたファビオ・アール<写真・砂田弓弦>最難関山岳の第19ステージで会心の勝利を挙げたファビオ・アール<写真・砂田弓弦>
たびたび上りでの強さを発揮したミケル・ランダ(右)<写真・砂田弓弦>たびたび上りでの強さを発揮したミケル・ランダ(右)<写真・砂田弓弦>

 その筆頭は、「打倒コンタドール」に執念を見せたアールとミケル・ランダ(スペイン)のアスタナ プロチームの2人だろう。開幕直前に体調を崩した影響で、大会中盤に失速気味になったアールに代わって攻撃を仕掛けたランダ。その後、アールの復調により、2人でレースを動かす場面がたびたび訪れた。コンタドールの牙城は崩せなかったが、マリアローザを手繰り寄せようとした快走激は、将来への期待を持たせるに十分。今後は、アールがヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)のアシストとしてツールへ、ランダはブエルタ・ア・エスパーニャを次のターゲットとする予定だ。

第3週は果敢な走りを見せ続けたライダー・ヘシェダル<写真・砂田弓弦>第3週は果敢な走りを見せ続けたライダー・ヘシェダル<写真・砂田弓弦>

 ベテランのライダー・ヘシェダル(カナダ、チーム キャノンデール・ガーミン)は、再三のアタックをみせ、最終的に総合5位を獲得。序盤の遅れを取り戻したかっこうだ。1度や2度の攻撃失敗では決して終わらない姿は、若手選手のお手本となった。総合7位のスティーフェン・クルイシュウィック(オランダ、ロットNL・ユンボ)は、山岳賞を視界に捉えてからの果敢な走りが目立った。惜しくも山岳賞には届かなかったが、山での走りに強さを示した。この2人の好走が、展開の中でコンタドールやアスタナ勢を焚き付けた面があったことは確かだ。

 大崩れすることなく安定した走りで総合4位に食い込んだアンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター チーム)、大会を途中で去ったリッチー・ポート(オーストラリア)に代わってエースを務め総合6位にまとめたレオポルド・ケニッグ(チェコ、チーム スカイ)らも、今後のグランツールを担う選手といえよう。

 その他では、胸のすく逃げ切りで第4ステージを制したダヴィデ・フォルモロ(イタリア、チーム キャノンデール・ガーミン)、同じく第5ステージ勝利のヤン・ポランツェ(スロベニア、ランプレ・メリダ)はそれぞれ22歳と23歳の若手有望株。第12ステージでは上りスプリント、第18ステージでは圧巻のダウンヒルで2勝したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)は、ジャーナリストによる投票で決まる敢闘賞の「ボナコッサ・トロフィー」を獲得している。

ツール前哨戦 クリテリウム・デュ・ドーフィネに有力選手が参戦

 ジロが終わり、これからはツールに向けた動きが活性化する。前哨戦として名高いクリテリウム・デュ・ドーフィネが、6月7日に開幕。全8ステージで争われる。

クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 ルートマップ © A.S.O.クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 ルートマップ © A.S.O.

 注目のステージは、24.5kmチームTTの第3ステージ(6月9日)、1級山岳サン・ジェルヴェ・モン・ブランの頂上ゴールとなる第7ステージ(6月13日、155km)、1級山岳モダーヌ・ヴァルフレジューの頂上ゴールとなる第8ステージ(6月14日、156.5km)。

 ツールを見据えて参戦する有力選手は、クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、ホアキン・ロドリゲス(スペイン、チーム カチューシャ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)ら。アルデンヌクラシックでブレイクしたジュリアン・アラフィリップ(イタリア、エティックス・クイックステップ)も総合争いに加わる可能性がある。また、ジロを完走した直後の別府史之(トレック ファクトリーレーシング)も参戦予定だ。

 総合争いだけにとどまらず、各選手たちの仕上がり具合をチェックしつつ、ツールへの期待を膨らませよう。

クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 第7ステージ © A.S.O.クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 第7ステージ © A.S.O.
クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 第8ステージ © A.S.O.クリテリウム・デュ・ドーフィネ2015 第8ステージ © A.S.O.

今週の爆走ライダー-イイヨ・ケイス(ベルギー、エティックス・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 フィニッシュまでの30kmは、4年前に亡くした親友のことを思い続けた。「今日は何かやってみせるから」と天に誓った数時間後、ケイスはミラノ市街地の周回コースで実行に移した。

ミラノ市街ゴールする最終ステージで歓喜の優勝を飾ったイイヨ・ケイス<写真・砂田弓弦>ミラノ市街ゴールする最終ステージで歓喜の優勝を飾ったイイヨ・ケイス<写真・砂田弓弦>

 2011年のジロ第3ステージ。下りで激しく落車し命を落としたワウテル・ウェイラント(当時レオパード・トレック)とは、長年の友人だった。2008年にドーピング疑惑が挙がり、その後無実を勝ち取っても悪いイメージが付きまとったケイスを救ったのはウェイラントだった。2010年に現チーム(当時クイックステップ)にケイスを強く推薦し、何とか加入にこぎつけたのは、2人の仲を物語るエピソードだ。

 ケイスは世界選手権でのメダル獲得や6日間レースでの活躍など、トラックで隆盛を極めた。ロードを中心に走るようになってからは、何の因縁か、ウェイラントが事故死したジロに3年連続で出場している。そしてやってきた大願成就の瞬間。「スプリント以外でも勝つ方法があると思っていた。テクニカルなコーナーの連続で、メーン集団をコントロールできるチームはそう多くはないことは分かっていた」。見事に読みが当たった。

第21ステージ、2人で逃げ切りに成功したイイヨ・ケイス(前)とルーク・ダルブリッジ<写真・砂田弓弦>第21ステージ、2人で逃げ切りに成功したイイヨ・ケイス(前)とルーク・ダルブリッジ<写真・砂田弓弦>

 そして、「一緒に逃げた(ルーク・)ダルブリッジ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)もよく走ってくれた」と、優勝をかけて戦った相手を称えることも忘れなかった。

 キャリア最高の勝利をつかんだが、自分1人で得たものではないことも理解している。「誰もが望んでいた勝利だった。自分自身に、チームに、そしてワウテルに捧げたい」。

 志半ばでこの世を去った友人とともに歩む競技人生に、新たな光が射した。

文 福光俊介

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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