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ジロ2015 チームNIPPOの挑戦<特別編>「ステップを踏むことが最も重要」 チームNIPPO大門宏監督が振り返るジロ・デ・イタリア

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 今年プロコンチネンタルチームに昇格し、念願のジロ・デ・イタリア初出場を果たしたNIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザ。区間優勝は成らなかったものの、何度も積極的に動き、フェアプレー賞を獲得する健闘を見せた。イタリア籍ではあるが、チーム名の最初に日本の道路建設会社「NIPPO」の名が入るとおり、これまで本場ヨーロッパでの日本人の活躍を支援してきたチームNIPPOの延長線上にあるチームだ。長年、同チームを率いてきた大門宏監督に、今回のジロ・デ・イタリアにおけるチームの戦いを総括してもらった。

チームマネージャーを兼任する大門宏監督。日本の自転車競技界の発展のために多大な情熱を注いでいる ©NIPPO Vini Fantiniチームマネージャーを兼任する大門宏監督。日本の自転車競技界の発展のために多大な情熱を注いでいる ©NIPPO Vini Fantini

◇      ◇

痛かった2人のエースのクラッシュ

ジロ・デ・イタリア第4ステージのチームプレゼンテーションで記念品を受け取ったNIPPOの水島和紀会長(左から3人目) ©NIPPO Vini Fantiniジロ・デ・イタリア第4ステージのチームプレゼンテーションで記念品を受け取ったNIPPOの水島和紀会長(左から3人目) ©NIPPO Vini Fantini

 5月31日、ついにジロ・デ・イタリアが閉幕した。プロコンチネンタルチーム昇格1年目にしてつかんだグランツール出場だった。

 第18ステージでのクネゴのクラッシュ、骨折によるリタイヤは、チーム関係者だけではなく、彼の根強いファンにとっても衝撃的な出来事だった。原因は、今年から導入されていた飲料(ボトル)サービスを利用しようとバイクに接近した際、マンホールの溝にはまってバランスを崩したことによる。このサービス、選手には一見便利なようだが、コースの状況によっては取り損ねてバランスを崩す選手が見受けられ、クラッシュを誘発する雰囲気もあった。

 優勝を狙ったステージで、作戦も順調に進んでいた状況での突然の暗転、不幸。自らのミスでクラッシュするなど、これまで皆無だった選手だけに、チームは大きな悲しみに包まれ、その後はクネゴの症状を見守る長い一日となった。

 今大会では、序盤に世間を騒がせたコッリの痛々しいクラッシュも、決して忘れることはできない。2人とも、その後の回復経過は順調だとはいえ、いずれのクラッシュも不可抗力的に起きてしまったことは、残念でならなかった。

第6ステージのゴールスプリントで観客の持つカメラに接触して激しく落車し、負傷リタイアとなったダニエーレ・コッリ。最終ステージに駆けつけ、ジュリアーニ監督と握手を交わした ©NIPPO Vini Fantini第6ステージのゴールスプリントで観客の持つカメラに接触して激しく落車し、負傷リタイアとなったダニエーレ・コッリ。最終ステージに駆けつけ、ジュリアーニ監督と握手を交わした ©NIPPO Vini Fantini

苦戦した石橋学

 今回、チームとともに、石橋学も弱冠22歳の若さでグランツール初出場を果たした。ジロ開幕前に石橋と一度会ってゆっくり話をしたかったのだが、ツアー・オブ・ターキーやツアー・オブ・ジャパンの準備などで忙しく、話ができなかったのが少し心残りだった。

22歳の若さでジロ・デ・イタリアに初出場した石橋学 ©NIPPO Vini Fantini22歳の若さでジロ・デ・イタリアに初出場した石橋学 ©NIPPO Vini Fantini

 2日目のちょっとした“丘”で彼が単独で遅れたことには、非常に驚いた。初めて彼のことを知った日本の方々は「あぁやっぱり…、言わんこっちゃない」「なんでこんな弱い選手出したの?」と溜息をついたかもしれないが、彼を3年間見続けている自分から見るかぎり、彼の本来の調子からはかけ離れた走りで、それに少し困惑した。

 石橋は確かにグランツールは初体験だが、それに準ずる1クラス、HCクラスは、ここ3年で数十レースは経験ずみだ。これまで今回のような状況で、単独で戦列を離れたこと(しかも得意の上り区間)は、一度も見たことも聞いたこともなかったのだ。彼の走りを近くから見守ってきたチーム関係者にとっても同意見だったと思う。

 観衆の多さやチーム関係者の興奮した雰囲気に圧倒され、極度の緊張感に襲われたのだろうか…? 普段は何事にも動じないようなキャラクターでも、さすがにグランツールともなると“独特の空気”にビビるのか? と思わず苦笑してしまった。

 とはいえ、彼に対して懸念材料が全くなかったわけではない。最も心配していたのは下りの技術。もともとそれほど優秀とは言えないのだが、ジロを目前に控えた4月下旬に参加したジロ・デル・トレンティーノで、序盤の高速コーナーでクラッシュしたことをきっかけに、その後はチームカーから眺めていても、下りの位置取りや速さはますます精彩を欠いていたのだ。その出来事以来、メーングループの後方が彼の定位置となってしまっていた。

厳しい戦いは十分承知

レース会場を訪れた宮澤崇史氏(左)と、昨シーズンのチームメートであるエドワード・グロス(中央)、そして宮澤氏のことをよく知るステファノ・ジュリアーニ監督 ©NIPPO Vini Fantiniレース会場を訪れた宮澤崇史氏(左)と、昨シーズンのチームメートであるエドワード・グロス(中央)、そして宮澤氏のことをよく知るステファノ・ジュリアーニ監督 ©NIPPO Vini Fantini

 チームから与えられたミッションを遂行した後に完走を目指すグループ、いわゆる「グルペット」での走行も、石橋の上りの実力を見るかぎり、そんなに心配はしていなかったが、上りでのタイム差を下りと平坦区間で挽回しようとするグルペットのスピードは、いつものことではないにせよ、凄まじいと聞く。

 チームカーの隊列を利用する技術も、石橋はまだまだ習得しきれてない。“グルペット常連”の同世代のルーマニア人選手、エドワード・グロスは石橋よりはるかに上りの力は劣るのだが、チームカーの使い方などの“要領”がじつにうまい。車の位置やスピードを即座に感知して、つねに“最大限の有効利用”を心がけているように見える。

 日本人で現地の事情を存じない方は、「ズルイ」とか「ルール違反」だとか、やってはいけない行為だと思われるかも知れないが、こちらでは“ギリギリの行為”は半ば常識だ。四方八方に目を光らせて審判の位置を気にしながら、グループに残ろうと必死な選手も多い。そして主催者や審判も、後方集団のグルペットに関しては基本的にタイムアウトは極力回避させたいと、“人道的”にジャッジしてるように見受けられる。

第9ステージでリタイアとなった石橋学。今回の経験を今後につないでいく ©NIPPO Vini Fantini第9ステージでリタイアとなった石橋学。今回の経験を今後につないでいく ©NIPPO Vini Fantini

 石橋は、そのような観点では“要領が悪い”選手の一人であり、こういった不慣れで苦手なセクションで余計に体力を消耗させられた。そんな日々がボディーブローパンチのように効き、疲労困憊に陥ったのだと思う。とはいえ、そういう不器用な部分も勝負の世界では、時には「参加する資格すらない」と一笑されるのがオチだ。単なる実力不足の一端にすぎず、スーパートップレベルのプロレースにおいて同情の余地は全くないのだ。

 ただし、あくまでもワイルドカードの枠で参加してるわれわれのチームにとって、選手だけでなくスタッフにとっても厳しい戦いになることは十分承知していた。チームの予算面は、ワールドツアーチームの間でも差があるが、われわれは彼らの10分の1から5分の1の予算で運営されている。あまり語られることはないが、チームにとって“苦戦承知のエントリー”ということが、ワイルドカードのチームの共通見解だと思う。

ロードレース初日となった第2ステージから逃げに乗ったジャコーモ・ベルラート(右端)。今大会、4ステージで逃げに乗る活躍をみせた ©NIPPO Vini Fantiniロードレース初日となった第2ステージから逃げに乗ったジャコーモ・ベルラート(右端)。今大会、4ステージで逃げに乗る活躍をみせた ©NIPPO Vini Fantini

 そんな中、チームは前半のエスケープに乗ったり、上位入賞を果たしたりするなど、ワイルドカードで選ばれた他のチームと比べて、存在感を含めてはるかに健闘した。基本的に「コテンパンにやられて当然」の参加だったことを、日本のファンの方々にもご理解いただきたいと思う。石橋については、チームの中でも上りの実力を認められて選ばれたのだが、色々な重圧もあったのかアシストとして本来の走りができていなかった。石橋にはぜひ来年もこのグランツールに戻ってほしい。そして、成長した彼の姿をお見せできればと強く思っている。

選手以外も新たなステップを

こちらもグランツール初参加だったメカニックの福井響(右)。ホテル先回り班として、一緒に過ごすことが多かったマッサージャーのマルコと ©NIPPO Vini Fantiniこちらもグランツール初参加だったメカニックの福井響(右)。ホテル先回り班として、一緒に過ごすことが多かったマッサージャーのマルコと ©NIPPO Vini Fantini

 チームNIPPOにとっては昔から重要な課題だが、本場のトップ選手を志す日本人のための環境整備も、引き続き優先課題として取り組んでいきたい。この点においては、日本のグランツールファンの期待にはまだまだ追いついてない。

 そういう意味では今回、参加した福井メカニックの3週間に渡る体験は、滅多に味わえない貴重な経験をさせられたと思う。こういったスタッフの派遣は、日本の自転車競技界にとっても有益で、将来につながる役割を果たせたと感じている。次回またこういう機会を得られれば、日本人のマッサーも派遣したいと思う。

 また現状、完璧とは言えない現場の雰囲気を、日本に伝える広報活動も重要視している。今回はチームのOBでもある宮澤崇史氏に忙しい中、NIPPOおよび関連会社向けのPR活動の一環として現地を訪れてもらった。彼にはチーム間の垣根を超えてグランツールの雰囲気を日本に正確に伝える“スポークスマン”として成長してくれることを期待している。

レース会場で選手を待つ宮澤崇史氏 ©NIPPO Vini Fantiniレース会場で選手を待つ宮澤崇史氏 ©NIPPO Vini Fantini
真剣な眼差しでメディアセンターで仕事をする宮澤崇史氏 ©NIPPO Vini Fantini真剣な眼差しでメディアセンターで仕事をする宮澤崇史氏 ©NIPPO Vini Fantini
第5ステージで、NIPPOの水島和紀会長を助手席に乗せてチームカーを運転した大門宏監督 ©NIPPO Vini Fantini第5ステージで、NIPPOの水島和紀会長を助手席に乗せてチームカーを運転した大門宏監督 ©NIPPO Vini Fantini

 昔から「日本のチームでグランツールへ!」と叫ばれ続けてはいるが、何事もステップを踏むことが最も重要な過程だと、今回の参加を振り返り改めて強く実感した。日本の組織でスーパートップを目指すには、選手だけでなく、事務や現場に関わる多くの人員と、それを見守る多くのスポンサーによって初めて成り立つことだ。今後は日本人の運営スタッフ派遣も視野に入れ、体制の強化を図っていきたいと思っている。

(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローザ 監督 大門宏)

1月のプレゼンテーションに続いて会場へ激励に訪れたNIPPOの水島和紀会長。NIPPO社内ではチームへの関心が年々高まっているという ©NIPPO Vini Fantini1月のプレゼンテーションに続いて会場へ激励に訪れたNIPPOの水島和紀会長。NIPPO社内ではチームへの関心が年々高まっているという ©NIPPO Vini Fantini

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